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文武平等  作者: 風紙文
第八章
188/281

友と 傘VS鬼

リリィとレドナが日羽里へと剣を振るい始めた頃―――



……side 陽花


「あーいたいた。おーい、こっちこっち」

やっと目的の2人を見つけて、あーしは声を出してこちらを気付かさせた。

「……紫音」

「そして委員……いや、桔梗か」

「ギリギリだったけど、今のは聞かなかったことにしておくわ」

みゃーこと武川、どうやらまだ2人共誰とも戦ってないっぽい。

こっちの隣には委員長……桔梗がいる。

「もち、みゃーこはあーしとだよね?」

「ん……もちろん」

「じゃここは2人に戦ってもらって、あーし等は向こうでやろっか」

「……分かった」

「そんじゃ桔梗、武川、また後で」

隣に並んだみゃーこと一緒にその場を離れ、角を一つ曲がったとこまで歩く。

「まさかこんな風に戦うことになるとはね」

「ん……思わなかった」

「他のみんなはどうしてると思う?」

「んー……戦ってる?」

「早いとこは決着ついてるかもね、今んとこどっちが勝ってんだろ」

「……分からない」

だよね、みんなバラバラの所でやってるし。

「この辺でいっか」

もう一回角を曲がって、武川達が向こう側になる廊下であーしは止まった。

「ん……」

みゃーこはもう少し進んで振り返り、傘を前に持ってくる。

「……負けない」

「あーしもだよ。手抜いたりしないでね」

「……もちろん」

傘を開いて、みゃーこの両手に双剣が握られた。

あーしも、剣を両手に持つ。

「双剣対決だね、刃の数はあーしの方が上だけど」

「……リーチは、私の方がある」

おぉ、まさか言い返してくるとは思わなかった。というか、あーしのはその他なんだけどね。

「一応やっておこうか。あーしは演劇部2年。D,grants,7kit7人目のメンバー、陽花紫音」

「……パズル部2年。部長七ヶ橋三夜子」

「いざ尋常に」

「……勝負」

その時、向こう側から甲高い音が聞こえて……それが、こっちの開始合図になった。


次の瞬間、あーしと三夜子は剣の刃を合わせた。


「負けないよ、みゃーこ!」

「……こっちも。紫音」

一旦離れて、すぐに連撃を放つ。一瞬早かったあーしが攻撃に移り、みゃーこは防ぎ続ける。技とかそういうものじゃない。ただ当てる為、剣を振るっていく。

少し休んだりして気を抜くとすぐにみゃーこが攻め、攻防が入れ換わった。

「やっぱやるね、でもこっちだってまだまだ!」

防御にカウンターを入れ、再び攻守交代。でも次はさっきと違う。

「肉体強化!」

剣の能力を発動する。手足に今まで以上の力が現れて、さっき以上の連撃を叩き込む。

「っ……」

さすがにみゃーこも大変そうだ。

「まだまだぁぁぁ!」

これでもきっと少しでも休めば攻守逆転させられる。だから絶対に手を止めない。

「らぁぁぁぁ!」

「……」

く……さすが、みゃーこ。こんだけやってかすりもしないなんて。

「うっ……」

ヤバ、もう負荷が来た。

足元がふらついて、攻撃の手が止まる。みゃーこがその隙を逃さずに攻撃……ではなく、後ろに下がった。

そうだ、みゃーこには飛び道具もあった。

「……かまいたち」

交差した剣を振ると、鋭さを持った風が真正面から飛んでくる。

避けきるのはムリっぽい。でも、直撃もしない。

「はぁぁぁぁ!」

強化した腕で、手にした八刃の剣で空を切り裂く。すると風が拡散され、かまいたちも若干だが押さえられた。まぁ完璧じゃない、だから肩や足にかまいたちが通り抜けていった。肉体強化で守りも上がれば良いのに、それは無いからな。

「でもこの程度じゃ、まだ負けない!」

前へ走り、再び激しい攻防を始める。

攻めれば避けられ、守られ、油断したら攻守交代。

そんなことが続いて、続いて……


あー…………ヤバい。


「みゃーこ」

手と足と体を動かしながら口を動かす。そんな余裕ない筈なのに、気付けば攻撃したまま声を出していた。

「……?」

そして、こう聞いていた。

「今さ……スッゴい楽しいんだけど」

「…………私も」

やっぱり!

「だよね! ここまで戦いがいがあって、しかもそれがみゃーこ、あーしの親友だなんて! こんな楽しいことはない!」

ぶっちゃけ、勝ち負けなんて決めたくない。このまま続けて、疲れたらどっちかから止めようって言って、そのまま終わりたい……ま、そんなのムリって分かってるけど。

「楽しい、けど……仕方ない!」

攻撃を止め、一旦離れる。

「次で終わらせる。みゃーこも最大の一撃でかかってきて!」

「……分かった」

「いくよ!」

あーしは何回かくらって、みゃーこはまだ一太刀も浴びてないけど、あーしは最大一回で八発当てられる。それで逆転勝ちもできる筈だから。

「最大、強化!」

今までで一番、肉体を強化する。ここまですると自分の体だけど扱いが難しく、せいぜい一撃が限界。

だけど、それでいい。

「この攻撃に耐えられればみゃーこの勝ち! 耐えられなければ、あーしの勝ち!」

「……負けない」

みゃーこは双剣を腰に構えた。あのまま前に突き出して、リーチを利用して突くつもりか。

ダメだよみゃーこ、今のあーしはそれより全然早い。

「これで…………決着!」

前に飛び出した。

たったの一歩がみゃーことの間を一瞬で埋める。もう前にはみゃーこがいる。腕を伸ばして目で追えないほどの連撃を、繰り出す!

それをみゃーこは……

「……っ!」

「えっ!?」

前に出した左手と剣で、受けきった。渾身の連撃は左手には当たったけど、ほとんどが剣に守られてしまった。

まさか、そんな手を使うなんて…

「……隙あり」

「しまっ…!?」

攻撃後で無防備なあーしに、みゃーこは自由な右手の剣で斜めに切り裂く。

その一撃で、あーしは後ろに倒れ込んだ。

「うっわー……まさかそうくるなんて、思ってなかった……」

切られること前提で致命的なダメージにはならない左腕を前に出す。手より前に剣があるから、あーしはそれ以上近付けない。

かといって攻撃は止められず左腕と剣だけを攻撃して、でもみゃーこは倒れなくて、反撃されて。

で、あーしは負けた。

「……紫音」

みゃーこが隣にしゃがみ込み、心配そうに顔を覗き込む。

「大丈夫、ちょっと動けないけど、ケガはないよ」

強化し過ぎの反動で頭の中はぐるぐるしてるけど、それは悟られないようにいつも通りで返しておく。

「……良かった」

「良かったって、みゃーこがやったんじゃん」

「ん……だけど、いつも通りだから、良かった」

バレてはないみたい。

「またいつかやろうね、次はこういう場じゃなくて」

「ん……またいつか」

とりあえず今は、

「おめでと、みゃーこ」

「……ありがとう」

ここの勝負はみゃーこの……パズル部の勝利で終わった。

後の他のところ、どうなってるかな。腕前で言えば、まぁ皆ほどほどってところ。あーしのさっきの攻撃は誰も防げないだろう。

体が動くようになったら、隣で座ってるみゃーこと一緒に誰かの戦い見に行こう。例えば向こう側の武川と桔梗とか……

「あ」

しまった。忘れてた。

「……紫音?」

いや、元々敵には伝えるなとは言われてたけど。でも、負けた今ならいいか。

「みゃーこ、実は…」

その時、


「お喋りはそこまでよ」


あーしが考えていた人の声が、何故か聞こえた。

「え、なんでアナタがここに?」

おかしい。話と違う。あーしは体に鞭打って立ち上がる。

「あーしとみゃーこの戦いには顔を出さないって、そういう約束じゃ……」

「予想外なことが起きました。赤の場所にパズル部ではない一般の人がいたの、それで予定を変更してここに来ました」

「変更って……この中にいるんだからその人も剣の持ち主に決まってんじゃん! どうしてそこで戦わないのっ!」

ヤバ、大声は頭に響くな。

「無関係者を巻き込まないことが第一だからよ」

「……あっそ」

あーしは剣を握る手に力を込めた。うん、まだいける。強化出来るかは微妙だけど、戦えはする。

「何のつもり?」

「もち、今スゴい戦ったけど、あーしはみゃーこを裏切りはしない。今からあーしはみゃーこの味方」

つまり、

「アナタはみゃーこの敵、みゃーこの敵はあーしの敵でもある。だから戦う」

あーしはD,grantsへ反旗を翻す。元々潜入スパイだったからそういうことでも無いけど。

「そう。なら容赦はしないわ」

手にした剣を握り、あの人はだんだんと近づいてくる。

「みゃーこ」

あーしは隣に立つみゃーこに、前の相手には聞こえない小声で話しかける。

「……?」

「ここはあーしが引き受けるから、みゃーこは武川のところへ行って」

「……どうして?」

そりゃそうだ、あーしはボロボロでみゃーこは元気、どっちかと言えばみゃーこが前で戦った方が良い。

でも、それじゃダメ。必要なのはあの人に勝つことじゃないから。

そもそも……


「だってアレ、倒せないんだから」


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