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文武平等  作者: 風紙文
第八章
182/281

アクヨリセイギ

体育館の中は、かなり賑わっていた。

ここでは演劇部の劇だけではなく幾つかの部活が出し物をしているのだが、やはり一番人が集まるのはこの演劇らしい。席であるパイプ椅子の大多数が見物客で埋まっている。

入口で優待チケットを見せると、手前の方にある色が違うパイプ椅子のどこかに座るように言われ、そこへと向かう。

「ここだな」

手前の方に十数個、色が違うパイプ椅子があり、俺達はそれぞれの所に座った。

「楽しみだね、みゃーさん!」

「ん……ところで」

俺の右隣に三夜子、その隣に押川が座る。

「……どういう話なの?」

「えっとね……」

押川は入口で貰った小冊子を見た。劇の題名に、それぞれの配役、そして簡単なあらすじが書かれている。

「へぇ、花香が脚本書いてるね。知らなかったわ」

俺の左隣に座っている月乃が小冊子を見ながら呟く。

「題名は……アクヨリセイギ。主人公が勇者の物語なのね」

よくある設定だが、題名から想像するには普通の話じゃないだろうな。

「面白そうですね、(あや)

「そうですね、(ふみ)

俺達の後ろに古年双子が座った。

……改めて見ても、この2人はそっくり過ぎる。レドナとリリィも相当だが、こちらは性別も髪型も同じだから更に鏡合わせのようだ。

「本当、そっくりね」

「高校はこうして別になりましたが」

「小学校と中学校は同じでしたので、ちょっとした有名人でした」

有名人というか、珍しい目で見られていただけじゃないか?

それを語る2人の顔も、そっくりな無表情だ。

「一応見分ける方法はありますが」

「お教えしますか?」

「別にいいわ。今でも充分に分かるから」

制服なのが俺達のよく知る古年 (あや)で、私服なのが俺達の知らない古年 (ふみ)だ。文字にしたら見分けられないな。

と、その時、

「やぁやぁ三夜子、たけやん達も来てたんだ」

ギターケースを背負った双海さんが、手をひらひら振りながらやって来た。

「……姉さん?」

「みゃーさんのお姉さんだ!」

「ちょっと隣失礼するよ」

古年の隣、三夜子の後ろに腰かける。

「七ヶ橋さんのお姉さんですか」

「そう……おぉ、そっくり。双子さんかな?」

「はい。古年 (あや)といいます。七ヶ橋さんのクラスメイトです」

「その双子の妹、古年 (ふみ)といいます」

「そっかそっか、ワタシは七ヶ橋双海。三夜子のお姉さんだよ」

古年双子に挨拶しながら、隣の席にギターケースを置いた。そこも優先席だがいいのか?。

「……姉さんも、チケットを?」

「うん、兄……知り合いからもらったんだ」

途中言い直したのは多分、古年に三夜子の兄が大和先生だと知られない為だ。

大和先生からもらったにしても、大和先生は誰から……恐らく委員長だな。

「そういえば創矢、花正はいないの?」

「花正はな、さっき電話で誘ったら今日の午前の部をもう見たらしい」

そこで内容を話しだそうとしたから、すぐに電話を切った。今は校内を回っているだろう。

「じゃあ緋鳴達と被ったのね、3人に聞いたらそう言ってたわ」

その時、スピーカーから映画館で流れるようなブザーが鳴り、明かりが消えた。

体育館の中が静かになり……


演劇部の劇、『アクヨリセイギ』が開演した。





……side 町田


「……」

ブザーが鳴り、2日目午後の部……最後の演劇が始まった。

脚本を書いて、ナレーションの私は舞台袖で、みんなの演じる姿を見守っている。

『アクヨリセイギ』

私の書いた物語が、まさかこうして劇になるなんて、みんなが演じるなんて、夢にも思っていなかったな。

まず、私のナレーションから物語は始まる。


―――あるところに、大きなお城の建つ国がありました


続いて登場人物。主人公の勇者と呼ばれる……通辻先輩が演じる、青年を紹介。


―――青年は、その人並み外れた力で国の悪者を退治し、勇者と呼ばれるようになりました


藍ちゃんが演じる城の王様と、赤乃ちゃんが演じる城のお姫様が登場して、青年を表彰し、勇者となる。


―――勇者はその力を、国の人々の為に使います


―――しかし


ここで舞台が暗転。お城の中から、国の中の背景に、日羽里先輩の装置で一気に入れ換わる。


―――ある時、勇者はいつものように人助けをしていた時です


緑子ちゃんと陽花さんが演じる商人の荷車を、勇者が引いて運んでいる。

張り切る勇者は……張り切り過ぎてしまったのだ。

元々強すぎた力で荷車を引いてしまい、積んでいた商品を傷つけてしまう。


―――けれど勇者は、そんなこと全く気にしていなかったのです


あくまで彼は人助けの一環として荷車を引いていただけ、中の荷物がどうなっているかなんて分からなかっし、分からなくてもよかった。

それが、始まりだった。


―――勇者は更に人助けを続けます。しかし、入れ過ぎた力が利益以上の不利益を産み出してしまいます


橙華ちゃん、日羽里先輩の演じる住民もそれぞれ被害を被り、次第に国の人々が勇者を良く思わなくなってくる。

正義の勇者の筈なのに、悪人だと言う人も出ててくるくらいに。


―――勇者の人気は段々と下がり、人々は勇者を頼らなくなりました


舞台が暗転。背景が今まで出てこなかった岩壁の洞窟へと変わる。


―――そんなある日、以前勇者が退治した悪者が再び国へと攻めて来ました


人数の関係で、陽花さん、橙華ちゃん、緑子ちゃんの演じる悪者が国の中で暴れまわり、日羽里先輩が演じる国の人が逃げ回る。


―――暴れる悪者を、勇者が許すわけがありません


舞台に勇者が現れ、悪者を退治していく。


―――こうして、悪者はまた勇者に退治されたのでした


悪者を退治した勇者に、お城の王様達は素直に喜びます。

しかし、国の住民は半信半疑。助けられたのは事実だけど、勇者が今までに出した被害も、実は同じくらいなのです。


―――悪者のような正義の勇者に、国民が王様へ抗議に行きました。確かな事実を述べられ、困った王様はこう言いました


「彼の行いは悪者と大差無いかもしれない。だが、彼に助けられたこともまた事実。それにおいては、彼はこの国の勇者であり、正義の象徴だ……ではこうはどうだろう? 彼をこれより、悪寄りの正義の勇者。アクヨリセイギ、の勇者として、国の勇者になってもらおう」


―――王様の言葉に、国民達は異議無く賛成しました


背景が変わり、人助けをする勇者が舞台を動き回る。


―――こうして青年は、アクヨリセイギの勇者としてその力を使い、国を平和にし続けたのでした。


めでたし、めでたし


「……」

舞台が暗くなり、緞帳がゆっくりと降りてくる。

瞬間、拍手喝采の音が体育館に鳴り響いた。

「は、はふぅ……」

これで、終わった。2日間四回の公演が。

「お疲れ様、花香」

「町田さんお疲れー」

王様の格好をした藍ちゃんが声をかけてきた。その隣には、国民姿の陽花さん。

「お疲れさま藍ちゃん、陽花さん」

「えぇ」

「もう終わっちゃったんだねー。あーしとしてはもう一回くらいやりたいところだけど」

「無理言わないの。体育館のスケジュールもいっぱいなんだから……それに、私達にはこれから他にやることがあるんだからね」

これから、他にやること……

「へーい、分かってるよ部長さん。この後、こっちの準備が出来たらみゃーこにメール、でしょ?」

「そうよ、そしてそれが……開戦の合図」

「……」

「演劇部は、とりあえずここまで。私達はこれより、D,grants,7kitとして、パズル部に勝負を挑むのよ」


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