すまない
……side 三夜子
「……」
ダメ元で試した結果、何とかなった。
「……片方でも、良かったんだ」
三種類の魔法が迫る中、片手に残った剣を防御の足しにしようと前に出したら、風を起こすことが出来た。てっきり、両手の剣が揃わないと能力が発動しないものだと思っていたから。
でも、これならまだ、行ける。
風を纏ってた片手の剣で、前に迫る魔法を切りつける。元々崩れそうだった魔法はあっさりと切れ、私に当たることなく消え去った。
「……これなら」
まだ戦える。もう片方も、もうすぐ、
「三夜子!」
壁にたどり着いた花正から、剣が投げ渡される。
私はそれを受け取り……
そこで、違和感を覚えた。
「……?」
何だろう……剣を受け取った瞬間から、おかしい。
まるで、今貰ったこの剣が別の物みたいに感じる。
よく見てみると……間違いなく私の剣なのに。右手と左手で違う物を持っているみたい。
「どうしたのだ三夜子?」
花正が戻ってきて、訊ねられた。
「……何でも、無い」
問題はあるけど、今は戦いに集中しなくちゃいけない。
「……仕切り直し」
「うむ、次はわたしが一撃を当てる番だな」
「その必要は。ない」
音川さんが、そう言った。
「今の攻撃。悪くなかった、改善点はあるけど」
褒められている、のだと思う。
「だからこれからは。純粋な勝負で良い。アナタ達も勝利を刻まないと、願いを叶えられない」
……そうだ、百の勝利を刻むには、音川さんに必ず勝たなくてはいけない。それを今、出来るのなら……
「ただし。ワタシも本気を出す、簡単に勝たせるつもりは無い」
音川さんの構えが変わった。手を下げていた姿から、剣の先をこちらに向ける姿に。
アレが本気の構えなら、さっきまで……前に河川敷で戦っていた時から、本気じゃなかったということだ。
「『魔法』の強さ。その身に刻め」
剣を前に突き出す。瞬間、炎の帯が5方向から飛んできた。
「……それなら」
数が増えても、炎だけなら問題ない。風の壁を作るため、剣を振り上げる。花正は言う前に私の後ろに下がって攻撃の機を狙っている。
「……強風」
剣を一気に振り下ろし、風を……
「……あれ?」
風が……起こらなかった。
次の瞬間、片方だけだった剣の違和感が両方に変わって、
「み、三夜子!」
そんな違和感を感じている間にも、防げなかった炎が―――
「? さっきの爆発で終わりじゃなかったみたいだな」
「止めなくてよろしいんですか?」
「問題ないですよ、縁も本気でやることは無いでしょう。それに、今ので本当に終わりみたいですから」
確かに、あれ以降爆発音は聞こえてこなかった。
「で、武川。返事はどうする?」
「それは……」
「いや、やっは言わなくていいや」
「え?」
言葉を止められた野山さんを見た。
「急にそんなこと言われてすぐに答えられる訳無いだろうし、考えといてくれ。まぁ、なんとなく答えは分かってるけどな」
それだけ言い残すと、扉へと歩いていってそのまま出て行ってしまった。
「武川さん」
野山さんが出て行った後、少しの沈黙をアルクスさんが破った。
「武川さんは、どうお答えするおつもりですか?」
「それは……」
野山さんの仲間になるかどうか。野山さん本人には言えなかったけれど、俺の答えは。
「断るつもりです」
「それは、何故です?」
「俺が一人仲間になったところで、戦力にはなりません」
今までも、俺が一人で戦っていた時はとても少ない。それほどに俺は誰かと、仲間と一緒に戦ってきた。
これからも、俺は皆と一緒に戦いたい。だから野山さんには悪いけれど、断ろうと思っていた。
「そうでしたか」
「仲間というのは、パズル部の皆さんのことですか?」
「だとしたらボク達もそうなんだね、姉さん」
「仲間、って言えばだが」
「そういえば全然来ないっすね。花正」
そういえばそうだ。もう部活も終わって、迷子になってたりしない限りは付いていてもおかしくない時間だが……などと考えていると、
「あ、メールっす」
ルカの携帯に着信があった。
「おぉ、ナイスタイミングで花正からっすよ……え?」
「どうしたんだ?」
「それが……こんなメールが来たんすけど」
画面が向けられて、花正から届いたというメールを見た。
題名は『すまない』
内容は……
すまない、創矢よ
頼まれた物を持って三夜子と共にやって来たのだが。急に三夜子が倒れてしまったのだ
わたしはこのまま、三夜子を連れて帰ることになってしまった。会えなくてすまないな
あ、荷物は渡してくれるように頼んでおいたので心配はいらないぞ
ではな、明日は必ず会いに行くからな




