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文武平等  作者: 風紙文
第五章
118/281

逃走と反撃に

通り魔の足はそこまで早くなかった。とは言っても、かれこれ数分は走っている。

「大丈夫か2人共!」

「うむ! わたしは平気だ!」

「……右に同じ」

花正と三夜子はまだ走れそうだ。だがいつまでもこうしてる訳にはいかない、通り魔の狙いが俺達から外れてしまっては別の被害者を出しかねないし、この事を一刻も早く大和先生に伝えないと。

何か対策を考えなけらば……その時、俺達の前に三叉路が現れた。

「2人共、聞いてくれ」

これは使える、俺は考えた策を2人に伝えた。

「……分かった」

「うむ、心得た」

走り続ける俺達の前に三叉路が迫る。

「いいか…………今だ!」

次の瞬間、俺達は三方向に分かれた。右の道に三夜子、左の道に花正、俺が真ん中の道に進み、そして、俺は走るのを止めた。悪いな、2人共。

俺が2人に伝えたのは、そこで3人に分かれて進み、追って来なかった2人が大和先生に連絡する、というもの。携帯を持ってるのは俺と三夜子なのでどちらかが追われても連絡は出来る……と、伝えたのはここまで。

本当は、俺が必ず囮になるつもりだった。さすがに女子の2人より俺の方が体力もあるだろう。

走って逃げる2人より、止まっている俺を狙い、通り魔は俺を追ってくる。


……と、思っていた。


「グガゥ!」

だが実際には、通り魔は花正の行った左の道に向かった。

「な!?」

俺は慌てて三叉路に戻って走り去る通り魔の後ろ姿を見た。何故だ、なぜ止まってた俺じゃなくて花正を……

「まさか……」

花正の持つ剣『模抜』は、剣を持つ初対面の人間にはその隠蔽能力がなぜか無い。通り魔はカッターナイフの剣を持つ剣狩り、剣を持つ初対面の人間であったあの男には花正の帯刀が見えていたから、花正を追いかけて行ったのかもしれない。

「……創矢」

右の道に逃げていた三夜子が戻って来て、俺も見ている花正達の走り去った方向を見る。

「しまった……一番大変なものになった」

花正は携帯電話を持ってない。俺が必ず囮になるつもりだったから、後で考えるために逃げる先とかは伝えてなかった。

せめて携帯さえ持ってれば……そうだ、携帯電話。まず大和先生に連絡を…

「……創矢」

三夜子が何かを突き出した。それは携帯電話で、すでに誰かと着信している。

「凄い冷静だな」

この状況であっさりと携帯で電話かけてるとか。

電話口からは大和先生の声が聞こえ、俺は携帯を受け取った。

「もしもし」

『あ、創矢か? 三夜子から話は聞いた。今場所どこだ?』

「えっと……」

辺りを見回して場所を確認し、今の状況と共に大和先生へと伝える。

『そうか……花正の行き先に心当たりはないか?』

「心当たりは……」

花正の行きそうな……場所か……

「もしかしたら、ですが」

『分かるのか?』

「はい、多分ですけど……花正の性格を考えたら」

アイツのことだ、囮になったと分かったら『だてに無策で囮になったわけではないのだ、はっはっはっ』とか口には出さないにしても思ってそうだ。

もしそう考えていたとしたら、花正なら、こう行動するかもしれない。





……side 花正


「む……来たか」

やはり通り魔はわたしに狙いを定めたようだな。

まぁそうだろう、奴が剣狩りならば曲がったところで腰に差した剣を出して見せつければ創矢や三夜子よりも狙ってくるだろうと思っていたからな。

連絡が出来るのは創矢達だけだ、ならばわたしが囮になるのは当然だろう。

さて、こうして囮になったのは良いとして……どうしよう、集合場所とか全く決めてなかった。創矢め、作戦ならそこまで考えてほしかったぞ。

だがまぁいい、そうなったのならばわたしにも策はある。だてに無策で囮になったわけではないのだ、はっはっはっ。

この辺りの道だって覚えている。ここをこう行って、ここを右に曲がって、ここを左に曲がれば……

「確か、この辺りだったと思うのだが」

たどり着いたのは河川敷、そして、前日の場所は……

「ここ、のはずなのだが」

そこに着いた瞬間、回りの変化に気づいた。

今まで聞こえていた車の音などが一切なくなり、その場にわたしと追っかけてきた通り魔のみの空間となった。

ここでわたしは走るのを止めて、通り魔を正面に見る。

通り魔はそのまま走ってくる。ならば、このまま戦うのみだ。

剣の柄を握り、突っ込んでくる相手に合わせ、一歩横に動きながら鞘から引き抜く。

「はっ!」

身体を通過し、通り魔を横に一線した。

「グゥ!?」

通り魔は驚きの声をあげる、痛みは無いはずだが、さすがに驚いたのだろう。

「ガァァ!」

振り向いて再度突進、今度はカッターナイフを振り上げている。

確か一度通過したら鞘に戻すまでは通過しないのだったな、カッターナイフが振られるのを、わたしは剣の刃を防ぐ位置に持っていく。


スッ……


む?

「おっと!?」

とっさに後退して刃を回避した。

そうか、元々身体は通過するからカウントされないのだな。ならば今のがその一回、次からは防御に使える。

通り魔の二太刀目、わたしは再び防御の構えをとった。


キィン!


よし、防げた。

そこから剣を振って相手の刃を飛ばして横に一線、通りすぎたと同時に後退して剣を鞘に収めた。

相手の動きはそこまでよくないな、剣術ならわたしの方が上だ。後は、通過を上手く使いこなせれば必ず勝てる。

物体を一回通過するのだよな…………む、ならばコレならどうだ。

通り魔が迫る。わたしは剣を鞘から抜かずに……鞘の横から出すように剣を振る。

すると、鞘とそれを握るわたしの手を通過して刃が現れ、通り魔の剣とぶつかった。

よし、やはり鞘も一つの物体と見るのだな。

「ガァ!」

通り魔の二太刀目、わたしは剣で防ぎ、その手ごと横へ振り払った。

これで相手はがら空き、ここに二太刀くらい当て……


その時だ、


「ウガァ!」


ヒュン


空を切る音、それと同時に通り魔の左手に何か光る物を見つけた。

よく見れば、通り魔の左手にはカッターナイフが握られている。馬鹿な、確かに剣は通り魔の右手ごと外側に弾いたのに……

「っ……!」

それと同時に、わたしの右肩が痛み、血が飛んだ。

そんなはずは……剣は、身体を傷つけないと……まさか、左手のは本物!?

「不覚っ……」

こんな簡単な騙しに引っ掛かるとは。

「ガァァ!」

通り魔は右手と左手、両手のカッターナイフを交互に振るってきた。

通過を終えた剣で防いでいくが、痛みで上手く集中出来ず幾つかかすってしまう、右手のは何ともないが、左手のカッターナイフは切られる度に傷が出来る。

「くっ……」

まずい、このままでは……

その時砂利道に足を取られて膝が曲がりバランスが崩れた、このままでは回避が出来ない……!

「グガァ!」

通り魔が両手に持ったカッターナイフを突き刺すように向けて振るってくる。

「しまっ……!」


思わず、目を瞑ってしまった……



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