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文武平等  作者: 風紙文
第七章
148/281

鎌の恐ろしさ

今までは形状や大きさこそ違ったが、剣対剣、真っ直ぐな刃が相手だった。

しかし今の相手は、鎌。故に対剣の動きでは対処出来ない部分がいくつもある。それ以前に、剣道をしているからという訳では無いが鎌を持った人と対峙したことなど無い。いやほとんどの人が無いだろう。かなり、厄介な相手だ。

「なかなかやりますね」

今も防戦を強いられている。反撃が出来てない訳ではないが、半円を描く刃という鎌の防御範囲はとても広かった。

「そうでないと張り合いがありません。ですが、そろそろ終わりにさせて頂きます」

リリィが刃をこちらに向けたまま突撃。俺は剣を横に構えて防御の姿勢を取る。

「ふふふ……甘いですわ」

しかし、リリィが持ち上げた鎌の刃が剣を越え、振り下ろされると俺の肩に突き刺さった。

「!?」

そうか、剣の柄に棒をつけて使っているようなものだからこんな技が出来るんだ。

更に追撃が来るものと思っていたが、鎌は肩から離れて再び剣を越え、自らの肩に担いだ。

なぜだ? 今の状態からなら攻撃し放題だった筈だ。何か策があるのかと、剣を下ろしてリリィを見る。


瞬間、視界が歪んだ。


「っ!?」


ぐらりと、前に見える景色が斜めに見える。

な、なんだ、コレは?

「あの人達もそうでした。わずか一撃、それだけでもアナタの体は蝕まれるのです」

なるほど。コレが……あの鎌……剣の、能力か。視界の錯乱……いや、それとも違う……何故か、体がふらふらしてきた。状態で言えば……酔っている。それが、一番近い……

「くっ……」

剣を杖代わりに、俺は倒れるのを防いだ。

強力過ぎるだろ、この能力……決して動けない訳ではないが……こんな状態、無防備に近い。

「さぁ……いつまで立っていられますか?」

リリィが攻撃を再開した。俺は歪む視界の中、足を踏ん張らせてふらふらの剣を構えて防御に徹する。


ギギィン! ギギィン ギギィン!!


何とか、全て防いでいる。

だが、このままじゃ……時間の、問題……なんとか……逃げる……策を……

「くっ……!?」

策を考える為、相手であるリリィを見た。瞬間、再び視界が螺曲がる。

おかしい、攻撃は当たっていないのに……い、いったい、どういう能力……ダメだ……考える余裕が、無い……

「そろそろ、終わりですわ」

リリィが一際大きく鎌を振り上げる。

「……」

マズイ、もう一度攻撃が当たって、この効果が増えて視界が歪んだりしたら、倒れるかもしれない……

な、なんとか、逃げる策を……先ほどの反省を生かし、リリィを見ないように……周りを確認。

もといた場所から大分移動したが、住宅街の一本道、後ろは道だけで何も無し。前には剣狩りのリリィと、双子の兄の……

……あれ?


ガギィン!!


「あら、まだそんな力がありましたか」

「……」

何故か、リリィの双子の兄を見た瞬間、視界が回復して、体のふらつきも少なくなった。

……もしかすると、この剣の能力は……

「往生際が悪い。とはこういうことを言うのですね」

鎌を防いだ剣を下げ、俺の顔を真っ直ぐと見た。

「くっ……!?」

するとまた、視界が歪む。

あぁ、やっぱり……この剣、そういう能力か……なら、向こうにいる兄の能力も、おそらくは……

「次くらえば、こんな抵抗も出来なくなるでしょう」

鎌が振り上げられる。

マズイ……今はまた、さっきの攻撃は、防げな…


「させるかよ剣狩り!」


後ろからの声。それはどこかで聞いた人の声で。

「あら?」

「うぉりゃあ!」

その声の主が、リリィへ向かい剣を持って突撃した。純粋に力で押され、リリィが離れる。

あ、あいつは……

「ご無事ですか、武川さん」

後ろから更に人の声。その人は俺の横に並んだ。

「アルクス……さん……」

「その状態、すでに能力が発動していますね……少し動かないで下さい」

アルクスさんは自らの剣を上に振り上げ、


フォン……


縦に一直線へ振り下ろす。それにより、剣の能力が発動して。

「うっ……」

視界の歪みが無くなり、頭がすっきりとなった。

アルクスさんの剣、その効果は無力化。前に戦った時は何て厄介な能力だと思ったが、こういう使い方も出来るんだな。

「ありがとう……ございます」

「どういたしまして。あの2人が、剣狩りですね」

「はい。自分で言ってましたし」

「なるほど、初めて会いましたが……まだ、階田さんより年下な子供ではありませんか」

「そんな子供に、負けかけたんですけどね」

「おりゃあぁ!」

大きな掛け声と共に攻撃を続けているが、階田の攻撃は全てリリィに避けられている。

「威勢が良いだけですね」

仲間である筈のアルクスさんが呟いた。

「まぁ、あちらの攻撃も受けてませんし……」

攻撃は最大の防御、という感じか。

「なかなかやるな!」

階田が間合いを開け、前に立つリリィへと叫ぶ。

「アナタはそこまでではありませんけどね」

リリィは余裕の笑みを浮かべていた……やっぱりアイツ、そこまで強い訳じゃないみたいだな。

「ですが、いささか部が悪いですわね……兄さん、どうしましょう」

「そうだね姉さん、何だかもう1人近づいてくる気配があるし、ここは一旦退こうか」

もう1人? 花正か?

リリィは名前の分からない兄の隣に並び。

「それでは皆さん、」

「本日はこれにて失礼致します。」

「次に会った時は、」

「その剣、」

「狩らせて頂きます」

2人で揃って同じセリフを言って、去っていった。

「待ちやがれ!」

「階田さん、深追いは無用です」

追いかけようとした階田をアルクスさんが静止させ、剣狩りの双子が見えなくなるまでその場を動かなかった。

2人の姿が見えなくなって、ようやく一息ついた。

「思っていたより、厄介な相手のようですね」

剣とは異なる技を使う剣に、たった一撃で発動する強力な能力。それの、2人組。

「せめて能力が分かれば、対処が出来るのでしょうが」

「それなんですが……」

俺はそっと手を挙げて、能力を直接受けた者として、あの2人の能力を仮定した。

「なるほど、一理ありますね。剣守会の方々に報告させて頂きます」

「あくまで仮定ですけど」

「創矢!」

その時、花正が走ってやって来た。やはり双子が感じたのは花正だったようだ。

「何やら嫌な気配がしたので走ってきたのだが!」

「それなら、もう終わったぞ」

「む、一足遅かったようだな」

「アナタは確か……」

「む! お前は!」

アルクスさんを見た花正は臨戦態勢に入り、腰に差していた剣に手を触れる。

「落ち着け花正、アルクスさんは味方だ」

「そ、そうなのか?」

「そうでしたか、アナタもまた、剣の持ち主だったのですね」

「うむ、あの時は創矢に言われて下がったのだ」

それは言わなくても良いだろ。

「さて、剣狩りは去ったようですし、ワタクシ達は失礼します。階田さん、行きますよ」

「剣狩りめ、今度会った時はメタメタにしてやるぜ」

「行きますよ」

「おぅ!?」

アルクスさんは階田の服の襟を掴んで引っ張り運んで行ってしまう。

「ちょ、アルクスさん! 一人で歩けっから!」

抜け出た階田はアルクスさんの隣に立ち、並んで歩いて2人は去っていった。

「あの神父さん、本当に剣守会の仲間になったのだな」

「アルクス牧師な」

さて、本当に危機も去ったようだな。

「ちゃんと携帯は持って来たか」

「うむ、もちろんだ。コレが目に入らぬ…」

「入らねぇよ」

黄門様よろしくのセリフとポーズを途中で切り、

「それじゃ、行くぞ」

俺達は学生寮へと向かった。

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