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黄巾無双  作者: 味の素
孫呉設立の章
62/62

第四九話 公孫賛軍、会議は普通に

『もうここでは更新しないと思った?』

『感想返せる時間がないからって本編を投稿しないと思った?』

『甘ぇよ』




『でもその甘さ、嫌いじゃないんだからねっ!』


~味の素~

 「っで?どうするのよ」


 「何が?」



 公孫賛軍が袁紹に降伏してから早数日が経過していた。

 降伏はしたと言っても、公孫賛軍の日常はあんまり変わっていない。

 ……いや。



 「この書簡と竹巻の山よっ!いくら私でも限度があるわぁっ!」



 一部の者達は発狂していた。


 

 「なによ、この異民族に対する戦闘の物資と金銭って!」


 「異民族相手に戦いが忙しいって嘘付いたんで」


 

 降伏したからと言って、のうのうと過ごせるわけではない。

 当然ながら袁紹軍のバックアップが必要となってくる。例えば曹操軍と袁紹軍が波才の願い通りぶつかったとしても、公孫賛軍は兵や備蓄、将を袁紹のために送り出さなければならない。

 なんせ袁紹が例え曹操を滅ぼそうとも、反旗を翻すための物資が無くなってしまう。これではそもそも降伏した意味がなくなるというものだ。

 それにこのままでは真の意味で降伏せざるを得なくなる。


 だが、そんな事を考えられないほど波才は馬鹿ではなかった。



 「うちって、明埜のおかげで異民族とは仲が良いんですよ。こっちの嗜好品とか、食べ物とか道具とかを加工して送ったり、向こうからは馬なんかを交易しているんです」


 「……最近は異民族がこっちにやたら攻め込んで来ているけれど、何故かほとんど被害がないっていうのはあんたの仕業だったのね」


 「サクラですよ、サクラ。そうしておけば私達が向こうの戦線に兵や物資なんかを送る事はなくなりますからね」


 「袁紹は曹操に早く攻め込みたい。でもそれには北の異民族が邪魔になる。私達はちょうどいい壁ってわけね。通りで降伏したのにもかかわらず、人員がまったく割かれていないわけだわ」


 「そこは腕の見せ所。顔良は何人か持っていこうとしていましたが、当の袁紹はあれですからね。言質をとって、人員割かれるどころか金と食料奪い取ってきましたよ。異民族と戦うために送られてきた食料が、頼んで攻めてきてもらった報酬で異民族に与えられているとは思いもしないでしょうに」



 からからと笑う波才に、呆れ顔で頭を痛める詠。


 友好を取り持ってきた異民族にこちらの襲撃を依頼したのであった。

 もちろん、重要な拠点や兵、及び備蓄には手を出されていない。真実みを増すために、対異民族用の要塞や、所々に存在する拠点は落とし落とされてぼろぼろになってはいるが、実質的な被害はゼロといっても過言では無いのだろう。


 袁紹は詠が言う通り、曹操軍にもはや攻める気満々である。猪突猛進と言うべきか、既に公孫賛軍へ対する対応が疎かになっていた。

 顔良はそれを何とかしたいようであったが、何分自分も軍で重要な役割を勤める将である。忙しくなかなか手が出せない。


 その隙をついて、波才は袁紹から『異民族に対する報酬』と『自分たちが蓄える備蓄』を見事に奪い取ってきた。一回限りではなく、現在も供給され続けている。

 ようするに。


 『お前らの代わりに異民族と戦ってやってんだから金と食料と武器寄越せ。あ?こっちに将を貸して欲しい?ふざけんな、こっちはキツキツでそっちに将を割くほど余裕がねぇんだよ!なんだその目は、あ?俺らが負けたら異民族が曹操軍と戦っているお前らの背後から攻めてくるんだぞ?いいのかそれで?』


 といったヤ○ザのような取り立てであった。

 顔良はどうせ曹操は袁紹ではなく馬超に戦いを挑もうとしているのだから、こちらが異民族にあたるべきかもしれない。そう考えていたようであったが、波才が煽てまくり言質とりまくり調書とりまくりの三拍子で、彼女へ隙を一切見せなかった。


 

 「……この袁紹軍との物資とか受け渡される仲介地点。あんた何造ろうとしてるのよ」


 「袁紹様の率いる軍を迎えるための宴会兼、食料保存庫の砦。有事の際は袁紹様の軍を守る砦にも変わる優れもの」


 「むしろ有事の事態にさせる気満々じゃないのよ。一応総指揮官が袁紹軍から派遣されているけど、どうせこれもなんか手を加えているんでしょ?」


 「そんな馬鹿な。賄賂に酒に女に溺れていて、飾りだけの県令だったりしませんよ。だって彼の配下のうちの部下達がそう言っているんですからね」


 「ふ~ん……。あ、ここの造り甘くしたら良いんじゃない?」


 「へ?そこから攻め込まれたら不味いんじゃ……。食料庫も近いですよ、そこ」


 「だから、図面にはそう書いておいて全く違う造りにするのよ。どうせこれも袁紹に送るんでしょ?その方が都合が良いじゃない。いざ事構えるときに、その送られたインチキの図面を頼りにしていたら……ってオチよ」


 「……いやだなぁ、詠さん。そんな異民族でもないのに私達が袁紹様の軍と戦うわけが無いじゃないですか。でも、この図面はちょっとミスが記載されているので正しく直さないといけない、そうでしょう?」


 「そうね、このままじゃ袁紹の軍を迎えるのには駄目。劇的な歓迎をするためにも、もっと工夫しないと」



 そう言って互いに歪な笑みを浮かべている。

 詠、波才共に袁紹には思うところがあるのだろう。お互い楽しそうに議論を積み重ね、組み合わせていく。



 「ここ、あんたの部下でどうにかならない?」


 「明埜辺りに任せればなんとかしてくれるでしょう。というか華雄を誰と組ませるべきか悩むんですが。連合の時みたいな出来事はいやですよ?」


 「私が引き受けるわよ。異民族からの援軍は期待できるの?」


 「精々三千が限界ですね。こちらで引き受けても?(流石にこれ以上兵を与えるのは怖いんだが)」


 「霞のところに配備してくれると助かるわね、多分程遠志よりもは騎馬の扱いに長けていると思うから(こんだけ仕事やってんだから少しぐらい配慮しなさいよ)」


 

 が、まったく仲は良くなかった。

 波才は未だ董卓軍の事を信頼しておらず、詠はこの波才という男がそもそも好きではなかった。

 波才は逃げ道を塞いだ上で、笑いながら一つしか答えが無い選択肢を提示するような策謀家であった。

 これはお互いに死力を尽くして策を競い合うこの世界の美学から外れている。

 

 頭の中では仕方がない事だと割り切り、波才の策に感心はすれども、詠にはどうしても心から受け入れることはできなかった。


 しかしそれでも彼女にとって波才は華雄や呂布と同じく仲間であることに違いは無い。だが一方で、波才は未だに過去や知識からくる恐れからか、あまり彼女達を仲間としてみられずにはいられないでいた。



 「取り合えず、そっちの方は私がやっておくからこの雑事は他の人に任せなさいよ。これぐらいなら文官に任せればいい話でしょ?」


 「雑事と言ってもある程度上の人間で信任がおける者でないと危ないんですよ……それ」


 「じゃぁ音々音に任せればいいじゃない。あの子もなかなかできるわよ?」


 「あ、そっか」


 

 名案とばかりに手でぽんっという軽快な音を鳴らした波才。そしてやれやれと首を振る詠。

 一見ほのぼのとしている光景ではあるが、その中身はかつての同僚を遠慮無く地獄に追いやったのというなんとも言えない現実である。



 「というかあんたも働きなさいよ。つい最近まで勝手に呉に行っていたくせに」


 「しょうがないじゃないですか、あわよくば袁術を持ち帰れないかなぁと考えていたんですから」


 「袁術だけじゃなくて恋のまで持ち帰ってくるとは思わなかったけど」


 「私もです。ぶっちゃけある程度の目星は付けていたんですが、あそこにいるとは思いませんでした」



 明埜の忍び達も中々に忙しく、大変な人手不足であった。

 それ故に優先順位を付けることはどうにも避けられず、呂布は後回しにされていた。

 だが今の二人にとっては呂布よりもその軍師が重要である。



 「音々音が来てくれて本当に、本当に助かったわ。これで二日に一回は眠れる」


 「白蓮も呂布より陳宮の方をありがたがってましたからね」


 

 公孫賛軍。世間を騒がせ、今一番中華で注目を集めている軍。

 とはいっても、降伏しようが何しようが結局のところはあまり変わってはいないようだ。



 「あと、あんたも仕事しなさいよ。あんたが仕事をさぼっていた証拠は全部摑んで公孫賛に渡しておいたから。仕事なら腐るほどあるって公孫賛が笑顔で言っていたわよ」



 訂正しよう、多少は変わりつつあるようだ。

 絶望に顔を青く染める波才を見ながら、詠はしてやったりとばかりに鼻を鳴らしたのであった。









 ■ ■ ■ ■





 

 天気が良く、小鳥が宙を舞う。草木は光に当たって深緑の色を輝かせている。

 そんな気持ちの良い日に暇をもてあまし、何か面白い事はないかとさ迷う武将がここに一人。



 「あかん、暇やなぁ。こっちに来てから楽しい事ばっかりやったから、どうにも暇が耐えられそうにあらへん」



 張遼、真名を霞という。

 無類の酒好きであり、類を漏れず戦闘狂。三度の飯より酒と戦いを愛す女である。

 それとフンドシ女であり、波才に婚期を心配されている女でもある。


 暇なときは大抵酒を飲むか武に励むかのどちらかであった。しかし公孫賛軍に来てからはそのどちらにも付き合ってくれる者達が多くいたため(大半が無理矢理誘われたと言っても過言では無いが)、どうにも一人でやるには心許ない。


 酒であれば意外と飲める琉生、鍛錬であれば華雄か美須々あたりに付き合ってもらいたいところだが……。

 そう思いながら宛も無く城の中をさ迷って早数十分。見事に誰にも遭遇することは無かった。いるとすれば警邏や警備を行っている兵達である。流石に彼らを仕事中に誘うわけにもいかない。


 降伏してからというもの、上はともかく下の者達にとっては忙しい日々を送っている。民たちもこの度の降伏はかなりの騒ぎをもたらしたが、明埜の配下達が自ら民の中に潜伏し、扇動することで大きな混乱は見られなかった。

 だが仕事の量は目に見えて増えている。さらには異民族に対する備えとあって文官どころか兵士も忙しいという有様であった。


 そんな中で彼女は暇をもてあましていたのだ。なんせ自分の仕事は兵の調練ぐらいのもの。一応文官モドキの仕事はできるものの、餅は餅屋にというものである。そこまで重要な書類を任せてもらっているわけでもないのだ。


 呂布が来た事で再会は喜べたものの、彼女は異民族の対策のために北の砦に飛ばされている。代わりに軍師で文官の仕事をこなすことができる陳宮はここにいるが、自分に付き合ってくれるかと問われれば否としか言えない。


 何か面白い事はないだろうか。そう思いながら空を舞う蝶々を何気なく目で追っていると、何やら人影が目に入った。

 

 馬元義こと明埜である。


 そう言えば自分は彼女とあまり二人で話した事はなかった。

 何せ彼女は諜報員である忍びを筆頭に、草達までも統べる忙しい立場にある。実際彼女のおかげで自分たちがこの軍にいるといっても過言では無いのだから。


 

 「(折角やからこの際友好を結ぶっちゅうのもありやな)」


 

 人がよく友好的な霞はそう思うやいなや、すぐさま馬元義に向かって歩を進め始めた。

 明埜がいるのは外の休息スペースであった。中庭とはまた違い、仕事の合間にお茶や休息ができるようテーブルとイスが数セットずつ並んでいるちょっとした憩いの場である。

 よく本を読んだり、お菓子を食べたりする将兵達の姿がここでよく見られる。 


 近づくにつれて、どうやら彼女は何かを作っているのだということが分かってきた。薬でも作っているのか、それらしき道具がいくつも机に並べられている。

 明埜もこちらの足音で気が付いたのか、顔を上げるも誰なのかを理解した瞬間げんなりと肩をおろす。


 あまり歓迎はされていないようだが、そんな事はお構いなしに霞は手を上げて元気に挨拶をした。



 「よ、明埜やないかっ!何作ってるんや?」


 「毒」



 明埜の言葉に霞は陽気に挨拶をした姿勢のまま、凍ったように固まってしまった。



 「へ、へぇ~……毒かいな。な、何の毒を作ってるんや?」


 「何デテメェニワザワザ教エル必要ガアルンダヨ」



 相当無理があるが、何とかコミュニケーションをとろうとした霞の精一杯のがんばり。だがそんな事はお構いなしに明埜は一蹴した。



 「……ぶーぶー、そんなつっけんどんになる必要はないやんか」


 「知ルカ変態女。トイウカナンデ俺ノトコニ来ヤガッタンダ」


 「暇や。酒でも飲んで友好を深めへん?」


 「一人デ飲ンデロ」


 

 そう言うやいなや明埜は再び自分の作業に没頭し始めた。

 どうやら本当に霞のことを鬱陶しく思っているらしく、彼女に向けられた背中からは『早く帰れ』というオーラがにじみ出ている。


 が、そんなことで挫けないのが霞である。

 


 「なんや~そんな寂しい事言わんといてな」


 「知ルカ。勝手ニ飲ンデロ」


 「……ふ~ん、そんなら勝手に飲ましてもらうわ」


 

 霞は明埜の隣に座り込むと、肩に担ぎ上げていた青龍刀をぽんっと地面に置く。そして腰に付けていた瓢箪を左手で掴み取ると、その場で酒をあおり始めた。


 

 「テメェ、何ヤッテヤガルンダ?」


 「酒を飲んどるんや。結構いけるで、これ。明埜も飲まへんか?」

 

 「何デココデ飲ンデンダッテ言ッテンダヨ」


 「勝手にのんでろって言うたやないか。せやからうちはここで飲ましてもらうで」


 「……ッチ。勝手ニシロ」


 

 此度の采配は霞が一枚上手だったらしい。憎々しげに明埜は霞を睨みつけるが、どこを吹く風とばかりに彼女は上手そうに酒を飲んでいる。

 もうこいつはどうにもならないと明埜も諦めたのか、再び自らの作業に没頭する。


 だが隣からいらぬ視線を感じて仕方がない。目を横に動かしてみれば案の定、霞が興味深くこちらを覗き込んでいる。

 

 

 「なぁ……それなんや?本当に毒かいな」


 「……ッチ。『トリカブト』ダ」



 中国産のトリカブトを古くから薬用に用いられている。他の薬と混ぜて、神経痛、リュウマチ、腹痛、下痢、心臓病に効く薬に変えてきた。体力をつけ元気にする働きがあるが、もともと元気な人には、効きすぎて危険である。

 この時代からあってもおかしくない毒草である。



 「『とりかぶと』?」


 「正シクハ『鳥頭』ダ。コレハ根ノ部分、鳥ノ頭ノヨウナ形シテルダロ」


 「ホンマや」


 

 トリカブトの有毒な成分は葉ではなく、桔梗と同じように根に含まれている。

 アコニチンをはじめとした、メサコニチンなどのアルカロイドなどの猛毒が含まれている。特にアコニチンは口での半致死量は1 mg/kg以下といわれ、植物の毒の中では最強の毒。加えてこの毒は脊椎動物に対する毒性が最も高いのだ。まさに対人では必殺の毒と言っても過言では無い。


 そして、これが最も恐ろしい点であるが。


 

 「コノ毒ニ解毒剤ハ存在シネェ。口カラ摂取スレバ半刻モ、イヤ、ソノモウ半分ヨリモ早ク死ヌ」


 

 経皮吸収・経粘膜吸収され、経口から摂取後数分で死亡する即効性がある。そして彼女が述べた通り、この毒には解毒及び特効薬が存在しないのだ。

 

 この毒によって起こされる症状は三期に分かれる。

 初期症状は十分から二十分以内に、口腔に強烈な熱さと渇きを覚え、手足の痺れとめまい、発汗を起こさせる。

 中期は嘔吐、腹痛、下痢、起立不全により立てなくなり、不整脈に。

 末期には血圧が低下して痙攣、呼吸もできなくなり死に至る。二十四時間以内に多くの人間が死亡するという。


 ただ、ブッヘンワルトの収容所では硝酸アコニチンを使った人体実験が行われたが、百二十分前後に死亡が確認された例がある。



 「運動ハ毒ノ回リガ速クナル。戦闘中ハ初期症状ノ痺レトメマイデ十分殺セル。仮ニソノ場ハ生キナガラエタトシテモ、後デ確実ニ死ヌシナ」


 「な、なんや。随分と恐ろしいもの作っているやんけ」


 「チナミニダ。オ前ガ酒ノツマミデ鴨肉ヲ旦那ノ調理場カラ盗ッテイッタダロ」


 「あかん、うち物覚え悪いねん。ちょいと覚えがな」


 「ソレ、コノトリカブトデ殺シタ鴨ノ肉ダカラ」



 突然の指摘に誤魔化そうと苦慮していた霞であったが、次の明埜の言葉に思わず目を驚きに見開いてしまう。

 額からは冷たい汗がつーっと流れ出ており、口は半開きになっている。



 「え?でもあれを食べたのは三日前やないか!?って事はもう一日たっとるさかい安心?だ、大丈夫なはずや。焼いたたし、ゆでたし?いや、でもなんか急に動悸が激しくなってきた気が……!?」


 「バーカ」



 動揺を隠せずに、酒をほっぽりなげてあたふたと慌てだした霞を、明埜はニヤニヤと眺める。

 したやったりと言わんばかりの顔であった。思わず霞は着崩れた服をそのままにきょとんと呆けてしまった。



 「コノ毒ハ一度体ノ中ニ入レバ無毒ニナル。ダカラコレデ殺シタ動物ノ肉ヲ食ベヨウガモンダイネェヨ」


 「……な、な、なぁ!うちの酒返さんかボケっ!おかげで全部草に飲まれてしまったやないか!?」


 「自業自得ダ。コレニ懲リタラ二度ト人ノモン勝手ニ食ウンジャネェヨ」


 

 再び目の前のトリカブトの根を擦り始める明埜に、霞は不満全開とばかりに顔をしかめながら鼻を鳴らした。


 

 「その毒、もしかして戦で使うつもりかいな」


 「モシカシナクテモソウダロウガ」


 「……そういうの、うちは嫌いや」


 「正々堂々ッテカ?」


 「明埜にとっては馬鹿らしい話やと思うけどな」


 「ソウデモネェヨ」



 意外な回答に、霞は思わず咽に流し込んでいた酒が逆流しそうになった。

 何度も咳き込みながら明埜を見ると、胡散臭そうな目で自分を睨んでいることに気が付く。



 「ナンダヨ、ソノ反応」


 「い、いや。明埜やったら馬鹿らしいってさっきみたいに鼻で笑うもんと」


 

 その言葉に明埜は眉を僅かばかり顰めながら、再びすり鉢を構えてごりごりと音をたてる始めた。



 「……毒ッテノハ、アクマデ『目的ノタメノ手段』デシカネェ」


 「目的のための手段?」


 「ドウスレバ『勝テル』カ。俺ハオ前ラミテェニ真ッ正面カラ殺シアッテ『勝テル』ホド強クネェ。ダカラ『毒』ヲ使ウ。毒ハ使ウ人間ノ年モ、技術モ、チカラモ、全部関係ネェカラナ」


 

 勝てるためにはどうすればいいか。明埜が突き詰めていった『必勝法』は、『毒』であった。


 

 「美須々、琉生ハ武器ヲ使イ正面カラ殺シ合エル術ヲ持ッテイタ。ダガ俺ニテメェラミタイナ人外ジミタ殺シ合イナンザデキヤシネェ。俺ハ自分ノ殺シ合エル術ガ確立シテイナイ」


 「その結果が……毒かいな」


 「別ニ俺ハテメェラガ自分ノ武ニ誇リ持ッテイヨウガ構イヤシネェ。笑イモシネェシ、馬鹿ニシタリナンザシネェヨ。ソレガソイツノ自信ガアル殺シ方ナラ、好キニサセレバイイ」


 「……噛み合わへんな。明埜の普段の口ぶりなら馬鹿にしているように感じるで」


 「ソイツァオ前ラガ勝手ニ勘違イシテンダヨ。メンドクセェ。テメェラミタイナ馬鹿ガイチイチ俺ニ突ッカカッテキヤガルセイデ、メンドクセェ思イヲ何度シタコトカ」



 肩を右手でとんとん、と軽く叩いてこりを和らげる。長丁場の作業なのか、体に疲れがたまっているようだ。

 明埜が首を左右に動かせば、彼女の筋肉と骨の軋む音が聞こえてくる。

 霞は真剣な瞳で明埜を見つめていた。今、彼女が話している言葉は酒を飲んで誤魔化していけないものが含まれているように思えたからだ。


 まるで、明埜が一人の武人であるかのような感覚を霞は味わっていたのだ。



 「イロンナ手段ガアンダヨ。ダガドイツモコイツモ結局ハミンナ思ウコトハ同ジダ。『勝チタイ』、タッタソレダケサ。ソノタメニハ何デモヤル、オ前達ナラ訓練シテ武ヲミガキアゲルヨウニ、軍師ナラ兵法書ヨムヨウニナ」


 「……そうやな」


 「ダガナ、ソウイウヤツニ限ッテ自分ノ世界ノ規則ルールガ正シイト勘違イシヤガル。自分ガ知ッテイル世界ト違ウ世界ガ目ニ飛ビ込ンデ来タ時、真ッ先ニ否定スルノハテメェラミタイナヤツラダ。オ前ハ俺ノ世界ガ認メラレネェ。ダカラ俺ノ戦イ方ガ気ニ入ラネェンダ」


 「………」


 「卑怯モ糞モアルカ。自分ノヤリ方ガ一番ッテ思イテェ気持チハ理解デキネェデモナイケドヨ、ソレヲ否定スルノハイタダケネェ。自分ガ上ガッタ舞台ノ上ハソウイウモノガアルトイウノヲ知ラナイデ、ノコノコト上ガッテキタノガキニイラネェ。自分ノヤリ方ト違ウヤリ方ガ出タトキニ、マッサキニ自分ノ常識ヲ盾ニキャンキャンワメク。ガキジャネェンダ、殺シ合イノ世界ハヨォ」



 霞は静かに目を瞑った。


 明埜の歩んできた道は、自分とはあまりにもかけ離れた世界だったのだろう。霞の道は武人の道であった。お互いに思う存分武を競い合い、戦においては互いに名乗りを上げて誇りと吟じを見せて笑い合う。


 だが明埜の道はそうではない。生きるか死ぬか。全てはこの一言に尽きるものであったのだろう。名を語ればその隙に殺される。相手が武器を構えるのを待っていれば殺される。競い合えば殺される。まさに生と死が最も簡略化された道のりであったに違いない。


 そして恐らく、多くの人間に石を投げられ、乏しめられる道であったであろうことも理解できた。


 だが、それを自分が受け入れられるのかと言えば否だ、。

 己の身は武人、武を競い合い、その果てに生を見いだす道を選んで進み続けてきた。彼女のように、ただたんに命を奪う道など、私は進むことができない。



 「イイジャネェノ、ソノマンマデ」



 霞が悩んでいることが分かったのか、明埜はただ静かにそう言った。

 驚いた霞が明埜を見ると、あれだけ嫌がってた自分へむけて笑っていた。

 ただただ純粋に、面白そうに。一切の汚れがその笑みには無かった。


 思わず、霞はその笑みに見とれてしまった。

 自分はこの笑みを何よりも知っている。何よりも愛しいと思っている。



 「オ前ハソノヤリ方デイケバイイ。ナニモ俺ラノヤリ方ヲ認メロダトカメンドクセェ事言ッテルワケジャネェンダカヨ。命ヲテメェハ『武人』トシテ賭ケテイル。俺ハコノヤリ方ニ『命』を賭ケテイル。ソレデイイジャネェカ。タダソウイウ俺ミタイナロクデモナイヤツガイルト頭ノ隅ニデモ留メテオキナ。ソウジャネェト……」


 

 ああ、これは『武人』の笑みだと。

 己の道をただひたすらに信じて、一心に突き進み続ける武人の笑みだと。

 自分は何を勘違いしていたのだろうか。彼女は美須々と変わりがないのだ。自分と変わりがないのだ。ただ向かう方向性が違った。それだけの話。

 


 「……イツカ足下スクワレルゼ」



 明埜はそれで話は終わりとばかりに自分の作業に戻った。


 なんどもなんどもすり下ろし、あわせていく。造られているものは毒であったが、霞はそこに既視感を感じた。

 まるで自分が武を磨き上げていくような実直さ、真剣な目。これは自分が己の武を鍛え上げるときとよく似ていると。


 ああ、彼女にとってはこれが、毒を造る事が鍛錬なのだと。



 「……なぁ、明埜」


 「ナンダ、モウ話カケンナ。テメェノ話ハ終ワッタダロウガ」


 「……もし、もしやで。うちみたいに戦えたら、うちと正面向かって戦っていたかいな?」


 「『モシ』、『ソウダッタラ』ナンテ話ハコノ世界中探シタッテ、ドコニモコロガッテイエネェヨ。マァオ前ノ話通リダッタトシテモ知ラネェナ。案外今ミタイニコウヤッテ毒造ッテタカモシレネェ」


 「でも、正々堂々とうちと戦っていた可能性もあるんやろ?」


 「テメェナンダ、サッキカラシツコイゾ」


 

 明埜は霞の何度も問いかけてくる質疑に苛立ちを覚えた。

 その手に持っていた道具のもろもろを布の上に並べると、額の皮をひくひくと動かしながら振り返る。

 

 そこには、決心を固めたような霞の姿があった。



 「明埜、うちと一緒に武の鍛錬やらへんか」


 「ソンナノハウチノ馬鹿誘ッテヤレ」


 「うちは明埜のすじは悪くはないと思うで。刀剣や投石は目を見張るものがある」


 「ソイツハドウモ、デ?何ガイイタインダヨ」


 「武の鍛錬すればうちと良いとこまで戦えるようになる。断言するで、明埜はうちらの世界に入ってこれる」



 思わず声を出して笑い飛ばそうとするが、どうにも目の前の女傑は本気のようだ。

 面倒くさいスイッチを押してしまったようだと、明埜は自らの気まぐれ話に舌打ちをする。



 「ほんまやで、嘘やない」


 「ソンナノテメェノ顔見レバ分カル。デモヤダ」


 「何でや!?」


 「メンドクセェカラ」



 霞は真剣に明埜を鍛え上げようとしていた。

 彼女の信念と姿勢は本物、なれば自分が彼女を武人として育て上げればいい。そうすれば彼女は間違いなく自分と正面から戦える将となる。影ではなく、表舞台に立ち、多くの者達から賞賛を浴びる将と成り得る。

 もう彼女をかつての自分のように乏しめるようなやからはいなくなるのだ。


 だが、明埜はそれをあっさりと断った。



 「コッチハコッチノヤリ方デ産マレテコノカタ通シテキテルンダ。テメェダッテ俺ノヤリ方デヤレッテ言ワレテモ、絶対ヤンネェダロウガ」


 「……明埜、言える事が一つある。絶対にそのままじゃろくな死に方せぇへんで。それでええんか?」


 「世ノ中ニハ二種類ノ人間ガイル。覚悟ガデキテイルカ、イナイカダ。俺ハデキテイル」


 「……分かった。もううちは何も言わへん」



 因果応報、という言葉がある。

 彼女の戦い方は、多くの者達の琴線に触れるものだ。その死は汚され、罵られ、墓は踏み荒らされる。

 死んだ後であればまだいい、生きている間にもし彼女が生きたまま捕まればどのような終わりを迎えることか。武人は戦場でのみ殺される事が最も望まれる。だが暗殺者や毒を使う者は、大抵が人としての死に方を望めないであろう。


 霞は明埜にそうなって欲しくなかった、

 せっかく彼女は光るものを、自分たちが持っているようなものを知っているのだ。決して賊のように救えない、汚泥と糞尿に塗れた愚か者ではないのだ。

 やり直せる、彼女は人々に求められ、尽くされ、好かれるような人間へと変われるというのに。


 

 「……シケタナ。酒、貰エルカ」


 

 まだ酒が入ったままの霞の器を明埜は奪い取ると、一気に傾ける。

 


 「……悪クネェナ」


 「……うちの酒やで、当然やな。もう一杯いっとく?」


 「アア」



 霞はこれが明埜なりの礼であり、気遣いであることが分かった。

 自分には分からない。彼女の生き方はとても許容できるものでは無く、彼女の考え方は自分が理解できるものではない。


 ……それでも。



 「っあ!?っちょ!?つまみ全部食わんといて!」


 「ウッセェ、ケチケチスンナ」



 今、こうして笑っている明埜を忘れてはいけない。

 例え彼女の亡骸が踏みにじられようとも、自分だけはその踏みにじられた遺体を埋葬しなければならない。

 

 霞は、彼女を一人の武人として埋葬したい。例え万人が自分に意を唱えようとも、自分だけは彼女を一人の武人として死後に彼女に罵られようとも埋葬してやりたいと。

 


 「何ボーットシテンダ。モウ酔ッタノカ?」


 「……言うやないけ。ほんならいっちょうちの飲みっぷり見せたる!」



 今、友となった友人を想う事ぐらいは許してもええんちゃうか?明埜。






 ■ ■ ■ ■ ■




 

 「暇だな」


 「暇ですね」



 美須々と華雄は互いにそう呟きながら、どこまでも地平線の彼方へ広がる空を仰いでいた。



 「こう、あれだ。戦が無いと暇で仕方がない。異民族にかり出された恋のやつが羨ましいものだな」


 「……そうですね(あれ?華雄さんにはちゃんと主の考えを話していたはずなんだけどなぁ)」



 鶏は三歩あるけばすぐに覚えたことを忘れると言うが、華雄もそれと同様の類であったようだ。

 波才の猿芝居のことが頭から抜け落ちているのだろう。北へ向かった呂布の事を思いながら、うずうずと手元にある己の得物を握りしめている。



 「美須々、再度互いの武を競わないか?」


 「今日はもう十一回も競い合ったではありませんか」


 「むぅ、お前が一勝私よりも多いではないか」


 「統計的に見ればどっこいどっこいですよ。たまにはいいではないですか、このようにぼぅっと空を眺める事も」



 思えば常に自分たちは駆け足でこの乱世を駆け抜けてきたものだ。

 黄巾の乱に始まり、放浪の旅を挟んで公孫賛に下った。そこからは反董卓連合で主に武を示したかと思えば、次には袁紹との戦いの狼煙がつけられようとしている。


 一度でも立ち止まればこの命が無かった事とはいえ、少しばかり無茶が過ぎる面も多くあった。

 せっかく羽を休める機会に恵まれたのだ。たまには武から離れて心を落ち着かせる事も必要ではないか。


 そう美須々は考えていたが、華雄は彼女の言葉に不満の色を表し始めている。

 どうやら華雄は美須々ほど落ち着いてはいらいれない、猪のような性格であるらしく。



 「だがやっぱり暇だ。美須々は私と戦いたくは無いのか?せっかく自分の力を確かめる良い機会だというのに」


 「私の力の全ては主が見定めています。私が力を奮う舞台は、主が用意なさるのです。そのように気ばかり先んじてもしょうがないでしょうに」


 「なんだ、単経のやつがお前に『武を止めろ』と言えば迷い無く捨てるのか」


 「捨てるでしょうね」


 

 さらりと言い切った美須々に、思わず華雄は驚愕し彼女の顔を見る。

 その顔はまるで風に靡く平原のように穏やかではあったが、その実には並々ならぬ覚悟があることを華雄は知った。



 「お前ほどの武人だ。今に至るまでは血の滲むような鍛錬を積み重ねてきたであろうに。何故そのように諦められるのだ。私にはどうも理解ができない」


 「我が武は元より主のためにあるもの。この命も全て主のためにあるもの。この髪の毛一本たりともそれは私自身のものではない。魂、誇り、夢、希望。果ては未来までも全て主が決めなさるまでの話。そこには私自身の想いが入り込む隙などどこにありましょうか」


 「確かに主君を尊び、想う志は賞賛されるべきものだ。しかしそれではただの人形ではないか。自らの手で戦い、摑むからこそ意味がある。武人としても、主君に仕える一の将軍としてもな」


 「あなたは自身が持つ武を信じているのですね」


 「何を当たり前のことを」



 華雄は美須々の言葉を鼻で笑い飛ばした。

 武人とはただひたすらに己が武を練磨し続け、誇りとしている者たちをいう。誰一人として自身が奮う武を貶めるような者はいない。

 武を磨き続けた己の否定、そして武を競い合う強敵ライバルをあざ笑う卑劣な行いをするも同然である。


 故に何をいまさらと華雄は美須々を睨み付けたのだ。



 「私は武ではなく主を信じているのです。あの方が私を導いてくださったからこそ、今の武人としての程遠志が存在するのです」


 「お前は盲信しているだけにすぎないように思えるがな。今のお前の力は間違いもなくお前自身が掴み取った力だ」


 「否、我が力は主があってこそ求めた力。主が導いてくださったからこそ手に入れた力」


 「もういい、お前と話すと頭が痛くなる」


 「……むぅ。でしたら私と主の素晴らしい出会いをもう一度、一からお話しするしか」


 「余計に頭が痛くなるわっ!」



 残念そうに俯く狂信の武将を見ていると、言葉に出した通りに頭がきりきりと締め付けられるような気がした。

 ようするにだ、目の前の女には『我』が無い。自分という存在を確立してはいないのだ。

 それ故に誰かにそのみを委ねて戦っている、自分以外の何ものかのためだけに生きている。


 華雄は知らないであろうが、波才であれば『某イスカリテの神父』を想像せしめた美須々の姿。

 一切の迷いがない、戸惑いがない。ただ一心に信じて戦う狂信者。


 美須々の後ろには何も無い。先には何も無い。

 だからこそ躊躇いもなく、自分の体を一部を犠牲にしてまで『今』を求める。



 「……美須々、もしお前の主がお前を捨てたらお前はどうするのだ。まさか生きる事を止めるつもりか」


 「何故私の命を私が捨てると決めなくてはならないですか。主に死ねと言われたわけではないのでしょう?ならば再び声がかかるその時まで、必要とされるその時まで私は待ち続けます」


 「分かった。もういい」


 

 手を振って華雄は話を切り捨てた。

 美須々には我が無い。ならば自分はいったい誰と武を競っていたというのか。自分は何故彼女の武を打ち負かしたいと思ったのか分からなくなる。



 「なぁ美須々、お前は私と武を競い合う時。その時まで波才を持ち込んでいたのか?」


 

 言葉に言い表せない徒労がにじみ出る華雄の問いに、美須々はただ首を傾げるばかりであった。

 ようやく目星がついたのか、不思議そうな顔をしながら華雄に笑いかけた。



 「では逆に問いますが華雄、あなたは私と戦うときに呂布のことを考えながら戦うのですか?いくら主に陶酔している身とは言えども、同じ武人としてそれは失礼に値するというものですよ」


 「……はぁ、やっぱり貴様のことはよくわからない」

 

 「私自身でさえ私のことを理解していないというのに、華雄に解られては困ります」



 そういって美須々はおかしそうに口を伏せて笑った。


 

 「私はすべてを主に委ねただけです。私自身の思いは全て本心からくるものであり、そこに主はいません。主は今仕事をしているお方が主であって、私の心に存在する主は主ではないのです。あくまで我が心象に映るは信仰の主、今書類に喘いでいるのが私が全てを委ねた主なのですから」


 「そのような難しいことを言われても、私には理解できない!」


 「よ、要するに私は私ということですよ」


 「ならば最初からそう言えばよいではないか」


 「あ、あはは。一応最初からそう言っているのですけどね」



 結局のところ、華雄はいつまでも華雄である。美須々はいつまでも美須々である。

 ただそれだけの話であった。だが、その単純な答えゆえに純粋で深い。言葉で取り繕うにはあまりにもそれは正しすぎて、間違いすぎたのだろう。



 「ふむ、決着がついたところでもう一戦しようではないか」


 「決着がついたかは疑問ですけど、そうですね。やりましょうか!」



 ようするに、二人は真正の『大馬鹿者』であったというだけである。




 


 ■ ■ ■ ■ ■ 





 しかし、そんな二人とはまた別の世界を見ているものがいた。



 「……」


 

 張曼成その人である。


 蒼天の空、揺れる草木、さえずる鳥たち。ただ一人、琉生は城の中庭に設置されたガーデンチェアーの背もたれに体を預けていた。

 城の専門の庭師がいる公孫賛城では、感嘆の息が漏れでるほどに素晴らしい庭園が完成されている。四季折々の花、さらには鯉までが泳いでいる。


 もちろんこれが一般的なものではないことは誰もがわかるであろう。

 すべては心労に苦しむ白蓮が、少しでも良いものを作って安らごうとした涙ぐましい結果である。


 当初、波才は日本庭園的なものを造りたかったようだが、さすがに無理であった。

 予算的な意味で。


 恐ろしきかな『庭園無双』の者たちは口々に賞賛し、実行に移そうとした。

 しかし予算が半端ないことになり、見ているだけで胃が痛くなると白蓮が断念させたのであった。


 琉生はそんな庭園で、一人茶を飲みながら目を瞑っていた。

 何かを考え込むかのように、ただひたすらに目を閉じ、無言を貫いている。

 温かかったお茶は、すでにぬるさを通り越して冷たさを覚え始めていた。


 琉生はめったに人前で話すことは無い。

 彼女の主人である波才でさえ、琉生の話している姿を指で数えるほどしかしらない。長年ともに戦った明埜、美須々もまた同様である。


 寡黙ゆえに、彼女が冷酷無比なる人間である機械のような存在だ、そう思う者もいたほどだ。


 しかし琉生を知る者たちは皆一様にその考えを否定する。

 反対に琉生ほど人間味に溢れているものはいないとまで言い切っている。


 ただ不思議なことに琉生は言葉を話さない。

 話せないわけではないのだが、一切話さない。

 だが何を言いたいのか分かる。最悪筆談を可能としている以上、彼女が学のある人間であることは確かなはずであった。


 結果として、彼女と言葉を交わそうという稀有な人間はほとんどいない。

 呂布でさえ言葉少なくとも反応を返すが、琉生は目立った反応すら返さないのだ。

 意思疎通するためには、もはや慣れるしかないとまで波才に言わしめられた琉生。

 慣れるまで付き合うほど人が良いものはなかなかにいないだろう。付き合う必要があるべくして付き合うのであれば、話はまた別の話ではあるが。


 だが公孫賛軍にはそのお人よしが大変多い。

 

 

 「……あれ?もしかして琉生さんですか」


 「……」


 

 その人が良いどころかできすぎている董卓こと月。

 月が声をかけたことにより、琉生の静寂に満ち足りた空間は壊されることになる。

 

 琉生は月の声に目を開けると、いつものように何も言うことなく、ただ月の顔を見つめる。

 その顔に一切の変化は見られない。



 「あ、すいません。お邪魔でしたか?」


 「……」


 「えと……へぅ」



 月はまだ付き合いが短い琉生の意思表示をつかめなかった様だ。

 これが華雄や霞であれば、自分の勝手な解釈で動くことだろう。

 だが月は優しく、相手の行動によって自分の行動を決めるタイプであった。

 

 それ故に月は戸惑い、困惑し、焦る。


 声をかけたことに後悔は無かれど、いったい自分はどう動いていいものか。

 そんな月が見つけたのは冷めかけたお茶。



 「そ、その。よろしければ新しいお茶をお入れしましょうか?」


 

 まるで天が授けてくれた機会にすがるかのごとく、月は笑顔で琉生に自らの提案を進みである。

 それを見て何を思ったのか、琉生は組んでいた腕をゆっくりとはずすと、自らの茶碗を月の方へと流し渡す。

 

 月はそれを受け取ってほっと安堵からくる息を吐き出した。



 「すぐに新しいものをお持ちしますから、少し待っていてください」


 「……」


 

 琉生と話が通じたことが嬉しかったのか、月は満面の笑みで琉生が差し出した器を手に取る。

 そして従者の鏡のような一礼を彼女に向かって行うと、足早にその場を走り去っていった。

 月の走り去る後姿からは、まるで尻尾を振るような姿が容易に幻視できるほどであった。


 そんな月を見送った琉生。

 誰も気配がいなくなったことを確認すると、煩わしそうに肺の空気を全て吐き出した。



 「……左慈、あなたに会いたい。あなたの思いを一身に受け止めたい……お尻で」



 その時ちょうど明埜の配下である忍びがその場に通りがかり、今の言葉を聞いて唖然とした。

 すぐさま明埜の下におもむき、ありのままに報告したのであった。


 結果、彼女は仕事のしすぎということで一か月の休暇を与えられたという。


 本人いわく「それでも彼女は言ってた」と最後まで断言していたようだ。

もう最後なので書いたヤツ放出です。

移転先ですか?決まってません(おい

ぶっちゃけ北郷くんがナンパする奴であればアルカディアでもいいと思うんですけど、黄巾はあくが強いからなぁ。

活動報告で今月末までに決めちゃいます。


みなさんいろいろ移転先や感想、意見を書いていただき、本当にありがとうございます。返信は忙しくてできませんが、全部目は通しております!……というかこんな忙しい時期ににじふぁん廃止なんてマジで俺の人生ハードモードなんだ(ry


……げふんげふん、最後になりましたが、みなさん一年間本当にありがとうございました!

最後だからって遠慮しないで、むしろ最後だからこそ評価してくれると嬉しいです!(おい


さてみなさん、活動報告報告で月末ぐらいに合いましょう~!

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