教会へ来た理由
……side 陽花
授業が終わって、三夜子からの誘いを断腸の思いで泣く泣く断って、あーしはここを訪れた。
「確かこっちの方……あ、あった」
前に広がるのは、どう見ても場違いな教会。
なんでこんなところに教会なんか建ったりしたのか、その理由は分からないけど、あーしが思っているこの想像は、あながち間違いではない思う。
周りに誰もいないのを確認して……いざ、調査開…
「そこに居るの、陽花さん?」
「!?」
声は真後ろから聞こえた。おそるおそる振り返ると、
「い、委員長?」
「……陽花さんは転校生だから仕方ないけど、学校の外ではそう呼ばないでくれる?」
「あ、スンマセン……じゃなくて、なんでここに?」
「こっちのセリフよ。もしかして道に迷った?」
いや、そうじゃない。一昨日教えてもらったからここを目指して来たんだけど、
「そうなんだよー、真っ直ぐ歩いてたつもりなんだけどさ」
ここで違うと言ったら、理由を考えなくちゃいけないから嘘をついた。
「真っ直ぐって、ここは逆方向も良いところよ」
「あっははー、あーしってば昔から方向音痴でさー」
あれ? そういえば。
「委員長こそ、こんな場所で何してんの?」
「道草よ、それでそういえば最近教会が建ったとか聞いたから来てみたの」
「へー、そんなことしそうなタイプには見えないけどね、委員長」
「……あのね、陽花さん」
「はい?」
何か、委員長怒ってる?
「何度も言うようだけど、私を学校の外で委員長とは呼ばないで、そのあだ名が定着するの嫌なのよ」
「あー、そりゃスンマセン、ついその呼びに慣れちゃって」
「次からは気をつけてね。名字の桔梗でも、名前の藍でいいから、呼び捨てでもあだ名でいいわ、ただし、アレは無し」
「へーい」
すんごい思い入れがあるんだな、委員長(口には出してないからセーフ?)
「よろしい。まぁ私も用事は済んだし、案内するから一緒に寮へ帰りましょう」
「わーい、サンキューですいいん…」
「……はい?」
おおっと、危なっ。
「き、桔梗……さん」
「よろしい」
委員長こえー、今の目マジだったー。
とその時、
「おや、こちらに御用ですか?」
教会の中から、あの時見た牧師が現れた。しまった、見つからないようにしてたのに。
「少し珍しかったんで、見に来ただけっす」
委員長が言ってたのと同じような嘘をつく。
「そうでしたか、確かに、ここはまだ建ってから日が浅いですからね」
「という訳でー、充分見たので失礼しまーす。行こう桔梗」
「えぇ、失礼します」
揃って頭を下げ、踵を返して歩いていくと、
「お待ち下さい」
二歩も行った所で引き止められた。
「何ですか?」
「我が教会では、毎週日曜日には瞑想を行っております」
知ってる。まさに一昨日見に来たばかりだ。
「それとは別に、迷える方々の話を聞くことと……」
何故か間を開けて、牧師は、言った。
「……悪しき刃を、集めて浄化もしています」
悪しき刃? それって、まさか……
「そう、貴女方から発せられる気配を持つ刃のことです」
「「!?」」
バ、バレたの? 錠がかかってんのに。やっぱりコイツ、剣に関係してるのか。
ん? いやちょっと待てよ。今、貴女方って言ったよね、ということは……まさか、委員長も?
「悪しき刃を集める。それがワタクシがここへ来た理由です。先日も一つ悪しき刃を人から離すことが出来ました……さぁ、貴女方の悪しき…」
「「断わる!!」」
あーし達は同時に走り出した。
「ちょっと委員長! まさかとは思うけどひょっとして委員長も持ってんの!?」
「その呼び方は辞めてって言ってるでしょ! そういう陽花さんこそ!」
「もち! もうバレてるみたいだから見せる!」
あーしは鞄の中から剣を、錠のかかった状態のを取り出した。
錠のかかった状態のそれは、金剛杵とかいう神様の持ってる法具に似てる物で、それが知恵の輪みたいに2つ絡まっている。
「そっちは!?」
「今はそれどころじゃないわ!」
えー、何かそれズルい。とか思いつつ前を見ると、
「花正!?」
そこには買い物袋を持った花正が歩いていた。
「あの子、一年生の」
「へ? 武川の従姉妹で同い年でしょ?」
「え? でも確かあの時……」
「逃がしません」
後ろからの声に振り向くと、
「悪しき刃、渡してもらいます」
牧師がスッゴいスピードで追いかけてきてた。つか早っ!? あの裾長い服であのスピードは反則でしょ!
とかなんとか考えてる内に、
「おぉ!? な、なんだ、今通りすぎて行ったのは!?」
あーし達は花正の左右を通りすぎていた。
「あれは陽花と、委員長……? おぉ!? また!?」
牧師も花正の横を通りすぎた。もし花正も持ってたら狙われてたな。
「陽花さん、そこ!」
委員長が指差す前は、二手に別れた道。
「いい、そこで左右に別れて追われなかった方が助けを呼ぶ!」
「おっけ!」
二手に別れた道にたどり着き、
「じゃ! 健闘祈る!」
あーしと委員長は別々に逃げた。
「ふぅ……巻いたかな? それとも委員長の方に行ったとか」
入り組んだ道を右往左往していたら、後ろから誰も来ていなかった。
「とりあえず、助けを呼ぶしか」
携帯を開いて、翔一の番号を選んで…
「オイ、そこの学生」
「?」
見れば前の方に、三人組の男が立っていた。
その内一人は、何か刃物のみたいなのを持ってる。
「その手に持ってるの、俺達にくれないか?」
あ、まだ剣持ったままだった。
「こんな物、何に使うんですか? ぶっちゃけ売っても一文にもなりませんよ」
「いいから大人しく渡してくれないかな、あまり手荒にしたくはないんだ」
「はっ、そんな刃物持って言っても説得力無いし」
「っ! このガキ!」
刃物を持ってた男が一番に怒って刃物を振り上げて近づいてくる
「……」
あーしはただ、それをじっと見る。普通刃物を向けられたらビビるもんなんだけど、そんな気分には一切ならない。
「何でビビらねぇ!」
だってそれ、人切れないし。
「こっちも持ってんの、忘れてんの?」
鞄を放り投げ、錠を外し、剣を構えて……
約8回。それが、相手が倒れるまでに加える剣の斬撃の平均回数。
気持ちが強かったり、あるいは弱かったり、能力による攻撃とか色々合わせたらよく分からなくなるけど、平均はそんなものらしい。
でも分かるよね? 結構な数だってこと。
けど、あーしにはそれが出来たりするんだよね……
ズザザザザザザザ!!
「なにっ!?」
「……」
気ついた時には、剣を持った男は地面に膝をついていた。
「この、テメェ!」
「やりやがったな!」
うわー、負けフラグセリフ言いながら2人、剣持って迫ってきたし。
「……チッ」
ヤバ、舌打ち出た。早く終わらせなくちゃ……
「……ふぅー」
息を吐いて。吸って。
「…………キッ」
ズザザザ!! ズザザザ!!
「いっ!?」
「早ぇ!?」
剣を落として、2人も地面に倒れた。
弱かったな、3人同時でも多分勝ってたかも。とりあえず、鞄を取りに……
「……クッ!?」
ヤバい、ちょっと使い過ぎた。
「くっ……うぅ…………」
し、深呼吸……すぅー、はぁー、すぅー。
「…………ふぅ」
何とか落ち着いた。さすがに連続で使い過ぎたかな。でも別に選んでこの能力になった訳じゃないし、仕方ないっちゃ仕方ないけどさ。
「余波が出んのは、辞めてもらいたいね」
あーしの剣の能力、それは鬼化。肉体強化って言い方も出来る。
簡単に言えば、通常以上の行動を行える。剣を素早く振ったり、回避出来たり。
そしてあーしの剣は持ち手の両側に鍔、その先に二枚の刃、それを両手に一つずつ。計八つの刃を使えば、一回の乱舞で八回斬ってたりする。
ただ、使い過ぎると身体にガタがくるし、鬼の名残か妙に怒りっぽくなる。睨みとかかなり恐くなってるらしい。
はぁー……毎度思うけど、翔一のが羨ましいわ。
「見つけましたよ」
あ、しまった。




