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文武平等  作者: 風紙文
第八章
180/281

文化祭二日目

「皆さん。おはようございます。本日文化祭2日目……最終日です」

教室内、半分以上がお化け屋敷で、残りが生徒の荷物置場兼準備スペース。そこで準備をする生徒達に古年は呼びかけた。

「前日はかなり混み合いました。なので本日も混む可能性があります、皆さん、頑張って下さい」

そう語る古年。教室にいるクラスメイト全員が聞いているが、ごく一部、昨日聞いた噂話をひそひそと呟きあっていた。

浜樫と俺もそちらに入っていた。

「だからな、お化け屋敷をやってるから、そういうのを引き寄せちまったんだってのが一番あり得る話なんだよ」

「……けどよ、古年は普通にそこにいるぞ? なのにどうしてそういう噂話が出てくるんだ」

噂というのが、古年のドッペルゲンガー、あるいは霊を見たというもの。

話によると、古年は昨日、午前午後共に当番だった為に大半の時間を2Cで過ごしていたらしい。

だがその時間帯に、校内の様々な場所で古年を当番でなかったクラスメイトが見かけたという。

2Cにいるはずの古年が何故ここにいるのか? それがクラスメイト達の中で色々な予想がされ、誰かがお化け屋敷の話をした瞬間、お化け、霊、ドッペルゲンガー説に落ち着いた、のだとか。

「……で、それを古年本人は知ってるのか?」

「いやいや、聞ける訳ねぇじゃん」

まぁそうだが、霊とかそんな、非現実なこと……俺が言うのもどうかと思うが、さすがに幽霊とかはな。

「お待たせー」

その時扉が開き、数人のクラスメイトが入ってきた。全員女子で、彼女達はお化け役として衣装の着替えをしに行っていた組だ。

因みに、男子は皆教室で着替えてしまった。俺と浜樫もそうだ。

制服の上着を脱ぎ、裏地が赤い黒色のマントに蝶ネクタイ。どうやら、吸血鬼らしい。

ただ特徴となる鋭いキバは無いので、薄暗いお化け屋敷の中で脅かしながらならそう見えるだろうが、明るいこういう場所だとぶっちゃけ見えない。

女子達は着替えて来た姿について教室に残っていた生徒達と話始めた。後に被る一つ目の仮面を持った浜樫もそこへ混ざり、俺は女子達の姿を見た。

天狗や雪女、唐笠とか変わり種もいるが、皆分かりやすいな。

そういや、三夜子もあの中に入ってた筈だが。

「……創矢」

いつものように、音もなく俺の隣に立っていた。

明るい場所で見ればコスプレに近い格好の女子生徒達から、視線を横の三夜子に向けると、


そこにはテレビから這い出る系の幽霊がいた。


「!?」

思わず後退りしてしまうほどに、怖かった。

薄汚れて皺の寄る白のワンピースに、顔の片側を覆う黒く長い髪のカツラ。

ただそれだけなのに、ここまでそっくりで怖くなれるのか。

「……創矢?」

ただ後ずさった俺を見て首を傾げる姿は、いつもの三夜子だ。

「わ、悪い、急だったから驚いた」

「……そう」

「あぁ……」

「……どう?」

「え? あ、あぁ、うん。似合ってるぞ」

いや待て、アレが似合ってるって言われて喜ぶ訳……

「ん……なら良かった」

喜んだ……

「やっぱ武川もそう思うよね」

声をかけてきたのは、袖と裾の長い白い着物、雪女の格好をした女子、篠目(ささめ)

篠目は陽花よりのいわゆる今時女子で、陽花とも仲が良い。転校2日目で一番に部活に誘ったのも彼女だ。

「髪の長さは違うけど、なんつーか、雰囲気? 皆それぞれ考えてたら真っ先に満場一致したんだよ。七ヶ橋にね、この回の大オチ任せてんだ」

大オチってことは、最後の最後に暗闇でこの三夜子が出てくるのか……

「それは……怖いな」

「でしょでしょ? 頑張ってよ、七ヶ橋」

「ん……頑張る」

「あのパフォーマンスも忘れないでね」

「ん……分かった」

パフォーマンス?

「パフォーマンスってなんだ?」

「……こう」

三夜子はやはり持っていた傘を持ち上げる。よく見れば柄に鈴が付いている。

そして杖のように、いつものように、床を突く。


チリーン……


鈴の音が鳴り響く……なるほど、お化け屋敷の暗がりでコレが響けば、恐怖を煽る。そこに這い出る幽霊が現れると……

「うっわ、想像しただけで怖くなった。その調子で頑張ってね、七ヶ橋」

「ん……」

そういえば篠目、三夜子と普通に話してるな。陽花繋がりで一緒にいることがあるのかもな。

……これは陽花のおかげだが、三夜子もだいぶクラスに馴染んできたよな。

「さて皆さん、そろそろお客さんがやって来ます」

お喋りが一段落したところで、古年が全員の視線を集めた。

「古年、今年も最後まで頑張ります。皆さんも頑張りましょう」

一瞬、妙な緊張が走った2Cの一行だが、すぐに気合いを入れ直したのだった。





……side 町田


「皆さん。本日の二回で、文化祭での公演が終わりになります」

演劇部の部室。朝から部員全員が各々の教室ではなくここへ集合して、部長の藍ちゃんが皆に語っている。

「それは同時に、三年生の通辻先輩、日羽里先輩の最後の活動です。無事先輩方を送れるよう、些細なミスもなく劇を演じましょう」

「そこまで気を使ってくれなくてもいいよ。いつも通りに、昨日のように楽しめば」

昨日の二回も、若干のミスはあったけれど、支障をきたすことのないもので劇は無事に終わらせることが出来た。

「お二人の歓送会は後日に行います。今は…」

「今は、もっと大きな問題だよな」

顧問の桜間先生が入ってきた。

「やる気と準備は良いみたいだな」

私たちを見て、にやりと笑うと、近くにあった椅子に座る。

「ただ気をつけろよ、あっちもこっち同様、未報告の戦力がいるかもしれないからな」

「桜間先生、それはどちらも同じこと。ただし此方は彼方がどれ程増えようが問題は無いのですから」

……そう、私も昨日、初めて知ったこと。

私たち、D,grantsの協力者は、まさかの……

「町田」

「!? は、はい!」

「お前、あの剣の使い方は分かったか?」

あの剣、あの時に藍ちゃんから貰った小さな剣のことだ。

「す、すみません……」

剣にはそれぞれ能力があるのだけど、私はその使い方が全く分かっていない。藍ちゃんが言うには炎が出る剣ということは分かっているんだけど。

「あーまぁ仕方ないわな、でも剣の状態なら大丈夫だから気にすんな」

「は、はい……」

元々運動が得意じゃないのに、この小さな剣では戦える訳がない。なんとかして、当てる方法を考えないと。

「アイツには伝えておくから、お前達はまず後二回の演劇を頑張ってこいな」

『はい』と皆が返事をする。

「さぁ皆、まずは演劇を完璧にこなすわよ」

藍ちゃんの言葉に、

「がんばります!」

橙華ちゃんが、

「頑張りまーす」

緑子ちゃんが、

「せいぜい足を引っ張らないでくださいませ」

赤乃ちゃんが、

「練習の成果を出せばいいのさ」

通辻先輩が、

「舞台装置は任せて」

日羽里先輩が、

「劇が終わったらみゃーことバトルか……ま、なるようになれだね」

そして陽花さんが、それぞれがそれぞれ覚悟を決めると。

放送が流れた。


『生徒の皆さん、ただいまより、一般の方の入場を開始します』


文化祭2日目が始まり。


戦いへのカウントダウンが、刻み始めた。

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