お守りの刀
「ここだ」
結局委員長以降は誰にも会わず、パズル部の部室前に到着した。俺が扉を開け、中に声をかける。
「おはようございます」
「おぅ、来たか」
中には大和先生、三夜子、月乃とすでに3人が集まっていた。
「……創矢」
三夜子が声をかけてきた。まぁだいたい予想はつく。
「花正、入ってくれ」
「うむ」
俺は横に動き、花正が隣に並んだ。
「感謝するぞ三夜子、おかげで来る事が出来た」
「ん……大丈夫」
「へぇ、似合ってるじゃない」
三夜子が答え、月乃が感想を言う、
「おー……ん?」
しかし、大和先生は何故か首を傾げた。
「どうしました?」
「いや……えっと、花正、って言ったか?」
「う……あ、いや、はい」
「その……あ、創矢、扉閉めてくれ」
「? はい」
言われた通りに扉を閉める。
「サンキュ、で……創矢、気付いてないのか?」
「何にですか?」
「その感じは気付いてないみたいだな」
「……何言ってるの?」
「さぁ……普通に制服よね?」
三夜子と月乃も分かってないようだが、大和先生は花正の何を見ているんだ?
「え? 俺だけ? 逆に不安になるんだがそれ」
「何があるんですか?」
改めて花正を見る。特に変わった所は無い制服姿、まぁ花正が着てるというのは少し妙だが。
「いや……何で花正、帯刀してんのかな、って」
……え? 帯刀?
「う……まさか、バレ…」
花正が驚いて数歩下がると、花正の背中と扉の間が大分あるにも関わらず、コツン、と扉が何かに当たる音がした。
瞬間、花正の腰に刀が現れた。一昨日も見たあの竹光だ。
な、何で急にあんな物が現れるんだ? というか、アレに俺は気づかなかったのか。まさか、委員長には気付かれてたとか……いや待て、とりあえず落ち着け、俺。
「花正、ソレどういう事だよ」
とにかく、今は答えを知っている人に聞くのが最善だ。
「う……じ、実はな…」
「お守り?」
「うむ……今朝方、この姿になるのに若干気持ちが揺らいでな。そこで常に修行の際に付けているコレを身にする事で修行の一環と思いそこから得られるものがあると考えながら恐らくバレないだろうと決めて…」「待て待て待て、一気に話すな」
慌てっぷりが分かりやすい。
今の状況は、花正を席に座らせて机の上に例の竹光、正面教卓前に大和先生、左に三夜子と月乃が立ち、右に俺が立っているという、ちょっとした尋問のような構えだ。実際に尋問してるけどな。
「つまり、俺にバレずに持てれば修行になると?」
「うむ……」
「はぁ……気付かずにいた俺も悪いが、学校にこんなの持ち込む方がどうかしてるだろ、幸いあまり人には会わなかったけど」
「うぅ……」
しかしなぜ俺は気付かなかったんだ? 隣を歩いてれば否応でも目立つ竹光を、ここに来るまで認識してなかったなんて。
それだけ日常に溶け込んでる? 違うな、久しぶりに再開した花正の日常を俺が知る訳が無いし、昨日はすぐに気付いた。
何か隠蔽の作用でも働いてたとか? まさかな、そんなの竹光に付けられる機能じゃ……いや、竹光だからそんな機能を付けられる物を俺は知っているじゃないか。
でもまさか、まさかな……これは、どうしたら良いものだろうか。
「みんな〜! ひっさしぶり〜!」
とその時、部室の扉がガラガラと開いて入って来たのは、
「……リリ」
三夜子が呼んだ通り、パズル部の部員にして今日まで掛け持ちの陸上部の合宿に行っていた押川だ。
「久しぶりみゃーさん! つきのん! たけやん! そして…………だれ?」
俺達のあだ名を呼んだ後、花正に気付いて首を傾げた。押川の姿を見るに合宿帰りに駅前から直接ここに来たんだろう、上下ジャージ姿に肩掛けカバンを背負っていた。
押川には隠す必要はないだろう。こうして部室に来てればいつかは会うだろうし。
「俺の従姉妹で、同い年だ」
「初めまして、蒼渚花正です」
「お〜、初めまして。押川李々子です」
2人は丁寧に挨拶を交わして、
「ところで、その机の上にあるのは何かな?」
まぁ目は行くだろうな、押川は机に置かれた花正の竹光を指さした。
「これはアレだ、えっと……」
大和先生がごまかそうと考えて、
「は、花正のだ」
しかしストレートに言ってしまった。
「うむ、わたしの護身刀というやつだ」
花正もどストレートに伝えてるし。
「へぇ〜、そうなんだ〜」
そしてそれをあっさりと信じるのが押川だ。そういえば前にも俺の剣を嘘でごまかした事があったな、疑り深くないのは助かるが逆に信じ過ぎて不安になるのは俺だけだろうか?
「……さすが、リリ」
三夜子の呟きは、多分俺だけに届いていた。
あ、そうだ。
「花正、せっかくだから校内見学して来いよ、三夜子達と」
「む? それは嬉しいが、創矢は?」
「それはほら……アレだ、たまには女子だけで会話してみるのも良いだろ?」
「ふむ……確かに、かれこれしてない事だが……」
「よし決まり、という訳で皆はどうだ?」
素早く話を切り替えて訊ねると、
「ボクは行きた〜い」
「ん……行こう」
「そうね、せっかくだから行きましょうか」
3人の意見が一致し、花正は席を立った。
その際に三夜子と月乃は俺に目配せする、俺の言葉の本当の意味を理解しているに違いない。
「な、ならば……」
すっ、と花正が伸ばした手をすっ、と俺は掴んだ。
「これは置いてけ」
もう遅かったが、帯刀では歩かせられん。
「むぅ、……創矢のいじわる」
頬を膨らませて剥れる。
「はいはい、あまり目立たないようになー」
「うむ、善処する」
切り替え早く、花正は目に見えてうきうきしながらパズル部の女子3人と共に校内見学へと向かった。扉が閉まり4人の声が遠くなった頃合いを見計らい。
「大和先生、どう思いますか?」
「どうも何も、怪し過ぎるだろ」
俺達は花正の竹光を囲んだ。
「ここまで持ってきたのに創矢は気付いてるもんだと思ってたが、まさか俺にしか見えてないとか、普通の事じゃない」
「一昨日も外へ持っていこうして玄関で止めたんです。その時は見えてたんですが」
「ふむ……これが剣の形状をしてなけりゃ管轄外だったんだがな。特殊な能力があってこの形、剣に間違いない。しかも、隠蔽の能力に加えて剣でありながら剣では無い形状……ひょっとしてコレ、今一番探してるやつじゃね?」
それはつまり、花正が持っていたこの竹光が、剣。
しかも、100の内7しかないレベル5最後の未確認種、その他の『模抜』だという事だ。
「ちょっと電話して良いか? まだ確証無いから情報部にする」
「はい、どうぞ」
携帯を取り出して大和先生はコール。
「もしもし、ホウさんですか? はい、実は……」
電話の相手はホウさんらしい。
「はい……え? 今からですか? はぁ、学校の部室ですけど、はい、分かりました。気をつけて」
携帯を閉じた。
「ホウさん、なんと?」
「今から来るって」
「え……? ここに、ですか?」
その時、窓が開き、
「待たせたな」
窓枠を越えて今しがたの電話の主、情報屋のホウさんが現れた。
「……」
「……」
その姿を見て、俺達は言葉を失うしかなかった。
「どうしタ? 来ると言ただロ?」
まぁそれはそうだけど……まさか窓から現れるとは思わなかった……
ここ、一応四階なんですけど……




