連休2日目
朝に携帯が鳴ると、だいたい、パズル部関連の連絡だ。
だから今……階田達と出会った日の翌日の朝、今鳴っている携帯に届いているメールも、きっとそうだろう。
などと、目覚めたばかりの頭で考えつつ、携帯を取ってメールを見た。
差出人は大和先生。その下に他の部員の名前を見つけたので、一斉送信のようだ。
内容は…………この三連休、大和先生は用事があるのでパズル部を休みにするというもの。
「用事……か……」
昨日は七の会というのに参加していたから、白塗から聞いた情報を今日明日の内に剣守会の人に伝えるんだろうな。
内容は確認したし……携帯を閉じて、寝返りうつ……
その先に、三夜子の顔があった。
「……?」
……なんだ、寝ぼけてるのか?
なんで俺の部屋に、しかもこんな朝早くに三夜子がいるんだ。いるわけ無いだろう。
「ふわぁ~……」
さっさと起きよう。親父達はいないけど、道場の掃除は毎朝の日課だからな。
天井の方を見てゆっくりと体を起こし、伸びをする。
「……おはよう」
「あぁ、おはよう三夜……」
眠気は一瞬で無くなった。
瞬間的に覚醒した頭で考え……ゆっくりと首を、先ほど見た方向へ向けると……
「……おはよう」
やっぱり、三夜子の姿がそこにあった。
「……」
とりあえず……驚くのは止めておこう。こういう場面なら驚かない方がおかしいだろうけど、突然現れる三夜子はもう日常茶飯事に近い。
だから冷静に……右手で顔を抑えて、落ち着いて、冷静に……
「……どうやって入った?」
「……花正に」
入れてもらった、か。
花正の朝はかなり早い。俺も普通より早い方だと思うが、その一時間は花正の起床の方が早い。
その花正が三夜子を家に入れたのは分かった。だが、
「なんで俺の部屋にいる」
「……花正に」
「俺がどこにいるか聞いたら、部屋で寝てるって聞いて、ここに入った、と」
「ん……」
こくっ、と頷いて正解を示した。
言葉はさっきと同じなのに、よく理解したな俺。
「……そうか」
手を離し、改めて三夜子を見る。
制服ではなく私服で、傘は持っていない。それに違和感を感じる辺り、俺はほぼ毎日三夜子を見ていると実感した。
「まぁいいか……部活が休みだから、来たのか?」
「ん……」
再び頷く。まぁそうだろう。
とりあえず、俺も起きて、日課の道場の掃除に行くとしよう……
そう考えて、上着に手をかけた。
「……」
「……」
しかし、三夜子は動かなかった。
「……あの」
「……?」
「……着替えたいんだが」
そこにいないで、外に出てくれないか?
「……分かった」
ようやく頷き、三夜子は部屋の外に出て扉を閉めた。
「はぁ……朝っぱらから、どっと疲れた気分だ」
まさかこんなことが起こるなんて、想像出来なかったけどな。
道場の掃除も終え、三夜子を含め三人で朝飯を食べた後。やってきたのは、昨日同様暇な時間だった。
「これじゃ昨日と同じ……いや昨日以上だな」
昨日はまだ昼過ぎだった。けど今日はまだ朝だ、時間が更にある。
「ふむ、ではまたルカを誘ってみるか」
「いやさすがに二日連続は止めておけ」
なんとなく、花正に呼ばれたから一緒に行こうと誘われている階田の姿が思い浮かんだ。
「……ルカって誰?」
「ルカとはな、わたしの友達だ。出会ったのは…」
俺は昨日も聞いた花正とルカの出会いを聞いていると、余計に暇だと思った。
「ルカも剣を持っていてな、なんと言ったか……まく、まく……むぅ?」
「マクアフティル、な」
「……マクアフティル」
ルカの持つ剣が、三夜子が初めて戦った剣と知って呟いた。
「あの時から巡り巡って、今は知り合いの手の中か」
「……まだ、決着が付いてない」
そういえばあの時は原良が倒してしまった。
「うむ、わたしも昨日は決着を付けられなかったぞ。国守さんだったか、あの人がやってきてな」
「……国守、さん?」
「む? 知っているのか三夜子よ」
「ん……会ったことある」
少し考えるように上を見て数秒後、視線を戻して語った。
「……確か、この辺りの総括で、剣守会でもかなり上の方」
それは本人も言っていた。
「剣を持っているのだよな、どういうものなのだ」
「……分からない。使っているのを見たこと無いから……ただ」
「ただ?」
「……かなり強い、らしい」
さすがは剣守会の地位が高いだけはあるのかもしれない。
「……そして……」
三夜子は一息吸って、言った。
「……とても、苦労人」
苦労人?
「苦労人? どういう意味なのだ?」
「……ああ見えて、私達と3つしか違わない。剣守会の中で、その年齢であの位置にいるのは国守さんだけ、後は皆年上」
なるほど、年上に囲まれている、故に苦労人か。
「……そして、この辺りの統括になって、兄さんとかの世話に苦労してる……らしい」
……うん?
「……兄さんも、国守は分かりやすいって言ってた」
「……」
苦労人って……そういう意味なのか……
「分かりやすいとは、どういう意味なのだ?」
「花正みたいってことだ。な?」
「ん……そういうこと」
「む? むむ? わたしみたい? それではよく分からないぞ」
「じゃあ……三夜子の真逆、って意味なら分かるか?」
「むぅ、ますます分からないぞ」
「……私の真逆?」
今度は三夜子も分からなくて首を傾げてしまった。
「まぁ、分からなくても困らないから、あまり気にするな」
「ふむ、そういうことならばそうしよう……そうだ、今の内に昼食の準備をしておこう」
思い立った瞬間、花正は席を立って台所へと向かった。
「三夜子はどうする?」
一応、聞いておく。
「ん……頂く」
「む? 三夜子は今日泊まるのだろう? すでに三人分の準備を始めているぞ」
部屋から降りてきて居間で座っていた三夜子の隣にはいつもの傘と、一泊分くらいの荷物が入っていそうな鞄。
もう何と言うか、恐らく二日前には分かってた筈なのに訊ねない訳にはいかず。そして返ってくる答えはもちろん予想通り…
『……お世話になります』
先に知っていた花正も、料理を披露する人が増えて嬉しいと喜んでいたな。
……まぁいいか。どうせ、明日も休みだからな。