騎士だって
side……B組『アルクス』
ワタクシを中心に、レドナさんリリィさんが左右から攻撃を仕掛けますが、
「言ったはずです、数の有利は通用しないと」
十子さんは全て、守りきってしまいました。
フェイントを初め、本来死角になる方向からの攻撃も剣での防御や回避で避けられてしまいます。いったいどれほど経験を積めばこれほどの対処が出来るのでしょうか。
幸いなのは、さすがに攻撃へ手を回すことが出来ないことでしょう。こちらが攻撃を続けている限り反撃やカウンターのようなことは仕掛けてきません。
ちなみに、本来ならワタクシ達の前にも十子さんの剣が作り出したものが現れるはずなのですが、それは後ろで音川さんが足を氷らせて動けなくさせるという方法で防いでいました。
そちらの心配は無くなりましたが……だからといってこのままを続けている訳にはいきません。
何か、解決の手段はないものでしょうか。
「……」
「……」
そして、3人の攻撃に一区切りが付いた時でした。
『アルクスさん、少しいいかな?』
お二人が動きを止めて、ワタクシの方を向きました。十子さんが動かないことを確認してから、声をかけます。
「どうしました?」
「少しの時間で構いません、私と兄さんに任せて頂けませんか?」
「少しの間でいいからさ、ボクと姉さんに任せてくれないかな?」
「それは……何故です?」
この状況において、わざわざ攻め手を減らす必要は無いと思うのですが。
「今この状況において、優先すべきはトウコさんを素早く倒すこと、」
「だからボク達は、本気で挑もうと思うんだ、」
「ですが、私達が本気で暴れた場合……、」
「お互いにお互いしか見えなくなるんだよね、」
それは、以前見たことあります。
「周りにいるのは全て敵、」
「ボクと姉さん以外の全ては敵、」
「そのような状態で、」
「間違ってアルクスさんを攻撃しちゃうかもしれないんだ」
以前は、ワタクシが遠くにいたから大丈夫だったのでしょう。
「だからお願いします、」
「ここはぜひとも、」
『任せてくれませんか?』
……なるほど、ワタクシの安全を考えて、そのような言葉を。
「分かりました。ですが、ムリだけはしないでくださいね」
「ありがとう、アルクスさん」
「ありがとうございます、アルクスさん」
お二人は前を向き、空いたワタクシの間を埋めるようにお互い近寄りながら歩いて十子さんの前へ。
「行こうか、姉さん」
「行きましょう、兄さん」
それを見た十子さんは
「なるほど……成長しましたね。レドナ、リリィ」
剣を構え、合わなくなった時間にお二人が得たものを感じているようでした。
『行きます』
「来なさい!」
戦いが、始まりました。
ワタクシが居なくなったことでお二人のコンビネーションが遺憾なく発揮され、先ほど3人で戦っていた時以上の攻撃回数が繰り出されます。
十子さんはそれらを防ぎ、あるいは避け、攻撃に移る機会を伺っているようですが、お二人の攻撃が激しく防御に徹しています。
「確かに攻撃回数は増えたが、その程度では通用しない!」
「そうみたいだね!」
「ですがこの程度だと思わないでくださいな!」
リリィさんが大振りな一撃を放ち、十子さんがそれを回避。
「そこだ!」
大振りの攻撃で隙の出来たリリィさんに剣を振るいます。
しかし、
「ボクを忘れてるよ!」
リリィさんの後ろにいたレドナさんが、剣で突き込みました。
結果、リリィさんと十子さんに初めて攻撃が通りました。
「くっ……そうだった、二人はそんな動きが出来たんだったな」
「やりましたわね、兄さん」
「そうだね、姉さん」
これで、どうなるでしょうか。
わずか一撃ですが、レドナさんの攻撃が、男性を見ると魅了されてしまう能力を持つ剣の一撃が通ったのです。
「ですが、能力には期待しない方が良いですよ。レドナ」
十子さんは、普通に剣を構え直しました。どうやら効いていないようです。
「あー、効いてないみたいだね。姉さん」
「そうですわね、兄さん。効いてないみたいですね」
「じゃあさ、」
「あちらを試してみましょうか」
あちら?
お二人は行動を開始しました。
その動きは、前にリリィさん、後ろにレドナさんと、先ほど攻撃の当たった体勢。
「残念だが、もう先の技は通用しない!」
リリィさんが大振りな攻撃を放ち、十子さんは容易く回避。そこに、レドナさんが剣で突きを放ちました。
「ここだ!」
対して十子さんは、剣を盾にレドナさんの一撃を防御してしまい、
「予想通りに動いてくださって、助かりましたよ」
リリィさんの二振り目が十子さんを切り裂きました。
「なに!?」
攻防が終わり、お二人は驚く十子さんから離れました。
「わざわざ同じ技を同じ動きですることに、」
「何も仕掛けてないとでも思ったの?」
「っ……やはり、二人共一筋縄ではいかないか…」
再び剣を構えて、お二人を見た十子さんは、
「!? な、何だ!?」
急に膝が折れその場に倒れ込みそうになりました。剣を杖代わりに、持ちこたえましたが。
「これは……まさか……」
あの状態は……もしかして。
「どうやら効いているようですね。兄さん」
「そうだね、姉さん。どうやら効いるみたいだね」
お二人も理解しているようでした。
「お二人共、いったい何をしたのですか?」
お二人はいつものように、交互に答えてくれました。
「今までにも何人かいたんだけど、」
「私たちの能力が効かない方には実力で倒してきました、」
「でも中には本来と逆の能力が効いたこともあったんだよね、」
「その時は理解出来ませんでしたが、」
『アルクスさんが教えてくれたことがその意味を教えてくれたんです』
……そういえば、そのようなことを話したこともありましたね。
好きという気持ち、恋愛の感情は、必ずしも異性に対してのみ起こるものではなく、時に同性の中で起こることでもあり、それは決して批判や虐げてはいけないことなのです。と。
まさか、このような形で伝わってしまっていましたか。
「トウコさんもどうやらそのようでしたね。確か、お姉さんがいると言う話を聞いたことがあります」
「じゃあもしかしたら、もしかするのかな?」
「それは分かりませんが、可能性はあるのではないでしょう。さてと兄さん、そろそろ続けましょうか」
「そうだね、姉さん。そろそろ続けようか」
お二人は剣を十子さんへと向けました。
「そ、そんなことは……しかし、この身体に来る妙な感覚は……」
十子さんは剣を構えるも、足はフラフラでまともに戦えるようには見えません。
「こんなことで……この程度では、我がクルセイダーズは負けない!」
『行くよ』
「来い!」
再三の戦闘が始まりました。
お二人はコンビネーションによる攻撃を多く使い、リリィさんの攻撃をなるべく当てるように動き回ります。
対して十子さんは、明らかに動きが悪くなっていました。
防御や回避に動いていますが、所々で守りきれずに攻撃が当たるようになっていき。
そしてついに、十子さんはの膝が崩れた瞬間、
『これで終わり!!』
お二人の攻撃が十子さんを交差に切り裂き、
「っ!? ……そん、な……か、伽行さ…………あ、ね……」
そのまま仰向けに倒れてしまいました。
十子さんの手から剣が離れると、周りに現れていたものが消え去り、今まで戦い続けていたB組の皆さんはようやく一息つくことが出来ました。
ワタクシはすぐにお二人へと駆け寄りました。
「お二人共、ご無事ですか?」
「問題ないよ。そうだよね、姉さん」
「そうですわね、兄さん。問題ありませんわ」
「そうですか……お二人共、頑張りましたね」
『うん! 頑張ったよ!』
そうして笑うお二人は、年相応な笑顔で喜んでいました。
「よくやってくれた。感謝する」
そこへ、B組のリーダー音川さんが現れました。
「予想外の攻撃に皆疲弊している。しかしのんびり休んでいるわけにもいかない、数分の休憩の後に行動を開始する」
「了解しました」
『りょうかーい』
少しの休憩の後、ワタクシ達は上の階へと向かう扉を開きました。