僕はカバン猫。カバンに入ったのが運の尽き――
僕はカバン猫。
今日だけサキちゃんのカバンに入ってる。
僕たちは狭い場所が大好き。
ぎゅうぎゅうとムリヤリ入った場所でお昼寝してたら、酷く揺れた。
漸く止まったと思ったら天井が開いて、サキちゃん、僕の飼い主と目が合った。
あ、詰んだ。
そう思ってぷるぷる震えた僕の目の前に、どうしたの、と固まるサキちゃんとは逆側から覗き込む男。
知っている。サキちゃんの彼氏さんである。
デートだった様だ。
僕、短い命だったな…。
「可愛いな、なに、サキちゃんに付いた悪い虫から守る為に付いて来たの?」
ぷはって笑って彼氏さんは僕を両手で包む様に抱き上げた。
え。え?
「可愛いナイト様だなー」
びっくりして固まる僕に構わずウリウリと頬ずりして来る。
ちょ、近い近い近いー!
「この子大人しいよな。勉強してる間ほっといても平気そう?」
わしゃわしゃ大きな手で僕をもみ転がしながら、彼氏さんはサキちゃんに訊く。僕同様びっくりしてたサキちゃんが漸くホッと息を吐く。
「うん、冬は夕方まで眠ってる事が多いかな」
サキちゃんこの人止めて。お願い。暴走してるから。
「猫トイレ無いけど、新聞と古タオル用意しとくな」
あ。それは助かります。すいません。
「あ、ごめんね! まさかカバンの中に入ってるなんて思わなくて、」
うわあ、サキちゃんごめん~! 謝るからこの人止めて。
「気にしないでよ。俺猫好きだからむしろラッキーだから」
イケメンスマイルむかつく。サキちゃん、ときめいてないでこの人止めてってば!
恋は盲目という。サキちゃんはこの男の笑顔に騙されている。
サキちゃんに勉強を教える傍ら、自分の飼い猫がひたすら撫で転がされているというのに。
気付いてよ~! ぬいぐるみモフろうよ! 僕ストレスでハゲちゃうよ!
……ごちそうになったミルクは美味しかったけど。
悪い人じゃあないんだけどさ。
「ご機嫌ナナメね。どうしたの?」
おうちに帰って来てからずっと僕はふて寝。猫は寝子なんだからね。
別にサキちゃんが彼氏さんとらぶらぶなのに嫉妬したからだとかじゃないんだからね! ……カンチガイしないでよね!