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コンカツ~ありふれた、けれど現実的じゃない物語~  作者: 音無威人


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6/6

答え

 僕はあてどもなく町をさ迷い歩いていた。

 僕の無遅刻無欠席の記録は今日ついに途絶えた。

 僕とクラリの接点はコンカツというゲームの中だけだった。

 彼女はゲームを止めた。僕はもう彼女と会えない。

 彼女のその行為に僕は身勝手にも怒りを覚えている。

 

 彼女は僕を利用しようとした――これはただそれだけの話。


 利用できなくなった時点で僕とかかわる必要性はない。

 だけどだからといってゲームを止めるだろうか?

 彼女がゲームをやっていた理由は、恋愛のイロハを知って告白するためだったはず。

 ということは目的を果たしたからゲームを止めたのだろうか?

 彼女は告白したのだろうか想い人に。

 それはどうなったのだろう?

 あぁ、イヤだな。成功していたら。


 僕は失敗していることを祈って、町を練り歩く。

 目的などない。理由もない。ただ僕は感情を持て余しているにすぎないのだ。


 自分に対する怒り、彼女に対する不満。

 過去への後悔、未来への絶望。

 神への怒り、神への願い。

 彼女に会いたい、彼女に会えない。

 重い心、想う心。

 彼女が好き、彼女は嫌い。


 ――混ざる、混ざる。


 僕は――彼女が好き。

 気付いたけどもう遅い。彼女に会う手立ては残されていない。

 いつかまた会える? 無理だろう。彼女がどこに住んでいるか分からないし、どんな姿なのかも分からない。

 僕が知っているのはアバターの姿のみだ。そんなの何の手がかりにもならない。


 あぁ、神様できることならもう一度彼女に会わせてください。お願いします。




 ザーザーと雨が降りしきっている。

 僕が家を出たときは微塵も降っていなかったので、傘など持っていない。

 僕は歩くことをやめ、公園のベンチに座っていた。屋根がついているわけではないので、雨は直撃し続けている。

 明日になれば確実に風邪を引くだろうことは間違いないと思う。

 けれど好都合だ。この雨が僕の感情を洗い流してくれる。

 僕の心は今の天気と同じだ。雨が上がれば、僕の心も晴れるだろう。

 この雨が僕の心を冷やす。熱も引いていく。

 心地よい冷たさだ。

 このまま全て消え去ってくれればいい。


 ――僕はそのまま目を閉じた。次に目を開けたときは、以前の僕に戻れるはずだ。




 ――太君、……太君。

 ……誰だ、この声は? 僕を呼んでいるのか?

 ――光太君、光……君。

 ――光太君!

 僕は目を開けた。

「光太君! 大丈夫ですか?」

 有坂……? 大丈夫……何の話だ?

「雨が降っている中で寝たら風邪引きますよ。帰りましょう、ね?」

 雨? あぁ、そうか。僕はあのまま寝てしまったのか。

 それを発見した有坂が心配して起こしてくれたと、そういうことか。

「問題ない。僕は昔から風邪を引きにくい体質……」

「そうですか。それは安心ですね。でもやはり雨の中で寝るのはよくないですよ。バカのレッテルを貼られますから」

「……というわけではない。今すごく寒い。もうすでに風邪を引いているかもしれない。どうしよう」

「……あなたって本当にバカなんですね。彼もだいぶバカでしたが、あなたも彼にひけをとらないバカっぷりです。なぜ私はあなたのことが好きだったのでしょう? その事実を今からでも打ち消したくなるので、バカな真似はしないでくださいね。バカ太君」

 ……バカバカうるさい。僕は自分では賢いほうだと思っているのだが。というか彼って誰だ?

「彼とは誰だろうか? と聞いてもいいのだろうか?」

「いいですよ別に。前に話した今の想い人のことです」

 あぁ、そう。そういえば僕に似ている部分があると言っていたな。このバカっぷりもそうなのか。まぁ、バカじゃないけど。

「とりあえず帰りましょうか。私傘を持っているので、自宅まで送っていきますよ。私みたいに可愛い女の子と相合傘できるなんて、運が良いですよバカ太君」

 その呼び方でいくのか。

「光太、もしくは光ちゃん。それかダーリンという呼び方なら許す。バカ太君はダメだ。分かったか有坂」

「分かりましたダーリン。それでは行きましょうか。はい、私の隣に立ってくださいね。でないと濡れますよ?」

 その呼び方でいくのか。さっきもこう思った気がする。

「で、ダーリン、あなたこんな雨の中で傘も差さず一体何をしていたんですか?」

 むずがゆい、冗談のつもりだったのに。なぜその呼び方をチョイスする。わざとか?

 有坂、君がそのつもりなら僕にも考えがある。

「あぁ、ハニー。僕は失恋の痛手を癒していた。前に言ったろう? 僕には好きな人がいると、もうその人とは完全に会えなくなった。だからモヤモヤした気持ちを抑えるために町を適当に歩いていたら、雨が降ってきた。これは好都合と雨で傷ついた心を癒していたわけだ。分かったかハニー」

 僕は視線を彼女に向けた。彼女は真っ赤になっていた。

 ……なぜだ?

「ハ、ハニーってな、な、何をい、言っているんですか? あなたバカじゃないですか。あなた好きな人がいるんでしょう? そ、そんなこと言わないでください。またあなたのこと好きになってしまいますよ。私には好きな人がいるんです。嫌われてしまいましたが。動揺させること言わないでください。殴りますよコテンパンに。骨の髄まで砕いてやる。光太君、覚悟しなさい」

 彼女は思いっきり傘を持っている手を振り上げた。傘で殴る気か!

 危ない、これは危ない。動揺のしすぎでおかしくなってる。照れ隠しで砕かれたくない。

 かくなる上は。

「あぁ、神様お願いします。彼女をどうか静めてくださいませ。照れ隠しで骨なぞ砕かれたくないです。あとついでにもう一度彼女に会わせてください。お願いします。あっ、あとそれと僕が風邪を引かないように配慮してください。僕はいつでも神様を敬っています。ですから必ず叶えてください。でないと八つ裂きにしますよ。お願いしますね、神様」

 ふぅ、ここまで頼めば大丈夫だろう。傘で殴られたらとんでもなく痛そうだし。普通に殴られても痛いだろうけど。

「……頼みすぎですよあなたは。バカなんじゃないですか。本当にあなたはバカですよ……ダーリン」

 バサッと音がした。彼女が傘を手放した音だ。

 ぎゅっと音がした。彼女が僕に抱きついてきた音だ。

 ……なぜだ?

「あぁ、これは予想外です。まさかあなただったなんて。いえもうこれは運命と呼んだ方がいいのでしょうか」

 運命? 何を言っている?

「まぁ、分からないですよね。私だって今気付いたんですけどね。もっと早くに気付くべきでしたね」

「有坂、何の話をしている?」

「……コホン」

 有坂は僕から離れ、もじもじした様子で僕をじっと見つめてきた。

「……私は暗くて惨めで情けなくてへぼくて地味でクズでゴミでダメダメなあなたのこと……嫌いではないですよ?」

 このセリフどこかで……?

 ……! クラリと出会ったときに罵倒されたセリフとそっくりだ。

 まさか……。

 有坂倉乃、有……倉。アリクラ、クラアリ、クラリ。

 クラリと有坂って同一人物……なのか。

 クラリが言っていた好きな人物って僕、蟻口光太だったのか?

 有坂が言っていた想い人って僕のアバターアントライトのことだったのか?

「有坂……君がクラリなのか?」

「はい、そうです。あなたがアントライトで間違いないんですね?」

「あぁ、僕だ」

「…………」

「…………」

 まさか仮想でも現実でも同じ人物に恋焦がれていたとは。

 確かに予想外だ。

 今からでも遅くはないのだろうか?

 もう一度告白してみようか、彼女に。

 最初に会った時とは違う、本気の言葉で。


「有坂……僕も……自分のこと可愛いとか言っちゃう、自信満々の君のこと嫌いではない」

「何かバカにされているような気がするのですが」

「気のせいだバカ」

「もう! 私はプンプンな気分です」

 彼女は頬を膨らませてプンプンとご立腹。

 僕はそれをハッと鼻で笑った。

 彼女は少しムッとしたようだが、それでも笑っていた。

 僕も笑っているはずだ。

 彼女とまた出会えたのだから。


「光太君、好きです。仮想でも現実でも、私はあなたのことが好きです」

「有坂、僕も君が好きだ。仮想でも現実でも、僕は君に心焦がれている」


 これは僕と彼女が出会って、恋をした。

 ただ――それだけの話。

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