第七話 落ち行く黄天
まことに人生はままならないもので、生きている人間は多かれ少なかれ喜劇的である。
~三島由紀夫~
「いえ、当然のことです。所で主はその我らを打倒できる人物を知っていると見ましたが」
「マァダイタイハ私モ目処ガツイテルガ」
「おや?主だけではなく明埜も解るのですか?」
「私ノ本職ハ戦場デ殺シ合イジャナイノヲ忘レタノカ?」
そう言ってにやりと笑う。
おさすがは諜報活動や情報を管理し、統括する立場にある者は解りますか。
彼女には各地に飛んでもらって調べたり、彼女の忍である部下が各地に散布してますからね。
「そうでしたねぇ・・・貴方が今回大将首を獲ったので忘れてました」
美須々ちゃんすねてますね・・・。
出陣前に私に「主に大将首を捧げます!!」って張り切っていたからなぁ。
「まあまあ。明埜、ならば貴方から言ってくれませんか?」
「了解ダ。マズハ陳留ノ太守ノ曹操ダナ。治安ト統治ガヨク行キ届イテルシ、何ヨリモ城内ノ空気ガ他トハ違ウ。配下ノ夏侯惇ト夏侯淵姉妹モ中々ノ猛者ダ。一度訓練ヲ覗イタガ下手スリャ俺達以上ダナ」
「曹操の噂は私もよく聞きます。なんでも厳格で厳しく、公正なお方とか。武術や政務もかなりの力があると聞きますね」
ふむ・・・やはり曹操は危険ですか。
なるべく目をつけられないようにしたいですね。
「次ハ袁紹ダナ。河北ノホトンドヲ治メテイルカラカ兵力ト財力ガヤバイナ。マア君主ハ残念ダガ」
「はて?残念とは?」
「馬鹿ダ」
「「馬鹿・・・?」」
「アア。ドウシヨウモナイホド馬鹿ダ。ソレニマトモナ将ハ顔良シカイネェナ」
ええと・・・私の知る袁紹は時期を見て行動するのが苦手で、部下の進言による判断を誤りましたが、少なくとも馬鹿ではなかったはずです。
「本当にそれは袁紹でしたか?」
「アア、
『この袁本初が華麗に反乱など鎮めて見せますわ!!おーほっほっほっほ!!』
トカゴ大層ナ椅子ニ座ッテ言ッテタカラナ。周リノ奴ラモ袁紹様ッテ言ッテタシ間違イナイダロウ」
・・・なんだか頭が痛くなってきました。
「主、大丈夫ですか?」
「ええ、少し現実から目を背けたくなっただけです。続きを聞かせてください」
「ソシテ次ハ袁術ノ配下ノ孫策ダナ」
「袁術ではないのですか?」
「アンナ猿ナンザホットケ、袁紹ノ方ガマダ優秀ナ部下ガイル分マシダ。アッチニハダメナ君主ヲ戒シメルドコロカ助長シテルカラナ。兵モ弱ク敵ジャネェヨ」
「ふむ・・・だがなぜ孫策なのです?正直先代の孫堅ほどあまり名は聞こえません」
「・・・アレハ猿ニ扱エルヨウナヤツジャナイ。イズレカキットアノ猿ハアイツニヤラレルサ」
小覇王孫策は健在ですか。間違っても知り合いになりたくはないですね。
「そこまでですか?」
「ソコマデダ。優秀ナ部下、人望、足リテナイノハ名声ト雄飛ノ時ダケサ。ソレモモシ、俺達ガ旦那ノ見立テ通リニナルナラ残リハ雄飛ノ時ノミ。アリャ曹操ト同ジデ英雄ノ器ダナ」
困りましたね。
こちらが負けるビジョンしか浮かびません。もとより無かった希望が全力で走り去っていく幻覚が見えた気がします。幻覚であって欲しいですね・・・。
まあ、それでも天和様達の首を渡すわけにはいかないんですがここまでくるとため息も出ませんよ。
「残リガ・・・マァ今情報ヲ集メテイルガ劉備トカイウヤカラダナ」
「劉備?誰だそれは?」
「何デモ高祖劉邦ノ祖先ダトカイウフレコミダガソンナノハドウデモイイ、問題ナノハアイツラノ将ガトンデモナイトイウコトダナ。部将ニ関羽ト張飛、軍師ニ孔明ト鳳統ト共ニ義勇軍ヲ組ンデヤガルンダガ・・・トンデモナイヨアイツラハ。一回戦場ニ出向イテ観察シタガ見事ナ采配ト武勇ダ」
「・・・今、孔明と鳳統と言う名が聞こえた気がするのですが?」
「主は知っているので?」
「ええ・・・、もしそうだとすると困りましたね」
早い、早すぎる。
二人の出会いは黄巾の乱が収まり、かなり経ってからのはずだ。
やはりパラレルワールドか。それにもし演技補正がこの世界にかかっているなら孔明はやばいことになる。
軍略及び内政チートってなにそれ?
祈れば風が変わるよ!!やったね孔明ちゃん!!火計ができるよ!!
とか・・・。
やばい。
マジやばい。
死亡フラグが私と天和様達にバリバリ立っています。
「ハァ・・・劉備軍は今後も警戒の重度を二段階上げなさい」
「了解(曹操並ノ危険度カ・・・ソレホド注意ヲ向ケラレル劉備軍トハイッタイ)」
~一ヶ月後~
「・・・義勇軍ですか」
私達はその後も官軍と戦い連戦連勝。
ついには私の「波」の字を見ると逃げ出す軍も出てくるようになった。
だが、各地を転戦する私達に届けられた方は義勇軍が各地で発生。
黄巾党と抗戦しているという報だった。
「義勇軍がどうかなされたので?」
「義勇軍は各地で発生していますか?」
「アア、チラホラト民衆ガ敵対シテクルヨウニナッタ」
「・・・」
「まさか!?」
美須々が声を上げた。おそらく正解だと思いますよ。間違っていたらどれほど救われた事か。
・・・本当に最悪ですね。
「そのまさかでしょうね。おそらく黄巾党の少なくはない数が同じ弱者である民に手を出し始めたのでしょう」
まさかこんなに早い段階で黄巾党の末期症状が起こるとは。
民を傷つける以上もはや我々は正義などでは無い。それこそ害悪だ。
おそらく商人も襲っているかもしれないし、商人からの武器や馬の購入は絶望的だろう。
ほんとに何考えてるんだろう。
何も考えていないでしょうね・・・そう思い頭を悩ませていると。
「・・・すみません。主」
美須々がその姿を見て私に頭を下げ、両手を着いて謝った。
「何故貴方が謝るので?」
「私も元はそんな奴らと同じでした。後先考えず金品を手に入れようと・・・すみません」
「・・・そうでしたね。でも今の貴方は義に厚く、私が信頼できる一角の部将になりました。もはや山賊であった美須々は死にました。今ここにいるのは私が背を任せられる美須々という仲間です」
そう言って美須々の頭に手を置き撫でる。
「主・・・」
「それにしてもこうなってしまってはもう長くはないでしょうね・・・。明埜、張角様に貴方の忍を使って私の手紙を届けてもらっても良いですか?」
「アア、任サレタ。無事ニ届ケテミセルサ」
天和様にはいざというときはお逃げくださいと書いておきましょう。
私は天和様の手配表の似顔絵を書き、明埜に各地へばらまいてもらいましたからね。もちろん似てもいないインチキものですが。
おかげで天和様の顔を知るものは本陣と信頼できる者達のみ。
いざというときでも逃げられるでしょう。
「波才様!!」
そう考えて手紙を書こうとしていると一人の兵士が陣幕に飛び込んできた。
「何事ですか?」
「っは!!近くの仲間が町を攻めるので協力して欲しいと」
「・・・そうですか、ですが私達も辛い状況なので協議します。報告ありがとうございました」
「いえ、それでは何かあったらお呼びください」
そう言って兵士は去っていった。
「さて、どうでしょうねこれは」
「正直受けたくないですね。おそらく罪もない町民たちでしょう」
「俺モ同意見ダ。ダガ面白イ話ガアルゾ?」
面白い話?
「それは何ですか?」
「ナンデモ曹操ガ来ルラシイ」
一瞬で周りの空気の温度が下がる。あまりにも面白すぎて涙が込み上げてきますね。
「明埜、それは本当ですか?」
「アア、忍ノ情報デ既ニ出陣ノ準備ガ出来テイルラシイ。実際ニヤリ合ウノニハイイ機会ダト思ッテイルゾ?私ハナ」
「そのためになんの罪もない町民を襲撃しろと?」
「ナーニ、曹操ガ攻メテ来タトキニ私達モ出レバイイ。最終決戦デ敵ノ実力ガ解ラナイノハ苦シスギル。セメテ一回ハ当タッテオカナケレバ」
「・・・でも民を私達は見捨てるのですね」
「スデニ黄巾党ニ正義ハナイ。コノ大陸ノ民全員ニ聞イテモソウ言ワレルダロウヨ。俺達ガ悪徳県令ヲ襲ッタトキニソレハ解ッタダロウ?アイツラ俺達ニ感謝ノ目デハナク恐怖ノ目ヲ向ケテイタノヲ」
美須々が難色を示すが・・・。明埜の言うこともまた事実。
私達は民に重税をかけたり、悪い話が絶えず確証を得た者を襲った。
最初は歓迎されたが、今では恐怖の視線や侮蔑の目しか向けられなくなってきました。
心当たりがあるのか美須々が悲しげに目を伏せる。
琉生は無表情だが眉が少し下がっているところを見ると美須々と同じようだ。
「ソレニ俺ハ旦那サエ守レレバソレデイイ、コレハソノタメニ必要ナコトダ。軽ク戦闘シスグ離脱スル。アイツラモ疲レテイルダロウシ、ソモソモノ目的ハ町ノ救出。俺達ヲ追ウ余裕ハ無イダロウ」
「・・・解りました。伝令を、準備に手間取りますが先に先行し始めてくださいと言ってください。私達は遅れるからと」
明埜が陣幕から報告するために出て行く。
「ハァ・・・こうなるとは予期していたとはいえ、もう黄巾党も長くはないかも知れませんね」
「主、私は何が起こるとも主を守って見せます」
そう言って決意した目を私に向けてくる。
「・・・」
一方琉生はお茶菓子を食べ始めていた。
「琉生・・・もう少し我慢できなかったのですか?」
呆れる美須々を後目にお茶菓子をむしゃむしゃと食べ続ける。
「ふふ・・・私達も琉生のそう言うところは見習わなければなりませんね」
「主まで何を・・・」
そういって美須々はますます呆れてため息をつく。
・・・曹操、貴方の力。この波才しかと見極めましょう。
時代を築く貴方の力を。
連続投稿は出来なくなりました。
書きだめが減る量が半端無いです。
もう少し書いてからやればもうちょっと粘れたかも知れません。
これからはゆっくり投稿になりますがそれでも読んでくださる方。
これからもよろしくお願いします。