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文武平等  作者: 風紙文
第八章
168/281

ルールと相手

「ねー、委員ちょ…」

「ん?」

振り向いた視線には殺気に似た気配を含んでいた。

「き、桔梗、さん……」

あまりの恐ろしさに、陽花は委員長にさん付けだった。

「なに? 陽花さん」

「い、いったいいつまで行くのでしょーか?」

「もうちょっとよ」

かれこれ数分、歩き続けた俺達は、

「……ここでいいわね」

何故か、体育館の裏へたどり着いた。

ここには数ヶ月前まで『森の柱』と呼ばれる謎のオブジェがあったのだが。今は俺の剣として制服のポケットに収まっている。

更にあまり生徒が来ないので、呼び出しの定番スポットとして有名だが、幸い今は誰もいなかった。

「さて……武川と七ヶ橋さん、急に呼び出してごめんなさいね」

その中に、陽花の名が無かった。

「陽花さんは、こっち」

「へーい」

奥にいる委員長の隣へ陽花が立ち、来た方向に俺と三夜子が並んで立つ形に。ということは、やはり……

「単刀直入に言うわ。私達演劇部……D,grants,7kitは、パズル部に宣戦布告をします」

「……」

やっぱり、演劇部が剣を持つ生徒の集まりだったのか。陽花が潜入調査してる時点でほぼ当たりだったが、これで確定した。しかし、

「D,grants……7kit?」

その言葉の意味が、よく分からない。

「夢叶える者の七つ道具。そういう意味を持つ造語で実際には存在しない言葉。私達のチーム名と思ってくれていいわ」

なるほど、剣守会や剣士団と同じ意味か。

「宣戦布告した理由は何なんだ?」

今まで部室が隣どうしでありながら一切関わらなかったのに、どうして今になって、それも宣戦布告なのか。

「単純よ。夢を叶える道具を増やしたい。それだけ」

増やしたいって……

「ルールその1。負けた方は、相手に剣を全て渡す」

「な……」

「ルールその2。決着はどちらかの全員が負けた時。ルールその3。一度負けた人はもう戦いに参加してはいけない」

次々とルールが決められ、語られていく。だが俺は最初に告げられたルールにまだ戸惑っていた。

「ルールその4。対決は基本的に一対一で行う、ただし相手が認めた場合は仲間の助けを借りて良い……とりあえずこの辺りかしら。そちらも何か、ルールの提案をしていいわよ」

「え、あ……」

そんなこと急に言われたって、考えてる筈がない。

それに委員長が告げたルールは基本的なもので、そこまでこちらが不利になるようなこともない。これ以上何を加えればいいか分からないが。

その時、

「はっはっはっ!」

上空から、高笑いが聞こえた。

「その果たし合い、ちょっと待ってもらおうか!」

この声、それにあの口調は……

「とぅ!」

その声に俺達4人は上を見ると、体育館の屋根から飛び降りてくる人影を見つけた。

「しゅた!」

声に出しながら俺達の間に人影は降り立った。

首にマフラー、頭に帽子を深く被り、顔は全く見えない。

「だ、誰!? つかマジでナニモン!?」

急に上から現れた人物に、陽花は驚いている。一応、陽花も知っている人なんだけどな。

「ふっふっふっ、名乗るほどの者じゃない。通りすがりの剣士だ」

そう言った通りすがりの剣士。その正体は、俺達の担任、大和先生。先生の持つ剣、レベル5の刀『布縫』によって変装した姿だ。俺達が委員長に呼ばれて付いていったのを見て追ってきたんだろう。

「さて、話は大体聞かせてもらった。ただキミのルールには足りないものがあるぞ」

「それは、いったい何でしょう?」

眉一つ動かさず、委員長は先生へと訪ね返す。パズル部のことを知っているのだから、この人の正体も知っているのかもしれない。

「日付だ。むしろ最初に決めなくてはいけない事柄だろう」

「あぁ、それならご心配なく。既に決まっていますから」

「ほぉ、なら聞かせてもらおうか」


「学園祭の日です。演劇部の劇が終了した後、それが戦いの開始になります」


「な……」

「え!?」

「……」

「ほぉ……」

それぞれが、陽花さえ、それぞれの反応で応えた。

「なのでそれをルールその5として。更にルールその6。戦いの開始日まで、一切の争いは禁止。これでどうでしょうか?」

用意周到にもほどがある。いったいいつから企てていたルールなんだ。

しかし、聞き返された大和先生は、

「なら、こちらも1つルールを決めさせてもらおう」

指を一本立てて、委員長へと提案した。

「ルールその7。戦いの舞台は、学校内のみ」

「それは、いささか危険では? 人の多い学園祭の校内、剣はあまり人に見られてはいけないのではないですか?」

「問題無い。それについては私の方で対処が可能だ。恐らくだが、そちらの考えていた戦いの場所よりも安全で、安心して戦える場所を提供しよう」

「……」

委員長は何か考えるように地面を見て、一分後。

「……分かりました。場所はそちらのルールを飲みましょう」

大和先生の提案を受け入れた。

「それでは、ルールは以上の7つ。増減は無し……これで良いでしょうか? パズル部部長、七ヶ橋三夜子さん?」

「……」

三夜子もまた委員長のように、何か考えるよう地面を見て、

「……」

陽花を見て、

「……」

俺を見て、

「……」

委員長を見直して、

「……分かった」

こくりと頷いた。

「では、情報を提供しておきましょう」

委員長は、D,grants,7kitの情報を語り出した。

「私達D,grants,7kitは、全員が演劇部の部員。一年生の(かづら)橙華(とうか)柏崎(かしわざき)緑子(みどりこ)。二年生の金香(かなか)赤乃(あかの)桔梗(ききょう)(あい)陽花(ひばな)紫音(しおん)。三年生の通辻(つうつじ)青三(せいみ)日羽里(ひわり)黄希(きき)。そして、7kitをまとめるリーダー……顧問の桜間(さくらま)先生。これが全勢力」

七つ道具とリーダーで、計8人か。

「……こっちは…」

三夜子もパズル部の情報を提供しようとする。だが

「その必要は無いわ。そちらの情報は既に入手済みだからね」

先ほど同様、委員長は語り出す。

「パズル部、部員は全て二年生……部長、七ヶ橋三夜子。副部長、武川創矢。……学外部員、蒼薙花正」

花正の情報まで……提供者は陽花だろう。

「月乃雅。早山仁史。萩浦翔一。押川李々子。……そして、パズル部の顧問、大和先生」

……あれ? 今、違和感のある部分が……

「互いに8対8。どちらかが全員やられるまで。場所日時は学園祭の演劇終了後の学内。負けた方は、剣を全て渡す……コレで決まりよ。変更の無いよう、私はこれより先アナタ達の前でこの話は一切しない。そちらも一切話さないように。では、戦いの日まで」

言いたいことは全て言ったという風に、委員長は俺達の横を抜けて去っていく。

「陽花さん」

「ふーい」

呼ばれた陽花も、委員長の後を追う。

三夜子の横を通り抜けようとした時、

「………………だから」

何かを呟いていた気がしたが、俺はよく聞こえなかった。

「……」

だが、三夜子には聞こえていたのだろう。2人が見えなくなった後、

「……ん」

三夜子はゆっくりと頷いた。


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