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文武平等  作者: 風紙文
第五章
114/281

模抜の力

河川敷、既に何回かの剣の舞を行ったこの場所は、本当に剣の舞に適していた場所だった。

「お、来たか2人共」

「大和先生?」

花正と共にそこへ行くと大和先生と早山、そして三夜子がいた。早山は先生と同じ剣守会だから分かるとして、

「三夜子はどうして?」

「……観戦?」

何故疑問形だ……

「三夜子に創矢達の事を話したら着いていくって聞かなくて、まぁ良いか、と思ってな」

そんな簡単な……

「しかし創矢、本当にここで戦うのか? 周囲から丸見えだぞ」

花正が周りを見て言った。確かにここは周りに壁も何も無く、少し行けば河を渡る橋がある、横の道路から土手を降りた砂利道だ。

「確かに見た目は360度見晴らし良いが、だから隠すのに良いらしいぜ。ホウさんはどこかにいるだろうから、初めてもいいぞ」

「そういうことならば、創矢、さっそく始めよう」

俺達は互いに間合いを取り、向き合った。花正が腰にさした竹光を抜いて抜き身の刃、と言っても竹で出来た模造品の切っ先を俺に突きつけ、剣道における中段の構えの姿勢を取った。

ちなみに、パズル錠の状態はどうなのかと聞いたら、

『これは手にした時よりこの形だったぞ?』

との答えが返ってきた。つまりそれは『模抜』にはパズル錠が無い、もしくは別の誰かがパズル錠を解いた形であの社に置いてあったなどと考えられるが、そこは定かではない。

俺はパズル錠を取り出し、パズルを解いて剣を形作った。

「む? その形は……」

「どうした?」

「いや、まだ分からん。すまない」

「? あぁ」

俺も剣を構えた。花正と同じ中段の構え。

「いつでもいいぞ」

「うむ……行くぞ!」

開始早々、花正が前に走った。

竹光……剣を横に構え、一気に振るう。その軌道上に俺は剣を置いて防御の姿勢を取る。

しかし、


スッ……


「なっ!?」

「はっ!」

花正の振った剣は、俺の剣を通り抜けて俺の身体を通り抜けた。

「おぉ!? 本当に身体を通り抜けたぞ!」

花正は身体を通り抜けたことを驚いているが、俺やは剣を通り抜けたことを驚いた。そうか、花正の言ってた、とうかってのは、通過(つうか)の事、剣を通過する能力。

つまり、防御不能の攻撃を繰り出す剣ということか。

「まだまだ行くぞ!」

充分驚いた花正は振った剣の刃をこちらに向けて第二撃を放つ。防御不能なら、避けるしかない。俺は後ろに引いてそれをかわす。そこへ花正は止まることなく三撃目を放ってくる。

回避が間に合わない、俺はとっさに剣を盾にしたが、あの剣には通用しな……


ガキンッ!


……通用、した?

間に置いた剣が、花正の剣とぶつかっているのが見えた。つまり、防御出来ている。

おかしい、さっきは通過していたのに今はする気配さえ無い。何か条件でもあるんだろうか?

考えている間に、攻撃を防がれた花正が後ろに下がる。

「どうした創矢! 守ってばかりでは勝てぬぞ!」

花正の挑発、普通なら乗らないが、今は実験も兼ねてあえて乗ってやる。

間合いを詰めて剣を構え、横に一線。もしも花正の剣が通過する能力なら、防御には使えないということだが、

「むっ」

ガキン!

花正の剣が俺の一線を防いだ。

やはり、最初の時以来あの剣は通過してない。まさか一勝負に一回切りなのか?

試しに力を込めて剣を押してみると、

「くっ……重いな」

花正の防御にも力が入っただけで変化は無し、やはり通過はしない。

素早く後退すると共に花正は剣を中段に構え直す。

「やはりこの刃広さで創矢の刃に力で対抗するのは不利か」

確かに竹光の刃は俺の剣の刃の四分の一程度の幅に三分の一程度の厚さ、加えて男の俺と女の花正では力は圧倒的にこちらが上だ。

「ならば……」

すると、花正は竹光を腰にさしてある鞘に戻した。左手で鞘を抑え、右手で柄を握る。

あの構え……

「行くぞ!」

一足に花正は俺を剣の間合いに入れ、鞘から剣を引き抜いた。

とっさに防御。何とか間に合った。

と、思っていた……


スッ……


「はっ!」

花正の居合切りは再び俺の剣と身体を通過して斬りつけた。

「よし! 入った!」

力でダメなら速度、それによる花正の居合切りの選択は正しい。だがそれはどうでもいい、それよりも今の一撃の攻防だ。

俺の防御は間に合ったにも関わらず剣が通過した為に防御はムダとなった。そして、それに花正は気付いてない。

……そうか、大体分かった気がするぞ。

「よし、もう一度だ」

花正は再び竹光を鞘に戻して後ろへと下がる。もう一度、と言ったからにはまた居合切りだ。

「はっ!」

一足に飛び、花正はやはり再びの居合切り、鞘から剣が抜かれ……さっきより早い!

……ん? いや、違う。アレは……もしかしたら、


ガキン!


再度の居合切りは、剣により防御が出来た。

「さすがに二度目は通じぬか」

違う。確かに通じなかったが、つまりそれは剣が通過しなかったからだ。

「そうか、そういうことなのか」

「む? どうしたのだ、創矢」

「分かったんだよ、花正の剣、模抜の能力が」

俺は剣を下ろした。花正も剣を鞘に納める。

「本当か!」

「あぁ、多分これで当たってる」

レベル5未確認の一振り、その他種の『模抜』その能力は、物体を通過する事。

ただし、一つの条件がある。鞘から抜いて何かに触れる一太刀目だけ、それを通過するんだ。

それ以降は能力の使えない剣だが、再び鞘に戻して抜くことで再び一太刀通過することができるようになる。

それを考えれば花正の居合切りは防御不能の高速技。しかし、先ほどその居合切りを俺は防いだ。それはつまり既に剣が通過した上で居合切りに入ったということ。そう、鞘その物を既に通過していたから、俺の剣を通過出来なかった。

最初より早いと思ったのは鞘から抜かずに刃が出てきたから、鞘を通過することで抜くのに係る時間が短縮されていたからで、攻撃が早くなった訳ではない。それを花正は気付かずにしていたが、俺には鞘を握る花正の手ごと鞘を通過して現れた刃が見えた。それが能力把握の決定的な証拠となったんだ。

「なるほど……つまり、使う度に鞘へ戻せば良いんだな?」

「そうとは限らないぞ、通過しなければ防御にも使える。逆に通過を使われて防御出来ないという状況もあるかもしれないからな」

「むぅ……ではどうすればいいのだ」

「それは自分で考えろ、技術と知識が合わさって初めて文武平等だ」

「文武平等か……うむ! 分かった、やってみるぞ」

「なら、俺もそろそろ本気出すか」

花正の剣をいち早く理解出来るように、能力は使ってなかった。だが分かったのなら、後は純粋に剣の舞をするだけだ。

互いに間合いを取る。花正は鞘に戻して居合い切りの構え。俺は剣に空気を送り、中段の構え。

「行くぞ!」

花正が前へと飛び出す。

「来い!」

それを待ち構え……


「まぁ待て」


「おぉぅ!?」

花正の首根っこをホウさんが掴んで止させた。

「な、い、いったい何をする! というか、貴女は何者だ!」

「通りすがりの情報屋だ。ホウさんと呼べ」

「ほ、ホウ酸?」

「誰がダンコか」

「おぉ!?」

ひょい、と片手で持ち上げてしまった。って、ホウさん力強いな!

「そ、創矢! どういうことだ!? う……」

「もう充分情報は取れた、下手に戦い過ぎると奴らに感づかれるので日を改めてくれ」

「う……うぅ……」

「しかし、お前の検索力はスゴいな、情報部で働かないカ?」

「うぅぅ……」

「いえ、あの……」

「ま、ムリにとは言わん」

「そうではなくて……花正が……」

「ン?」

「…………きゅう」

首根っこを掴んで宙に浮いたことにより、首を絞められた花正の呼吸がまずいことになっている。

「あぁ、スマン」

ホウさんの手が離れ、花正足が地面につく。

「げほ……あ、貴女が話に聞いた情報屋さんか」

「ホウさんと呼べ」

「ほ、ホウ酸」

「だから誰がダンコか」

「あて」

べし、と花正の頭が叩かれる。花正、少しイントネーションが違ってるんだ。でもホウさん、別にホウ酸がそのままダンコに繋がる思考はどうかと……

「とにかく、今日はここまでにしろ。続きは剣狩りをぶ飛ばした後に好きにすればいい」

かくして、花正との剣の舞は決着がつかず終わりを迎えた。


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