ある恋話
……side 月乃
「いやー、終わった終わった。今日の練習はこれで終わりっと」
「まぁ、明日もあるけど」
「だよねー」
ここは、陽花達の入っている剣士団と呼ばれるグループの本拠地。アタシや陽花、後2人はここでほぼ毎日剣の舞を行っている。
「翔一達遅いねー、みやっち」
「そうね、それだけ勝負が長引いてるってことなんじゃない?」
「早くリリとみゃーこの居る寮に帰りたいのに」
「なら一足先に帰れば? 萩浦達にはアタシから言っておくから」
「いやー……それは何か、違うんだよね。来た時も一緒だったし、やっぱ帰るのも一緒じゃないと」
「なら、待つしかないわね」
「しかないかー」
はぁ、とため息を付いた陽花はすぐに、
「にしても、武川とみゃーこが付き合うとはねー」
「……それ、もう何度目よ」
何の脈絡もなくもう何回聞いたか分からない台詞を呟いた。
創矢と三夜子に会いに行ったあの日。大和先生の話が終わって何か質問がないか聞いて、手を挙げた三夜子があっさりと創矢と付き合うと宣言した時は、部屋の中が一瞬静まり返った。
最初に声を出したのは大和先生で、創矢に確認を取って創矢も了承。その後はその場にいた皆でおめでとうと言ったのよね。
「まあの2人はいつかこうなるだろうなって思ってたし、武川ならみゃーこも任せられるかな」
「まるで親目線ね」
「そういうみやっちはどうなのさー」
「? どうって?」
「武川のこと、ちょっとくらい思うとこもあったんじゃないの?」
「創矢のこと……」
つまりアタシが、創矢のことを好きだったと陽花は思っている。
「聞いたよ、一年生の時追いかけ回してたって。それってやっぱ…」
「無いわね」
アタシはキッパリと断言した。
「え……マジ? ホントに無いの?」
「その話、アタシが一年生の頃部活を作ろうとして創矢をメンバーに勧誘するために追いかけ回してたってのは聞いてるわよね? そのどこに恋愛感情があるのよ」
「あー……そう言われたらそかも」
……まぁ、完璧に無かった訳でもないかもしれないわね。
創矢1人に固執していたことが、きっとそれだった筈。クラスが別になってからは早山に狙いを切り替えたけど、また創矢を狙いにしたのも、多分それが理由。
だけどいつ頃だろう……創矢には三夜子がいて、あの2人はいつかきっと、お互いに認めるって。
その時からだと思う、創矢を1人の友達として見るようになったのは。
「でも……いつからかしらね」
「ん? みやっち何か言った?」
「何でもないわ」
「ふーん、そう。あ、そいやみやっち知ってる?」
「何をよ」
「町田さんってさ、どうやら早山のこと好きらしいよ」
「えぇ、知ってるわ」
「あ、そなんだ」
だって相談されたもの。ちょうど創矢が倒れた日に。
アタシが早山に狙いを変えた時、その原因になった出来事が起こった時から、つまり二年生になったばかりの頃ね。
「ちょい意外だったなー。あの町田さんが早山って、そう思わない?」
「そうかしらね、誰が誰を好きになるかなんてその人の自由じゃない」
「おー、みやっちちょいカッコいい」
「そういう陽花はどうなのよ」
「? あーし?」
「そうよ、人の色恋沙汰より自分のことは考えたことないの?」
「いやー、あーしはさ……」
そう語った陽花の表情は、さっきまでとは違って真面目なものになっていた。
「あーしはね、ずっと待ってるんだ。あっちから言ってくれるまで、ずっと」
「……そう」
「待って待って……絶対あっちから言わせてやるんだ」
陽花も陽花で、考えてるのね。
と、その時、
「紫音、月乃さん」
「……2人共早かったな」
萩浦と早山が揃って現れたので、アタシ達は帰路に付いたのだった。