再びの違和感
「それは恐らく、階田さんでしょう」
急な襲撃を受けた翌日、寮のルームメイトにして、あの男と同じ剣士団の萩浦が教えてくれた。
「隣町の高校に通う、僕達と同い年の方です」
同い年だったのか……年下に見えたのは言動のせいだな。
「ですが、アルクスさんとペアでこの辺りを担当していたのは初めて知りました……剣狩りが、現れたんですね」
「あぁ、そうらしい」
アルクスさんは昨日、明日には俺の耳に詳しく入ると言っていったが。
「紫音にも伝えた方が良いですよね」
「いや、どうだろう」
陽花は今、言ってしまえば他の任務中というやつだ。それを考えたら、剣狩りに対している場合じゃないと思うが。
その時、
「翔一ー、武川ー」
後ろから、今話題になっていた陽花が、一人でやって来た。
振り返って止まって見て、違和感を感じた。
「一人なのか?」
「そういえば、七ヶ橋さんはどうしたのでしょう」
ルームメイトの押川は陸上部の朝練だと分かるが、三夜子はいつも一緒に登校してい…
「……こっち」
「おぉ!?」
真後ろから聞こえた声に振り返れば、表情の一切変わらない三夜子が立っていた。
「……おはよう」
「あ、あぁ……」
今回はいつも以上に心臓に悪かった……
「……ん?」
そしたまた、違和感が。
「……どうしたの?」
違和感の原因を探して三夜子を見ていると、首を傾げて訊いてくる。その際に、ぴょこんと揺れるものが……あぁ、なるほど。
「髪か」
「ん……また伸びてきた」
確か数ヶ月前にも同じように邪魔だから縛ってたな。
「ふへー、武川よく気付いたわね。あーしなんてみゃーこが急に髪ゴム欲しがった時はどうしたのかと思ったのに」
「前にも同じことがあったからな」
「みゃーこって髪伸びるの早いもんねー。どう? 思い切ってもっと伸ばして、あーしとお揃にするの」
陽花の髪型……は、名前があったと思うが、思い出せない。
「なかなか良いよ、ウルフカット」
ウルフカットっていうのか。
「……悪くない」
「でしょでしょ?」
「……でも、今までのが良い」
「ありゃ、ならまた、お兄さんにカットしてもらうんだ」
「ん…………でも」
「でも?」
「……」
三夜子は何故か、俺の方を見て。
「……床屋でもいいかも」
いや何故俺を見てそれを言うんだ。
以前、大和先生が忙しくて三夜子の髪を切ってやれない時、俺が最寄りの床屋まで案内したことがあったが、さすがに場所は覚えただろうから俺が行く必要はないよな?
「いやいやみゃーこ、切ってもらった方が良いよ。タダだし」
「……そうかも?」
「ま、それは追々考えれば良いよ。今はさ」
陽花は鞄の中から、一冊の本を取り出した。紫色の薄めな本で、表紙には台本と書かれている。
「もう八割方覚えたから、双海さんに会いに行く日を決めるわよ」
「もうそんなに? 紫音の役って何なの?」
「というわけで! 今週の日曜日に決定!」
萩浦の質問をスルーして、陽花は何もない空を指差した。言いたくないのか、それとも実は覚えてないからの現実逃避か……多分どっちかだろう。
「言いたくないなら、そう言ってくれればいいのに……」
萩浦は前者に捉えた。
「……お疲れ」
三夜子のこの励ましは、後者の意見かもしれなかった。
結局、陽花の役ところは分からずじまいで、学校に到着。
因みに、七々橋家に向かうのは本当に日曜日に決定になり、それは明後日のこととなった。
「皆揃ってるか?」
放課後、部活の時間。パズル部の部室にやって来た顧問の大和先生がお決まりの台詞を言って部室内を見回した。
現在部室の中には4人。俺、三夜子、萩浦と、月乃。押川と早山は掛け持ちしている部活の方へ行っていると伝えると。
「早山がいないだけなら、平気か」
大和先生は黒板の前に立ち、チョークを持った。それだけでもう、何をするか分かった。
「剣狩りが現れた」
やはり、今日詳しく俺達の耳に入るらしい。
「しかも今回のは……結構強敵らしい」
「……強敵、らしい?」
「確認されたのが3日前。前回は4人組だったが、今回は2人組……だが、実はもう剣守会と剣士団のメンバーが何人かやられてるんだ」
「たった3日で……」
「その脅威から、剣守会では2人一組の体制で動くようになったくらいだ」
昨日のアルクスさん達はそういう理由なのか。
「皆も気を付けてくれ、今回現れた剣狩りは…」
黒板にチョークが走り、字が書かれる。
「双子の子供だ」
こ、子供?
「子供が剣狩りのメンバーなんですか?」
「あぁ、負けはしたが剣を狩られないよう逃げてきたメンバーからの情報でな、確かだ。まぁ子供と言っても中学生の後半くらいらしいが」
双子と書かれた上に、性別で男を表す記号と女を表す記号が書かれる。
「男女の双子で、2人が持つ剣もこの形らしい」
この形、と男女の記号を指し示す。そんな形状の剣や刀なんてあったか?
「今情報部が何の剣かを探索してる。能力が分かれば対抗策も取れるだろうから、それまでは会わないように注意してくれ」
俺達が各々返事をした。その時、
「みゃーこー、いるー?」
扉が開かれ、目的の三夜子を見つけて陽花が中へ入ってきた。
「……どうしたの?」
「良いこと思いついたの、双海さんに髪切ってもらえばいいんじゃん」
普段は兄である大和先生が三夜子の髪を切っているらしいが、そんな手もあるのか。
「……姉さんに?」
「そうそう、どうせ近々行くんだし」
「お、何だ三夜子、家に帰るのか」
「ん……紫音と、創矢達と一緒に」
「今度の日曜日に行こって決めたんです」
「そうかそうか、日曜日っていうと明後日だな。じゃあその日は部活に休みにするか」
「マジで! 大和センセ話分かるー!」
「まぁ俺は忙しくて行けないけどな。あ、じゃあちょうど良いから双海にいつまで居られるか訊いといてくれ」
「ん……分かった」
「みやっちも一緒にどう? みゃーこん家驚かされるし、双海さんはみゃーこの三倍だよ」
陽花が月乃を見て訊ねた。月乃、陽花にみやっち、って呼ばれてるのか。
「そうね、行ってみたいんだけど。明後日は他に用事があってね」
「そか、ザンネン。じゃま変わらず4人で行くとしますかー」