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文武平等  作者: 風紙文
第八章
172/281

第三勢力とおにぎり

……side 大和


「―――という感じで、宣戦布告を受けました」

「受けましたって……そんな簡単に言わないで下さいよ」

「でも受けちまったんだから仕方ないでしょう。まぁ大体は布縫が話を進めてましたけど」

「そんな大事を剣の人格に任せないで下さいよ!」

「く、国守さん、落ち着いてください」

剣守会のある建物の一室。今日は部活を休みにして、俺は先日の出来事の連絡とかをしに来ていた。

応じた国守は呆れ気味で、一緒にいた原良はそれを宥める。

「大変だなー、2人共」

「「お前が言うな」」

ステレオで返ってきた。

「はぁ……まぁ仕方ないです。今まで不明だった集団の正体が掴めたと思って良しとします」

「あの高校の演劇部が剣を持ってたなんてな、しかも桜間先生がリーダーとは」

灯台もと暗しもいいところだな。まさかの職員室で席が前の先生だ。

「で、話した通りなんですけど」

「分かっていますよ。学校に空間を張って、一網打尽ですね」

「後、1人か2人、誰か援軍を頼みたいんですけど。パズル部の戦力7に対し、相手は8、それ以上いるらしいので」

「了解です。原良さん、お願い出来ますか?」

「はい」

「後は……牧師アルクスにも連絡を入れましょう。今動かせるのはそれくらいですので」

元剣狩りの双子レドナとリリィからの情報により、剣狩りの本拠地と思われる所を特定することに成功し、今の剣守会は対剣狩りへ人を費やしている。

ただ、どうやらそう簡単には進まないらしい。

「今、剣狩りはどうしているんですか?」

そう言った瞬間、国守と原良の表情に真剣が混ざった。

「運が良いような、悪いようなですね」

「幸い……って考えていいんですかね」

「ということは、まだ、そのままって事か」

「えぇ……剣の舞なのに、負傷者も出てるくらいですから」

剣守会と剣狩り。今や剣における二大勢力として確立し、他に剣士団などの小さなグループや個々で剣を持つどこにも属していない、双海みたいな人が存在している。

その拮抗が、つい最近動いた。

剣守会と共同戦線を組んだ剣士団。剣狩りと組んでいる幾つかのグループを除く他全ての集団が、あるリーダーを主に集まり、第三勢力とも呼べる新たなグループが結成された。

そのグループが剣狩りとの大々的な戦闘を開始。それが今もなお続いているらしい。

「ただ色々と疑問や謎があります。剣の数は同等にしろ、レベル5を一振りも持たないそのグループが剣狩りといい勝負をしているということ。先ほども言いましたが、一部を除いて怪我をすることのない筈の剣の舞で多くの負傷者が出ていること……他にも沢山ですが、一番の謎は―――」





「……稲影達を?」

「そうなのよ」

外は寒い、ということで、俺達4人は道場の中へ入った。まぁ暖房器具は一切無い(そもそも全体的に木製なので置けない)が、壁がある分、風が防げて外よりはマシだ。

そこで月乃が言ったことの説明を、詳しく聞いていた。

「創矢と三夜子は知ってるわよね。アタシの後輩で、中学三年生の稲影珀露と緑羽、横矢緋鳴の3人」

「あぁ、合宿の時な」

夏休み、パズル部の合宿で行った先はまさかの月乃の故郷。そこで出会ったのが月乃の後輩である稲影達だ。

その内の1人、稲影珀露はレベル5の一振り『白塗』を持っていて、俺と三夜子が2人がかりでどうにか勝利している。

その時に受け取り、今『白塗』は剣守会の所にあり、稲影達はもう剣とは無関係の中学三年生だ。

「で、珀露達を文化祭に招待しようと思ってたのよ」

「それは分かったが、どうしてそれで俺の家に泊める話になるんだよ」

「ほら、アタシの故郷からここまで凄いかかるじゃない? 帰りの電車もあまり無いし。それに珀露達はまだ中学生だから門限もあってね。来たら帰るくらいのスケジュールになるのよ」

「門限があるのに、泊まるのはいいのか?」

「あんな場所だからね、人の家に泊まるなんて珍しくはないからそれはOKなのよ。昨日の内に珀露達と緋鳴に連絡して了承済み。でも緋鳴はともかく、珀露と緑羽を女子寮に泊める訳にはいかないでしょ?」

「そりゃな、確かだ」

大体話は分かった。そういうことなら協力したい……で。

「三夜子と陽花はどうして来たんだ?」

「それはあたしが三夜子に案内を頼んだのよ。創矢の家の場所知らないから」

「あーしは偶然帰ってきたとこで2人に会って、話に聞いただけの武川ん家に行くっていうから着いてきたの」

「なるほどな。話は分かった、とりあえず親父達に話してみる」

「なるべく早めに頼むわ。ダメなら他の方法考えなくちゃいけないし」

「あぁ、今日にでも…」

その時、

「みんな、お茶を持ってきたぞ」

道場の中へと人数分の湯飲みが乗ったお盆を片手に持った花正がやって来た。

「あら、ありがとう花正」

「あざーっす」

「それでな、コレも試してくれないか?」

俺達のところへ来た花正は湯飲みの乗るお盆を持つ手の、逆の手に持ったお盆を前へと出した。

そこにあったのは、

「おにぎり?」

海苔の巻かれた幾つものおにぎりだった。

「うむ、わたしが作ってみたのだ」

「花正が?」

最近の花正は何故か料理に目覚めていた。とは言っても、まだ火を使ったことはない。おにぎりとかの簡単なものだけだが。

「へー、そゆことなら一ついただき。はい、みゃーこも」

「ん……ありがとう」

月乃と俺も一つずつ取り、花正手作りのおにぎりを食べた。

「……」

「……」

瞬間、月乃と陽花の表情が曇った。

あぁ……またコレか。

「えっと……花正、コレ、中身は?」

「たくあんだ。おにぎりとたくあんはよく共に見るだろう?」

そりゃそうだが、まさか中身になるなんて誰も思わない。

「うん、マズくはないけどね」

「そうね、普通にある組み合わせだから合わなくはないわ」

「……でも、不思議」

「むぅ、料理は難しいな」

いや、そういうレベルじゃないぞ花正。

「……けど、おいしい」

「おぉ、三夜子は分かってくれるか」

俺達の食指が止まる中、三夜子は1人だけ食べ続けていた。

「しかし、料理はおにぎりやサンドイッチだけではない、まだまだ精進が必要だな」

初歩の初歩だからな、火も包丁も使わない料理で。

「……」

三夜子はおにぎりを一つ食べ終え、湯飲みのお茶を傾けて、

「……もう一個、いい?」

まだ食べる気か!?

「うむ、まだあるから沢山食べてくれ」

「ん……」

お盆ごと受け取って、三夜子はもう一つおにぎりを食べ始めた。

「みゃーこ腹ペコだったのね」

「ところで、何の話をしていたのだ?」

「それはな―――」

俺はまず稲影達のことを話した。

「話には聞いているぞ。わたしと同じレベル5の持ち主だったな」

「元、な、今は持ってないし、弟の緑羽と横矢は無関係だからそういう話はするなよ」

「む? 3人が近々来るのか?」

「月乃がな、文化祭へ来る3人を家に泊めてくれって話だったんだ」

「おぉ!? それで、創矢はなんと答えたんだ!?」

「俺が決めるわけにはいかないだろ。親父に聞いてみないとまだ分からな…」

「分かった! わたしが訊いてくるぞ!」

え、ちょっと待て花正…

「待っててくれ!」

そう言うや否や、花正は道場から走り去ってしまった。

「……あのまま親父に言いに行くつもりだぞアイツ」

「早めにとは言ったけど……まさか今日中に結果が聞けるとは思ってなかったわ」

「ふはぁ、暖まるわ」

「……むぐむぐ」

その横で陽花は湯飲みを傾けて、三夜子は何個目かのおにぎりを食べていた。

「……美味いか?」

「ん……おいしい」

そうか、良かったな……

「……なるほど」

「ん? みゃーこ何か言った?」

「……ううん」


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