決戦は3日後
部室の扉を少しだけ開けて中を覗くと、大和先生と七ヶ橋の2人が俺が持ってきたキャストパズルを解いていた。
「ん? 武川、そんな所でどうしたんだ」
大和先生が気付いた。七ヶ橋もこちらを向く。
「あの……押川はいますか?」
「見ての通り、押川は陸上部に行ってるよ」
「そうですか、ならよかっ…」
扉を開けて中に入ろうと歩を進めたが。
ガンッ!
「うっ!?」
入り口の途中で止まった。いや、入れなかったんだ。
「武川、それって」
俺は今、背中に剣を背負っていた。
「はい……解けました」
飯田が去っていった後。大菊先生を体育館の入り口に置いてきてから、剣をどうするか考えた結果、紐で縛って背負い、部室へ持っていく事にした(紐は落ちていたのを拝借させてもらった)。
それで四階のこの部屋まで、よく誰にも見つからなかったと思う。
そのせいで安心してしまった俺は、教室入り口の横幅と背負っている剣の長さを忘れていた。
元の『森の柱』の大きさと同じぐらいだが、背負いやすく、そして運びやすくする為に中に空気を入れていたので柄が伸び、元より縦に長さがあったしな。
背負っていたのを下ろし、横にして部室の中へ入れて、適当な机を二つ並べてその上に置いた。
「随分とでっかいな」
「元があの大きさでしたが、まさかそのままの大きさとは」
「へぇ……で、何でまだ剣のままなんだ?」
「それが、その…」
「……戻せないの?」
「そうなんだ」
別に運ぶだけなら剣の状態じゃなくてもよかった。七々橋の傘のような状態があるはずだが、直し方が分からなかった。
「……私と反対」
そう言って七ヶ橋は傘を振り上げた。
確かに、七ヶ橋はパズルが解けなかった。
逆に俺は、パズルが直せず剣を元に戻せないでいた
「直し方が分からないとこのまま持ち運ぶ事になるぞ、剣狩りが気配を感じて襲ってくるかもしれないし」
「何とかして直します」
俺は剣に向き合った。
とりあえず動かせるのは中央の板だけ、元に戻すという事は、柱の形にすればいい筈だから……
「こう、か?」
板を元々あった形に動かす。
すると、変化が起こった。
カシン
まず、強風が起こった。
「うぉ!?」
「うゎ!?」
「……」
剣の中に入れた空気が飛び出したのだろう、空気が出る剣の切っ先の近くにいた俺と大和先生、机の上に置いてあったキャストパズルが宙に浮いて、床に落ちた。
「……大丈夫?」
剣の横にいたお陰で空気の直撃を食らわなかった七ヶ橋が首を傾げる。
「おぅ、平気へい…」
コツン
「痛て」
俺の真横と、大和先生の頭上にキャストパズルが落ちた。
「……」
「何でそこで大丈夫か聞いてくれないんだ三夜子?」
「……どうせ平気」
「確かにそうだけどな…」
「七ヶ橋! 剣は!?」
尻餅をついた俺には机の上の剣が見えなかったので、唯一立っていた七々橋に訊ねると、
「……小さくなった」
小さくなった?
起き上がって机の上の剣を見ると、七ヶ橋の言った通り、剣は小さくなっていた。
1メートルはあった剣が、15センチ程の大きさになっている。
「小さくなりすぎじゃないか?」
「……運びやすい」
「そりゃそうだが」
「……私のより全然運びやすそう」
「まぁそりゃそうだろ」
15センチと傘じゃな。
「とりあえず良かったじゃねぇか、持ち運びやすくなって」
「はぁ……」
15センチになった分、中のパズルが細かくなったんだけどな。
「あ! そうだ、大和先生、実はですね…」
俺は剣を手に入れてから、飯田が現れてからのことを話した。
「また謎の男か、そいつ学校で何してたんだよ」
「……尾行?」
「誰を?」
「……さぁ」
さぁ、て……
「とにかく、3日後か、その日にその飯田って一年と戦うんだな?」
「はい」
「……私も行く」
「え?」
「三夜子も連れてってくれ。コイツ、あの時やられたのが悔しいんだとさ」
「あぁ……」
それは分かる。あの後、剣の使い方を修行したからな。
「……次は負けない」
「でもアレってまだ負けてないだろ? 三夜子は吹き飛ばされはしたが、降参した訳じゃない」
「……そうなの?」
「多分な。何にせよ、次で勝てば良いんだ、という訳で武川三夜子も連れてってくれ」
「はい、分かりました」
その時、部活終了のチャイムが鳴った。




