犬か猫か
つつが無く授業も終わり、放課後、部活の時間。
パズル部の部室には、三夜子と同じ部活に入ると宣言した陽花の姿が……無かった。
それというのも、陽花が宣言をした直後……
それよりも、陸上部へ来ない!?
いやいやぜひとも女子バスケ部へ!
いやいやいやぜひ文芸部へ!
いやいやいやいや、ぜひ…
どうしても入れたいらしい数名が猛ラッシュをかけてきたのだ。
『うぇちょっ待って、そんな言われても聞き取りきれないし、つかあーしは…』
ぜひとも!
我が部活に!
入りませんか!?
『わ、わーったわーった! 分かったから! でも見学した上で、あーしが決めるからね!』
……という訳で、折れた陽花は幾つもの部活を見学しに行ったのだ。
「……でもきっと、ここに来ると思う」
「あぁ、多分な」
あれだけ仲の良い陽花だからな、同室の押川もいると分かれば、絶対ここに来るだろう。
で、その押川はと言えば、
「う〜ん……」
現在は部室内で、唸っていた。
「ちょっと、押川どうかしたの?」
「悩んでいるようだが」
月乃と早山がその姿を見て俺達に訊ねてきた。そういえば珍しく、正式な部員全員が揃っているな。
「……リリ?」
代表して三夜子が訊ねると、
「あ、みゃーさん、どうかしたの?」
「……こっちのセリフ、何か悩んでるみたいだった」
「あぁ、やっぱ分かる?」
「ん……あれだけ唸ってれば」
「そっか、じゃあ一人で考えても意味無いね」
押川は三夜子から順に俺達を見て、
「実はね……」
そして、こう言った。
「皆は犬か猫のどっちだろうかな〜、って考えてたんだ」
…………え?
「どういう意味よ?」
「例えばさ、みゃーさんは猫っぽいでしょ?」
「あー……なるほど、そういうこと」
まさか押川、ずっとそれを考えてたのか? ……考えてたんだろうな。
「それでね、パズル部の皆はどっちかなって、考えてたんだ」
「なによ、言ってくれれば一緒に考えたのに」
月乃はノリノリで話に加わっていった。
「つきのんはどう思う?」
「そうね……まず李々子、アンタは犬寄りね」
確かに、押川は犬っぽいかもしれない。
「早山は……どっちかと言えば犬に近いわね」
「まぁ……猫ではないだろう」
早山は犬に決定。
「三夜子は猫っぽいの決定なのよね」
「……月乃も、猫寄り」
「へ? アタシ?」
三夜子が月乃を猫と断定した。
「うんうん、確かに猫だよ、みゃーさんとは別ベクトルで猫っぽいよ」
「うーん……それ喜んでいいのかしらね……」
「それで、後一人なんだけど……」
押川、月乃、三夜子に、早山の視線も一点に集中した後一人、つまりは俺に。
「たけやんは……よく分からないんだよね」
「そうね……早山みたいって訳でもないし……かといってどちらって言われると……」
「どちらでもあり、どちらないでもないとも言える」
「……創矢は分からない」
……なんか、仲間外れにされてるみたいだな。まぁ実際、自分でも分からないから仕方ないが、
「そ、そう言わずに頼む」
なんだか仲間外れにされたみたいで、つい願ってしまった。
「そう、ね……強いて言えば……」
「うーん……」
「そうだな……」
「……」
四人して考え込む、そんなに俺って特徴ないのか?
その時、
「みんな、久しぶりだ!」
昨日は休みになってしまったため、一日ぶりとなる花正が扉を元気いっぱいに開けた。
その音に俺達全員の視線が向き、
「犬だよな」
「犬ね」
「犬だね」
「犬だな」
「……花正は、犬」
全員の意見が一致した。
「おぉ!? いきなりどうしたのだ!?」
「良かったじゃないか花正、まだ決まってるだけ」
「い、いや、よく分からないのだ、頼むから説明してくれ!」
「そうだな……花正は、押川と似たベクトルで犬だよな……」
「創矢!? どうしたのだ!?しっかりしろー!?」
その後、花正に説明したが結局、俺がどちらかは決定しなかった。
……side 陽花
「ふーん……これが女子バスケ部かー」
つか正直、疲れた。だってここで今日4つ目の見学だし。
「陽花さん、前の学校では何部だったの?」
隣に立つ、部活勧誘をしてきたクラスメイトが聞いてくる。
「えーと、どう説明すればいいのか分かんないけど、あーしが入ってたのは、部活っていうか……同好会て言うのかな……まそんな感じの」
「はぁ……」
説明がメンドイってのもあるけど、上手く説明出来ないってのもある。
あーしが行ってた学校では名前こそ部活だけど、やってたことを見ればそう呼んで良いか分かんないものだったし。
「ま、まぁいいや、それより陽花さん、女子バスケ部に入らない?」
「うーん……確かに面白そうだけど、やっぱりあーしはみゃーこと同じ部活に入りたいし」
「でも七ヶ橋さんって文化部でしょ? 絶対バスケ部の方が面白いって」
「でもなー……」
「昔の友達か知らないけど、七ヶ橋さんなんてどうでもいいじゃん、ぜひ…」
…………は?
「……アンタ、今なんつった?」
……あーしは今、どんな顔をしているだろう。
鏡が無いから見ることは出来ないけど、とりあえず分かることは、
「ひっ……!」
その顔を見たクラスメイトが、ビビるくらいの顔だ。
「はぁ……うん、あーし、女子バスケ部は入んない」
「え……な、なんで?」
なんで? 決まってるでしょ?
「みゃーこをどうでもいいとか言う人の居る部活に、あーしが入るとでも思ってんの?」
「う……ご、ごめん……」
「ふぅ……あーしも言い過ぎたわ、ゴメンね」
正直、あーしも言いたくないんだけどさ、カッとなって、つい。
「とにかく、あーしは女バスには入らないから」
「う、うん……」
あー、怖がらせちゃった。ったく……こうなったのはアレのせい…
「紫音」
名前を呼ばれた。誰か、と考える必要は無い。声ですぐに分かったから。
「ゴメン、あーしもう行くわ、さっきはゴメンね」
女子バスケ部の練習する音で溢れる体育館、その入り口に、そこまで大声でもないのにあーしの名前を耳に届かせた人物が立っている。
「ちょうどいいわ、一緒に帰りましょ、翔一」
「うん」
翔一と一緒に体育館を出て校舎を出て、校門を抜ける。他に誰もいない、二人きりで帰り道を歩いていく。
「さっきは何してたの?」
「部活見学よ、入れ入れって厳しくてさ」
「へぇ……でも紫音、もう入る部活決めてたんじゃないの?」
「もちろん、みゃーこと同じところよ。ただあまりにもしつこくてさー」
「それは大変だね」
「全くよ」
ふぅ……翔一となら普通に素で話せるから楽でいい、学校で初めて会った時はああ言ってたけど、別に翔一と仲たがいした訳じゃない。他に人がいたらまた言ってしまうと思うけど。ある理由があって、あーしと翔一はこんな関係を続けている。
「……で、アレは見つかったの?」
「ううん、でも目星は付いてるんだ。そこを重点的に探ってみるつもりだよ」
「そう、なんかあったら言いなさい、あーしも手伝うから」
「ありがとう、紫音」
……みゃーこには悪いけど、アンタの傘みたいに、あーしにも、翔一にも、秘密があるのよね。