調理実習 開始
調理実習の献立は全4品。
おにぎり
ネギと豆腐の味噌汁
筑前煮
ほうれん草のおひたし
これらを本来なら班の5人で分担して行うのだが、
「態々分担する必要はないな、順に作っていこう」
という訳で食材切りから始める事に。
人参、蓮根、牛蒡、鶏肉、まずはこれ等を包丁で一口大に切る。
包丁は一班に二本なので、俺と七ヶ橋が担当する事に。
俺が人参を切っていき、前では七ヶ橋が蓮根を切っている。
「お~、みゃーさん包丁裁きがいいね~」
ふと見てみると、七ヶ橋が持つ包丁により蓮根が一口大に切られていた。
「おぉ、上手いな」
「……刃物の扱いは慣れてる」
「え? どゆこと?」
「刃がついた物なら……大体扱える……例えば」
まてまてまて。
「七ヶ橋」
「……?」
名前を呼ばれこちらを向いた七ヶ橋は首を傾げた。
手招きして呼び、耳打ちをする。
「剣の事はあんまりばらさない方がいいんじゃないのか?」
今の流れは絶対に言おうとしていたよな。
「……大丈夫。リリにはバレないように気をつけてる」
リリとは、押川の事だろう。押川の事あだ名で呼んでるのか。大切な友達は、危ない目にはあわせられないって事だよな。
「そっか、悪かったな」
「……でも」
「ん?」
「……もしかしたら、知ってるかもしれない」
「え……」
「だから仲間かもしれない……でも、敵かもしれない……ここにはどちらもいるかもしれない、だから……少しずつ、周りにヒントを出してみようと思ってる」
それだけ言うと、再び蓮根を切り始めた。
そうか、剣は世界に百本、確率は低いだろうが、少なくともこの辺りで既に三本も剣が確認されている。だったらこの学校の誰かが、クラスの誰かが持っていてもおかしくはない。
それは押川にも言える事、それが、剣狩りの仲間でも。
だとしたら、自ら剣を持つ事を示して仲間を集うのも悪くない方法かも知れない。
例えそれが、敵が来たとしても。
自らを犠牲にするのだ。
この、七ヶ橋三夜子という人は……
……だが、今のを聞いてたのは押川だけだぞ。しかも気にはせず、今は鍋に水を入れて火にかけている。近くにいた早山も、米を洗っていて聞いてない。
つまり、ヒントにも何にもなってなかった。
炊飯器に米をセット、早炊きに設定してスイッチを押す。
ピッと音が鳴り、炊飯器が動き出した。
「……次はどうする?」
その作業を終えた早山が訊ねてきた。
時間にはまだ余裕がある。筑前煮の材料は切ったし、今まな板と包丁は味噌汁の具材であるネギを七ヶ橋が使っている。
今すぐにやる事は……
「お湯が沸いたよ~」
鍋の前でお湯が沸くのを見ていた押川が言った。
「じゃあ、味噌汁用とほうれん草用に分けるか」
「分かった、ほうれん草は任せろ」
早山は言うや否や机の下にあった鍋を持ちコンロへ、鍋の取っ手を持ち中の湯を半分移した。
「おお~、はやまん凄いね、熱くないの?」
「……どうって事ない」
鍋をコンロに置き、火をつけ、ほうれん草を入れた。
「じゃあボクが味噌汁を作るね」
押川はもう片方の鍋にダシをとる為の鰹節を入れた。
「となると、俺と七ヶ橋で筑前煮とおにぎりか」
「……まだかかる」
ネギを切り終え、炊飯器に表示された時間を見た七ヶ橋が、米が炊けるまでまだ時間がかかると言ったので、
「じゃあ、筑前煮だな」
机の下からフライパンを取り出した。
「と、今はダメか」
そこで気付いた。コンロは一班の机に2つ、その2つには今鍋が乗っているので使えない。
「まあ、時間はあるしな」
フライパンを机の上に置く、
「……なぁ、武川」
その時、不意に早山が話しかけてきた。
「なんだ?」
「あの、お前と同じクラスの女子がいるだろ」
そう言いながら前を指差すその先には、
「七ヶ橋か?」
七ヶ橋がネギを切った包丁とまな板を洗っていた。
「ああ、その七ヶ橋なんだが…」
「どうかしたか?」
「さっき物騒な事を言ってなかったか? けんがどうとか、刃物なら扱えるとか」
さっきの、聞こえてたのか。
「そうだな、言ってたな」
「それと、普段傘を持ち歩いていると聞くが」
「ああ、間違いない」
「……言い難いが、七ヶ橋は…」
「どこもおかしくない」
早山が言う前に断言した。
「あいつは至って普通だ、それが七ヶ橋って奴だ」
「……そうか、おかしな事を聞いて悪かった」
コンロの火を消し、鍋を流しへ持っていく。七ヶ橋がまな板を洗い終えた所にザルを置きお、湯を捨て中身はザルの中へ。
「空いたぞ、使ってくれ」
「あ、あぁ」
……早山、案外良い奴なのかも知れないな。




