2本目
「……」
玄関から顔を出し、左右を確認。
右を見て、左を見て、もう一度右を見て左を見て、
「……よし、いねぇな」
安全を確認して、玄関からゆっくり出て歩き出す。
「後は……」
足音を極力抑えながら、隣に建つ家を確認する。
人の気配はあるけと、こちらに気付く気配は無し。もしかしたら、もう出掛けているのかもしれない。
「……よし、大丈夫だな」
安心を確認して、一息ついて普通に歩き出した……
「ハーーールーーー! どこに行くっすかーーー?」
……side ルカ
そんなハルの背中に、今までの行動を見ていたあたしは飛び付いた。
「いぃ!? る、ルカ!? テメェ出掛けてたんじゃねぇのか!?」
「なーに言ってるっすかハル、あたしはここに居るじゃないっすか」
本当は出かけようとしてハルの家の前を通った時、丁度出てくるハルを見つけたから隠れて見てたけど、それはナイショだ。
「お前のことだから、出かけようとしてオレの家の前を通った時、オレが出てくるのが見えたから隠れてた。ってもおかしくはないが……さすがにそれは…」
「そそそ、そんなわけないっすよー、は、ハルの考えすぎっす」
「……図星かよ」
明らかに動揺してるあたしを見て、仕方なさそうにハルはため息をついた。
「で? ハルはどこに行くっすか! 良かったらあたしも一緒に…」
「ダメに決まってんだろ。お前は元々行こうとしてた所へ行け」
元々、と言われても、特に目的もなく街をふらふらしようとしてただけだけど。
「どうせお前のことだから、特に目的もなく街をふらふらしようとしてただけかもしれないが」
「は、ハルって、実はエスパーだったっんすね!」
「は? 何言ってんだ?」
二回も連続して心の中を当てられるなんて、エスパーとしか考えられない。
「エスパーだかなんだか知らねぇが、オレは行くところがあるんだ」
「早山くんのところっすか!」
「うっ」
呻いた、図星のようだ。
「結局昨日は会えずじまい。だから昨晩辺り武川さんから手に入れた早山くんのメールアドレスで連絡して、今日会う約束をしたっすね!」
「……」
「ふっふっ、どうやらエスパーなのはハルだけじゃなかったみたいっすね」
ほとんど同じ時間を過ごしてたから、似たような能力を得たのだろう。
「行く場所さえ分かっていれば、あたしは後をついて行くっす。さぁ、早山くんのところへれっつごーっす!」
「……はぁ、仕方ねぇ」
昨日も来た隣町、そこから更に歩くこと数分、たどり着いたのは、昨日も来たあの河川敷だった。
「ここっすか?」
「おぉ、話ついでに練習相手になってもらうんだよ」
「でも確か昨日、ここを使うなら許可を取れって聞いたっすけど」
「早山は剣守会だぞ、許可くらい取れんだよ」
あー、なるほど。
「どうせならルカ、お前も練習してけ。早山の方も一人じゃないみたいだからな」
「?」
一人じゃない? となると、剣守会の仲間の誰かとか?
「お、いたぞ」
ハルの視線の先に、早山くんの姿を見つけた。会うのは久しぶりだけど、すぐに分かった。
そしてその隣には見たことある人が2人と、初めて見る人が1人。
「……来たな」
「? 階田は分かるけど、その隣にいるのは誰よ」
「あれは、雨切橋さんですね」
「やっぱりね、階田が来るって知ったらルカもついて来るって思ってたのよ」
4人の近くまで行って、改めて全員を見る。
早山くんから一人飛ばして並んで立っているのは、陽花ちゃんと萩浦くん。同じ剣士団だからよく知っている。
そして、早山くんの隣に立っている人は、多分同い年だと思うけど。
「……まず、知らない者どうしで自己紹介しておくか」
「そうね」
その人が一歩、あたし達に、というかあたしの前に。
「アタシは月乃雅。早山とはクラスメイトで同じ部活よ」
「ご、ご丁寧にどうもっす。あたしは雨切橋縷々香。長いのでルカと呼んでくださいっす」
「なんか、変わった話し方ね」
「昔っからこうなんだよ」
「そーっすね、いつの間にか定着しちゃったっす」
何でだったか? 思い出してみようかな……うーん……
「とりあえずどうする? 結果六人とか大人数になっちまったが」
「……そうだな、普段は出来ない戦いをしてみるか」
「じゃあこうしない? 2対2対2で、ちょうど6人よ」
「へー、面白そう、あーしはそれ賛成」
「僕も賛成です」
「オレもそれで良いぜ、ルカ、お前は?」
「うーん……思い出せないっす……」
「おい、ルカ?」
「えーっと……確か、小学生の後半辺りでは、もうこうだったすから……」
「聞こえてないわね」
「おいルカ!」
「ほぅ!?」
いきなりの大声に驚いて、あたしは慌ててみんなを見た。
「なな、なにごとっすか!?」
「お前、話聞いてなかったのかよ」
「うっ、ご、ごめんなさいっす」
「もういい、お前も賛成側だ。これで5人か」
「……なら、決まりだな」
「おっし、さっさと始めようぜ、ルカ、準備しろ」
「おーっす!」
あたしは剣を取り出して鍵を外し、
「気合い入れるっす!」
ポケットからはちまきを取り出して、頭に巻き付けた。
「え? それって……正解?」
「いえ……恐らく…」
「ぷっ、ルカ、間違えてるよ」
「え?」
月乃さん、萩浦くん、陽花ちゃんに言われて、ハルの方を向いた。
「ハル、このはちまき、何て書いてあるっすか?」
「特攻」
特攻!?
「ま、また間違えちゃったっすか!?」
必勝を持ってきた筈なのに、これでは暴走族みたいだ。
「まぁ良いんじゃね? 昨日の合格よりはマシだろ」
まぁそう言われれば。
「よーし、このまま行くっす!」
「……良いのかしら、アレで」
「……まぁ、本人が良いなら、口出し無用だな」
「そんじゃ、組み分けは、このままで良いよね?」
どうやら三つの2人組で戦うらしい。早山くんは月乃さんと、陽花ちゃんは萩浦くんと、そしてあたしはハルと組み分けがされた。
みんな少しずつ下がって、それぞれの剣を手に取る。
「ハル、どうするっすか?」
「どうもこうもねぇ、前に来た奴と戦う、それだけだ」
「了解っす」
剣の能力的にコンビネーションは皆無だから、ハルの作戦に乗ることに。
「さぁ、いつでも良いぜ」
「……こちらもだ」
「こっちも良いよー」
それぞれの片方が答えて、間が空き……誰からともなく。
『スタート!』
放たれた合図で、あたし達は前に飛び出した。