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文武平等  作者: 風紙文
第八章
170/281

双子の問題

土曜日。文化祭が迫る中、この休日に生徒達はクラスのではなく、部活の出し物の準備を進めていた。

本格的な準備期間はまだ先だが、早いところではもう看板を作っていたりする。

「あれはさすがに気が早いと思ったけどな」

「確かにね、作っておいても置く場所とか取るでしょうし」

パズル部の部室には、掛け持ちをしていない正式部員全員……俺、三夜子、月乃と萩浦が揃っている。なんでも、押川と早山の部活は今日出し物を決めるらしい。

「ですが、運動部は出し物をしなくても良いんですよね?」

「あぁ、強制じゃない」

文化系部活は文化祭での出し物は決まりだが、運動系部活は必ずしも出さなくてはいけない訳ではない。しかし三年生が学校での思い出作りの為、大半の部活は何かしらをやっている。

「……どうする?」

「だな、ここもどうすれば良いか」

パズル部も出し物事態は決まっている。部室内での展示だ。

俺が持ってきたキャストパズルを始め、ジグソーとかルービックキューブとか色々なパズルを展示し、見て触って解いてもらうというものだ。その展示の仕方について、今は話している。

「それぞれに簡単な説明文を書くというのはどうですか?」

「そうね、後どうしても解けない人の為に答えを記しておくのはどう?」

「いや、キャストパズルは製品の箱にも答えが入ってない物だからな。ただ、どうしても解けなくて意地になって時間を使わせるのは避けたい」

「……誰かが、覚えておけばいい」

「なるほど、僕達が答えを知っていれば解けない方へヒントを教えることが出来ますね」

「でも結構な数よ? それに全部解いたのは創矢だけじゃない」

「俺も幾つか忘れてるのがあるしな……じゃあこうしよう。部員だけが見れる解き方の説明書を作って、教える時はそれを使う」

「……良いかも」

「書くのはやっぱ俺だな。キャストパズルの持ち主だし」

「僕もお手伝いします」

「アタシだっていくつかは解いたわ。それのなら書けるわよ」

「……」

「三夜子は、とりあえずこの一つな」

それは偶然、三夜子の剣のパズル錠と同じ仕掛けをしたキャストパズル。六段階に別れたレベルの、実はレベル六の代物だ。

「ん……」

着々と話が進んでいく中、部室の扉が控えめに叩かれた。

花正か? とも思ったが、アイツがノックなんてするわけがない。同様に大和先生と押川、早山も違う。

「はい、どうぞ」

萩浦が声をかけると、扉がゆっくりと開き、

『皆さん、おはようございます』

そこにはそっくりな男女の双子が立っていた。

男の方がレドナ。女の方がリリィ。元剣狩りで、今は牧師アルクスの教会で世話になっているという、パズル部の特別学外部員だ。

「あら? 本日は少々、人が少ないようですね」

リリィが室内を見回して呟き、レドナが扉を閉めて双子は部室の中へ、

「扉の外まで聞こえてたけど、何を話してたの?」

レドナの質問に、萩浦が簡潔に説明した。

「へー、文化祭」

「まぁ、私たちには関係の無い話ですけどね」

「え? 一応部員だから関係あるんじゃないの?」

微妙なところだな。双子と花正は正式ではない学外部員。手伝っていけないわけではないだろうけど。

「私と兄さんは、文化祭はアルクス牧師と共に回る予定ですので」

「来年には姉さんと一緒にここの生徒だからね。今年は見て回るんだ」

つまり、手伝う気はないって言ってるな。

「ただ……少し困っていることもありますわ」

「うん……少しね、困ったこともあるんだよね」

「困ったこと? なによ」

月乃が訊ねると、双子は顔を見合わせた後、揃って語り始めた

「私たちは、ある時より普通ではない生活を送っていました、」

「だから普通の人より、勉強が出来てないんだ。」

「高校へ入るため、試験は避けては通れぬ道、」

「中学も行ってない僕たちにはかなりのイバラ道なんだよね」

なるほど、高校受験の勉強が大変なんだな。

「今はどういった勉強をしてるんですか?」

「現在は、アルクス牧師指導の下、」

「高校受験で必要になりそうな部分を選抜して覚えているところ。」

「しかし……アルクス牧師は、教え方は親切丁寧なのですが、」

「それに僕たちが付いていけない状態で」

高校受験は中学の三年間から問題が出る。ただ教え方が良くても、一も知らない2人には難しいことだらけなんだろう。

「というわけで、」

「何か策をいただけないかと、」


『思ってここへ来てみたのですが、何かアイデアをもらえませんか?』


『……』

また問題が増えたな。少しずつ解決していったのに。

まぁ2人は土日しか来れないし、今はこっちを考えるか。

「とは言っても、勉強にアイデアとかはな……」

「幸いなのは、高校受験に必要な部分だけで、中学三年間分ではないってところかしら?」

「ですが、基礎を知らないと分からない部分もあります」

部分というか、理数系は大体がそうだ。計算式を知らずに応用が出来る筈もない。

「……基礎は、大事」

「だな。となると……アルクスさんからは受験対策を教わって、2人では基礎を学ぶ。って感じか」

「なるほど、その手がありましたか」

「勉強量が増えるくらいなら簡単だね、姉さん」

「そうですわね、兄さん。基礎さえあれば、受かった後に勉強へ着いていけないということもありません」「高校に入ったら、勉強よりやりたいことも出来るだろうしね」

どうやら解決したみたいだな。

と、その時、

「みんな~、おっはよ~」

部室の扉が開き、陸上部あがりだからか、体操着を着た押川が入ってきた。

「あれ? 君達はダレ?」

そして双子と目が合い、首を傾げた。そういえば、押川はまだ2人と会っていなかった。

『はじめまして』

双子は示し合わせていたかのように同時に語り出し、

「私はリリィ」

「僕はレドナ」

『訳あってここ、パズル部の特別学外部員となりました。どうぞよろしくお願いいたします』

鏡に写した物が並びあっているみたいに、揃って頭を下げた。

「へぇ~、はなちゃんみたいな学外部員さんなんだ。ということは、2人共ボク達と同い年なの?」

「いえ、私たちはまだ15歳。」

「高校には来年から行く予定で、」

「ここへは顧問の大和先生のお力により、」

「休日のみ来ることが許されているんだ。」

「来年には、ここの一年生として、」

「必ず正式な部員になるという約束だよ」

「へぇ~」

よし、ここから更に違和感を無くさせる。

「2人は先週から来てるんだ。押川は先週どっちも来てないから知らなかったよな」

「うん、先週は文化祭の話し合いとかで抜けられそうになくてね~」

「陸上部は文化祭に何をやることになったの? もう決まったのよね?」

「そうだよ。陸上部はね、なんちゃってラーメンの食品販売をやることになったんだ」

……うん? なんだって?

「な、なんちゃってラーメン? 何なのそれ」

「見た目はラーメンなんだけど、食べてみたらラーメンじゃない味がする、ラーメンもどきとも言うんだ。今の部長がある時持って来てみんなハマったから、あれ文化祭でやろうよって話になったんだ~」

「へ、へー」

「そ、そうなのか」

そう聞かされても、全く想像が出来ない。ラーメンのようでラーメンじゃないってことだろうが……

「……アレは、美味しかった」

ここにも一人食べたことある人がいた!?

「みゃーさんも知ってるの?」

「ん……駅前の移動屋台で一度」

どれだけあるんだ移動屋台。

「そうなんだよ、部長がそこでアルバイトして覚えたんだって。もちろんお店の人に許可はもらったって言ってたよ」

「そ、それは、ぜひ行ってみないとな」

「ん……一緒に行こう」

「待ってるよ~」

……双子のことを追求されないよう話を拡げたつもりだったが、妙な食べ物の話になってしまった……

まぁ、目的は達成出来てるから良しとするか。


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