調理実習 終了
普通の煮物と筑前煮の違いは、筑前煮の場合、最初に材料を油で炒める事だ。
フライパンをコンロの上に点火して、油を少し引く、フライパンが熱せられるのを待つ、
「ねぇ、武川君」
隣で味噌汁を作っている押川が話しかけてきた。
「なんだ?」
「結局、あの後みゃーさんとは戦ったの?」
「あぁ、一応な」
「傘を壊す為だって聞いたけど、どうなったの?」
「全く壊れなかった」
「へぇ~、とっても頑丈なんだね、あの傘」
「そうだな」
材料をフライパンに入れ、菜箸を持ち、炒める。
「……みゃーさんってさ」
「ん?」
「あの傘が無かったら、普通に友達ができると思うんだよね。ほら、みゃーさんって誰彼構わず人には接する事ができるし」
「あー……」
あの時にも、傘を貸してくれたしな。
「それは分かる」
「でしょ」
「でも、それだけじゃダメだと思うぞ」
「え?」
「あの性格も、だ、いくら誰彼構わずって言ったって、あれじゃ人と接する事がないだろ」
自分から話しかけない人に、自分から話しかけに行くことはよほどのことがないとあり得ない。
「うぅむ……確かに」
「だったら今は、少なくとも俺達が七ヶ橋の友達でいればいいと思うぜ」
「そっか、そうだね」
「……リリ」
いつの間にか七ヶ橋が隣にいた。
今の、聞かれたか?
「どうしたの?」
「……これ」
その手には切られたネギ。
「あ、そうだった、ありがとうみゃーさん」
「うん」
押川はそれを受け取り、鍋の中へ、
「ねぇ、みゃーさん?」
「なに?」
「ボク達、これからもずっと友達だよね?」
「……もちろん」
……2人は、相性が良いんだな。
「調子はどうだ?」
大和先生が各班を回っており、四班の所に来た。
「順調です」
既に味噌汁、筑前煮、おひたしは完成した。
後はおにぎりで、米が炊けるのを待つのみだ。
「ほぉ、中々バランスの良い班だなここは」
「他はどうなんですか」
「六班は酷かった」
「はぁ……」
そんなのさらりと言っていいんですか?
「で、三夜子が担当したのはどれだ?」
「いえ、特に担当は決めてなかったので」
味噌汁は押川が、おひたしは早山が、筑前煮は俺が作った。
「なので、おにぎりを頼もうかと……て、先生?」
「……」
大和先生は、まるで「やっちまったな」という顔をしてこちらを見ていた。
「どうかしましたか?」
「いや……うん、大丈夫だろう……大丈夫さ……うん」
「何ですかそのあからさまにヤバイなって感じの言い方は」
「気にすんな……頑張れ」
そのまま、隣の班の所へと行ってしまった。
米が炊け、七ヶ橋がおにぎりを作る。
大和先生の言葉が気になり、七ヶ橋の方を見てみると……言葉の意味はすぐにわかった。
七ヶ橋の手には、おにぎりと思われる米の塊が……あぁ、そういう事か。
刃物を使うのは大丈夫、でも使わない料理はダメ。
七ヶ橋の言葉は、そういう意味だったんだ。
つうか、おにぎりを下手に作る方が難しくないか?
七ヶ橋は包丁を使わない料理は出来ないとは、どういう理屈なんだ……筑前煮を頼めば良かったな。
ちなみに、
『そういう事は先に言っておいて下さい!』
と、調理実習の感想欄に書いておいた。




