剣を持つ者達
……side ???
「いやー助かったわ、ありがとね」
「いえいえ、お気になさらないで下さい」
雅さんの用事を手伝った後、私たちは並んで部室練へと向かった。
「それじゃ、もし帰り会えたらね」
「はい」
私たちの部室は互いに隣合っているので、部室の前で雅さんと別れ、私は1人部室の扉を開ける。
「こんにち…」
「うわぁ〜〜ん!!」
その瞬間、誰かに飛び付かれ…
「え、えぇ!? どど、どうしたの!?」
よく見れば、部活の後輩で一年生の蔓橙華ちゃんが、涙を流しながら私の中にダイブしていた。
「良かったよ〜〜!!」
「な、何が!?」
いきなりの事で訳が分からない、誰かこの橙華ちゃんの理由を教えて! と、思っていると、
「ほら橙華、センパイ困ってるから。離れた離れた」
部室の中にいた一年生の後輩、柏崎緑子ちゃんが冷静に橙華ちゃんを引き剥がしてくれた。
「あ、ありがとう……いったい何があったの?」
「それがですねセンパイ、橙華ってばスッゴい喜んでまして。それはもう泣くほど」
あ、嬉し涙だったんだ。
「追試の結果が今日出て、何とかクリアしたらしいんですよね」
「追試になった時はどうなるかと思いましたけど、何とかクリアして良かったよ!」
「で、はしゃぎまくっていた所にセンパイが入って来たって訳です」
なるほどー。そういえば橙華ちゃん、少し前に『追試になっちゃいましたー!』って泣いてたっけ。
「全く、はしゃぐにしても、もう少し場所を考えてほしいですわ」
部室の奥で、やれやれとため息をついたのは同じ二年生でB組の金香赤乃ちゃん。
「元の教室の半分の広さに加え、今はもっと窮屈なんですから。全く……」
言葉使いに合うように、赤乃ちゃんは椅子に優雅に腰かけながら、再びため息をついた。
「まぁ良いじゃないか。嬉しい出来事があったのだから喜んだって」
そう言ったのは、窓際で背を預けていた三年生の先輩、通辻青三先輩。
「この狭さももう少しの辛抱、ジキに完成する」
その隣で作成を続けながら呟いたのは、同じく三年生日羽里黄希先輩だ。
現在、この部室内は必要な道具を作成して置いてあるので、通常の半分くらいしか人の居られるスペースがない。それでも部員数を考えたらスペースは余るんだけど、赤乃ちゃんは不服なんだね。
「通辻先輩、日羽里先輩、こんにちは」
「うん、こんにちは」
「……」
日羽里先輩も手をひらりと挙げて答えて下さった。
「まだ部長も来てないし、少しゆっくりしてるといいよ」
「はい」
私は入口近くにあった席の一つに座る。
「黄希、製作状況はどうだい?」
「九割といったところ。しかしここからが時間の掛かる作業、このペースならば二日ほど」
「そうか、後二日ほどで、この窮屈から抜け出せるみたいだよ。赤乃クン?」
「早急にお願いしますわ、今までで一番狭くて敵いません」
「早く抜け出す為に手伝うという選択肢はないのかい?」
「わたくしもわたくしでやるべき事がありますので」
赤乃ちゃんは赤一色の表紙の本を開き、目を落としていた。
「じゃワタシ達が手伝いましょうか?」
「はいは〜い! わたしも手伝いますよ!」
泣き止んだ橙華ちゃんと緑子ちゃんが手伝いを申し出るけど、
「気持ちだけもらう、この作業をボク以外が出来るとは思えない」
日羽里先輩は二人を見ないで作業した手を止めず断った。
「キミ達も赤乃クンと同じように、自分達の作業をしたまえ」
「は〜い」
「ふーい」
橙華ちゃんはオレンジ色、緑子ちゃんは緑色の表紙の本を鞄から取り出して読み始める。
「後輩達に示しがつかないし、アタシもやろうかな」
通辻先輩も、青色表紙の本を開いた。
「……」
日羽里先輩も、作業を続ける横に黄色表紙の本が開いて置いてある。
「おっと、時に皆」
本から顔を上げて通辻先輩が、作業している日羽里先輩以外の視線を集めた。
「確か、本日どこかの学年に転校生が来たという話を聞いたのだが」
それって、陽花さんのことだよね?
「それも、2人もだ」
え……? 陽花さんと、もう1人?
「彼等もまた、アタシ達と同じ者かもしれない。もしもその場面を目撃した者がいたら……分かっているね?」
通辻先輩は制服のポケットに手を入れ、ある物を取り出した。
それは、見た目は二枚の細長い板が合わさった物で、用途は全く分からない。
「まぁ、気が向いたらしてあげますわ」
言葉と裏腹に、赤乃ちゃんは制服の胸ポケットからロケット鉛筆を取り出し、皆に見せるように手を前に出した。
「りょーかいです、センパイ」
緑子ちゃんが同じく制服のポケットから、ブリキのゼンマイを取り出す。
「わっかりました〜!」
橙華ちゃんも同じく、コマを回す時に使うような紐をポケットからずるずると取り出した。
「……」
日羽里先輩も作業を続けながらも、使っていたのとは違うハサミを掲げた。
「皆受納的で助かるよ」
通辻先輩は持っていた板を高く挙げると、皆も自分の持ち物を天井へと挙げる。
「後は部長だけだ。だが断わる筈はなく、この時点で決定と見ていい。皆の行動を互いに祈ろう、何故ならアタシ達は…」
「花香ー、居るー?」
ノックの後、部室の扉が開いた。
「は、はい、何ですか、雅さん」
扉の前には、鞄を肩にかけた雅さんが立っている。
「ゴメンね花香、今日部活休みだったの忘れてたのよ。待てども待てども誰も来ないと思ってた時に三夜子からメールがあって思い出してね。悪いけど、先帰るわね」
「は、はい、雅さん、また明日」
「それじゃ」
扉が閉まり、雅さんの足音が遠くに消えていく。完全に消えた時。
「……フゥ、危なかった。ノックと声かけが無ければアウトだったね」
雅さんが現れた瞬間、皆は持ち物をポケットにしまったりして隠していた。
それだけ、見られてはいけないものだから。
「キミの友達だね? 町田クン」
「は、はい」
「彼女に、アタシ達の事は…」
「いいえ、何も言っていません」
「宜しい」
通辻先輩が頷くと、再び手に板を持ち、周りの皆も持ち物を取り出す。
「改めて、皆の行動を互いに祈ろう、何故ならアタシ達は…」
一般の人には、親しい友達にも教えてはいけない。
剣という、願いを叶えてくれる人を傷つけない武器。
「願いを叶えるために集いし…」
ここは部活動とは別に、剣を持った人の集まった、
「演劇部にして…」
夢を叶える、という言葉から造られた名前の―――
―――D,grants
……私の名前は、町田花香。二年C組で、演劇部で。
そして……D,grantsの一員です。




