クラスメイトの変わり者
「ズバリ言おう、お前は、ストーカーじみている」
「……は?」
昼休み。俺は友達と机を会わせて、購買で買ってきたおにぎりの袋を開いた。
そして友である浜樫の言葉を聞き、少し考え、
「……まあ、否定はしない」
おにぎりにかじりついた。
「おいおい……お前は自分がストーカーだって言われて何も思わないのか?」
「……」
咀嚼を終えて飲み込む。
「思わないも何も、自分で理解してやってるからな」
「自覚ありかよ……」
浜樫は友達として心配してくれているようだ。さすがは中学からの仲か。
「なあ創矢、お前のそれは他の生徒からしたらストーカーと変わりないんだぞ? しかも自覚してんならなおさらまずいって」
「ふむ……」
確かに俺こと、武川創矢は、他人が見ればストーカーに見えるような事をしている。
だからといって止める気は、
「でも、続けんだろ?」
「まあな」
全く無かった。
もちろん理由があってやっている事で、決してストーカーをしている訳ではない。
そのやっている事とは、ある人物の行動を観察する事だ。
その時、昼休み終了のチャイムが鳴り、その人物が教室に入ってきた。
彼女の名は、七ヶ橋三夜子。
このクラス、2年C組の出席番号一九番。席は最近行われた席替えにより廊下側一番後ろに移動した。
容姿に無頓着なのか、少しウェーブのかかった髪は所々はねている。
加えて常に無表情。そして常に手には傘を持ち、登下校外を歩いている時は傘を付いている、かなりの変わり者だ。
それ故にクラスから浮いている存在で。多分クラスメイトは珍しい名字だけは覚え、名前は覚えていないだろう。どちらにせよ話かけるような生徒は一切いないが。
だからといって友達がいない訳では無いようだ。多分友達だと思う人物と話している所を何回も目撃している。
だがその時に話しているのは一方的に友達の方で、彼女はそれにほとんど相槌を打つだけ。あまり会話は成り立っていなかった。アイツらしいと言えばアイツらしいがな。
……さて、これらの情報は、俺が彼女を観察していて得たものである。
そう思われても仕方はないが、ストーカーでは無い。俺が彼女を観察しているのには、ちゃんとした理由があるのだ。
それは2年生になった頃、教室に入ってきた担任が自らの名前を黒板に書きはじめ。
一文字、二文字と書き、それでチョークを置いた。
バン!
黒板を叩き、担任は言った。
「えー、今日からこの2Cの担任になった。俺の名前は大和だ。名字はあえて言わない、皆、大和先生、あるいは先生と呼んでくれ。いいな?」
『……』
その時恐らく、出来たばかりのクラス2Cの意見が初めて一致しただろう。
何で名前だけ? と。
だが先生の気迫にその質門をする事も否定する事も出来ず。2Cの全員は、はーいと賛同した。
最初は困惑したが、1ヶ月、2ヶ月と経つと、大和先生はクラスのまとめ役となり、生徒達の中心になっていった。気さくに話しかけやすく、生徒全員に公平接し、怒る時は怒り、楽しむ時は人一倍楽しむ。とても良い先生だった。
そんな日が続いていた時だった。帰りのHRが終わり、各々が部活に向かったり帰路につき始めた。
俺も例外無く鞄を持ち、扉から廊下へ出ようとした。
「武川、ちょっといいか?」
そんな時、大和先生に呼び止められた。
「何ですか?」
「まあ座ってくれ」
先生は椅子に背を前にして座っていた。俺もその前にある椅子に座る。机を挟み、まるで面談のような形になった。
「悪いな、ひき止めて」
「大丈夫です。それで、何か用ですか?」
「ああ。武川は、三夜子の事どう思う?」
「三夜子? 誰ですか?」
「七ヶ橋だよ、同じクラスの七ヶ橋三夜子」
「あー」
その時はまだ、七ヶ橋の名前を覚えておらず一人のクラスメイトぐらいとしか思ってなかった。
「話したことないですね」
「そうか、なら尚更良い。なあ武川、ちょっと頼まれてくれないか?」
「頼まれ……って、何をです?」
「三夜子の観察」
……はい?
「観察?」
聞こえてはいたが、一応訊き返す。
「そ、観察。三夜子の行動を見ていてくれればそれで良いんだ」
「何でまた」
「分かるだろ?」
確かに、七ヶ橋は浮いていた。クラスの中で唯一、クラスメイトと話しているところをみたことがない。先生も話しかけようと努力はしたが、スルーされている所を見た。
「でだ、七ヶ橋をどうにかしてクラスに馴染ませたいと思い、こうして観察役を出して行動を探ろうと…」
「ちょっと待って下さい、そういうのは普通話し相手とかから始めるものじゃないんですか? それにそういうのは異性の俺より、同性の女子に頼んだ方がいい筈ですよ。それこそ、クラスの委員長とか…」
「大丈夫だ。話し相手は一年の時クラスが同じだった友達がやってくれている。後はクラスに馴染ませるだけだから、こうして観察役を…」
「それはさっき聞きました。だから何で俺なんですか?」
「えと……帰宅部だから?」
そんな理由で?
「帰宅部何て他にも…」
「いないぞ」
「え?」
先生は机の上に一枚の紙を置いた。それはクラスの名簿で、クラス全員の名前の隣には部活名が書かれている。
確かに2Cには帰宅部は2人だけだった。一人は俺で、もう一人は七ヶ橋だ。
「帰宅部を探れるのは、帰宅部だけってやつだ」
「はあ……」
そりゃまぁ、同じ部活の方が出会う機会は多い……帰宅部でもそれでいいのか?
「という訳で、頼まれてくれないか?」
本当に帰宅部は俺達だけ、他の皆は部活で忙しいだろうし、そもそもクラスで浮いている七ヶ橋とあまり関わり合いになりたくないと思うだろう。
それに俺に頼んでくるということは、それだけ俺に期待してくれているということだよな。そういう気持ちを無碍にするのは気が引ける。つまり統計して。
「……分かりました」
「サンキュー武川。頼むぜ」
「はい……」
こうして俺は、七ヶ橋観察を始めたのだ。
年明けより一週間後、第一話を投稿いたしまいた。
これからはゆっくりと、ペースを上げていけたらと思います。