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文武平等  作者: 風紙文
第七章
162/281

もしかして

今の状況を、再確認する。

場所は街中、だがここは普段から人の通りが少なく、周りの雰囲気が変化したのから考えるに空間の中に入っているようだ。

ここは通路のようになっており、前後に道はあり左右は家屋の塀。そして、俺達の前後にリリィとレドナ……

「あなた方の剣、」

「狩らせていただきます」

2人が剣を取り出し……完璧に、挟まれた。

「ヤベェ……おい早山! この仕掛け早く外せ! 剣が振れねぇよ!」

「……前に押せ。箱の配置は、前に押し出せば抜け出せるようになっている」

「へ? そうなのか?」

早山の言う通り、階田が柄を押すと剣は地面に落下。箱の囲いから抜け出した。

「おー、本当だ」

納得して、剣を拾い上げる、

「隙ありです」

その状態の階田を、リリィの鎌が切り裂いた。

「いっ!?」

マズイ、階田にリリィの剣は……

「この……やりやがったな!」

階田は拾い上げたままの剣を、上段へと切り上げた……あれ?

「あら……?」

リリィも首を傾げている。そう、喰らった男の動きを制限する能力を持つ剣の一撃を受けた階田が、普通の状態でいる……つまり能力を受けていなかった。

「へ、惜しかった剣狩り。オレにそれは効かねぇ」

剣を構え直し、余裕の笑みを浮かべる。

「……それは、どういう意味ですか?」

必ず効く、そう思っていた能力が効かない相手がいるとはリリィも予想外だったらしく。階田へと訊ね、

「それはな、オレはお…」

「まさか」

答えを言う前に、リリィは口を挟んだ。

「もしかしてアナタ……女の人、なのですか?」

『!?』

俺と花正、早山さえ、階田を見て目を丸くした。もしそうだとしたら、驚きだが……

「……そうなの?」

1人いつも通りの三夜子が階田へと訊ねる。

「ちげぇよ! オレは正真正銘男だっつの! 特に早山! テメェは知ってんだろうが!」

「……そういえば、中学の修学旅行で男風呂に入っていたな」

早山の表情が一瞬で元に戻った。あぁ、やっぱり違ったか。

「あのな……いいか、よく聞けよ、オレは、お…」

「もしかして」

続いて口を挟んだのは、こちら側にいるレドナ。

「キミ……男色なの?」

『!?』

今度は俺と早山だけが驚いた。

「だんしょく? むぅ……三夜子、だんしょく、とはどういう意味だ?」

「……暖かい、色。だから暖色」

「おぉ、なるほど」

「納得するな花正。そして三夜子、お前の暖色はレドナの言ったやつとは違う」

「……なら、どういう意味?」

「創矢、知っているならぜひ教えてくれ」

……本当に、三夜子は冗談で暖色と言ったわけではなく、言葉を知らないみたいだな。それをレドナが知っているのが驚きだ。

「……お前達は知らなくていい言葉だ」

男色。男を好む男、つまり男性の同性愛者のことだが……

「むぅ……帰ったら調べてみるか」

「やめろ」

「……」

「やめろよ?」

「……そこまで言うなら」

知らないなら、知らなくていい言葉だ。

「……階田、お前、そうだったのか」

隣に立っていた早山がゆっくりと階田から距離をとった。

「違うに決まってんだろ! というかテメェ、オレがまだ言ってる最中だろうが!」

「アハハ、ゴメンね」

悪びれた様子もなくレドナは謝った。

「くっ……、いいか、よく聞けよ! 途中で誰も口挟むなよ!?」

念押しして注意すると、階田は再び語り出した。さすがにもう邪魔する人はいなかった。

「お前等の能力を聞いてるぞ、魅了だかなんだか知らねぇが……オレには効かねぇ! 何故なら!」

ビシッ! と剣の先をリリィへ向け、宣言した。

「オレはお前等に、魅力を感じねぇからだ!」

「……なるほど」

リリィが納得したように、ゆっくりと頷く。

「過信というのは、よくないものですね。私や兄さんに魅力を感じない者はいないと、勝手に思い込んでいましたから……そうですよね、兄さん?」

「うん、姉さんの言う通りだ」

リリィの言葉に頷き、レドナが続く。

「今まで狩った人達、皆がみんな引っ掛かるから、絶対防げないの能力とか思ってたけど。そんなことはないって、今思い知らされたよ……ね、姉さん?」

「えぇ、兄さん……しかし、」

「うん、姉さん……けどさ、」


『だから、どうしたと言うんですか?』


ステレオの如く、左右から同じ言葉が聞こえた。


「過信してるのは、」

「そちらも同じ。」

「能力は相手の動きを制限するだけで、」

「本来倒すのは剣の刃による攻撃。」

「能力が効かないからといって、」

「決して勝てないわけではない。」

「教えてあげましょう。」

「見せてあげましょう。」

『我ら双子の剣の舞』

「アナタ方の剣、」

「狩らせて頂きます」

2人は同時に動き出した。

「へっ、来やがれ!」

「武川! そちらは任せる!」

階田と早山が迫るリリィに、

「分かった、無茶するなよ!」

「創矢、来るぞ!」

「……あの時のリベンジ」

俺、花正、三夜子の3人でレドナと対峙した。

かくして決まった対戦相手だが、現状は……こちらが不利だ。理由はもちろん、早山と階田の相手がリリィ。三夜子と花正の相手がレドナというところだ。

確かに階田に能力は効かなかった。しかし剣術で言えばおそらくこの中で一番下、それと能力の効くかもしれない早山との2人組だと、少しばかり不安だ。かといって俺が入ると能力を受ける可能性があるし、今度はこちら、レドナと対する三夜子と花正が不利になる。

三夜子にレドナの能力が効くのは既に実証済み、花正もきっと同じだ。となれば同性の俺が戦わないと、2人は負けてしまう……そもそもこういう配置になっているせいもあり、

「くっ……一太刀も当たってはいけないとは、厄介な相手だ」

果敢に攻めた花正が後退しつつ呟く。良い状況とは言えなくなっていた。

更にいつの間にか俺達とレドナの位置関係が入れ替わり、レドナの向こうにリリィと戦う早山達が見えるようになっていた。あちらも苦戦気味だ。

「創矢、何か策はないのか?」

「考えてはいる、けど何も思い浮かばないんだ」

幾つか案は浮かぶのだが、全て対抗策まで出てきてしまう。他に何か、策を考えないと……

「なら、思いきって突っ込むのはどうだ?」

「……いいかも」

え、おい、2人共。

「よし、言ってみるぞ三夜子! 創矢はその内に策を考えておいてくれ!」

「ま、待て!」

しかし止める間もなく2人はレドナへ突撃を開始した。

何考えてんだ! 危ないのはお前達なんだぞ!

「覚悟!」

「……っ!」

花正が鞘を通過した剣の速効居合い切り、三夜子が十字に構えた双剣の二撃を繰り出す、

「甘いよ」

そんな2人の攻撃は、寸でのところでレドナに避けられてしまい、

「そして、隙あり」

その攻撃後の隙をつかれ、柄の長い槍による横薙ぎを2人は食らってしまった。

「しまっ!」

「……!」

間に合わなかったか……! 下がって来た2人は俺を挟むように立った。

「そ、創矢! 喰らってしまったのだが、どうすればいい!?」

「落ち着け! まず俺は見るな、レドナもあまり見ないようにして、花正は三夜子を、三夜子は花正を見るように…」


「その心配はいりません」


フォン……


「な、なんだ?」

「……あの声」

それに、今の音は……

「皆さん、ご無事ですか」

「アルクスさん!」

いつの間にか、後ろに剣を振り下ろした状態のアルクスさんが立っていた。

「今、もしかして……」

「はい、能力の無力化を行いました。お二人はもう大丈夫です」

助かった、あのまま2人が行動を制限されていたらどうしようかと考えていたところだ。

「さて、どうやらあちらはお二人のようですね。ワタクシはあちらを手助けに行きます、こちらはお願いしますね」

「え……あ、はい」

言うやいなやアルクスさんはレドナの脇を抜け、早山達の方へ行ってしまった。

正直言えば、アルクスさんにこちらの手助けを頼みたかったのだが……今となっては遅いか。

「やるしか、ないな」

剣を構え直す。左右では三夜子と花正も同じように前に立つレドナを見ている。

「創矢は、どうする」

「賭けに近いが、やってみる価値がある策なら思い付いた。2人共、手伝ってくれるか」

「……もちろん」

「うむ、改めて言わなくても当たり前じゃないか」

そうか、そうだよな。

俺は2人に作戦を伝え、

「よし……行くぞ!」

実行に移した。

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