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黄巾無双  作者: 味の素
女難の章
51/62

第三十八話 同情するなら愛をくれ

大切なのはどれだけ相手を愛するかではなく、相手にとって自分は何かを知ることだ。



~映画『偶然の旅行者』より~



 その時、全てのものが動きを止めた。

 時が止まった。鳥の声が聞こえなくなり、木々からいくつもの羽音が去っていった。穏やかな風が止んだ。行き交う人の流れが止まった。肺に吸い込む空気の味が失った。輝く太陽は突如現れた雲に瞬く間に覆われた


 気のせいか、それはたった今見つめ合う二人の乙女によって引き起こされたかのように思えた。



「え?私の聞き間違いかな?……もう一度聞くね♪」



 天和は輝かしいばかりの笑顔で白蓮に告げた。もし男にこの笑顔を向ければ、たちまち虜になっただろう。

 だが次の瞬間その天使の微笑は羅生の悪鬼のそれへと変わる。『笑い』が『嗤い』へと姿を変えたのだ。

 目の前の女性を嘲笑い、哀れむ。その目は黒く濁っていた。



私の・・単経さんどこにいるか知らない?」


「……ああ、すまない。お前の単経は知らなかった」



 対する白蓮はそれを受け止める。天和はやっぱり聞き間違いだよねと笑みを深くするが、今度は白蓮がまるで毒蛇の如き人を喰った笑みを浮かべた。



私の・・単経ならあいつの執務室にいるよ。お前の単経はここにはいないな」



 その光景を人和は汗を額から流しながら見つめていた。目を逸らせない。

 

 今や二人から放たれているどす黒く蠢く何かはこの庭の花々や木の精気を吸い取り、空を飛ぶ鳥は木の枝に力なく止まり、静かに彼女達を見守っている。

 風がまた二人の間を吹き始めるが、先ほどまでも包み込むような温かさではなく。薄ら寒く肌の上をはうように流れていく。


 無表情、深い穴のように真っ黒で何の感情も無い目をしている天和。

 眼を細め、眉毛を八の字にして目の前の女を見つめる白蓮。


 今やこの空間は彼女達により魔界へと変貌をはたしていた。



 「ふ~ん、可哀想だね。頭がおかしくなっちゃったのかな?ねぇ、かわいくない普通のお姉さん。私の・・単経さんと別人じゃない?」


 「そうだな、性悪女。私の・・単経は三人の配下がいてな……そうだ、一人は顔を包帯でぐるぐる巻きにしてる特徴があるぞ。聞けば前していた姿と変わらないらしいから判別がつくんじゃないか?」


 「あれ~おかしいなぁ~私の・・単経さんも同じように三人の部下がいて、そのうちの一人が顔を包帯でぐるぐる巻きにしてた気がするんだ。奇遇だね」


 「そうだな、奇遇だな。まぁうちの・・単経は万が一にもお前に恋愛感情は抱かないだろうが」


 「そうだね、奇遇だね。でも私の・・単経さんも万が一にも貴方に恋愛感情は抱かないだろうね」



 二人の後ろに何かどす黒いものが見えた。

 天和の後ろには血まみれの鋸を持って嗤い続ける長髪の女が。白蓮の後ろにはアホ毛を頭からはやし、目を怒らせて呼吸を荒くした、両手に包丁を持つ短髪の女が。


 二人の背後にそれぞれ鎮座し、お互いを宿主と同じように睨み合っていた。



「(……悪霊?)」



 思わず人和は目を見開く。いいえ、中の人です。



 「……貴方、単経さんの何なの?」


 「あいつの主人だ」


 「……ふ~ん」



 白蓮に向けて天和は肉薄する。いかにも馬鹿にしていると同時に哀れんでいると言わんばかりに、彼女は己の額に手を当てて悲観する。



 「残念、聞いて無かったのかな?私、単経の本当のご主人様である天和っていいます。よろしくね」



 濁った黒い目で微笑む。

 見る者全てが戦慄する深き闇、闇、闇。あらゆる負の感情を無理矢理にでも押し込めたような目。

後ろで見ている人和ですら気配を感じ取り、思わず唾を飲み込む。


 だが正面から白蓮はそれを受け止めると、静かに微笑む。以前の彼女ならば何も言えずに黙り込んだであろうが、ここいる普通は混沌の中心で構築された『普通』だ。



 「……ああ、話は聞いているよ。あいつも言っていたよ。天和様は私の主であると、白蓮は二番目ってな」


 「うんうん♪……別にね、消えて欲しいって言っているわけじゃないの。私と単経さんの間に入ってくんなって言ってるの。分かった?」


 「ああ、分かった。そもそもお前の言う通り、お前と単経との主従関係に私が入り込む隙はないからな」


 「へぇ……分かっているじゃない」



 満足げに微笑む天和、だが白蓮もそれと同じように満円の笑みを浮かべた。



 「だけど、男と女の関係にそれは一切関係ないよな」


 「……はい?」



 まるで冷えているガラスに沸騰したお湯を入れたような、そんな音が聞こえた気がした。


 今や二人の背後でにらみ合うスタンドも気合いを入れているようだ。天和のスタンドは鋸を上下に動かし始め、白蓮のスタンドは砥石で両手の包丁を研ぎ出した。



 「おかしいなぁ、入り込む隙はないって言っていなかった?」


 「ああ、言ったさ。認めたくないけれど波才がお前に捧げる忠誠はかなりのものだよ。私にも臣下の誓いをしてはいるが、お前と比べたら天と地、月とすっぽんだな」


 「……何、意味が分からない」


 「だがな、それは恋愛関係ではないんだろう。主従関係だけであり、その中に恋愛感情の一切は含まれていない」



 思うところがあるのだろう、天和は苦々しげに顔をしかめる。対して白蓮はしてやったりと笑みを浮かべる。

 一瞬にして上と下の立場がひっくり返る。たった一回の行動で全てがすり替わる、それが戦場というものだ。



 「だから私は波才の忠誠を得るのは二番手で構わない、実際にそれで満足はしているさ。だけど、お前に一人の女として単経をくれてやるのは気に入らない」


 「……そう、別に良いよ。言うだけならいくらでも言える、貴方はずっと二番手。何故なら」



 艶がある、『女』としての顔で天和は唇を舌で舐める。



 「単経さんは私が好きになるから。この髪も、肌も、声も、胸も、お尻も、そして味も」



 この瞬間、長く続く大惨事幽州大戦が始まりを告げたのだった。

 雷鳴が二人の後ろに落ちたような錯覚を人和は覚える。彼女も名乗りを上げるべき一人なのだが、流石にこの間に割り込んでいく度胸は、彼女になかったようだ。


 というよりこれに割り込んでいく度胸がある人間がこの世にいるのだろうか?


 ……だが、もしこの世に神がいるのならば相当に人が、じゃなくて神が悪いだろう。

 人和の後ろの方向から、集団の楽しそうな声が聞こえてきた。



 「まったく、次にあのようなまねをしては許しませんよ。……それにしても、流石華雄ですね。あそこまで私の武を受け止められては認めざるを得ません。貴方は私が戦った武人の中でも相当な腕前です」


 「ふん、当然だ。……だが私もお前を認めざるを得ないな。あそこまで正面を切って受けきったのは恋や霞ぐらいなものだ。美須々、またやる際は引き分けでは済まさぬぞ」


 「ふふ、受けて立ちますよ……ってなんですかこれ」


 「ん?何が……何かあったのか?」



 互いに笑い合い、認め合っていた華雄と美須々。

 歴戦の猛者である二人が今や目を見開きこの戦場に戸惑いを感じている。まぁ専門外だということもあるが。



 「ッケ!!次馬鹿ナマネシタラ毒付ケタ手裏剣デオ前ノ尻ヲ剣山ニ……ッテナンダ?ナンデ脳天気バカガココニイヤガル?」


 「……」


 「ん~?……お~なんや、修羅場かいな。ヒック」


 「テメェハ酔イ覚マセヤ、アホ」



 ぼろぼろになった琉生と、戸惑いながら今この場の状況を整理する明埜。そしてこの現状を楽しげにニヤニヤと見つめるよっぱらい。


 人和はこの先更に混沌と化すであろうと予見した。


 苛立たしげに肩を怒らせながら明埜が人和に駆け寄る。



 「オイ、テメェ旦那ノ命令無視シテナンデコンナ所ニイヤガ……」



 途中まで言いかけるが、人和が支える地和だったもののを見付けて固まる。気のせいか、汗を額から流している。



「……オイ、ソレナンダ?見タ限りジャテメェラノ真ン中ッポインダガ」



 頬がひくついている。

 彼女が見た限り、目の前にある地和の服を着た(何かどす黒い赤で汚れまくってはいるが)人型は見るに耐えないものであった。

 残虐な趣向を持っていると自覚をしている明埜でさえきついものがあるほどに。



 「……あの、お医者さんお願いします」


 「……葬儀屋呼ブベキジャネ?」



 ため息をつきながら彼女が指を鳴らすと、顔を包帯で巻いた黒服の男がどこからともなく現れて地和を回収していく。本当に葬儀屋を呼ぶことにならないよう願うばかりだ。



 「っで、ほんまになんなん?あの白蓮と見つめ合っているやつ誰や」


 「え~と、主の主である天和様……のはずです?」



 疑問系なのは天和が以前と纏っている空気と、その目が虚ろなものになっているからだろう。

 以前の明るい彼女を知る美須々にとって、今の天和の姿は理解しがたいものであった。


 ちなみに白蓮も先ほどの交友会で見た姿とは全く違い、なんというか……黒化している。



 「主の主?どうゆうこっちゃ」


 「え~と、かくかくしかじか」


 「しかくいむーぶ……これも時代感じるネタになってきて嫌やわぁ。まぁ、ようするに修羅場ってことやな」


 「ははは~なんで楽しそうなんですか?」



 きらりと楽しげに目を光らせる霞とは反対に美須々は乾いた笑いをこぼす。



 「……」


 「ア?ホットケホットケ。ソンナコトヨリ飯食イニ行カネ?」

 

 「……」


 「ンジャ、行クカ。確カウメェラーメン屋ガ三丁目ニ」


 「む、むぅ。よく分からぬが放っておいてよいのか?……というよりお前は何故琉生の言葉が分かるのだ?」


 「慣レ。イインダヨ、ソレトモオ前。……マサカアレニ首突ッ込ム度胸アンノカ?」



 華雄が明埜の指さす方向を見ると。



 「「……」」



 愛に身を焦がす二人。どこかの聖帝さんもこれを見たら「愛など……いえ、何でもないです。なんかすいません」と目を逸らす事間違い無し。

 どこまでも深淵を映し出す天和の瞳は、眉をしかめて睨み付ける白蓮をこれでもかと言わんばかりに睨み殺そうとしているように見える。


 そんな二人を見て華雄は静かに琉生と明埜に向き直ると。



 「うむ、私もちょどお腹が空いていたところだ、同伴しても構わぬか?」


 「アア、ンジャ行クカ」


 「……」


 「ちょ!?明埜!?琉生!?この状況を放っておくのですか!?」


 「美須々、任セタ」


 「いや、任せたって!?て、速!?」



 言うやいなや三人は我先にとかけだしてあっという間にいなくなった。


 残された美須々は手を虚空にさ迷わせながら体を震わせる。

 目線を静かに動かして件の二人を見るも、当然ながら問題は解決していない。むしろ悪化の一途を辿っている。



 「(い、いや!!まだです!!まだ霞が!!)」



 希望を胸に振り返る。

 そうだ、神速の二文字を背負いて自分と互角以上の戦いを演じ、その身も心も武人である彼女ならあるいは!!

 そこで彼女が見た物は。



 「さぁ~始まったで!!今世紀最大の対戦、龍の陣営に位置するのは単経の一番主である天和や!!対してそれに挑むは白虎の陣営で鬼すら殺しそうな目で睨み付ける幽州の太守である白蓮!!これは面白い戦いになるで!!解説はうちと……あんた誰やっけ?」


 「人和。後一応私も単経の一番主の一人だから。流石にあそこに割ってはいる度胸はないけど」


 「おお、よろしゅうな。この二人がお届けするで!!さぁ戦況は今んとこどうやろ?解説の人和さん!?」


 「声が大きい。そうね、さっきの天和姉さんの一撃でとんとんって言ったところかしら。これからに期待ね…………そのまま両方脱落すればいいのに(ボソッ)」



 『第一回幽州単経争奪戦!!』と書かれた旗を掲げて、特設解説席を設けた席から身を乗り出して実況する霞の姿だった。



 「なぁぁぁぁにやってるんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 「ちょ、美須々唾飛んでるで!?」


 「美須々さん落ち着いて。乙女にあるまじき顔になっているから」



 顔についた唾を服で拭う霞に、額に汗を浮かべる地和。

 そんな二人を美須々は乙女にあるまじき見幕でまくし立て、霞のサラシを掴んで持ち上げる。



 「何でそんなに余裕なの!?何で止めないの!?」


 「あかん!!あかんて美須々!!サラシが、サラシがとれ……あ」


 「美須々さん、サラシがずれていていろいろ危ないから。取り合えず落ち着いて」


 「はぁはぁ……そ・れ・で!?なんでお二方はこのように他人事で実況なされてるんですか!?」


 「いや……他人事やし」


 「あ!?」


 「いや、何でもないで」



 後に霞は語る。

 あれはマジで殺る目であったと。



 「じゃぁ逆に聞くけれど、あれ、美須々は止められる?」


 「そ、それは……しかし人和様」


 「だったら……見守るしかないじゃない」


 「……でも解説付ける必要は」

 

 「おお始るで!!」


 「……もういいです」



 主、ごめんなさい。

 私にはもうこの人達を止められません。


 元より頭の方はそれ程よくない美須々、例え波才がいたとしても、この場を収めるような機転を彼女相手に期待はしなかっただろう。


 それはさておき、白蓮と天和は既に戦闘状態に入っていた。

 最初のうちは人和や霞も笑っていたものの、段々とその頬が引き攣ってくる。

 歴戦の勇士である霞でさえ、流石に女同士の言葉の罵り合いの酷さには目を疑い唖然とせざるを得なかった。



 「あはは、貴方ってどこも可愛くはないよね。胸だって、お尻だって、顔だって中途半端だよ。あ、でも貴方の肘はとてもいいじゃないかな。もう肘だけしかいらないと思うから、残りの部分は切り捨てちゃったら?」


 「それはどうも。確かにお前は顔も良いし体も出るとこは出ているかもしれないが、肝心の中身が腐れきっているな。よく酷い匂いを発しないもんだ。あ、そうか。お前のつけている香水はそれを隠すために付けているのか。必死だな」


 「この香水は単経さんに振り向いてもらうために用意したんだよ。今話題の男の人が大好きな香りでね、町の人みんな振り向いてくれるんだから。まぁ貴方が付けたとしても誰も振り向かないから気にしなくて良いよ。もちろん単経さんだってね。だって付ける人間自体がつまらない女なんだもの。そんな似合いもしない香水よりもそこら辺の雑草を塗りつけた方がいいじゃない?」


 「つまりお前は単経以外の男に目移りされたい女って事か。あいつも可哀想だな、お前のような万人の男性に思わせぶりな態度をとるような女につきまとわれて。どうせ飽きたら単経を捨てるんだろう?お前にとっての恋愛は所詮恋愛ごっこでしかないんじゃないのか」


 「……女の子っていうのはね、男の人にとっては格を示す重要な要素なんだよ。武将が名剣を持つように、男の人の隣にいい女の子がいることはそれだけで格を示すんだよ。だから私のように人気がある女の人が隣にいることはとても良いことなの。貴方のように誰からも妬まれない女なんて、男にとって意味がないんじゃないかな」


 「……よくいう、お前に何ができる?お前の何があの男を支えることが出来るというんだ。外見ばかりで中身がよくない女と一緒になって破滅した話なんか、そこら辺に嫌というほど転がっている。そう、お前のような女と一緒になったような話がな」


 「外見どころか中身もない貴方にいわれたくもないよ。さっきから人を随分と馬鹿にしてくれるね。でも、私は尽くす人間だよ。あの人のためなら命だって惜しくない、私はただ寄り添ってあの人を立てて支えるだけ。私の自我なんてどうでもいい。あの人は間違いなく私の事を好きになる。貴方はただそれをじっと見ながらキャンキャン咆えていればいいよ」


 「事実だからしょうがないだろう。外見を乏しめるようなやからに碌な奴はいない。それにお前の話だけではあいつが間違った時に正すことができないじゃないか。妻は夫が間違った時に正道に戻して救って上げる事も役目なんだよ。今分かった、お前にあいつをくれてやることはできない。あいつが不幸になるからな」


 「本当に、ずいぶんな物言いだね。さっきから何?もしかして自分なら単経さんを幸せにできるとでも思っているわけ。うわ、自意識過剰だね。そんな変な自信持っている人間と付き合ってたら単経さんが疲れちゃうよ。ぎゅうぎゅうに縛って自分好みの男にしちゃう女の人って最低だと思うの。単経さんが可哀想だね」


 

 逃げとけばよかった。


 霞はそう思わざるを得なかった。居心地が悪いとかそういう話では無い。変な汗が止まらない上に、制止の言葉が出ないのだ。

 まさかここまでだとは思っていなかったのか、隣の人和でさえ唖然としている。


 今更ながら明埜や華雄と逃げとけば良かった、二人は早くも後悔を感じ始めていた。



 「ははは、さすが多くの男を虜にする魔性の女は言うことが違う。そんな姿を見せれば間違いもなくあいつは目が覚めるだろうに」


 「ふふふ、さすが多くの男に歯牙にもかけられない可哀想な女の人が言うことは違うよ。そんな無いようなどうでもいい胸、うん、下手にあるからなおのこと始末が悪いよね。大きかったり小さかったりすれば需要はあるのにって単経さんも言っていたよ。あのね、単経さんは大きい胸の方が好きで安心出来るんだって」


 

 もちろん、波才はそんなことは一切言っていない。

 彼は尻派である。



 「っは!大きすぎたって後は垂れていくだけ、見苦しくなるだけだ。私の胸の方が長期的に見ればいいんだよ、単経だってこれぐらいの方がいいって言っていた」



 もちろん、そんな事実は一切無い。

 彼は尻派である。



 「ふふ、持たない人の妬みだね。そんなの貴方が可哀想だから気を使っただけだよ。もう、単経さんったら本当に優しいだから。だからこんな人が勘違いしちゃうんだよ」


 「はぁ、こんな『めんへら』女だったか?そんな奴でも優しくしてしまうからあいつは勘違いされやすいんだ。こんなやつに優しくしてもつけあがるだけだというのに」


 「は?」


 「あ?」



 それから更に数十分繰り返される言葉の応酬、気が付けば人和と霞の姿はどこにも無く。

 その場に残るは白蓮と天和、そして一線を越えぬようすぐ止めに入れるように残された兵士達だけになった。



 「「「(あれ、もしかして一番の貧乏くじは俺ら?)」」」



 大地で一番不幸かもしれない幽州の兵士達は、目の前の光景に胃を痛めながら必死に早く終わるよう祈ることしかできなかった。

 


 


 

 





 ■ ■ ■





 「と、言うわけなんや」


 「……ねぇ月さん。取り合えずこいつ殴っていい?」


 「えと……実力的に『無理』じゃないかなぁって」


 「結構あれだね、月さんぐさって言うよね。『無理』ってところいやに強調していたよね。もう私のチェリーハートは熟れて腐り始めたよ」



 やれやれと首と手を振る波才を見て苦笑いを浮かべる月。

 大きくため息をついて波才は椅子に深くもたれかかる。


 

 「いやな、流石に今回は不味いと思うねん。まさかあそこまで女の男取り合いがやばいとはおもわんかったわ」


 「何かそれだと私を取り合っているみたいじゃないですか。やだー」


 「……この朴念仁が。まぁ今はまず止めることを優先するべきやと思うで~」


 「というか何で実況していた貴方がここにいるんですか?」


 「だからなぁ、あそこまで修羅場になるとはおもってなかったんや。ま、女に好かれる弊害やと思うてしっかり治めるんやで!!」


 「他人事だと思ってからに」


 「他人事やも~ん」



 その修羅場を自分に任せるなよと波才は大きくため息をつき、霞は自分の事いうとるんやからガツンと行ったれとその豊満な胸を張った。



 「というか何故天和様がこちらにいらっしゃったのか……。お手紙も贈り物も私にしては珍しく絶えずに送っていたはずですが」


 「そりゃ単純に自分の部下が他人のものになっとったら気分があかんやろ。さっさとそこら辺の分別つけへんからあかんのや」


 「白蓮も何故売り言葉に買い言葉で応酬するのやら。そこらへんの話は彼女でも分かると思うのですが」


 「仕事が根詰めすぎて疲れてたんちゃうか。誰かさんが自分の分も押しつけていたようやからなぁ」


 「……」


 「……」


 「え、もしかして自分が悪いのですか?」


 「いっぺんぶん殴ってええか?」


 「痛いのは嫌いなんです」


 「そのうち気持ちよくなるかもしれへんで」


 「それまでに私がアンパンマンになりますよ。そんな自分の顔を切り崩すような人間になりたくありません」


 「少なくとも今は顔どころか下手したら体を切りくずさへんと収集つかへんで。……これ」



 互いに盛大なため息を吐き出す。


 

 「少なくともや、単経は女のそこらへんのところがよく分かってない。理屈や道理でああいう女は動かへん」


 「いやねぇ……そこらへん天和様は普通の女性よりもずっと優秀で物わかりが良いお方だと思っていたのですが」


 「あんたなぁ……女なんて裏でどう思っても表にださへんから女なんやで。特に単経はそこら辺が解ってないんや。自分が好いた男の前でかっこつけず、我慢せぇへん女がどれくらいいると思ってるんや」



 確かに、と波才は頷く。

 元々年頃の女性の気持ちなんて、お付き合いをしたことが無い自分には解らない。

 なんせあっちに言ってからは少しでも親を楽にさせようと勉強付けの日々だ。少し空いた時間だって趣味や遊びに費やしていた。


 霞の言う通り、天和様には元より崩れやすい一面があるのかもしれない。

 『自律神経失調症』みたいなものか。大勢の人の前に立つ以上、ストレスなんざ部屋の隅のほこり並みに、気が付けば増えていくのだ。


 天和様も家臣の前でいい格好をしたいと、いい姿を見せようと無理をしていたのかもしれない。

 相談事があっても我慢をしていらしたのではないか。


 それに自分の道具が、自分の知らずのうちに勝手に貸し出され続ける。いや、それは連絡はしたし手紙では了承をもらったが……。それも前述のように無理をしていたと考えるべきだ。



 「まぁ単経の元の主人はしょうがないとしてもや、白蓮あたりはどうにかなったんちゃうか。明らかに原因はあんたやで」


 「いえ、一応あなた方が来る前に比べて仕事の量は大幅に減少できているんですよ?例えるなら定時前に帰れる……。じゃなくて自分で時間設定していれば、その時間の前に終われるくらいです。決して無理ではありません」


 「そこやなくて……ああもうっ!はっきり言わせてもらうけどな。白蓮は単経のことが」


 「霞さん」


 

 さっきまで一切話に入ってこずに、というか臭い物を閉め出すかの如く彼らのやり取りを無視し続けた月。霞の言葉を遮るように声を割り込ませた。


 二人が月の声の方を見ると、真剣な顔で彼らを睨んでいる姿があった。



 「霞さん、その言葉は貴方が言うものでは無いと思います」


 「でもなぁ……このままやとこの唐変木一生このままやで」


 「それでも、白蓮さんを思うならそれは胸の奥に締まっておくべきです。……単経さん?」


 「はい」


 

 普段らしかぬ月の真剣さに、思わず素で返事を返してしまう。

 普段の彼女がハムスターならば、今の彼女はデスハムスターだ。リバースすれば二人目の月が召喚されるだろう。

 

 

 「最近白蓮さんに何かなさらなかったですか?」


 

 最近……?


 え~と、食事の誘いがあったけれど面倒くさいから断ったっけ?

 あ、夜飲まないかって誘われたけれど面倒くさいから明埜からもらった睡眠薬盛ったっけ。

 翌日それを教えたら何かしなかったか?って微妙に顔を赤くして怒らせてしまったから、それ以前に貴方に手を出そうとは思わない、と真剣な顔で教えてあげて安心させたっけなぁ。

 そしてこの前の誘いもはめて自分だけ街に繰り出したような……。



 「なんか、もう死んだ方がええんちゃうか」


 「……それ、本当ですか」



 なんか二人がごみどころか、腐敗物を見るような目で見られてるんですけど。

 そりゃぁ、確かに睡眠薬盛った事はやり過ぎたと思いますが……。



 「その後が最悪なんです……」



 ちょ、月さんや。そんなどうしようもない人を見るような目で見ないでください。

 霞、目が線になってますよ。そんな器用な真似何で出来るんですか。



 「うち、これから白蓮に今以上に優しくしたる」


 「私も、その、愚痴ぐらいは聞けますから」


 

 ……なんだろう。二人よりも白蓮との付き合いが長いはずなのに、何で私が彼女の事を解っていないみたいな扱いをうけるのか。



 「取り合えず、あれは単経が行かへんと絶対収集つかへんわ」


 「それと、どっちか偏った意見なんて言ったら行けませんよ?それと白蓮さんには優しくしてあげてください」


 「……優しさって、時に人を傷つける事があると思うんです」


 「大丈夫です、白蓮さんはむしろ傷つけられるぐらいがいいんです」



 まさかの『白蓮はM発言(断言)』を行った月に波才は驚愕するも、すぐに仮面を付けられて廊下に放り出された。

 曰く、こうでもしないとお前は何時までもここでうだうだしてそうだから。


 正論であった。



 「……あれ、あの部屋って私の部屋なんですけど。なんで自分が追い出されるん?」


 

 部屋はそうかもしれないが、城は白蓮の物である。今までよく追い出されなかったと彼は感謝するべきだろう。



 「まぁ、あれだよね。言い合いっていっても所詮は可愛い喧嘩ぐらいでしょう。なんてったって天和様と白蓮ですからね、兎と烏骨鶏の喧嘩のようなものです」


 

 地味に喧嘩したら凄惨な現場になる例えである。

 少なくともその兎は手に釘ばっとを装備し、烏骨鶏はチタン製の爪とくちばしを装備している。



 「せいぜい『ボカボカッ』みたいな感じのドラ○もんみたいなレベルでしょう」



 血と肉片があたりに降りそそいで、ボートが流れるレベルである。



 「天和様は頬を膨らませて、頭に怒りの四つ角が……」



 現実は頬を引き攣らせて、頭から顔全体に影がかかっていた。



 「白蓮は口を酸っぱくしてけんか腰がいいところでしょう」



 現実は口から罵倒と唾を飛ばして、腰の剣に手がかかっている。



 「ははは、そう考えると子供の喧嘩みたいに微笑ましいものでしょうに。いったい霞さんは何を慌てているのやら」


 

 子供が裸足で逃げ出す、顔が微笑むどころか青くなる惨上である。

 彼は現実を分かっていなかった。



 「さぁて、二人は喧嘩が終わっている頃でしょうか。もう、私がわざわざ行く必要なんてないでしょうに……みなさん心配性なんですから」



 もう一度言おう、彼は現実が悲しいぐらいに分かっていなかった。

どうも、味の素です。


今回遅れましたが、来週も遅れると思います。


時間に追われているのか、それとも時間を追っているのか。それが分からなくなるならまだ大丈夫、気にしなくなったら間違いなく貴方は私の仲間です。

(訳:すんげぇ忙しい助けてくんろ)


といいつつ、最近小説を書く意欲が欲しくてマブラヴオルタを買いました。おまけで沙耶の唄も買いました。


知らない人のために。

マブラヴ→鬱・グロ・燃えの三拍子

沙耶の唄→グロ・クトゥルフ・グロ(二回目)の三拍子


……どんな小説を自分は書くつもりなんだろうか。

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