いないより
……side 三夜子
……創矢は、風邪を引いて休み。寮にいないのは家が近くだから帰って療養している。という扱いだった。
『同室が萩浦だからな、わざわざ説明する手間が省けたぜ』
兄さんからそう聞いて、私は朝、紫音と一緒にA組に行って、リリにもその話をした。
「そうなんだ、昨日そんなことが……」
「あーしと翔一が1日予定を遅らせてたらこんなにはならなかったのに」
「ボクもだよ。結局話し合いは今日だった、あの時一緒に帰ってたら」
「……2人のせいじゃない」
「でもみゃーこ」
「……私が、無理に誘ったから」
「みゃーさんが?」
「……帰っても、どうせ一人って言ったから。私が、寄り道するって言ったから」
創矢を誘わなければ、あんなことにはならなかった筈。だから…
「……悪いのは、わた…」
「なに言ってんのよ」
声が遮られて、前には月乃が立っていた。
「話は聞いてるわ。誘って良かったじゃないの」
「……え?」
どうして、そんなことを?
「よく考えてみなさい。三夜子が誘おうとそうじゃなかろうと、創矢は家に帰る為にあの道を通ったのよ。そこで空間が張られたあの場所で、会わない方が難しいに決まってるじゃない。強剣屋とかいう人が助けに来たのかもしれないけど、どちらにせよあの場で創矢は戦いを選んでるわ。その時に、三夜子が隣にいるだけでどれだけ創矢が楽になったか、考えてみなさい」
「……」
私が隣にいるだけで……私が、一緒に戦うだけで……創矢を助けられた。
いるといないなら、いるが良い。
「……なるほど」
「分かった? 分かったなら、マイナスに考えるのはやめなさい」
「……分かった」
「ならいいわ。ところでそろそろ授業始まるわよ、2人は戻りなさい」
「え? もうそんな時間?」
時計を見ると、確かにそろそろ戻らないといけない時間だった。
「マジだ、みゃーこ戻ろ」
「ん……」
「そんじゃリリ、また」
「今度はボクがC組みに行くね~」
手を振ってA組を出る……その前に。
「……月乃」
「なに?」
「……ありがとう」
「あまり深読みするんじゃないわよ」
「ん……分かった」
私と紫音はC組へと戻った。
……創矢、今頃何してるのかな。
学校終わったら、絶対に行こう。
「……なんか、風邪引いた時を思い出すな」
時刻は昼を過ぎた辺り、俺はまだベッドの上にいた。
とはいっても、決して動けないわけではない。昨日みたいに起きあがろうとして倒れるようなことはなくなり、少しなら歩けるようになった。
ただ、まだ走るといった運動の類いは不可能らしい。試そうとして、倒れかけた。
まだ寝ておいた方が良いと言われ、今に至る。
今を文字で表すなら、暇だ。
風邪を引いて学校を休み、休息のため眠ってから、昼過ぎ辺りに起きても、制限されてやることが無い状態と言えば分かるだろうか? まさにその感じだ。
確か高校一年生の時にも風邪を引いて、家が近かったから帰って休んでいた時も寝てるだけで、こんな感じだったな……いや、確かあの時は、あまりに暇過ぎてパズルを解いてたな。
今思えば知恵熱で悪影響だったのだろう。1日寝てれば大丈夫と言われていたのに、完治に2日掛かった。
今なら、問題ないよな……とは言うものの、手元にパズルは、剣の錠しかない。
「……花正か、三夜子が来てくれればな…」
その時、扉が叩かれた。誰かが来たみたいだ。
誰だろうか、三夜子達はたまだ学校だろうから……あ、もしかしたら花正か。ならちょうど良い。
「はい」
返事をすると、扉が開いて、
「お邪魔するっすー」
「よぅ、体調はどうだ?」
現れたのは、ルカと階田の2人だった。
「お前達……学校は?」
2人も同い年の高校生だ。三夜子達がまだ来れないみたいに、普通ならまだ学校にいるはずだが。
「今日は午前中だけで終わったっす」
「早山から連絡があってな、そこまで遠くなかったからこうして来たんだ」
そう言えば運び込まれたから知らなくて当たり前たが、ここはどの辺りなんだろうか? 階田が近いってことは、隣町の方か?
「気分はどうっすか?」
「確かルカは寸前で止まったあの顎と、もう一つ何かを受けたんだろ?」
「あぁ、レベル5の剣の一撃を二回もな」
「そんな寝込むくらいの重傷なのかよ」
「重傷というか、体が上手く動かないんだ。少し歩くのがやっとだな」
「そ、そんなにひどいっすか」
「そういや、ルカも当たってねぇのにしばらく目覚まさなかったよな」
「俺の場合は同時にレベル5の攻撃を受けたかららしい。けど数日休めば良くなるらしいから安心してくれ」
「そういうことなら、安心するっす」
「まぁそんだけ普通に喋れるなら心配はいらねぇな」
「わざわざありがとうな、2人共」
正直、ずっと一人でさびしいと思い始めてしまったところだ。それだけ、俺は誰かと一緒にいたんだな。
いないよりは、いる方が良い。
「時にルカ、花正の携帯のアドレス知ってるよな」
「もちろんっすよ」
「実は今携帯も使えなくて、それで花正に連絡したいことがあるんだが」
「問題ないっすよ、それでは」
ルカは携帯を取り出して。
「どうぞっす」
「あぁ、まず…」