三夜子の気持ち?
よくよく考えたら、三夜子は寮で俺は家。帰る方向が真逆だ。
焦って損した、学校の門を抜けたらそこでお別れ…
「じゃあな三夜子、また明日…」
「……まだ」
とはならず、三夜子はこちらについて来た。
「な、なんか、こっちに用事、なのか?」
「ん……少し、寄り道していく」
寄り道、か。確かに同室の押川と陽花がいないと寮で一人だもんな。
そんな寂しい気持ちは分かる。分かるんだが……
「……創矢も、どうせ帰っても一人」
これは訳すると、花正は双子と共に買い物に行き、俺も帰っても家で一人だから、ついて来いと言っている。
「そりゃ、そう、だが……」
「……何か、用事がある?」
「いや、無いが……」
「……なら、行こう」
「……あぁ、分かった」
歩き続けて数分、駅前にまで辿り着く。
この間、会話は一切無かった。
「……」
「……」
元々寡黙な三夜子だ、こちらから振らない限り余程のことでないと話しかけてくることはなく、話しかける側の俺が話しかけないことで無言が続いていた。
別に今までの中でこんなことが無かったわけじゃない。ただ、今日のこれはいつものとは違って……とてつもなく、気まずかった。
思えば、あの時からだ。辞書で楽を引いた時、その意味を知った時から。
楽。結論から言って、引き出すことにはこれまで以上に三夜子の協力が必要不可欠になった。
今までの喜びや怒りだって決して三夜子の協力がなかった訳ではないが、楽だけは協力の方法は全く異なっている。他の三つより、明らかに、難易度が上がっている。
そのせいで、俺は三夜子と顔を合わせるのはおろか、話すこともし辛くなっていた。
なのに、
「……創矢」
「!?」
三夜子はいつも通りに話しかけてきた。
「な、なんだ、三夜…!?」
驚いていることを悟られないように振り向けば、三夜子の顔はすぐ間近にあって、これには驚きを隠せなかった。
「びっ、びっくりした……前にも言ったと思うが、急に顔近づけるのはやめてくれ」
「……言ったっけ?」
言った、と思う。あまりに些細で、それ以上に記憶に残ることが多々あるから忘れてしまったんだと思う。
それくらい、俺は三夜子と共に過ごしているということか……そりゃあ、こうもなるか。
「とにかく、次から気をつけてくれ」
「ん……善処する」
いや、普通にやめてほしいんだが……
「ぷっ……」
思わず、俺は吹きだしてしまった。
「……?」
それを見て首を傾げる三夜子を見て、あまりにもいつも通り過ぎて、悩んでることがバカらしく思えた。
「いや、悪い、ちょっと考えすぎてたと思ってな」
「……そう」
こっちだけ挙動不審なのはおかしいよな、話すぐらい普通にしよう。
「で、何か用事か?」
「……創矢、何か変だったから、気になった」
なるほど、さっきまで俺のことか。
「……でも、もう大丈夫そう」
「まぁ、なんとかな」
問題がなくなったわけじゃないが、とにかく今は、普通に……
「……」
「……創矢?」
いや……思い切って、今聞いてみるのも手だな。
こんな機会、そうそうあるのじゃない。別に今が絶好の機会という訳でもないが、これから俺が気持ちを落ち着かせていくと、きっともう無い可能性もある。
なら、今この時に、
「なぁ、三夜子」
「……?」
俺は立ち止まり、三夜子も止まって俺を見る。
その姿を見て、俺は訊いた。
「三夜子は……俺のこと、どう思ってる?」
「……」
言った、言ってしまった。
後はコレを、三夜子がどうとらえるか。
そして、三夜子の答えがどうか。
それによって、楽を引き出せるかどうかが、ほぼ決まる。
「…………」
大分静かな時間を過ごした後、三夜子は口を開いた。
「……よく、分からない」
「……そうか」
いつもの三夜子っぽい答えだ。
そして、恐ろしく曖昧な答えだ。
これはいったい、どう受け取れば良いものやら…
「……でも」
「え?」
三夜子の言葉は、まだ続いていた。
「……創矢は、何だか、他の人と違う」
「違う?」
「ん……」
「それは、どういう意味だ?」
「……よく、分からない」
また同じ答えだが、また続きがあった。
「……でも、創矢といると、凄く安心する」
安心?
「……それに、少し変な気分になる」
変な気分?
「……上手く説明出来ない、けど」
「分かった、無理に説明しなくていいから」
「ん……分かった」
「あぁ……」
これは……なんて言えばいいんだ。
良くもないし、悪くもない。分からないことしかない。
ここで俺が、答えと思うものを伝えたら、果たして三夜子はどうするのか……
興味はあったが。それを実行に移す勇気は無かった。
これは俺が言うんじゃなくて、三夜子本人に気づいてもらいたい。
などと考えていたら、
「……創矢は?」
「は?」
「……創矢は、どう思う?」
「えっと……三夜子のことを、か?」
「ん……」
同じ質問を返されてしまった。
とてつもなく、答えにくい質問を!
「それは……」
「……それは?」
逃げ道を探したが、全く見つからない。
これは……言うしかないのか?
こんな道の真ん中で、人の通る……?
……あれ?
「なぁ三夜子」
「……?」
「この道、こんなに人がいないことあるか?」
妙な静けさを覚えて周りを見ると、俺達以外に人の姿が無かった。夕方のこの辺りは買い物帰りの人や部活終わりの生徒がいたりするものだが、一切見当たらない。
これはまるで、俺達が別の場所に移されたような。
そうなる状況も、俺はよく知っている。
そして、その予想は当たった。
「お取り込み中だったかしら? でも少し、お邪魔させてもらうわよ」
声がした方向に、剣狩りが立っていた。




