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文武平等  作者: 風紙文
第八章
175/281

田舎より

時が過ぎ、文化祭前日。

生徒達はクラスに部活にと、各々のラストスパートをかけている……その中で俺と月乃、そして三夜子の3人は駅に来ていた。

「改めて礼を言うわ、創矢」

「それは花正に言うべきだな」

今日から実家に泊まりに来る、珀露達を待っていた。

パズル部の準備は完了。クラスのお化け屋敷も、古年の手腕と2Cの団結力で三日前に終了している。

「A組は良かったのか?」

「装飾はもう終わってるわね。後は調理班が仕込みするくらいかしら」

「……月乃は?」

「アタシは売る方よ……でもまさか、あんな格好でなんて聞いてないわよ……」

「ん? どうした?」

「な、なんでもないわ……普通の人や緋鳴達はともかく、創矢と三夜子に見られるのは避けないと……」

「?」

何なんだいったい?

「……来た」

三夜子の声に前を見ると、3人の姿を見つけた。

大きめのリュックを背負い、夏に初めて会った時とは逆の、寒さ対策の服に身を包んだ3人は俺達を見つけて足早に近づいてきた。

「月乃先輩、お久しぶりです!」

「お久しぶりです」

「お久しぶりです! 月乃先輩!」

月乃の後輩で中学三年生の横矢緋鳴と稲影珀露は揃って頭を下げ、珀露の双子の弟の稲影緑羽は何故かぴしっと敬礼をした。

「久しぶりね緋鳴、珀露、緑羽」

月乃に続いて、俺と三夜子に珀露達は頭を下げる(緑羽はやはり敬礼)。

「武川さん、今回は泊めていただきありがとうございます」

「お礼は花正に……って、3人は知らないか」

このまま立ち話を続けるのも何なので、俺を先頭に家へと向けて歩き出す。

その間、月乃を中心に3人は話が絶えない。久しぶりだからな、色々と話したいこともあるんだろう。

「あの……武川さん」

と、珀露がその中から出て俺の横に並んだ。何か言いたげな表情で、というか声をかけてきた時点で確定か。

「なんだ?」

「その……僕ではなくてですね。珀露が、話したいことがあると」

「は?」

僕ではなくて珀露が話したいって……あ、そうか。

「そっか、アッチのか」

「はい。今、変わります」

歩きながら目を閉じた珀露は、数秒で目を開け、

「やぁ、久しぶりだね。覚えてるかな?」

珀露は、珀露に変わった。

「あぁ、ハッキリとな」

正確には、以前珀露が持っていたレベル5の剣『白塗』に入っていた人格。

どういう訳か、今は剣から離れて珀露の中に入っている。

「なら話が早い。オレが何を言いたいか、分かる?」

「お前の本体、か?」

「へぇ、本当に早くて助かるよ」

珀露達が来ると分かってから、もしもと思い大和先生に聞いておいた。

「まだ次の使い手は決まってないそうだ。錠がかなり複雑だかららしい」

レベル5ということですぐにでも戦力として使いたいのだが、剣守会の誰もパズル錠を解けず。今もなお剣守会で保管されているとか。

「だろうね。そもそもオレは他の93本とは違う、レベル5の七振り。錠はパズルというよりは手にした人とのシンクロだから……戦力に考えない方が良いかもよ」

それはつまり『白塗』を剣に出来ないということだ……ここにいる、珀露以外は。

「まぁそれが聞けたし、言えたからもういいや。そろそろ戻るよ……あ、後一つ言っておくよ」

人差し指を立てて一つを示すと、その指を珀露自身へと向けた。

「オレがいるから、珀露って人間は剣を持っているのと変わりない状態だから。ま、対して問題もないだろうけどね。これから先、珀露が剣に関わることもないだろうし」

「……戦う気はないんだな?」

「オレはあるよ。でも珀露には無いだろうね。手放したがってたんだから、余程のことでもない限りはオレに頼るようなこともないだろうね……そもそも、この珀露はかなり複雑な人間だから、ここでの話はそろそろ終わらせとかないと……おっと、言い過ぎたかな。じゃあ、またいつか」

目を閉じ。開けた珀露は先ほどとは変わっていた。

「……珀露、何を言ってました? あの珀露の声は、僕には聞こえないので」

「またいつか、って言ってたぞ」

全部を話すと長いから、それだけを言っておいた。





「ここだ」

歩き続けること数分。俺達は俺の家へたどり着いた。

3人はまず、目の前に映った道場に目を奪われていた。

「すごーい! ひなちゃんの家と同じだ!」

「え? 横矢の家も道場なのか?」

「はい。家は代々続く薙刀道の道場をやっています」

なるほど、だからあの時、夏休みにパズル部対中学生で戦いをした時も薙刀みたいな獲物だったのか。

「武川さんは、剣道場ですか」

「あぁ、俺は基本寮生活してるからたまに手伝いに来るくらいだけどな」

と、その時、

「おぉ。やって来たのか」

道場の中にいたのか、入口から顔を出した花正が俺達のところへやって来た。

「武川さんの……妹さんですか?」

妹ときたか、誕生日的にはあっちのが上なんだよな、実は。

「いやいや、わたしは蒼薙花正。創矢とは従姉妹で、今は訳あってここで暮らしているのだ」

「花正……あ! さっき武川さんが言ってた!」

「あぁ、花正が頼んで了承を得たんだ」

「おぉ~! ありがとうございます蒼薙さん!」

「うむ。礼には及ばない」

「とりあえず、親父達に来たことを言わないとな。来てくれ」





……side 珀露


「―――ということで、彼等が以前お話したアタシの後輩です」

『お世話になります』

月乃先輩に紹介された後、僕達は自己紹介をし、武川さんのお父さんとお母さんへとお礼を言った。

「固くなる必要はない。我が家のようにゆっくりしていきなさい」

「そうですよ。子どもが増えたみたいで賑やかなのは嬉しいんだから」

「創矢、花正、3人を案内しなさい」

「あぁ、こっちだ」

武川さんの後に続き、付いていった先は、

「少し寒いかもしれないけどな、そこは大目に見てくれ」

先ほど見た、剣道場だった。

「皆で緋鳴の家に泊まった時みたいだね」

「そうね。家での泊まりが一番多いかも」

背負ってきた荷物は端の方へまとめておく。

「では、わたしは人数分の布団を持ってこよう」

「え、ちょっと待て花正、まだ早いだ…」

「行っちゃったわね」

武川さんの言葉を聞く前に、蒼薙さんは道場を出ていってしまった。

「緋鳴達、この後はどうする? なんならアタシが学校までの道教えるわよ」

「それはありがたいです。ぜひお願いします」

そこへ、

「う……そ、創矢、助けてくれ……」

蒼薙さんが僕達3人分の布団を運んできた。蒼薙さんは前が見えておらず、さすがに3人分は重いのか、ふらふらしている。

「だからまだ早いって言っただろ。後で俺も運ぶつもりだったのに」

「む、むぅ……」

「お、お手伝いします」

「ボクも持ちますよ」

僕が1人分、緑羽も1人分受け取り、ようやく蒼薙さんの顔が見えた。

「す、すまない。助かったぞ」

「まだ使わないから端にまとめとくといい」

「はい」

荷物の近くに僕、緑羽、蒼薙さんの順番で布団を重ねて置く、

「うむ。これでよし」

重ねられた布団を見て蒼薙さんは腕を腰に当てて胸をはる……あれ?

「あ、あの……武川さん」

「ん?」

本人に訊きにくいので、武川さんに訊ねてみる。

「蒼薙さん……なぜ、腰に刀を?」

蒼薙さんの腰に、時代劇で見るような刀がある。緑羽が一早く気づいて訊ねそうだけど、何も言わない。まさか、見えてない? ことはない、と思うけど……

「あー、アレ見えるのか」

良かった、武川さんにも見えてるみたいだ。きっと緑羽も聞きたいけど粗相ないようにあえて訊かないだけなんだ。

「アレは……何だ、花正なりのアクセサリーだから気にしないで」

「え……?」

アクセサリーって……さすがに大きすぎるのでは?

「……そうか、コレがアイツの言ってた意味か」

「はい?」

「いや、気にするな。花正のアレはあまり目立つものじゃないから、珀露も気にしないでくれ」

「は、はい……」

どう考えても目立つものだと思うんだけど……

「珀露、行くわよ」

「う、うん」

気にはなったけど、緋鳴に呼ばれて僕は後に続いた。





―――珀露達を両親に会わせて道場へ連れて行く間。

三夜子は一人、外で待っていた。

「……寒い」

「スマン……というか今更だが、三夜子が付いてきた理由は?」

「…………なんとなく?」

「……そうか」

いつものことながら、ちゃんとした理由、ないんだろうな……


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