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文武平等  作者: 風紙文
第九章
213/281

『回復』と『魔法』

国守さんが連絡したことでやってきた剣守会の人によってルカは連れて行かれ、共に行った階田以外の人は河川敷に残り。

そして、今に至る。

「お二人共、いったい何のおつもりですか?」

「見ての通り。練習試合」

「というか国守、その敬語やめろっての。タメなんだからよ」

後ろに立つ国守さんへ声をかける2人の前に、俺と三夜子は剣を持って立っていた。

「練習試合って……確かに武川さんは特殊な剣を持っていますが、お二人に適うわけ無いじゃないですか」

「だからあっちも2人にしたんだろ。文句なら選んだ縁に言えよな」

「何故そこでワタシが出る? そもそも申し込んだのは晃志郎」

あの二人、お互いを下の名前で呼び合っているな。

「つうかよ縁、どうしてあの子選んだんだ? あっちにレベル5がいたんだぜ?」

「見て分かった。アレは晃志郎のとではない」

「だから?」

「だから。戦いたい相手を選んだ」

音川さんは真っ直ぐにこっちを、多分を三夜子を見る。

「……」

「あの子に。似た香りを感じた」

香りって……

「……創矢」

「? どうした三夜…!」

横を向くと、凄い近くに三夜子の顔があった。

「……私、何か匂う?」

そういうことかよ!

「べ、別に、そんなことないぞ」

「……そう」

ゆっくりと離れる。

「あー……ホントだ、昔の縁そっくりだ」

「だから。選んだ」

「そうか、それじゃあ、やるか」

「了解」

二人は同時に剣を構えた。共に出したまま使わなかったレベルMAXの剣だ。

慌てて俺達も剣を構えるが、2人はまだ動く気は無いらしい。

「さっきもやったが、一応名乗っておくか。俺は強剣屋のリーダーで三強の一人、野川晃志郎。レベルアップした剣の名は『回復』ヴィーティング」

「!?」

「同じく。強剣屋リーダー三強の一人、音川縁。剣の名は『魔法』アゾット」

「な、なんだと……」

剣の名前を聞いて、俺は驚きを隠せなかった。

「……創矢、知ってるの?」

「あぁ……まさか、あの二つがレベルアップした剣の形状だとは……」

100の剣にモデルがあったように、レベルMAXとなった剣にもモデルがあってもおかしくはないとは思っていたが。

「……有名なの?」

「二つ共……伝説の剣だ」

片刃の片手剣。黄緑を帯びた刃に菱形の鍔、柄の下に宝石のような輝く石が付いている。野山さんのヴィーティング。

両刃の片手剣。刃から柄まで全て同一の素材に左右対象の装飾が施され、全体的に輝いて見える。音川さんのアゾット。

共に神話などに出てくる伝説的な剣の名前だ。もしも、話にあるとおりの能力だとしたら……今の俺達が、一対二でも勝てる気が全くしない……

「こっちは名乗ったぜ、次はそっちの番だ。剣の名前があるなら言いな」

野山さんに促され、三夜子を見ると、先にどうぞ、と頷いたのでまず俺が名乗った。

「武川創矢です。剣の名前は、『五を統べる一』」

言った瞬間、野山さん達の眉が少し動いた気がしたが、やはりこの剣も有名なのか。

「……七々橋三夜子。剣の名前は、『風十字』」

三夜子も剣を構え、臨戦態勢を取る。

「いざ、」

「尋常に」


「「勝負」」


野山さんと音川さんが声を揃えて発し、同時に動き出した。

自然と俺は野山さん、三夜子は音川さんとの組み合わせとなり―――




それから、五分程が過ぎた頃、




俺と三夜子は揃って河川敷に膝をついていた。

「ま、こんなもんかな」

「試合終了。ワタシ達の勝ち」

音川さんが終了を宣言したのと同時に、離れて見ていた月乃達が揃って駆け寄ってきた。

「ちょっとみゃーこ! 大丈夫!?」

「ん…………大丈夫」

口ではそう言うが、実際はいつもより間が長い、剣なので怪我とかは無いがさすがに疲れはあるんだろう。

「辛そうだな、ほれ、コレを持てよ」

そう言って野山さんが差し出したのは、剣の柄に付いていた石。俺が礼を言って受け取ると、瞬時に身体から疲れが抜け出ていくのが分かった。

それをそのまま三夜子に渡すと、

「……? 妙な、感じ……」

三夜子も身体の変化に気づいたらしい。

「一分も持ってれば、この程度なら完全回復するだろうぜ」

そう、まさに回復していくかのよう。

野山さんの持つレベルMAXの剣『回復』のヴィーティングの能力は、あの回復機能を持つ石だ。

これは本来ヴィーティングが登場する神話でも記されており、野山さんは戦っている時に左手で剣、右手で回復の石を持つことで、常時回復状態で戦っていた。決して俺の剣が当たっていなかった訳ではなく、ただ石の回復量を越えることが出来なかったのが敗因だ。

それにしてもあの石、他人も回復することが出来るんだな。

「相変わらず。晃志郎の剣は便利」

野山さんの隣で音川さんが呟く。

「縁のも強力だと俺は思うけどな。まるで魔法使いみたいでよ」

魔法使い、確かにその通りだ。

音川さんの持つレベルMAXである『魔法』アゾットは、名前の通り魔法じみた属性攻撃を行うというものだった。

元々のアゾットは昔の錬金術師が特別な素材で作ったとされ、アゾット剣と呼ばれながらも杖のようだと言われていた。錬金術師の持つ杖というところから、魔法の能力になったんだろう。

火や水を始め、三夜子のように風を吹かせたり、三夜子のかまいたちを地面から競り上げた土の壁で防いだり、まさに魔法使い。剣のリーチが届かない位置から攻撃を続けていた。

ふと思ったのだが、あのアゾット、もしかしたら『白塗』の対になるレベルMAXなんじゃないか。

行えることは似ているが、筆で刃に色を塗らないといけない『白塗』とは異なりスピードと威力が桁違いだった。

それに先ほど音川さんは自分の対になるレベル5は見つけたと言っていた。剣守会には『白塗』と『収納』があり、『収納』の能力を知らないにしてもそう思える。

「……創矢も」

三夜子は石を持つ手をこちらに伸ばした。

「もういいのか?」

「ん……もう平気」

間も戻ってるし、そうみたいだな。

俺は石を受け取ると、身体が軽くなっていくのを感じた。

そしてほんの一分で、戦う前のようにスッキリした心地になった。

「ありがとうございます」

「おぅ」

俺は野山さんに石を返す。

「そんじゃま、俺達は帰るとするか」

「分かった」

受け取って早々に剣を納めると、2人は揃ってこちらに背を向けてあっさりと歩いていってしまう。

「あ、そうだ」

しかし途中で足を止め、こちらを振り返ると、

「お前達、なかなか良い筋してたぜ。もうちょい頑張ればきっともっと良い勝負出来るはずだ。頑張れよ」

「次戦うとき。期待している」

それだけ言って、踵を返してそのまま見えなくなってしまった。

その方向を見ながら、月乃が呟いた。

「なんだかあの二人、アンタ達と似てたわよね」

「俺達が?」

あの二人と?

「あ、それ、あーしも思った。特に女の人の方、みゃーこを数年大人にした感じっぽく思ってた」

音川さんが三夜子に似ていた、ってのは本人も似た香りと言う辺りから分かっていたが、

「俺と野山さん、そんなに似てたか?」

そちらには首を傾げた。

「そうね、なんて言ったらいいのかしら……創矢が大学生になった時、あんな感じになるような気がするって感じね」

全く理解出来なかった。

「ふむ、なるほど、言われてみればそんな感じもしたな」

花正は理解出来たらしい。まぁ正直、それはよく分からないが……

「なぁ、皆」

俺は立ち上がって皆の顔を見てから、こう言った。

「もう少し、練習に付き合ってくれないか?」

「……私も」

隣に三夜子が並び、二人でお願いする。

勝てる見込みは無いと思った格上の相手だったとしても、負けたことが悔しくて、本人達からもう少し頑張ればもっと良い勝負が出来ると言われた。

それなら、もっと頑張るしかないよな。

俺達の願いに、皆は揃って賛成して。

その日は日が暮れるまで、練習をしていた。

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