決戦に向け
『始め!』
開始の合図と共に俺達はパズル錠を解き、剣を構えた。
まずは互いに様子見、相手の出方を探る。
今回の相手は剣士団の剣士。同い年くらいの男子だ。
「はぁ!」
相手が飛び出す。俺はそれを待ちかまえるように両手に力を込める。
両手剣の剣が振り上げられ、俺めがけて攻撃が繰り出された。
ガキン!
剣で防ぎ、鍔迫り合いの状態に。
く……今回の相手は強いな、まぁ似たような勝率同士を組んでいるらしいからこうなるのは当たり前か。
間合いを開け、柄を伸ばして空気を送り、空気砲を飛ばすとひるんだ相手の動きが止まった。
その隙を逃さずに剣の板を動かして能力を変え、一気に切りかかり―――
「ありがとうございました」
「あ、ありがとうございました」
今まで戦っていた相手にお礼を言われて、慌てて俺も返すとそのまま部屋を出て行ってしまった。
「ふぅ……」
なんとか勝てたが、今のはかなりまずかったな。
「お疲れ様でした。本日はこれで終了です」
「はい、お疲れ様でした」
開始の合図をした人に挨拶して、俺も部屋の外へと出た。
少し前、世話になった強剣屋の基地、その廊下を歩いて入り口へと向かう。そこで待ち合わせて一緒に帰ると約束していた。
「……あれからもう、一週間か」
気絶した俺が運び込まれて約三日泊まったこの場所、今ではほぼ毎日ここへ来ては剣の舞を行っている。おかげですっかり体は元通りで、それどころか日に日に強くなっていると感じる。
「後二週間……それが過ぎたら、ついに剣狩りを…」
「……創矢」
入り口が見えた頃に後ろからの声で立ち止まり、振り返る。
「……どうだった?」
「ギリギリ勝てた。そっちは?」
「ん……普通に勝てた」
「そうか」
並んだ三夜子と一緒に入り口へ向かい、邪魔にならない端の方でもう1人を待つ。
「しかし、この一週間で今までの何倍も剣の舞をやってるよな」
「……確かに」
「強剣屋や剣士団の人達にとってはこれが普通らしいけどな」
「……だから、強い」
「だな」
「……そして、これより強くならないといけない」
「あぁ、そうだな……」
あの日、部屋にやってきた大和先生はこう言った。
『剣狩りの本拠地が判明した。これにより剣守会と強剣屋の合同チームで、今度こそ剣狩りを倒すんだ』
どうやら三夜子が音川さん達と調査をしていたのと同時に、野山さん達によりもう一つの目星を調査し、そちらが当たりだったらしい。
それにより判明した剣狩りの本拠地にこちらの全戦力で挑み、完璧に剣狩りを倒すことが決まったそうだ。
『決行は今日から1ヶ月後。ついてはその組分けと鍛錬を兼ねて、全グループ合同の剣の舞が行われることになった。早山達の了承は得たから後は創矢と三夜子だけだが……一応聞くぜ。どうする?』
考える間もなく、俺と三夜子は首を縦に振った。
全グループ合同剣の舞。今先ほど俺達がしてきたように、あちらの決めた人と剣の舞を行って勝敗を付け、互いの鍛錬と共に剣狩り本拠地への攻撃作戦グループをバランス良く組むための情報収集だそうだ。
よく考えたら俺はまだ剣を手にして一年も経っていないが、剣守会や強剣屋の人達は長い時間剣を扱っている。
剣の板を変えることで能力を変えられる『五を統べる一』という多くの能力を持つ剣のおかげで、俺より早く剣を手にした人達にもなんとか勝つことが出来る。それでも研鑽を積んだり能力の使い方が上手い人には適わず、ギリギリ勝ちの数が勝っている程度だ。
一方の三夜子は、全グループ含めても三人しかいないレベルMAXを扱っていることもあって連勝を重ねているらしい。
……この期間の間に、三夜子と戦う可能性もある。
その時に俺は、どこまで付いていけるだろうか……
「……創矢」
「……」
「……創矢?」
「ん? あ、あぁ、悪い」
つい考え込み過ぎて三夜子が呼んでいるのに気付かなかった。
横に立っている三夜子の方を見ると、
「何かよう…!?」
「……」
三夜子の顔はすぐ横にあった。
前までなら驚いてすぐに後ずさるなりして離れていた。けど今は……
「近すぎないか?」
「……そう?」
「ま、俺が聞いてなかったからだよな」
すっかり冷静に、ゆっくりと離れた。
……一応、あの日から俺と三夜子は付き合っていることになっている。
ただ、いまいち実感が無かった。特に今までと変わりが無いからだろうか。
学校で喋り、ここへ一緒に来て、休みなら駅前とかに遊びに行く。特に変化の無い、今までの日常だ。
……ちなみに、キスもまだだったりする。あの時を逃して以来、どうもタイミングが合わずに今にまで至っている。
「で、何だ三夜子」
「……皆は、どうしてるんだろう」
「皆か。場所がバラバラだからな」
人数が多い為、ここを含めて剣守会と剣士団、強剣屋の残る二つの基地の計五ヶ所で行われていて、月乃や萩浦とは場所が別れてしまった。学校で会えるから戦績を知らない訳じゃないが。
「……グループは、一緒が良い」
「だな、一緒になれれば良いな」
その時、
「おぉ、2人共待たせてしまったか」
待っていたもう1人、花正が俺達を見つけて足早に近付いてきた。
「……どうだった?」
「うむ、今回も勝つことが出来たぞ」
「そうか、じゃあ花正も来たことだし帰るか」
「ん……」
「うむ」
そして俺達はここ最近と同じように、三人揃って帰路に付いた。