ペアコンテスト
……side 珀露
「うわ~! すっごい人の数だね! お兄ちゃん! ひなちゃん!」
「そうね、あたし達の学校とは段違いだわ」
「うん、さすが高校の文化祭だね」
僕達の学校にも文化祭はあるけど、生徒数も来る人の数も違い過ぎる。3人で歩くこの道にも、たくさんの人が行き来していた。
「それで、まずはどこに行くの? やっぱり月乃先輩の所?」
「そうしようかと思ったけど、ここからは遠いから。道なりに行きましょ」
今僕達が歩いているのは、階段を一度登ったから二階だ。受付でもらった案内パンフレットと横に見える3年生の教室を照らし合わせると、西棟というところらしい。月乃先輩のいる2年A組とは棟も階も違う場所だ。
このまま道なりに、最短のルートで向かおうと、その時、
「あれ? ねぇねぇ、ここは何をやってるの?」
1人前を歩く緑羽が訊ねたのは、3年B組の教室。案内パンフレットを持つ緋鳴が見ると。
「えっと……ペアコンテスト会場。らしいわ」
「ペア?」
「コンテスト?」
「おーっほっほっほっ!」
僕達の声にかぶった高笑いはその3年B組の教室から聞こえてきた。
「な、なに、今の声」
「教室の中で何が……ってペアコンテストよね」
それと今の笑い声がどうしてもつながらないんだけど、
「入ってみれば分かるんじゃないかな?」
確かに、緑羽の言う通りだ。
「まぁ声の正体が分かるだろうし。少し中を見て行きましょ」
僕達はペアコンテストの開かれている3年B組の教室に入った。
僕達が入ったのは後ろ側の扉で、壁に黒板のある前側に人が集まり、黒板の前でコンテストが開かれているみたいだ。
「これで3連勝! この快進撃はいったいいつまで続くのか!」
司会と書かれたバッチを付けた男の人が黄色いメガホンで声を飛ばしている。その横を残念そうに歩いて行く二人組は、おそらく負けてしまったペアなんだろう。
そして、教卓の上には3連勝中の、
「いつまで、なんて可笑しな言葉ですわ。わたくし達に勝てるペアなど存在しないのですからね。おーっほっほっほっ!」
声の正体であるお姫様と、
「え、えーっと……」
王子様のペアがいた。
「すごい格好ね、何の出し物なのかしら」
お姫様と王子様というように、2人共まさにな格好をしている。特にお姫様、綺麗なドレスに、頭にはティアラを乗せていて、
「さぁ、わたくし達に挑戦しようという方々はいないのかしら?」
更にはそのしゃべり方、まるで物語や演劇に出てくるお姫様みたいだ。
一方の王子様は、
「あ、あの……僕、クラスの宣伝があるんですが」
格好はとても似合っているけれど、お姫様と比べて、とても困っているように見えた。まるでここに居続けたくない、という風に。
「あら、何をおっしゃているの? 姫には王子が必要なもの。ペアコンテストにこれ以上の組み合わせはありませんわ」
「はぁ……ですが、金香さんも演劇の時間があるのでは……」
「もちろんですわ。ですから迎えが来るまで、連勝を重ねさせていただきますわ」
「……ちなみに、その時間というのは?」
「後一時間くらいですわね」
「……」
王子様は更にガックリとうなだれてしまった。
「なんか王子様の人、かわいそうだね」
「でも仕方ないわよ。あのペアに勝てる人なんてそういないわ」
「おーっと! そこの君たち!」
何かを見つけた司会の人がメガホンを向けていたのは……どう見ても僕達だった。
「良かったら挑んでみない? 君たちならこの2人に勝てるかもしれないよ」
呼ばれているのは僕と緑羽の2人。つまり僕達双子だ。その声に、周り見ていた人達の視線が集まる。
「い、いえ、僕達は……」
「良いんじゃない? やってみたら」
え、ちょっと緋鳴……
「おもしろそう! やってみようよお兄ちゃん!」
緑羽はやっぱりノリノリだし……
「こんなのめったに出来ることじゃないわよ。勝ち負け関係無しに、楽しんでくればいいじゃない」
う、うーん……確かにそうだけど、
「行こうよお兄ちゃん!」
「ちょ、ちょっと緑羽」
緑羽に袖を引っ張られて、僕は黒板の前までやって来てしまった。
「あら、わたくし達に挑戦とは、その度胸だけは褒めてあげますわ」
「君たち、双子?」
メガホンの司会者が聞いてくる。
「はい。一応僕が兄で」
「ボクが弟です!」
「ほー、活発な弟と静かな兄、理想的な兄弟だね。それでいてそっくりな双子、これはポイント高いよきっと」
僕達はお姫様王子様ペアの隣に立たされた。僕の隣に、王子様が立つ。
「すみません、何だか巻き込んでしまったみたいで」
「い、いえ、緑羽は乗り気ですし、こんな経験は滅多に出来ないですから」
とても腰の低い人だな。僕より年上、武川さんと同じ高校生だと思うけど。
「2人は、中学生くらいですよね?」
「はい。中学三年生です。今日はここの先輩に招待してもらって」
「そうなんだ、なら、楽しんでいって下さいね」
「はい、ありがとうございます」
「ちょっと、萩浦さん」
王子様の隣にいたお姫様が、萩浦さんという王子様の人の名を呼んだ。
「お喋りはその辺りにしておいてくださいな。わたくし達とアナタ達はいわば敵同士、仲良くお喋りするのは無粋なことですわ」
「す、すみません」
改めて凄いな……あのお姫様。格好に口調がぴったり過ぎる。
さっき演劇の時間と言っていたから、アレがその劇の役だとしたら、完璧過ぎて見た人が皆驚くだろう。「さぁさぁ! 審査員が票を決めたようですよ!」
僕達が話している間に、司会の人は数人の審査員を選んでいた。選ばれた5人の中にはなんと緋鳴がいる。
5人の手には赤と青の札があり、赤ならチャンピオンのお姫様と王子様。青なら挑戦者の僕と緑羽に点数が入り、3点以上取った方の勝ちらしい。
「フフッ、わたくし達に勝てる方々などいませんわ」
「さぁ! それでは一斉に札を上げて下さい……どうぞ!」
一斉に、5人の審査員が札を上げた。
緋鳴は心遣いか、青。
隣の女の人も、青。ここで僕達に2票。
真ん中の男の人は、赤。
その隣の男の人は、赤。これで2対2。
そして、一番端の女の人が……青。
赤が2で青が3……つまり。
「おーっと! 青が3点ということで、挑戦者の勝利だー!」
「うわぁ! やったねお兄ちゃん!」
「え……えぇ!?」
「な、なんですって!?」
「ほっ……これで解放される」
ペアのそれぞれで感想が違った。でもまさか、勝てるとは思わなかったな。
「お待ちなさい! どうしてわたくしがこのような方々に負けますの!?」
納得がいかないと、お姫様が司会の人へ詰め寄った。司会の人は冷静に、
「では、なぜそちらに札を上げたか聞いていきましょう」
メガホンをマイク代わりに端の女の人から訊ねていった。
「いやー、珍しいでしょ。こんなにそっくりな双子って」
青を上げた人、緋鳴も含めて3人共同じ理由だった。赤を上げた2人も票は入れなかったけれど同意らしく、うんうんと頷いている。
「うぐ……た、確かに、そうですわね……」
お姫様もどうにか納得してくれた……よね?
「では、負けてしまったペアのお二人、あちらよりお帰りくださーい」
司会の人が前側の扉へと2人を促すと、お姫様は長い髪をかきあげ、
「ま、まぁ、わたくしも時間に余裕があったわけではありませんし、これはこれで良い頃合いなのかもしれませんわね……ですが良いこと?! わたくしは負けたままでは終わりません、いずれまた勝負ですわ! ではごきげんよう!」
王子様を残して、1人早足で教室を出ていってしまった。
「……」
「ねぇねぇお兄ちゃん」
「……ん? なに?」
「今みたいなの、なんて言うんだっけ?」
今みたいなの……お姫様が残して言った言葉のことを言うのなら……
「……捨て台詞、かな?」
「なるほど~」
「あの……」
1人残されていた王子様が僕に声をかけてきた。
「ありがとう。おかげで金香さん、あの人から解放されたよ」
「いえ、まさか勝てるとは思ってなかったので」
「そっか、でもゴメン。僕達に勝ってしまったから、君達が暫定チャンピオンとして挑戦者を待たないといけないんだ。誰か別のペアに負けるまで」
あ、そうか。だからさっき王子様はうなだれてたんだ。
「実は3連勝、さっきのが今の所一番長い連勝だったんだ。その僕達に勝ってしまったから、負けるのは難しいかも……ゴメンね、せっかく先輩に呼ばれたのに」
「し、仕方ないですよ。僕達が自分達で出たんですから謝らないでください」
「ありがとう。もし時間があったら、僕のクラスにも来てね」
王子様は僕にチラシを一枚渡し、教室を出ていった。
「……」
さて、いつまでここにいるのかな……
「さぁ! 新たなチャンピオンに挑む挑戦者は誰かいないかー?」
「お兄ちゃん、そのチラシはどこの?」
「えっと……仮装ドリンク売場、教室は2年…」
「おーっと! そこの君たち!」
司会の人が僕達と同じ言葉で、新たな挑戦者を呼び込んだ。
結果、僕達はその挑戦者に負けて、そのまま月乃先輩のいる2年A組―――仮装ドリンク売場へと向かった。