レベル……
2人共、旅行の準備をしていて来客は困るだろう。なので三夜子には家の前で待ってもらい、俺は一人玄関を開けた。
「ただいま」
「おぉ創矢、おかえりだ」
家に着いた俺を迎えたのは花正だった。
「母さんは?」
「向こうにいるぞ」
「親父は?」
「向こうにいるぞ」
その向こうの場所を教えてくれよ。
「じゃあ……拍露達は?」
「それなら道場だ、帰りの支度をしておくと言っていたぞ」
そうか、なら。
「分かった」
俺は家に上がり、二階に行って荷物を部屋へ。一階に降りるとそのまま道場へ向かった。
一応戸を叩き、返事が返ってきてから開いた。
「あ、武川さん」
最初に気付いたのは拍露。直後に横矢と緑羽もこちらを向いた。
学園祭に来るため泊まっていた三人だが、帰りは明日の予定だ。予定を早めてもう帰っていたりしなくて良かった。
「片付けてる所悪いが、拍露、ちょっと良いか?」
「え? は、はい」
やってきた拍露と共に、外で待っていた三夜子の所へ。
「もしかして、先ほどの事……ですよね」
「いや、そうじゃない。実は白塗に聞きたい事があるんだ」
「白塗ですか? でも、白塗は……」
「どうかしたのか?」
「いえ、まだ間に合うかもしれません。少し、待って下さい……」
そう言うと拍露は目を閉じた。
前は数秒程で変わったが、今は一分くらいかけて、ようやく、
「ふわぁ……せっかく寝付けてきたのに、どうしたの?」
拍露の中のもう一人の拍露、レベル5の七振りの人格が一つ、白塗が現れた。
「寝てたのか」
「まぁね。もう剣の戦いとは無関係だろうし、暇だから半年くらい寝ててみようかなって思ってね」
は、半年って。
「……そんなに、眠れる?」
「そりゃあ、使い手を待って数十年寝てたこともあるし、むしろ短い方だよ」
そうか、そう考えれば……と、そんなことはどうでもいい。
「白塗に聞きたいことがあるんだ」
「なに? どうせ剣のことでしょ」
分かっているのなら話が早い。
「百の内の七振りであるレベル5の白塗なら知ってる筈だ。剣はいったい、何本存在するんだ」
「? 百に決まってるでしょ。そんなことも知らなかったの」
「それは有り得ない。何故なら一本の剣に100の勝利を刻むには、最低でも百一本の剣が必要になる。それとも、願いなんて本当は叶わないって意味なのか」
「それは無いよ。オレだって昔、人の願いを叶えた事あるもん、100の勝利を刻んでね」
「だからその為には…」
「形として存在出来る剣はこの世に百本だけ。でも……姿としてこの世に存在している剣は、もう少しあるんだよ」
「は……?」
姿として存在している、剣?
「分からない? もう少し簡単に話そうか?」
「あ、あぁ。頼む」
「はいはい」
やれやれという風に首を振ると、白塗はあっさりと話し始めた。
「この世に剣の形をしたものは同時に百しか存在出来ないけど、その内の一本が別の姿になる分なら、別に良いんだよ。形としては百ちょうどだからね。分かる?」
俺はいつかホウさんが言っていた言葉を思い出した。
1つで有りながらもう一つであるという可能性もある。白塗が言っているのはそういう意味だろう。
「オレも昔は戦ったよ。一度戦った相手がもう一度挑んできて、その場で剣が別の剣に変化したんだ。まぁ、使い手が下手で勝ったのもあったけど……ある一つは、どうしても勝てなかったな」
「……複数?」
三夜子が呟いた通り。今の白塗の言葉には姿だけという剣が何本もあるように聞こえた。
「そうだね。詳しくは知らないけど、多分七は確実なんじゃないかな」
七は確実?
「どうしてそう言い切れるんだ」
「だって経験上、どう見てもレベル5の七振りに対抗した能力ばかりだったからね。レベル5の上を行くレベル5対策、さながらレベル6、あるいはレベルMAXかな」
レベル5を凌駕する能力を持つ剣、レベルMAX……そんな剣が存在していれば、剣の数は百以上になり、一本の剣に100の勝利を刻むことも出来る。過去の戦いの経験者にして剣の意志だった白塗の言葉なら確実だ。……しかし、
「そんな剣があったら絶対にそれが勝ってしまうんじゃないのか」
普通に強力なレベル5に対抗出来る能力、下のレベルでは歯が立たないだろう。
「別に、そうとも限らないよ」
「え?」
「ちゃんと聞いてないの? レベル5に対抗した能力って言ったんだ。レベル5より強力な能力なんて一言も言ってないよ」
「つまり、他の能力を持つ剣には効果の無い能力もあると?」
「一応平等に効き目はあるだろうけど、得手不得手はあるだろうね。レベル5のある一振りにだけ恐ろしく強い剣、それがレベルMAX。レベル5以外は誰もが持てる可能性を持つ剣……これで良いかな?
「あぁ、よく分かった。ありがとう」
早速明日、大和先生に伝えよう。
「どういたしまして。さて、それじゃオレはそろそろ半年程寝ようか……いや、ちょっと待った」
何かを思いついたように白塗は言葉を切った。
「ねぇ、武川さん」
「なんだ?」
「剣について教えてあげたからさ、一つ、オレの願いも聞いてくれないかな?」