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文武平等  作者: 風紙文
第八章
171/281

同じようなこと

「そういえば」

月乃が、明日には結果が出る筈だから明日になったら話す。と言っていたよな。

「けど……昨日は何も言わなかったよな?」

日曜日。大和先生の都合により今日パズル部は休みとなった為、俺は実家に戻り自分の部屋で書き物をしていた。文化祭で使用する、キャストパズルの解き方説明文。とりあえず幾つか書いてみたが、これで皆分かってくれるだろうか?

「明日持って行って、この手順でやってもらうか」

あるいは今日にでも寮へ帰って、萩浦に試してもらうのもアリだ。

「……あれ? 何か話がズレてないか?」

あぁそうだ、月乃の話だ。

「明日には結果が出る……筈、って言ってたからか」

きっと出なかったから、何も言わなかったんだな。こちらから聞いてたら、そう言っていただろう。

「にしても……結構大変だな、説明文書くのも」

所々分かりやすくするため図説も乗せているのでかなり時間がかかる。更に俺自身があまり書き物を得意としてないのもあって、かれこれ四時間で出来たのは3つ、1つ一時間強のペースだった。

「さすがに休むか……」

コレで決定ってわけじゃない、誰かが引き継いで書き換えてくれる可能性もあるしな。

俺はようやく机を離れた、

「創矢ー、お客さんよー」

そのタイミングで母さんが俺を呼んだ。俺にお客?

「……何か、予想が出来てしまったな」

そして多分、それで当たりだ。

そんな予想を持ったまま、階段を降りていく、そして案の定―――


「あぁ創矢、おはよう」


―――月乃がいた。

「え……?」

「? なによ、妙な物を見る目なんかして」

「ど、どうしたんだ?」

月乃に対し、若干口ごもりながらも訪ねてきた理由を訊いた。

「……ここじゃ話し難いから、ちょっと、外に出てもらっていいかしら?」

「あ、あぁ……」

なんだ、どうしたんだ、月乃の奴。

靴を履き、月乃の後を追って玄関を出る。扉を閉めると、

「……おはよう」

「武川、はよーっす」

そこには何故か三夜子と陽花もいた。なんなんだ? この珍しい組み合わせ。

玄関から少し離れた所まで歩くと、

「さて……単刀直入に言うわよ、創矢」

月乃がこちらを向き、俺を真っ直ぐに見る。

そして、言葉通り単刀直入に……言った。

「創矢の家に、泊めてほしいの」





……side 早山


「……お疲れ様です」

支度を整え、他の部員より一足先に部室を出た。

休日の剣道部は他の部活よりも早く始まり、他の部活と同じくらいに終わる。こうなったのは今年に入ってからと聞いているが、今日はいつもより早く終わったな。今からでも、パズル部へ顔を……

「……いや、無駄か」

今朝方に連絡があったな。今日は部活が休みだと。

どちらにせよ今日もこちらへ来る予定ではあったが、これで二日連続か。なら仕方ない、帰るとしよう。

右肩の鞄を掛け直し、左手に竹刀の入った袋を持ち、正門へ向け歩を進める。

しばらく歩き、そこを曲がれば昇降口が見える曲がり角までたどり着いた。

角を曲がると、

「わわわ! 待ってまって待ってーーー!」

向こう側から何かが転がってきた。

よく見ると、それは野球のボール。それが何個もこちらへと転がってきており、その奥にはボールの入っていたであろう籠を傾けながら走ってくる1人の女子生徒の姿。

……せめて籠を置けばいいものを、箱の下の方にあった中身まで飛び出し、空の籠を持ちながらボールを追いかけていた。

「……」

幸いにもボールはこちらへ真っ直ぐと転がっているので曲がり角で必ず止まる。俺が避けさえすれば特に問題はない……だが、

「……仕方ない」

ボールは全て転がっていて跳ねているものは無い。なら平気だろう。

俺は鞄を肩から降ろして床に置き、竹刀が二本入った袋を横にして鞄へ立て掛けた。

これにより、人なら足を軽く上げるだけで越えられる柵が完成し、転がってきたボールは柵にぶつかって動きを止めた。

幾つか柵に止まったボールに当たった衝撃で柵を飛び越えたが、それらは宙に浮いたところで軽く蹴り返す。

「へ? え、えっと……」

その光景を見た女子生徒は、ぽかんとして呆気に取られていた。

まぁ無理もない。こんなことを実行するなんて到底誰も思わない。

「……大丈夫か?」

柵を越え、動きを止めた野球のボールを拾いながら訊ねる。

「あ! は、はい!!」

俺の行動を見て、女子生徒もボールを拾っては籠に戻していった。

俺が八個拾ったところで床からボールは無くなった。それを女子生徒の持つ籠へ入れ、鞄を掛け、竹刀袋を持ち上げた。

「あの! ありがとうございます!」

ボールを追いかけていた時くらいの大きな声で……いや、さっきからずっと大声か。制服の感じから見て、一年生だろう。

「……気にするな」

ただ転がる距離を狭めたに過ぎない。別にしなくてもいいことをしただけだが、見て見むフリが出来なかっただけだ。

「と、橙華ちゃ~ん」

向こう側から、一年生が持つのと同じ籠を持った女子生徒が小走りほどの速度でやって来た。

「だ、大丈夫? 橙華ちゃん?」

「はい! この人が助けてくれました!」

「この人……?」

そこでようやく、俺の顔を見た。瞬間、

「!? はは、早山さん!?」

「……町田か」

去年同じクラスだった町田は、俺を見るなり後ずさった。

……どうも俺は、町田に怖がられているらしい。

「え、えぇっと……部活帰り、ですか?」

「……あぁ。そっちは、まだ部活の途中か」

「は、はい。今はこれを部室へ持っていくところでして……」

「……そうか」

町田が持つ籠の中も野球のボールだった。

「……確か、演劇部だったよな?」

「は、はい」

……ということは、町田とこの一年生も、剣を持っているという訳か。

「そ、それがなにか……」

「……いや、何でもない」

そもそも文化祭まで戦いを禁止されている。あちらも分かっている筈だ。

「あ……」

町田は何かを思い出したように呟いた。今度はこちらが訊かれる番だった。

「……どうした?」

「あ、あの。覚えてますか? あの、野球のボールが飛んできた時……」

「……あぁ」

一年生の時、前から歩いてきた町田へ向かって野球部のファウルボールが飛んできたのを、俺が手に持っていた竹刀入りの袋で守ったことがあった。

そして……大丈夫か? と先程と全く同じ言葉を言ったことがある。

野球のボールに、竹刀袋。場所等は全く違うが、何処と無くその時に似ている。それで町田も思い出したのだろう。

「あの時は、ありがとうございました」

「……気にするな。偶然通り掛かっただけだ」

アレも、あの後現れた月乃に長期に渡る部活の勧誘を迫られてたので、その発端として覚えていただけだ。

「……それより、急がなくていいのか?」

「あ……そ、そうですよね、早山さんも、早くお帰りになりたいですよね。橙華ちゃん、行こう」

「はい!」

町田と一年生は俺に頭を下げ、今来た方向へと歩いていった。

「……」

……とても話し難そうだったな。やはり、俺は怖がられているらしい。

「……ん?」

にしては……一年生の時、文化祭の準備で古年が2人組を作れと言われた時に、町田から声をかけてきた気がしたが……

「……あぁ」

……俺は黙々と作業するから、あまり話さずにすむという理由だろう。

「……なるほどな」

さて……今日はパズル部は休みだし、帰るか。


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