番外編 とある再開~信~
張曼成の番外編。
最初の恋姫夢想やってる人なら分かるんじゃないかなって思います。
洛陽。
後漢において国の中心となり、栄え、美しくあったのはもはや過去の出来事。
目の前にある町並みは散々たる有様であった。
かつて優雅な店が建ち並び、多くの民と商人が行き来していたのであろう洛陽の大通り。それも今や店は荒らされ壊されて、放火された建物の焦げる匂いが町中をさ迷い歩くのみ。壊れた看板に、焼け焦げた屋台、品物があらかた踏みにじられて奪われた商店。
聞けばこの戦に便乗して洛陽に潜んでいた黄巾の生き残りや野党の者達が、欲望に身の焦がして奪ったと聞く。民は今や逃げてどこかに隠れているのだろう。
かつて希望を与えた都も、こうなってしまえば胸に燻りを残すだけの存在となってしまった。
そんな人一人いない通りを少女は歩いていた。
水色のショートレイヤーの髪を靡かせるのは波才の腹心。
「……」
張曼成、真名を琉生。
彼女の目はこの荒れた洛陽を見ているにもかかわらず、何の動きも見せない。
どこまでも深い黒の目は、ただその先を見ていた。瞳孔はただ一点を見つめているが、何があるというわけではない。ただ見ている、それだけだった。
歩く速度も形も一定、変わる事はない。
右足を出して、踏みしめる。左足を出して、踏みしめる。その歩幅も一定であり、例え落ちている皿や板を踏みしめて砕こうと変わる事はない。
まるでそうあるべきであろうような人形の如く、彼女はただ歩く。
「……」
立ち止まる。
先ほどまで精巧に作られた人形であるかのように動かなかった彼女の顔が、僅かばかり顰められた。
悩ましげに薄い赤の唇から漏れた吐息は、実に扇情的であり男の情欲をくすぐる。
「……出てきたらどうです、貂蝉」
琉生は右手でゆっくりと髪をかき上げると、彼女は壊された店と店との間の小路をへと振り返って憎々しげに眺めた。
「さっきからこそこそと隠れて何のようですか?私、つけ回すの好きですがつけ回されるのは好きではないのですけども」
発せられた声は普段の彼女からは信じられない激しい怒気をふくむものであった。
いつも一切の声を発さず、発したとしても淡々としたその声に慣れきった波才達がこれを見たとしたならば、恐らく腰を抜かしたであろう。
そんな彼女の詰問に耐えかねたのか、彼は大柄なその姿を現す。
鍛え上げられた上腕二頭筋は丸太のように太く、鍛え上げられた筋肉隆々の足はまるで大地に根を下ろした巨木を思わせる。綺麗に割れた胸板はもはや芸術の如く。
その全身は黒々と輝く。まるで巨大な筋肉のうねり。
その髪はラーメンまんのあの髪型によく似ており、違いはあのおさげが一つから二つになって入るぐらいのもの。
最もその服装はきわどい布の赤の紐下着のみ(もちろん下半身だけ)という、何ともノーマルな方々には決して受け付けられないものであったが。
「ひさぶりねぇ」
「ええ、久しぶりですね。私自身は会いたくもなかったですが」
「もうっ!!相も変わらずいけずなんだから!!」
そう言って乙女のように体をくねる貂蝉。
そう、彼女こそ三国志で有名な傾国の美女、『貂蝉』の名を持つ乙女ならぬ『漢女』であった。ようするにゲイである。
波才がこれを見たならば数分間は動けなくなるであろう。
なおかつそれがこうも蠢くとあらば……。
波才が見たら間違いなく失神するであろう筋肉のうねり、見ていて暑苦しく吐き気が込み上げて来るであろうそれを彼女は一笑の下に切り捨てた。
「……聞けば貴方は北郷の尻を追っかけているそうではないですか。それも新たなお仲間と共に」
「卑弥呼の事?あの人は既に憩いの人を見付けているわ。も~ずるいと思わない!?私は未だにご主人様のこと見付けていないっていうのに!!」
「……この外史の中心に北郷がいると思っているのですか?だとしたらずいぶんと愉快ですね」
「もう、しってるわよ♪この世界の中心は今貴方が見ているあの子なのでしょう?」
「ではなおさら意味が分かりませんね。何故貴方がここにいるのです?」
親しげに話す貂蝉とは反対に嫌々会話をする琉生。
それはどこか温かく、どこかお互いを信用し合っているように見えた。恐らくこの二人は顔見知りというレベルではなく、より深い関係なのであろう。
だがこの琉生の問いによりその空気は一瞬にして張り詰められる。
先ほどとは打って変わって真剣な顔になった貂蝉が口を開く。
「あの『女狐』の外史よ?いくら自分勝手に行動した罰で放り込まれたとはいえ、心配になるわよ」
「おやおや、私達を邪魔した貴方がそれを言いますか」
「しかも愛し合う二人が無理矢理別れさせられたのよ!?悲劇じゃない!?……ってここに来るまで思ってはいたんだけどね」
「……なんですか、その嫌な笑みは」
「いえ、貴方が左慈ちゃん以外の彼氏を見付けるだなんてね。貂蝉やけちゃうわ」
「今の私は琉生ですよ。それと、波才は彼氏でも何でもありません。あの女狐によって縁を持たせられただけの存在ですよ、私にとってはね」
「その割には楽しんでいるように思えたけれど」
「……私は貴方が嫌いです、貂蝉」
「私は大好きよ♪琉生ちゃん♪」
「……やはりその名で呼ぶのは止めてくれませんかね?それと頭を撫でるな筋肉達磨」
「いやん、漢女にそんなこと言っちゃだ・め・よ♪」
貂蝉は頭を撫でていた手をぶっきらぼうに振り払われたが、その余裕を崩さずに笑みを絶やさない。そんな彼を琉生は憎々しげに睨み付ける。
人によっては父親に反抗する娘という、何とも微笑ましい家族に見えるだろう。
貂蝉は見かけはあれだがとてもやさしいゲイである。
例え自身と敵対し、互いに殺し合っていたとしても、かつての同僚の危機に顔を青くした。
『女狐』
身勝手な行動をし、外史を乱したとして罰を受ける。
だがその罰を下す『女狐』と呼ばれる存在が問題であった。
『女狐』は残酷だった。
己の作り出し、管理する外史をいくつも遊び尽くして使い尽くした。その外史の結末はどれも怨嗟の声が満ち溢れ、死が謳歌する。誰もが幸せにならない未来を彼女は望んだのだ。
管理者の誰もが彼女の異常性に気が付きつつも彼女を止めることが出来なかった。
何故ならば彼女は彼女がする役目をしているだけ、管理も行うし調整もこなす。そして物語の多くを例えそれが誰も望まない、いや、彼女が望むのみの結末だとしても必ず最後までやり通している。
それだけ見れば何の問題もないのだ。だからこそ誰も手が出せない。
定められた範囲内で『女狐』は笑っているのだから。
貂蝉とて『女狐』は嫌いであった。
もちろん『女狐』の外史にも己が愛する男が少なからず活躍するものがあった。だがその全ては……。
故に、貂蝉は彼女が嫌いだった。
全てを見守るのではなく、全てを悲劇へと導く『女狐』の事が嫌いであった。それは他の管理者も同様である。
そんな『女狐』の庭に目の前の少女は落とされたのだ。
かつての敵とはいえ、定めに背いたとはいえ貂蝉は心配でたまらなかった。彼だけでなく管理者の全員が彼を見送るときに「帰って来る」事は無いと思い、嫌悪ではなく同情の視線を送っていたのだから。
「でも無事で良かったわ!!私てっきり貴方が殺されたんじゃないかって」
「……死にましたよ」
「……ごめんなさい。聞き間違えたのかしら」
「死にました。一回私は死にました。無残に蹂躙されてね。いやぁ、かつて殺そうとした相手方に殺されるというのは中々新鮮なものでしたよ。外史の管理者であったときには死ぬなんて考えもしなかったものですが……いやはや。因果応報ですね」
自嘲気味に笑う琉生。
それ見るやいなや貂蝉の顔は真っ赤に染まり、彼女へ背を向けて走り出そうとする。だが琉生はそんな貂蝉の腕を呆れ顔で掴み止める。
琉生の腕は細腕である、そんなの彼女が腰回りほどもある貂蝉の腕を止める様は異常というしかない。
「どこへ行くのですか貂蝉?」
「決まっているわ。あの女のにやけ面をぶん殴ってくるのよ」
「……はぁ。本当にお人好しですね貴方は」
「いくら罪を犯したとはいえ、仲間を殺すような奴を許してはおけないわん」
「手を出せば貴方が罰せられますよ。今の私は管理者ではない、この外史の一人物でしかないのです。一人物が死のうが死ぬまいが、彼女にとってはどうでもいい。理解しているでしょう?それに彼女は違反をしていない……自分の庭で自分らしく遊んでいただけです。その結果私が死んだというだけのこと」
「……はぁ、分かったわよ琉生ちゃん。貴方も負けず劣らずお人好しね、私を恨んでいるなら止めもしなかったでしょうに。貴方を邪魔した私は罰せられ、あの『女狐』は傷を負う、貴方が憎い相手はは両者共倒れだった。でも貴方はそれをよしとしなかった」
そして満円の笑みを浮かべて彼は琉生を見つめる。
「私勘違いしていたわ。貴方って結構狡猾な存在だと思っていたけれど、いい男だったのね……ごめんなさい」
「別に構いませんよ。こんな形で貴方に潰れてもらうのは困りますから。貴方に借りを返すのは私、決してあの『女狐』ではないのですよ」
「もん、意地はっちゃって♪」
「それに男じゃなく今の私は女、琉生ですよ」
そう呟くと彼女は空を見上げる。
荒れ果てた洛陽であったが、その空だけは常に変わらず青く、壮大だった。それはこの外史に限らず、どの外史でも変わりはしない。
空は変わらない。見上げればいつも蒼い。
「だから私は貴方の存在を今、好ましく思えるのでしょうね。きっとそうです」
「……貴方、やっぱり変わったわ。昔は何を考えているのかよく分からなかったけれど、今は分かるわ」
「ほう、私はどう思っていると?」
「心配でたまらないのね。彼のこと」
「左慈の事ですか?それは愛する人です。当然心配で」
「違うわ、今の貴方のご主人様。波才の事がよ」
その言葉に琉生は唖然する。
直ぐに否定しようと口を開くが、言葉が見つからずに閉じられた。
一時の静寂が訪れる。そして
「……そうなのかもしれませんね」
「貴方本当に変わったわ。昔の貴方だったら己を偽ってでも否定したでしょうに」
「ふふ、馬鹿なご主人様に仕込まれましたからね。自分らしく生きろと」
「あら、私のご主人様と良い勝負かしら?」
「北郷と私のご主人様を比べるなど勝負にすらなりませんよ。私としては何であの男に貴方が惹かれるのか分かりません」
「まぁ失礼しちゃうわ。優しくて勇ましくて……」
「はいはい、分かりました分かりました。北郷と私のご主人様は良い勝負ですよ」
互いに笑い合う二人。
まさかこのように互いに笑い合うなど、かつての二人の間柄を知るものなら考えられなかっただろう。
「……聞いても良いかしら?」
「なんなりと」
「何が貴方をそこまで変えたの?」
「そうですねぇ……」
琉生は若干嬉しそうに微笑むと、近くに転がる瓦礫の上に腰を下ろす。
そして優雅に真っ白で雪のような足を組むと、静かに語り出した。
「間違いなく波才のせいですね。最初は何でこんなやつに付き従わなければならないものか、と怒りもしましたが」
「怒りもしたけれど?」
「そのうちね、好きになってきたんですよ、彼のことが。ああ、恋愛ではありませんよ?私の恋人は左慈だけです。私は波才を人間的に好きになったんですよ」
そう言って楽しそうに、嬉しそうに、口に手を当てて琉生は笑った。
「臆病なのに、強くもないのに、自分自身の限界と力を知っているのに、それでもなおも足掻こうとする。『弱い』という現実を受け止めてなおも立ち向かおうとする。外史から生まれたのではなく正史より生まれ出た、まったくのイレギュラー。あの『女狐』がおもしろがるのも分かりますよ」
「あら、私もちょっと興味が湧いたかもしれないわん♪」
「手を出したら殺しますよ?……それに」
琉生は思い出す。
『ならばどちらも渡しません』
そう、あの声。
今まで多くの声を聞いてきた。英雄達の挽歌、産声、生誕、咆哮。
管理者として聞き慣れた、もはや飽きてしまったと言っても仕方がないほどに聞いてきた。だから、嫌になったのだ。嫌になり変革を望み、その結果堕とされた。
そして、堕とされた先で出会ったあの声に私は惹かれた。
『地和様や、人和様を見たときに考えてしまったんですよ。彼女達との誓いを裏切り、こんな所で死んでしまう私が正しいのかと』
『正しくはないんでしょうね。正しくはないんですが私はその正しい道を生きられない』
『なのにうじうじとそれを悔いている』
『琉生が言うとおりですよ、もう戻れない、もう戻れないのならば覚悟を決めなくてはいけませんね』
弱い、どうしようもなく弱いのに強くあろうとするあの声。
怖いのだろう、苦しいのだろう。だが、その全てを飲み込んで彼は『生まれた』のだ。
あの姿は忘れられない、あの声は忘れられない。
私はあの時心の奥底で眠っていたものを呼び起こされた。
それは感動と……深い悲しみ。
生まれたのに……ようやく私が望んだ『英雄』が生まれたのに彼はここで終わるのかと。
ずっと待ち望んだ存在はここで燃え尽きるのかと。
だから私は最後の最後まで琉生であった。××ではなく琉生として死ぬ覚悟を決めた。
波才の配下として、ここで死にたいと。そこにはかつて自分が鼻で笑った存在になっている自分がいたのだ。
そして、生まれた。
本来なら終わったはずの外史がまた生まれた。
『女狐』にすら予想外だったらしい、声を上げて笑っていた。腹を抱え、笑い転げるその様はどこか鬼を思わせた。狂った鬼の姿を。
そしてその外史にも『琉生』は存在した。××ではなく琉生が存在したのだ。
私は歓喜した。また見られるのだと、共にあれるのだと。
再び生まれた『英雄』、彼自身が認めなくても私は認めている。
あの人は『英雄』なのだと。背に続く者達に見せたあの背中を、一度見たのならば忘れられるものなどいない。永久に残り続ける背、気が付けばそこにあると感じる背。
それを見せられるのが『英雄』なのだから。
だからこそあんな結末は許されない。
ええ、許しませんよ。貴方は私が認めた英雄なんです。あんな最後は認めません。
人は一人で生まれて一人で死んでいく。だけどね、英雄は名を残して死んでいく。
貴方は何も残していなかったじゃないですか。
そう物思い耽っていた私だったが、太い笑い声に意識を現実に戻される。
気が付けば堪え笑いをしている筋肉達磨の姿があった。
「ふふ、琉生ちゃんは本当にその波才って人が好きなのねん♪」
「ええ、好きですよ。だって」
次ぎに彼女が浮かべた笑みは貂蝉を戦慄させた。
それは本来彼ら管理者が浮かべるものではなかったからだ。それは外史に存在する英雄達に続く配下達が浮かべる、死すら覚悟した壮絶な笑み。
己の命すらも投げ捨てて一人の人間に忠を尽くす、武人の姿がそこにあった。
「波才は私の主なのですから」
琉生は思い出す、死に逝く波才の姿を。
『みなさん、これより私は死地に向かいます。生き残りたい、後悔している人はどうぞ。天和様方と同様に抜け出してください。咎めはしませんよ?だって私は間違っているのですから。もう後悔はしていませんけどね』
何を言うのです。
貴方に出会えて後悔などしたことがない、貴方を見捨ててまで生き残ろうと思ったこともない。
貴方は間違ってはいない、他が貴方を糾弾しようと貶めようと、私は貴方を認めます。
だから、もうあんな終わり方は無しです。
貴方は私が認めた『英雄』なのだから。
□ □ □ □
去っていったかつての同胞を眺めつつ貂蝉はため息をつく。
彼は幾多の世界を見てきて絶望していた。分からないでもない、無限とも言える英雄達の宴は、いつかしか色褪せ、彼にとって酷く退屈なものへと変わった。
それ故に、彼は不文律を覆して絶対なる掟に背いたのだ。たんに飽きただけかも知れない。だが彼は変革を望み、夢破れたことに変わりはないだろう。
そして堕とされた。
観客は役者に……、いや。彼からすれば道化と称するのが正しいのかも知れない。
最悪の管理者の下に送られることになった。
『へ~だったら私の所に来ない?』
『あ~ら、貴方がそんな事を言うなんて。……何を考えているのかしらん?』
『そんなに睨まないでったら。ちょっとね~面白いものを手に入れたし、ちょっと色を添えたい気分なんだよ』
どうせろくでもないことに違いない。
だが誰も望んで反旗を翻した元同僚を受け入れようとするものは、彼女を除いて他にいなかったのだ。
結果、彼は彼女の下へと送られることになる。
だが今の彼……彼女を見る限り、とても生き生きとしていた。
自分らしく、何をすべきかを見定めることができたのだろう。
しかしそうなっても次の問題が出てくる。
彼女は、戻れるのだろうか?
やがては、この外史が終わりを告げれば彼の罪は消える。
あそこまで更正したならば、恐らく誰も何ももんくの一つもつけることはないであろう。
仕事ぶりは元々大変優秀だったのだ。この人手不足に本来は一人抜けられても困るのだから、即日復帰させられることは間違いない。
だが今の彼女を見る分には、あまりにこの外史に深入りしすぎているのではないであろうか。
その原因となった『波才』なる人物も気になる。一回顔を合わせて話をしてみたいものだ。
「それにしても、随分と可愛らしくなっちゃっていたわねん。眼鏡も外したようだし」
自分のご主人様も、今の彼女であれば十分食指が伸びるであろう。
……さて、自分もご主人様を捜す旅に戻ろう。
「……××、いや琉生ちゃん。もし困った時があったらすぐに駆け付けてあげるわねん。だって私達、仲間だもの」
そういって何とも男らしい、いや漢女らしい笑みを浮かべた。
そして一陣の風と共にこの洛陽を、この外史から彼が去っていくのに一刻もかからなかった。
番外編の数。
明埜→二話
美須々→三話
琉生→一話
まさか減るとは……そんな長ったらしくもしないつもりであったが、まさか八千文字以内で収まるとは……。
折角なので没になった黄巾党の人達の一部を紹介。琉生は話的に決定事項でしたが、残りの二人をどうするのかと悩んで、没になった方々。
羅市(真名:桜)
幽州。この来た大地で今私は、大変疲れていた。
「ふふ、我が主君ながら相も変わらずつれないね」
「あ~はいはい、そこの具材とってくださいね」
「むぅ、本当につれないねキミは。女はあんまりじらしすぎてもイケナイってことをしっているのかい?」
屋台をやっている横で何故か手伝っている羅市を横目で眺めると、頬を膨らませて具材を投げつけてきた。
「食べ物は大切に」
「私は大切にしてくれないのかい?」
「私厚かましい女性は嫌いなんですよね」
「む、尽くす女にそれはあんまりではないのかね」
眉をしかめてつーんと天を仰ぐパープルの髪をした少女。一体どう教育を間違えればこんなおませな子になるんだか。
「子供扱いは止めてくれないか?私はキミの言うレディなのだぞ?」
「せめて出るとこ出てからそう名乗りなさいな」
そういうと彼女は何故か悪戯を思い付いたように、小悪魔的な笑みですり寄ってきた。
「では今から少しづつキミが大きくしていってくれないかい?」
その頭にげんこつを振り下ろし、恨めしそうに睨む彼女を後目に私は開店準備を整えるのであった。
没理由(最近条例が厳しいので……)
劉辟 (真名:雪)
「ああ、蜜。そう、蜜が足りないのです」
官能的に体をくねらせる女性に、あたりの黄巾兵は顔を真っ赤にして目を逸らした。
豊満な体つきにフィットした、黒を基調とした武装衣。胸元とへその辺りが露出した大胆なデザインを身に纏う彼女は、頬を上気させて悶え苦しんでいた。
「波才様、私、もう、限界」
「あ~、雪。お願いだから抑えてください。もう少しで漢軍がこちらの策にはまりますから」
「今の、ん、私達に、あ、足りないのは、うん、熱い、熱い迸るほどの熱」
「頭にのぼった血を抑えて。後お前らは股間に貯めた熱どうにかしろ馬鹿共」
そういって波才が辺りを睨みつけると、周囲の黄巾兵は瞬く間に目を逸らした。
「ああ、もう。もう無理っ!果ててしまいますッ雪はッ我慢できないッ!」
「突っ込むな馬鹿っ!ああもう、全軍突撃っ!なるようになっちまえっ!」
一人敵軍に馬を走らせる雪を追うように、波才は全軍を突貫。自分の将に言いようのない呆れを抱きつつ、彼は檄を飛ばしたのであった。
「(……だれか、この発禁武将をいろんな意味で止めてくれ)」
「波才様なら、いくらでも、受け止めて、さしあげ「おおっと、そろそろ接敵だ。全軍後れをとるなぁっ!」……もう、いけず」
理由(えっちぃのはいけないとおもいますっ!)