七の会
「なるほど白塗か、よく思い付いたな武川」
教室での文化祭の片付けも粗方終わり、結局昨日出来なかったパズル部の片付けに来た。
といっても特に装飾もしていないし、途中からA組の月乃達も揃って作業したので、ものの数分で終わりかけていた頃。大和先生が部室に現れ、皆は教室に戻り、俺は昨日白塗から聞いたことを話した。
「昨日のホウさんも同じようなことを言ってたな。剣が新たな剣に変化することがある。それを含めれば剣は百以上存在し、100の勝利を刻むことも出来るってな」
「白塗はレベル6、あるいはレベルMAXと言っていました」
「レベル5の上だからか。もうそれ以上はないだろうし、よし、レベルMAXって呼ぼう」
レベル5に勝る新たなる剣の名はレベルMAXと呼ぶことに決まった。
「今まではレベル5を集めることに集中していたが、これからはそれを集めることになりそうだな」
「ですが、そう上手くはいかないと思うんですが」
レベルMAXはレベル5の七振り以外の93本のどれか7本がなる物。白塗曰わく、コレがなるという決まった剣が無い。となると残る93本を集めなくてはいけなくなる。
「それはそうかー……まぁ、今一番手にしやすいのが剣守会に変わりは無いけどな。剣を持っている数が最も多いのが今は剣守会だから」
現在、剣を持つ者は4つの組のどれかに含まれている。
一つは大和先生やアルクスさんの所属する剣守会。一つは剣狩りを壊滅に追いやった、強剣屋と名乗るグループ。壊滅に追いやられた剣狩りの残りもその一つで。
残るは俺達パズル部……まぁこれは剣守会の一部と考えた方が良いか。
「コレは次の集会で話すべきだな。良いか? 武川」
「はい。もちろんです」
ちょうど話が終わった。その時、
「創矢!」
ガラガラパーン! と、扉が開いた。誰か、なんて確認するまでもない。
「結局来たのか、花正」
「うむ、一度家に帰ったがやはり諦めきれなかったからな」
そんなに来たかったのかよ。
「それとそこで三夜子に会ったぞ」
「……話、終わった?」
確かに、隣には戻った筈の三夜子がいた。
「あぁ、ちょうどな」
「では帰ろう。確か明日は休みなのだろう?」
「待て、まだ帰れない」
今日は文化祭の片付けで、後は帰りのホームルームを残すだけ。そして明日は部活を含め全ての学生が休みで、そのまま土日に突入、実質の三連休が待っていた。
「そりゃ明日は休みだが、だからどうした?」
「なにを言うのだ創矢。明日から叔父さん達は旅行に出掛け、わたしと二人ぼっちになるではないか」
二人ぼっちって複数なのか個人なのかどっちだ。
「つまり明日からしばらく食事を自分達で用意することになる。その為の買い出しに行かなくてはいけないだろう、それに付き合ってほしいのだ」
「つまり、荷物持ちだな」
「うむ、そうとも言う」
いや、そうとしか言わない。
「創矢よ心配するな、食事のことは全てわたしに任せておけ」
家に帰った俺が親父達から旅行のことを直に聞いていた時、料理は任せろと花正は宣言していた。すっかり料理にハマった花正だが、徐々にだが腕は上がっている。本当に、徐々に、だが。
そんな矢先、自分が料理を作れるチャンスが来たから張り切っているな。
「……」
ふと、三夜子が何か言いたげな視線を向けていることに気付いた。
「? どうかしたか三夜子」
「ん……」
こくりと頷くと、本当に三夜子は語り出した。つかよく気付いたな俺。
「……創矢と花正は、しばらく二人ぼっち?」
三夜子も使うのかその言葉。
「あぁ、とりあえずこの三連休はな」
「うむ、その後も叔父さん達が帰ってくるまではそうなるな」
「……そう」
……なぜだろう、この先の展開が読めた気がする。
おそらく三夜子は俺達に、そして兄である大和先生に、こう言うだろう。
『……泊まりに、行ってもいい?』
親父達がいない分行きやすく、三連休というのが更に拍車をかける。更には拍露達を泊めていたのを知っているから家に人を泊められる事を知っている。そして、絶対にノーとは言わない花正が隣にいることが極めつけだな。
いささか考え過ぎな気もするが、三夜子なら言いかねない。ここは大和先生に、さすがに断ってもらうしか……
「三夜子、もしかして武川の家に泊まりに行きたいのか?」
三夜子が言う前に、大和先生が訊ねた。やはり先生も同じ予想に行きついていたか。
「ん……どうせ、休みだし」
やはりその通りで、三夜子は頷いた。
「おぉ、それならば歓迎するぞ」
花正もノーとは言わず。後は大和先生の返事次第だ。
「でもな三夜子、明日は七の会だぞ?」
「……あ」
忘れてた、という風に呟いた。しかし、七の会?
「なんですか? 七の会って」
「七の会ってのはな、七ヶ橋みたいに名字に七が付く家が七つ集まってパーティーみたいなことをするんだ。きっかけは偶然七家族がある会場で集まって意気投合して、どうせなら年間行事にしようってなったかららしい。俺達の爺さんの時代の話だけどな」
七が付く名字が七つも揃うって、かなりの確率じゃないか? 確か中学の時、七宮って名字のクラスメイトがいたと思うが、後は七ヶ橋くらいしか見たことないぞ。
「その七つの家にはどんな名字がいるのだ?」
花正が訊ねると、三夜子か傘を持たない左手で指折り数え始めた。
「……七ヶ橋……七宮……七織……七功……七麻奈。後は―――」
思い出しながら、七の付く七つの家の名前を答えた。
「その七家系が集まってわいわい騒ぐのが主目的だな、集まった偶然に感謝しながら。ちょうど三夜子くらいの年のもそれぞれの家にいるんだ」
七家系が集まって、わいわい騒ぐ……
「……」
「……?」
真っ直ぐに三夜子を見て、首を傾げる姿を正面に見つつ、横の大和先生へ小声で訊ねた。
「……わいわい、騒いでます?」
「きっと武川の思った通りだぜ」
だよな……そういう場所で、三夜子が盛り上がる姿を全く想像出来なかった。
「だからな三夜子、明日は諦めろ」
「……ん、分かった」
渋々と、三夜子は頷いた。
この時は、単純に助かった。と、思っていた。
そう、今この時は……