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夜の街のサーカス

今日は珍しく違う国からサーカスがやってきたらしい、朝の町も夜の街も子供や旅人にお菓子や土産物を売るために何処も彼処も忙しい、無論夕方丘の協会も例外ではなかった。

ハンドネオンや客引きの声が響くこの騒がしい町の間に立てられた教会に一人だけ無愛想な顔をしていた、それは丸い眼鏡に口の悪いシスターだった、今日も無縁仏を弔った後にさっさと読書をしようと聖堂に入っていたらなんと、神父が浮かれていたからであった。


「なんだい、そりゃ?」

「何って?祭りじゃわい」

「あのさあ、生臭坊主加減もいい加減にしてくれよ、私は部屋に戻って…」


「そういう訳に行くと思ったか?」


いきなり神父の声ではなくクロエの声が聞こえたので驚いて振り向けば、いつもの仕事着ではなく、Tシャツにジーパンといったラフな私服だった、彼女はもうこの展開に諦めと抵抗半分で質問をした。


「何のつもりなんだい?クロエ、神父様」

「何って?何時も仕事で引き篭もってて無愛想なお前を外に連れ出す為さ!」


そう言ってクロエはシスターを聖堂から引きずり出し、神父もまるっきり止めず「わしも楽しむからのう」とにこやかな笑顔で手を振っていた。

クロエがあまりにも早く走るのでシスターは転んでしまいそうになりながら、着いて行った。そしてクロエは怪訝そうな顔でシスターに質問をする。


「お前…仕事着しか持ってないの?」

「…うん」

「金はお前あんま使わないからそれなりには有るんだろうな?」

「ぼちぼちね」

「じゃあハヤトの所へ行こうぜ!あいつ仕立て屋だから!」

「えっおい!」


電灯や飾りで賑やかな夜の街を抜けて仕立屋の工房まで行くと、いつか紹介した色素の薄い茶色の髪を小さく結わえた青年が現れて、物珍しそうにクロエの後ろで息を切らすシスターを見ていた。

「あれ?シスターが来るなんて、クロエ…今日は葬式なんかやらないけど?」と冗談を言った。

「ちげぇよ、シスターは仕事着しか着ねえから普段着でも見繕ってよ!」とシスターの言葉も聴かずに注文をした。


そして数分後にシスターが選んだのは、白いワイシャツに黒のネクタイと黒い半ズボンに灰色のベストといった簡素で地味な服だった。クロエは少し不満げに「やっぱ地味だなお前」と言って、もう反抗する気も失せたシスターは「五月蝿い…」と力無く言うしかなかった。

その後にハヤトは仕立て道具を片付け始め、閉店の看板を掲げようとしていた、やはり彼も気になっていたのである。


噴水広場にはステージやワゴンが煌びやかに設置されていて、ワゴンには何時も万屋にいるシンジがお菓子や酒、タバコも売っていた。相変わらず彼もタバコを吹かしながら売り物を売っていたが…

「よお、シンジ」とクロエが挨拶をした、シンジはこっちを見るとシスターがいる事に驚いていたようだった。


「なあ、今日は不吉なことがおこんの?」「失礼な」と軽口を叩くと「ワインと嗅ぎタバコをくれ」と客の声で振り向いたら、驚くことに神父が普段着のセーターとズボンを履いていたのだった。シスターはもうあきれ返って「頭痛薬か睡眠薬をくれ…」と小さくごちった。


今日のメインイベントはステージ上の出し物で、異国の芸や踊りの次はこの街の歌姫が主演の「ロミオとジュリエット」の芝居だった、ステージの前の男たちはオペラグラスで歌姫…もといルミエラを近くで見ようとしていたのを見て「芝居目当てってわけでもないみたいだな…」と言っていたが、次第にシスターもクロエも劇に魅入られていった。


終わったあとの反応を見れば男達の赤面を他所に号泣しているクロエと考察をしてこの話をじっくり見ているシスターの姿があった。

そして宴も酣になってくるとワゴンもステージも光が消えて人も次第に減っていった、岐路につく頃にクロエは「結構楽しんでたじゃん」とシスターにニヤニヤと言って茶化していた。


シスターも否定ができなかったせいか修道着の裾で顔を隠し、恥ずかしそうに「悪くは無かったよ…」と言ってまた元のようになって行った、酒場で仲間達と酔っ払っている神父を除いて…

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