動き出す
薄暗い場所、そこに六人が集まって、一人ずつ、言葉を紡ぐ。
「時は来た」
「駒は揃った」
「今こそ、起立の時」
「我々が揃えば、一矢報いるはおろか」
「彼らを…………えーっと……」
パシパシ!!
「はいカーット」
丸めた台本で手を叩き、明かりを付けて体育館が照らされた。
……side 町田《演劇部》
「やれやれ蔓、まーたお前か」
「うぅー、ごめんなさーい……」
「先生、映画の撮影ではないので、カットと言うのはどうかと」
「つぅてもな通辻、これが一番止めやすいだろ?」
「まぁ、そうですね」
「んじゃ、ちょい休憩ー。蔓はその間にセリフ覚え直しとけー」
「は~い」
「……」
今日は日曜日。演劇部は体育館のステージを借りて本番に近い舞台で練習を行っていた。
と言っても、景色や装置は何も無くて、本番の位置で台詞を語るだけだけど……やっぱり、皆凄いな。
今回は橙華ちゃんがミスしたけど、ここまで、中盤の終わりまで通しで演技をしていた。
ようやくの休憩に、皆一息ついている。やっぱり、見てるだけは申し訳ないな。
「花香、ちょっといい?」
「え、う、うん。どうしたの藍ちゃん?」
「ちょっと、こっち来て」
藍ちゃんに着いていくと、皆から離れてステージの袖に付いた。
「どうしたの? こんな隅で…」
私は気付いた。
人の願いを叶える人を傷つけない武器、剣。
演劇部はそれを使うグループ……D,grants,7kitとしての顔も持っている。
その演劇部に、二学期の始まりから入部してきた陽花さん。あの人も剣を持っていて、D,grants,7kitの、最後の7人目として私の代わりに入った。
でも藍ちゃん曰く、陽花さんは何かを企んでいるらしい。
けれど暴こうとすればすぐにも出来るんだけど……今はもっと大事なことがある。それを終わらせるまで、公にはしないと、私と藍ちゃんで決めたんだ。
こうして二人きりになったということは、きっとそれについてのこと。
「作戦を変更するわ」
やっぱりそうだった。けど、
「へ、変更?」
「うん……陽花さんがどれだけ、こちらの仲間を演じるか。そして……相手に対決を申し込む」
た、対決……
「で、でも、騒ぎにしないようにするって……」
「大丈夫。そこは考えてあるの。上手く行けば……勝負に勝てる筈」
「……」
「信じてくれる? 花香」
「……うん、私、藍ちゃんを信じる」
不安で一杯だけど、でも、藍ちゃんの言葉にはとても考えられた作戦なのか、期待が満ちていた。
「ありがとう……さて、休憩もそろそろ終わり。また練習に戻るわ」
「うん、頑張ってね」
「もちろん」
藍ちゃんは舞台へ、私は一段降りた場所に立つ桜間先生の隣へと戻った。今の私はここで明かりの調整などを行っている。
「そんじゃー次、さっきの続きから行ってみよう」
その後は誰も失敗することなく、終盤まで終わった。
「よーし、今日はこの辺りで終わりにしておくかー」
いつの間にか、窓からは夕日が差し込んでいた。そんなに時間経ってたんだ。
「ふひー、お疲れー」
陽花さんが背伸びしながら言ったのを皮切りに、皆も帰りのムードになった時、
「皆、ちょっと良い」
藍ちゃんが1人、全員の視線を集めた。
……side 陽花
「んー……」
寮の部屋ん中、帰って来てからずーっと、腕を組んで考えてる。
まさかなー、委員長があんなこと言い出すなんて思いもしなかった。注意が必要とは思ってたけどさ。
「……紫音?」
「どうかしたの、しーお」
うんうん唸ってるあーしを見て、同室のみゃーことリリがやっぱり訊いてきた。ちなみにしーおってのは、最近ついたあーしのあだ名。
「むむ……」
みゃーこは良いんだけど、リリに聞かれるのはちょいマズイんだよね。
「……?」
「しーお?」
……ここまで聞かれたら、しゃあない。
「みゃーこ、リリ」
「……なに?」
「どうしたの?」
「あーし等さ、友達だよね?」
「ん……もちろん」
「もちろんだよ」
「だよね。もち、あーしもそう思ってる。だから…」
だから……
「あーしは2人のこと、絶対に裏切らないからね」
「……私も」
「ボクだってそうだよ!」
うん、2人共、期待通りの答えが返ってきてくれた。
「けど急にどうしたの?」
「いやー、ちょっとね。今やってる劇に、そんなのが出てくるから」
「へ~」
ふぅ、リリはごまかせた。
「……」
でもみゃーこには、感づかれたっぽいかな。
「2人共見に来てよね。文化祭の劇」
「もっちろん!」
「ん……絶対行く」
……さってと、この後はどう動くのかね、委員長は。