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文武平等  作者: 風紙文
第五章
109/281

いざ、学校

「むむぅ……やはり、違和感しかないな」

いったい何時以来の出来事だろうか。不快とまでは思わないが、快く受け入れられるものでもない……だがこれを制覇すれば、得られるものがある。

修行の一貫、という思いで挑むとしよう。

「ふむ……」

修行ならば、やはりコレは身に付けなくては。創矢に何か言われてしまうかもしれないが……いや、ひょっとしたら平気かもしれない。

試してみるか。





「花正ー、準備出来たか? そろそろ行くぞ」

「うむ、待たせたな」

自分の部屋として使っている和室から、花正が現れた。

その格好は―――女子の制服。

昨日は無かったはずの学校指定女子のスカートに、上は俺が貸したワイシャツと、夏の装いになっていた。

「どうだ? どこも変なところは無いか?」

「あぁ、多分平気だ」

そういえば花正のスカート姿とか初めてな気がする。昔っからズボンだったからひょっとしてかなりレアな姿じゃないか?

「しかしどうも落ち着かないなコレは、中学の制服以来だ」

そうか、中学はスカートの制服だな。

「あの時のようにジャージをはくのも考えたが、体操服の生徒が居てはおかしいのではやむをえない」

それは別にいてもおかしくは……いや、この季節にそれはおかしいか。

「だが、よく渡してくれたな」

まぁ三夜子だからな。

昨日の作戦、要は三夜子に制服を借りるというものだ。妙な感じにならない為、花正の事を伝えた上で頼むと、

『……分かった』

一つ返事で頷いてくれた。その後は女子寮まで向かって三夜子から紙袋に入ったスカートを借りて帰宅、花正に渡したという経緯だ。

「準備が出来たなら行くぞ、早い方が人が少ないからな」

さすがに今日くらいは先日帰ってきた部活も休みだろう。押川はパズル部に来るかもしれないが。

「うむ、行こう」

俺達は揃って家を出て、分かりやすくうきうきしている花正の後を追うようにして、学校へとたどり着いた。

特に知り合いに会うこともなくたどり着いたが、問題はこれからだ。校内となれば遭遇率は一気に上がり、知り合いならば花正の事をごまかす必要がある。

一応、策を一つ考えている。

「いいか花正? 俺の知り合いがお前について訊ねてきたら、俺は部活の後輩だって言うから、口裏を合わせてくれ。そして絶対、一人で歩くような事はナシだぞ。必ず俺か、パズル部の誰かと行動して、さっきの要領で口裏を合わせるんだ」

「うむ、心得た」

まぁ服装と見た目だけなら普通に高校生だ。問題は俺と一緒に歩いているということで、俺の知り合いが見たら訊ねてくるに違いない。それだけをどうにか出来ればゴールは簡単だ。

「まずは部室に行くぞ、見学はその後だ」

昇降口から入って一番近い階段を登って部室のある4階へ、ここまで誰にも会わなかった。後は廊下を真っ直ぐ行って一つ曲がれば部室。ここまでくれば知り合い遭遇率はかなり下がる。

なんだ、考え過ぎだったみたいだな。

このまま誰とも会わずに、角を曲がって部室に……

「武川」

「!?」

と思った矢先、声をかけられた。声の主は角の先、つまり進行方向にいた。

ロングの髪を緩いみつあみにして、黒縁の眼鏡をかけている。どんな一昔前のな委員長像だと思ったなら当たりだ。

なぜなら彼女は、

「い、委員長……」

「クラス外でそう呼ばないでくれる?」

二年C組のクラス委員長、桔梗(ききょう)(あい)である。

常に厳しい性格だが反面クラスの中で一番人望があり、クラスメイトに対して別け隔てが無い。ただ一つ『委員長』と呼ぶのはクラス内だけにしてほしい、と言っている。それを守らない生徒や風紀を乱す生徒には……かなりの口撃が待っている。

「す、すまん、桔梗」

その怖さを直接ではないが、受けている生徒の近くで聞いていて知っている俺は慌てて言い直す。

「それで良いのよ、委員長なのはクラスでだけ、分かった?」

「あ、あぁ」

まさか委員長(口には出してないからセーフ)に会うとは予想もしてなかった。

「ところで武川、隣の人は誰?」

この時が来たか。花正、口裏を合わせろよ、と視線を送ると、委員長に分からないくらいに僅かだけ頷いた。

「部活の後輩よ」

「こんにちは」

花正が頭を下げて挨拶。委員長も礼儀正しくそれに返した。

「こんにちは。武川の部活って確かパズル部よね?」

委員長はそれ以上花正に声を掛けずに俺へ質問してきた。これは助かる。

「え? 何で知ってんだ」

「当たり前じゃない、部室隣だもの」

あぁ、そうか。委員長の部活って、

「演劇部だったのか」

「そうよ、武川には言ってないから知らなくても当然だけど」

委員長の言葉にトゲがあるな……委員長って言ったの怒ってるのか?

「そういえば昨日桜間先生から聞いたかもしれないけど、演劇部今日から本格的に練習始めるの。だから少し響くかもしれないわ」

「あぁ、聞いたよ」

「ならいいわ。文化祭までは続くからそのつもりで、それじゃ」

俺達の進行方向から来た委員長は横を通ってそのまま歩いて行ってしまった。

階段を下りて見えなくなった頃、

「創矢、今のは誰だ?」

花正がいつもに戻った。

「最初に言った通りだ、クラスの委員長だよ」

「ほぉ」

「とにかく行くぞ、いつ委員長が戻って来るか分からないし、後は真っ直ぐだ」

「む、創矢、今委員長と言ったが」

「本人がいなければセーフだいいから急ぐぞ」

ある意味では、いきなり高レベルに会った分後が楽になったと考えられるが、まさか委員長に会うなんて思いもしなかったな。

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