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文武平等  作者: 風紙文
第五章
120/281

しかし今日は

剣狩りの男が連れて行かれたとの入れ換わりに、大和先生が現れた。

「どうやら無事……とは少し言えないみたいだな」

花正の傷を見て、言葉を変える。

「すまなかった。もう少し早く着いていればこんなことにはならなかったんだが、大人数でここへ来るのは避けたかったんだ」

「心配無いです、傷は浅いですから」

「でも怪我したのは事実だ、何か詫びをさせてくれ」

「うっ……そ、創矢」

引き下がらない大和先生に、困った花正は俺に助けを求める。

「潔く受け入れればいいんじゃねぇか?」

「し、しかしだな……」

まぁ確かに、自分にとって対したことない事でここまで言われたらこうなるか、今の花正が大和先生にしてもらいたことなんて……あ、ちょっと待てよ。

「三夜子、さっきの話」

「ん……分かった」

三夜子が2人の間に入り、大和先生へとさっきの話を伝えると、

「そんなことならお安い御用だ」

「おぉ……かたじけない、大和先生」

どうやら、どうにかなりそうだな。





河川敷で2人と別れ、俺と花正は家に帰ってきた。玄関に入って早々、母さんに花正の傷のことを聞かれたので、河川敷ですっ転んだ。と嘘を言うと、あっさり信じられてしまった。

花正なら本当にやりかねない、と本気で思ってるんだろう。もう少し傷が深くても信じそうだな。

「なぁ、創矢」

「なんだ? あまり動かないでくれよ」

「む、すまん」

今は花正の傷を手当てしていた。俺がだ。

昔っから互いの怪我は互いで手当てするようにしていて、母さんは今もそうするように言ってきた。最初は断ろうとしたが、怪我の原因は少なからず俺にもあるわけだし、嘘をついた償いと思い、頷いた。

「で、何だ?」

「今日部活が休みになったのは、あの通り魔を捕まえるためだったのだよな?」

「そう言ってたな」

「なぜ今日だったのだ?」

「それは……」

そういえば、何でだろうか。確か大和先生は『今日中に決着をつけないとマズイことになる』と言っていたが、その理由か……

「……分かんねぇな」

「そうか」

「よし、終わったぞ」

両腕の切り傷に消毒液をつけ終わる。

「うむ、次は前だな」

花正言うやいなや捲っていた袖を戻し、切り傷の出来たワイシャツのボタンを外して脱ぎ…

「待て待て待て!」

出したのを俺は止めた。

「む? しかし脱がなければ手当て出来ないぞ?」

「それはそうだが、残りは自分でやってくれ」

「うむ、分かったが、どうしたというのだ? 顔を背けて」

「いいから、自分でやってくれ」

「むぅ……昔は普通にやってくれたのに」

そりゃまだ昔だからだ。今は普通に高校生の年齢で、2人共年相応の成長を遂げている。まさかここまで羞恥心が無いとは……あれ? 前にも同じセリフがあったような……

因みに、背中には一切傷は無かった。本人曰く、背中の傷は逃げ傷だ。らしい。

その時、携帯が鳴った。ディスプレイを確認すると大和先生からで、着信ボタンを押す。

「はい」

『創矢か? 無事家まで着いたか?』

「はい、今花正は傷の手当てをしてます」

『そうか、なら良かった。あぁそうそう、電話した理由なんだが、あの件はどうにかなったぞ』

「そうですか、後で伝えておきます」

あ、そうだちょうどいい。

「あの、大和先生」

『ん? どうした』

「今日のことなんですが、なぜ今日中に決着をつけなくてはダメだったんですか?」

『え? 創矢は覚えてねぇのか? 三夜子は楽しみにしてるぞ』

三夜子は楽しみに……

「あ……」

思い出した。そうか、そういうことだったのか。





一夜明け、朝。俺はいつも通りの時間に目を覚ます。朝稽古や道場の掃除をしているので一般的な人よりも早い方だと思うが。もっと早く起きている人はもちろんいる。

携帯を見ると、メールを着信していた。こんな早朝に誰、と思いつつ何故か予想が付きつつ、メールを開いた。


from 三夜子

sub 本日、部活休み、しかし今日は


とだけ書かれていた。本文は無い。

「いや今日はなんなんだ」

思わずメールに突っ込んでしまう。

前はちゃんと本文欄に書いてたが、題名の所に意外と書けることに気づいてからはこういう題名だけメールが増えたよな。まぁ伝えたいことは分かるからいいが。

とりあえずは内容だ、今日も部活は休みらしい、しかし他に予定があるので結果としてパズル部のメンバーは集まることにはなる筈だ。

他の予定等が、ない限り。





時が過ぎて、夕方。家のチャイムが来客を告げた。

「はいはーい」

母さんが扉を開ける音が二階まで聞こえる。

「創矢ー、お客さんよー」

まさかと思い、手早く準備を済ませて階段を降りた。

玄関へ行くと、

「……」

案の定、三夜子がいた。

しかも、浴衣姿で。

「……どう?」

「え?」

開口一番、三夜子は首を傾げて聞いた。どうって、その格好がてことだよな。

「あぁ……うん、似合ってる……と思うぞ」

前にも髪を切った時に聞いてきたが、三夜子は何で俺みたいな異性に聞くんだろうか。他に聞ける人がいないからかもしれないが。

「……なら、良かった」

納得したのか、傾げていた首を真っ直ぐに戻した。

改めて、三夜子の姿を見る。水色の布に、丸い柄のついたシンプルな浴衣、三夜子らしいと言えば三夜子らしい浴衣……うん、やっぱり普通に似合っている。

右手には同じく水色の巾着袋、そして左手には傘を持っている……やっぱり傘だけは普通じゃないな。

「……創矢も似合ってる」

「そうか、サンキューな」

ちなみに俺は浴衣ではなく甚平を着ている。昔からこの日はこの格好だ。

「……花正は?」

「今準備してる、アイツは五年ぶりだからな」

と、その時、

「待たせたな創矢。む? おぉ、三夜子じゃないか」

花正が玄関へとやって来た。

「おぉ、三夜子も気合い充分な装いだな。似合っているぞ」

「ん……」

花正が俺の隣に並び、

「……同じ?」

俺達を見比べた。

そう、花正も甚平を着ている。昔からボーイッシュ、というか武士だった花正は浴衣よりも甚平を気に入り、五年ぶりとなる今にまで至っている。

「うむ、この方が動きやすいからな。いつ誰が攻めて来ようと対処が…」

「誰も攻めて来ねぇよ」

「……ペアルック?」

ペアルックて。

「甚平にその言い方はどうなんだ?」

今日これから行くと所で探せば何人もいるだろう。

「それよりも創矢、早く行こう、待たせては悪いぞ」

「ん……きっと待ってる」

原因は2人へのツッコミなんだが……

「あぁ、行くか」

俺達は目的地に向かって歩き出した。



今日は、夏祭りだ。

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