姉妹対決
開始早々、三夜子が持ち前の素早さで双海さんとの距離を一気に踏み込んだ。
「お、早いね」
「……」
表情を全く変えずに驚く双海さんに対して、同じく無表情に三夜子は両手の剣で連撃を繰り出した。
「おぉ、さすが双剣」
しかし双海さんはまたも驚くことなく、左手に持つ剣で全ての攻撃をいなしてしまう。
「やはり剣の扱いは双海さんの方が上手ですね」
「あーしの八連撃も守られる気がするなー、つか守りそう、双海さんなら」
「……」
全ての攻撃を防がれた三夜子は後ろへ下がり、距離を開けた。
「うんうん、数ヶ月でその実力なら必ず強くなるよ三夜子、ワタシが保証する。ワタシにも勝てるようになるよ」
そう言う双海さんは、明らかに手加減していた。言葉からも、ただ攻撃をいなしていただけからも分かる。
「……嬉しい、けど」
「けど?」
「……今、勝ちたい」
三夜子は剣を交差に構えた。あの構えは……
「……かまいたち」
一気に振り切る。それと同時に、三夜子の剣から鋭い風が吹き出した。
「おっと」
さすがに少し驚いた双海さんは剣を前に防御する。だが吹く風を完璧に防ぐことは出来ず、腕や足に鎌鼬の風が触れた。
「ふむふむ、風の能力か。なんとも三夜子らしいね」
三夜子らしい……か?
「え……? 2人はそう思う?」
「ど、どうだろう」
2人も首を傾げていた。
「ではでは、三夜子が能力を見せてくれた訳だし、ワタシも能力を見せるとしましょう」
双海さんは剣……ブーメランの形状をしたその先を、三夜子へと向けた。
「……」
三夜子は防御の姿勢を取り、双海さんの言ったブーメランの能力へ身構える。
「三夜子、ミョルニルって知ってる?」
だが双海さんは、何故か質問してきた。
「……? にょるみる?」
違うぞ三夜子。
「三夜子なら言うと思ってたよ。しかし、のー、にょるみる。いえす、ミョルニル」
「……知らない」
「だよね、知ってた」
知ってて聞いたのか双海さん……しかし、ミョルニルか。
「にょるみるだがミョルニルだか分からないけど、2人は知ってる?」
「うん、僕は一応」
「俺も知ってるぞ」
ミョルニルとは、北欧神話に出てくる神の一人、雷神トールが持つ武器だ。だがミョルニルは確かハンマーの筈。ブーメランとは似てもにつかない……
「そうか、そういうことか」
「武川さん、もしかして」
萩浦も同じ答えに行き着いたらしい。
「あぁ、間違いない」
「どういうこと? そのミョルニルが双海さんの剣の能力と何の関係があんのさ?」
「どうやら分かってる人がいるみたいだし、答え合わせと行きますか」
双海さんは剣を、ブーメランを背負うように振り上げ。
「まぁ三夜子も、この姿を見れば分かるだろうけ……ど!」
振り下ろすと同時、双海さんは剣を手放し、ブーメランは回転しながら正面に立つ三夜子へと飛んでいった。
「……!」
身構えていた三夜子は飛んでくるブーメランを見る。だんだんと近づいてくるブーメランをただただ見続け……
「……今」
当たる寸前、横に回避、数秒前三夜子がいた場所をブーメランは通過し……
軌道を90度三夜子の方へ変えてその体を通過した。
「……え?」
予想外の軌道に、三夜子は驚いている。
「えぇ!? ちょ、何今の曲がり方! ブーメランって直角に曲がるの!?」
それを見ていた陽花はもっと驚いていた。
「アレが、ミョルニルという意味だよ」
「へ? どういうこと?」
「神話に出てくるミョルニルには、投げると相手をなぎ倒して帰ってくるという能力があるんだ。つまり…」
双海さんの剣がそれと同じ能力を持っているなら。
「……相手に必ず、当たる攻撃を放つ能力」
「強すぎない? ソレ」
「まぁ、半分当たりだよ」
双海さんは戻ってくるブーメランを見ながらそう言った。
「? ……半分?」
「そ、半分……」
回転を続けるブーメランに手を伸ばし……
「あ」
取り損ねた剣が、双海さんの手を通過して地面に刺さった。
「あぁー、やっちった」
「え……?」
「な……?」
「……?」
な、何で自分の剣が手を通過するんだ? それにもしミョルニルなら、必ず投げた本人の手へ帰ってくる筈……
「ま、こういうことなのだよ」
やれやれと首を振った双海さんは、刺さった剣を引き抜く。
「……なるほど」
どうやら三夜子は意味を理解したらしい。
「ど、どういう意味ですか双海さーん?」
理解出来ない陽花が訊ねると、双海さんは答えてくれた。
「ミョルニルみたいに、投げれば必ず当たって帰ってくる。まぁそれはそうなんだけど、ブーメランはさ、当たればあまり戻って来ない……これは剣だから貫通して戻って来るけど……戻って来ても、必ず手で取れるって確証は無いでしょ?」
「まぁ、そうですね……」
「それにさ、言っちゃえばコレほとんどが刃だから、取り損ねたら、絶対自分が傷つくよね」
「た、確かに……」
ということは、双海さんが持つブーメランの剣の能力って……
「つまり、投げれば必ず相手に当たって帰ってくる。ただしそれを取り損ねたら自分もダメージを受ける。という、諸刃の剣的な能力なのだよ」
「えー……強すぎと思ってたのに……」
「強力過ぎる故に、失敗時のデメリットもあるんだ」
「けど、ワタシっぽいよね? ね?」
「そ、それは……どうでしょ?」
「ぼ、僕はそうとは……」
陽花と萩浦は否定している。トリッキー、という意味では合ってはいるが、俺も賛同しかねるな。
「……確かに」
三夜子は首を縦に振った。
「「賛同者いた!?」」
さ、さすがは双海さんの妹か……
「でしょー? さてさて、互いの能力披露も終わったし……そろそろ本気で始めよっか?」
「……ん、本気で」
双海さんの纏う雰囲気が変わった。今までの余裕は一切なくなり、剣の先を前へ向ける。
三夜子も、表情に変化は無いが、前を見るその視線は相手だけに向けられている。
「……いざ」
「勝負……」
先ほどとは比べものにならない本気の2人が、これから戦おうと……
「あ! ちょ2人共ストップストップ!」
陽花の声がそれを止めた。その理由は、
「人来た!」
剣を使っている姿、ましてやそれで戦っている姿など他の人には見せられないからだ。
「ふむふむ……勝負はお預けだね、三夜子」
「ん……残念」
三夜子は剣を傘に戻した。双海さんは剣の、ブーメランのまま、近くに置いてあったギターケースの中に閉まった。
そこへ、陽花が気付いた人がやって来る。
「あれ……?」
そこへやって来たのは、
「……早山?」
今日は部活ということで、この誘いを断っていた早山だった。
「お前達は……そうか、ここが、七ヶ橋の家なのか」
俺達と、向こうに立つ三夜子達を見て理解したらしい。
「そうだけど、早山はこんなところで何してんだ?」
学校のある場所からわりと離れているこの場所で。
「……どうやら気付いてないようだな」
「気付いて、ない?」
「この辺りに、剣狩りが現たれという情報が入ったんだ」




