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文武平等  作者: 風紙文
第八章
189/281

板VS痛み 戦い方

「まさか同じクラスに剣を持つ人があんなにいるとは思わなかったわ」

三夜子と陽花を見送り廊下を曲がったところで、委員長……桔梗が呟いた。

「100の勝利を刻めば願いを叶えてくれる100本の剣。普通なら願いのために戦うのが当たり前だけど……考える人は、こう言う。一つじゃ足りない。1本じゃ足りない。と」

「それで、俺達の剣を狙うのか」

「願いを叶えてくれるというならその数が多いに越したことはない……って、桜間先生の言葉だけどね。剣も最初は桜間先生が持ってきたものだから」

桔梗は制服のポケットから何かを取り出した。それはボールペンのように見えるが、アレが錠のかかった剣か。

「もちろん最初は半信半疑よ。でも同じように剣を持つ人がいて、現実では説明出来ない現象が起こって……今では七つ道具を統べる者になった」

手元でボールペンを操り、パズルが解かれて光に包まれた。

「武川なら分かるかしら。コレが何か」

桔梗の手にあったのは、長さから見て短剣の種類。

全体は30センチ程、小さな鍔から針金のような棒が刃の左右から真っ直ぐに伸びている。多分だが……

「ソードブレイカー、か」

「さすがね」

剣を破壊する剣。それが名前の通り、ソードブレイカーだ。

本来は刃の峰となる部分に引っかける部分があり、そこに相手の刃をかけ、てこの原理を使って叩き折るという使い方の物が一般的だが、桔梗が持つような短剣形の特殊な物も存在している。使い方はあまり変わらず、刃の左右にある棒が開いて刃と棒の間に挟んで折る、というものだ。

「剣に詳しい武川なら分かると思ってたわ」

「? どうして俺が剣に詳しいって知ってるんだ」

「エクゼキューショナーズソード」

「!?」

それだけで、理解出来た。

「まさか……あの場所にいたのか?」

「そうよ。全部見させてもらったわ」

アルクスさんと戦った時、発端となったのは陽花と桔梗の逃走。その時の桔梗の行方が分かっていなかったが、まさかあの戦いを見ていたのか。確かに桔梗も剣を持っていたなら、空間の中にも入れるからな。

じゃあ、もしかして……

「お喋りはそろそろ終わりにしましょう」

聞こうとしたところで、桔梗は話を切った。

「さぁ始めましょう。七つ道具のリーダーとして、負ける訳にはいかないわ」

「くっ……仕方ないか」

俺は剣を取り出し、刃を前へと向ける。

「演劇部部長にしてD,grants,7kitのまとめ役。桔梗 藍」

「パズル部の副部長。武川創矢」

どちらからとなく名乗り。剣の舞が始まった。

先手を取るべく、剣を振り上げて桔梗へと迫る。上から下へ、一気に振り下ろす。

ガキィン!!

軌道上に構えた桔梗の剣とぶつかり、甲高い音が響いた。

「っ、さすがに重いわね」

そのまま押し続けると、女子の力ではさすがにキツそうだ。

「けど、近付き過ぎたのは失敗よ」

桔梗は自分の剣の刃に手を添え、上にある俺の剣を横に流すと、

「見せてあげる」

カシャン!!

桔梗の剣に変化が起こった。鍔から伸びる針金が左右に開き、剣を挟み込む形態へと変化したんだ。

その形態で、振り下ろされた俺の剣を挟む。

「先に謝っておくわね。痛かったら、ゴメンナサイ」

「痛かったら? 何を言って…」

相手の刃と針金が剣の刃に触れた。


次の瞬間、体に激痛が走った。


「っ!?」

なんだ、今のは!?

思わず後ずさったが、何故か桔梗も後ろへ下がっていた。

「いってぇ……」

体全体に痛みが走ったみたいだが、なんなんだ今の……いや、そんなこと考える必要もないだろ。

「それが……ソードブレイカーの能力か……」

「思っていたより痛かったみたいね、皆が練習したがらないのもよく分かったわ」

大方、あの針金と刃で挟んだ剣の持ち主に痛みを与えるってところか。どうしても壊れない剣の代わりに。

剣の使用者に影響を与える能力か、双子の剣に似てる……痛みがだんだん無くなってきたな。

「痛みが長続きせず、薄れていくのがネックね……もう一度当てれば痛くなるけど」

剣を構え、突くように振るってきた。

俺はとっさに剣を縦にして防御に動いたが、それはいけなかった。針金と刃に剣が挟まれ、再び激痛が身体中に走る。

慌てて近くにいる桔梗へと振るが、すでに後ろ下がっていて空を切っただけだった。

「っ……」

「ふふっ、どうかしら?」

厄介な相手だ……おそらく剣で直接切るつもりは全く無く、相手を痛めて倒そうと考えている。元より短剣でリーチが違い過ぎると他の剣と撃ち合うのは不利でしかないから、桔梗の戦法は正解だろう。切らずに相手を倒せる能力が付いているんだからな。

どうする……要は痛みさえ無ければ、刃を挟まさせなければ勝機はある。

となれば、コレか。

俺は剣の中にあるパズルを動かし、一枚の板を真ん中へと移す。すると剣の柄と刃を繋ぐ部分に大量の布が巻かれ、鍔のようになった。

「それがその剣の能力ね」

攻撃せず、一部始終を見ていた桔梗が呟いた。コレだけじゃないけどな。

よし、反撃開始だ。

「布縫の帯!」

剣を振り、帯状の布が桔梗へと向かわせた。そのまま標的に……桔梗が持つ剣の刃に巻き付かせた。

刃が能力発動に必要なのはレドナの時と同じだ。これできっと……

「試してみる?」

桔梗が開いていた針金を閉じると、刃との間にある布と接触する。

瞬間、俺の体には先ほどと同じ痛みが走った。

「痛っ……!」

な、なるほど……布も刃と同じ扱いなのか……

「自ら来るなんてね。もう一回、痛めておきましょうか」

カシャン!! と針金が開いたところで俺は帯をほどいて引き戻していた。

危なかった……だが、コレが効かないとなると、どうすれば……

能力吸収は恐らく使えない。分身も根本的解決には至らない。空気砲は、下が地面なら砂ぼこりを巻き起こせるが、ここは学校の廊下だ、埃が舞うくらいしかしない。

残った手は……俺はパズルを動かし、剣を変化させた。

「あら、そんなことも出来るのね」

剣の大きさを元の約5分の1に、桔梗が持つ短剣と大差ない大きさへと変えた。

刃を挟まれて痛みがあるなら、その的を小さくしてみれば良いと思い、変えてはみたが……試してダメならまた他の方法を考えるしかない。

「行くぞ」

剣を片手に持ち、俺は前へ走った。

突くように振るうと、桔梗は左へと回避。追撃で向かうと下がられ、更に追ってようやく一太刀かすった。

「このっ、よくもやったわね!」

攻撃直後の俺の剣へ桔梗は針金を開いた刃を向けてきた。俺は腕を引いてそれを避け、隙が出来たところを更に切りつける。

……なんだ? 何か、違和感がある。

一端下がると、今度は桔梗から攻撃を仕掛けてきた。

剣に向けて刃を伸ばし、針金で挟もうとしてくる。行き先の分かる刃を腕を動かして避け、カウンターで攻撃した。

「っ……! なかなかやるわね……」

「……」

いや、違う。俺がやるんじゃない。

桔梗が、剣を挟むこと、ただそれだけしかしてこないからだ。

もちろん勝つ為ならそれだけで充分だが、それは相手が剣に精通していない素人だから出来る勝ち方。来ると分かっている行動に対処するなんて少し考えれば誰でも出来る筈だ。

まてよ……おそらくだが、演劇部のメンバーは実戦経験というものが極端に少ないんじゃないだろうか?

いや、そもそも誰か別の剣を持つ人と……部員以外の誰かと、戦ったことがないんじゃないか?

そうでもなければ、自分の戦法が通じなくなった瞬間こんな簡単に攻撃が入るようにはならない。

もし、これが正解なら、

「どうした委員長、この程度じゃないだろ!」

「だから委員長って呼ぶんじゃないわよ!」

挑発に乗った委員……桔梗は、剣に向けて剣を振るった。やっぱり直接当てようとは思わないのか。それしかしない……出来ないのか。

軌道の分かる剣を避け、がら空きの腕から肩、体へと切りつけ。

「これで、終わりだ!」

相手の刃が届かない上へと持ち上げた剣で、更に斜めへ切り裂いた。

「!? ……う、そ……でしょ……」

戦う気力の削がれた桔梗の膝が曲がり、床に手が付いて剣を手離した。

「俺の、勝ちだな」

「……えぇ、そうね。でもまだよ」

「え?」

まだ? すでに勝敗は付いた筈だ。

「まだ……そう。まだ、私達は負けてない」

剣を床に置いたまま、桔梗はゆっくりと立ち上がった。

「勝負はまだ分からない。何故なら……私の作戦は、まだ始まってもいないのだから」

「それはいったい、どういう…」

その時、前から誰かが歩いてきた。

剣の大きさはそのままに前へと構えて相手を見る。そして、目を丸くした。

「嘘だろ……」

まさか、この人が演劇部の隠れた戦力だったのか。

「貴方も敵ね」

剣、と思われる物をこちらに向けて臨戦体制な予想外の相手に、俺は剣の大きさを戻すためにパズルに手を触れ…

「……創矢」

後ろから、三夜子が走ってきた。

「やっぱり、陽花さんに勝つ気はなかったのね」

「……紫音から、伝言」

「伝言?」

「……前に立つこの人は、絶対に倒せない」

絶対に倒せない?

「……陽花さん、それも教えたのね」

桔梗はもちろん知っているらしい。

「どうしてだ、絶対に勝てないって」

「……何故なら、アレは…」


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