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黄巾無双  作者: 味の素
反董卓連合の章
45/62

第三十三話 生きているのなら、フラグだって殺してみせる

人生が悲惨なことの連続なんていうのは嘘、人生は最初から最後まで悲惨なのよ。


~エドナ・St・v・ミレー~

「アー鬱陶シイ」



明埜が奮う小太刀により年老いた一人の宦官が切り伏せられる。半ばまで首を切断されながらも、宦官は半ば無意識に明埜の服の裾を掴む、だが。



「イヤ、ソウイウノイラナイカラ」



明埜は鉄で補強され、滑り止めのスパイクが付いているその足で、宦官の頭を踏みつけた。

堅い物が割れて、肉と水分が混ざった嫌な音が辺りに響いた。踏みつけた足の裏から芳る強烈な血と肉の死臭。慣れぬ者であれば嘔吐するほどの激しい匂い。

明埜はそれを煩わしいそうな顔をして蹴飛ばした。



「き、貴様は何者だ!?こんなことしてただで済むと」


「思イマセ~ン。ダカラサレル前ニブッ殺ス」



汗を流し恐怖に怯えて虚勢をはった肥満体の宦官の体に数本の手裏剣が飛来。瞬く間にその手裏剣は宦官の腹に付き立つ。

宦官は涙を流し腹を抱えてその場に倒れて転げ回る。



「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「アレ?アアソウカ、オ前太ッテルカラ脂肪ガ邪魔シテ死ネナカッタノカ」



面倒くさそうに頭を抑えつつ明埜はやれやれと手裏剣を宦官の額へと投げつけた。

宦官の目は反転、物言わぬ肉の塊へと変わった。


既に部屋に転がる屍は七体。

全員が彼女に為す術もなく殺され、遊ばれて死んでいった。全員が苦悶の表情を浮かべて死んでいる。……それでもその顔が分かるだけで幸せだろう、一人に至っては完全に頭を破壊され、目玉が二つ転がっているのだから。


青い顔でそれを一部始終見ていた最後の宦官は、口を大きく開いたまま呆然と佇む。

だが、しばし頭をかいていた明埜は大きくため息をつくと宦官へと向き直ったことにより彼は正気を取り戻した。



「……どこから差し向けられた。董卓か」



冷静に彼はこの異質な声を放つ暗殺者を観察する。あわよくばこのまま買収することも考えていた。



「(やっと、やっとここまで来たのだ!董卓暗殺は失敗したが、あいつはこの連合の連中に殺される。そして我らはあの女を担ぎ上げ、帝を再び手中に収める事が出来るのだ!こんな、こんなところで死んでたまるものかっ!)」



その問いに明埜はニタァっと微笑む。

人とは思えぬ獣如き貪悪な笑い。人を殺してなお鈍い輝きは失わない、よく手入れされているのであろう手裏剣から滴る同僚の血。

思わず額から汗が流れ出た。



「関係ナイダロ。ドウセ死ヌンダカラ」


「ま、待て!?望むものを与えるぞ、権力か?金か?既に董卓が殺される今、私がこの漢の実質的な支配者に変わるのだ。なんでも思うがままにお前にさせてやるぞ!」



だが、明埜は静かに宦官へと迫る。ゆっくり、ゆっくりと。



「アア、ソウダ。良イコト教エテヤル。オイ!」


「……っは」



その呼びかけに明埜と同じように顔を包帯で巻いた男が現れた。

宦官は最初何事だと顔をしかめたが、その声に聞き覚えがあることが分かると驚きのあまり目を見開く。


彼は宦官に策を進言した密偵なのだった。それが彼女の後ろで頭を下げている。

その時宦官は全てを理解し、怒りを覚える以前に青くなった。



「き、貴様はあの時の!?」


「ソユコト♪自分ガ操ッテイタト思ッテタンダロ。チゲェヨ、テメェガ踊ラサレテイタノサ」



楽しそうに笑い、明埜は袖に手を戻す。再び現れたその手には一本の手裏剣。

これから何が行われるのか、聡明な宦官はすぐに理解する。理解せざるをえなかった。



「ま、待て!何でも与える、望むものを皆与えるぞ!だから、だから……!」


「エ、マジ?何デモクレンノ?」


「ほ、本当だ!嘘ではない!」



明埜が顎に手を添え考える仕草を見せ始めた事で宦官の男はほっと一息つく。

今はこの場をしのげさえすればいい。しのげばこの暗殺者の裏にいる人間を導き出せる。この報い、受けさせてくれよう。



「ナァ、本当ニクレルノカ?」


「……ん?ああ、なんでもだ。さぁいえ、何が望みだ」



人間は実に欲望に塗れている。いかな暗殺者と言えどこの漢を支配する我が力の前では、そう思い宦官は余裕が出てきたのか実に良い笑みで彼女に笑いかけた。

一方、明埜も願いが決まったのかにんまりと微笑む。



「ジャ、言ワセテモラウゼ」


「ああ、言ってみ……」


「テメェノ首ヨコセ玉無シ野郎」



素早い動きで明埜はもう片方の袖から小太刀を抜き出し一閃、宦官の男の首は笑顔を浮かべながら吹き飛び天井にぶつかると、地面へと重力により落下した。

辺りに男の首から溢れた血が飛び散り、ただでさえ惨状の部屋をより残酷に彩る。


明埜は足下に転がる笑顔を浮かべた首をちらりと眺めると、勢いそのままに足を振り下ろした。

鈍い音、何かがひしゃげるような水たまりを踏んだような、そんな音が鳴り響く。

同時に目玉が神経に繋がれたまま足の裏からはみ出し、辺りに脳漿が飛び散った。



「テメェノ笑ミハ気持チ悪インダヨ。マダアノゴリラ女ノ方ガ好感持テルゼ。……アア、コンナヤツヨリ旦那ノ笑顔ガミタイネ」



そう呟くと先ほどから身動き一つせず、現れた姿勢のままの部下に向けて振り返る。

ちょうど戻って来た部下がこの男だったので演じた猿芝居だったが、中々楽しめた。自らの主がこういう趣向が好きなのがよく分かった。

そう満足しつつ明埜は部下に報告を促した。



「ドウヨ?」


「っは!この漢の大陸の地図、住民や農耕地の収穫量などが書かれた書簡は全て回収が完了。宦官の掃討も馬元義様の者達で終わりです」


「上々、董卓ハ?」


「そ、それが……」



包帯の上からでも分かるほど男は狼狽えているのが分かった。明埜は嫌な予感を感じつつ顎でさらに続きを促した。



「どうやらこの洛陽に戻った賈駆により連れ出されてようで……今忍び総出で探索していますが未だ見つからず」


「……ッチ、早ク見ツケロ。俺ハ旦那ヲ迎エニ行ク。アアクソッタレ、劉備ノ再来カ?マタ俺ハ最後ノ最後デシクジルノカ」


「……この命に代えましても我ら忍び一同探し出して見せます」


「頼ムゼ?間違ッテモ連合ノ連中ニ渡スンジャネェゾ」



返事をし消えた部下のいた場所を眺めつつ明埜は大きなため息をつく。

ここで董卓を捕まえれば全てが終わった。我らの勝利で終われた。


明埜は既に報告を聞いていた。美須々は張遼を、琉生は華雄を生け捕ったらしい。なんとも良い成果じゃねぇか。

特に美須々の体は聞く限りではぼろぼろだった。どんな戦いをどのような思いでしたのか容易に想像がつく。

琉生も無傷とはいかなかったようが部下達に囲ませ、動けなくした所を縄で捕獲したらしい。


……自分だけか。

また、俺だけが結果残せねぇってか。


旦那はそれでも宦官の駆除に書物の回収、これで十分だと言ってくれるだろう。他の二人同様に任せられたのはこの二つだからだ。


仕事をこなした、結果を残した。

だがそれは俺の結果であって勝利じゃねぇ。



「クソッタレガ」



明埜は波才を出迎えるべく、その場を去った。











~白蓮 side~



「……以上が報告内容です。単経様は既に洛陽かと」


「そうか。ご苦労だった、下がれ」


「っは!」



最後の……一つか。


そう思い白蓮は静かに洛陽を眺めた。

既に呂布も撃退され、残るは洛陽のみ。とはいう守る兵などとうの昔にいなくなり、今はただ董卓の死を待つだけとなっている。

が、ここで問題が起きている。



「あの馬鹿共が……」



頭痛が起こり思わず頭を抱える。

目の前には洛陽の城門前で袁術軍と袁紹軍が互いににらみ合っていた。というか押し合いへし合いで我先に入ろうと争っていた。



「いや、好都合なんだけどさ」



悪いことではない、いや、悪いことなのだが自分にとっては良いことだ。

正直洛陽一番乗りを果たしたいという欲望がだだ漏れなのは何とも見苦しいが、それにより未だ洛陽に乗り込んではいない。波才達の時間が稼げる。


幸いに曹操も孫策もこれを止めるつもりは無いらしい。……多分呆れているだけだろうが。

桃花はこれを収めようとしてあたふたしてるんだろうなぁと、私は学友の顔を思い浮かべて苦笑する。


いくら董卓と言えど逃げていられるのは時間の問題であろう。

明埜が持つ私兵の優秀な「忍び」達。うちに侵入する密偵をことごとく処理するその実力にはたいそう驚かされた。

なんでも彼らの自体は技量は実力がある程度の備わっている密偵と変わらないらしい。その行動と統率、そして習得した知識に秘密があるらしいが……こればっかりは明埜しか知らない。

ともかくそんな連中に追われているんだ。時期に終わる。



「白蓮さん。どうなされました?」


「ん?美須々か。いや、少しな」



ふと声をかけられて振り向けば、包帯まみれの美須々の姿があった。



「もう大丈夫なのか?」


「いえ、動くことがやっとです。医師の判断では一ヶ月は絶対安静だといわれました。今、主と共にあそこへ行けないのが実にもどかしい」


「そうか……私も、なんだかあいつに任せてばかりだな」



全て、全て波才の考え通りに言った。あいつは私に言った。

「王とは自ら戦場に出て闘う者ではない、王とは優秀な知識があるものではない、如何にして人を使え惹き付けられるのかです」と。

そしてはにかみながら「私は貴方に惹き付けられた、だから貴方は王です」といって私に実力以上の働きを求めない。私は何もしていないといえば「私が決めたから進めたのだ」と波才は言うんだろうな。そう思い苦笑する。



「どうかなされたのですか?」


「ああいや、待つだけってのは辛いなと思ってな」


「……心中お察しいたします」



私も、強くならないとな。

武だとか知識だとか、そんなものじゃない。それがあろうとなかろうと、あいつにとって私は私なのだから。


求めるのは王としての自分……か。

今ここで堂々と家臣の帰りを待つみたいな事が出来る王、心を貫き臣下に応える王。



「がらじゃないな」



私は、再び苦笑した。

早く帰ってこい波才、私は寂しくて死ぬぞ?









~波才 side~



「ん?」


「……」


「あ、いえ。何でもありませんよ」



しかし、董卓はどこへ消えたのか。

洛陽から逃げ出すおおよその出口には既に明埜の手の者が潜んでいる、だから確実にこの洛陽にいることは確かなのだが……。


ピキピキピキーン(例のあの音)


この感じ……ニュータイプか!?

感じる、この私の英雄センサー、主要人物センサーにひっかかる者が一人、いや二人か。

なんだか私も少し人間離れし始めている気がするが、多分気のせいだ。そうに違いない。


……いや、センサーとかぬかしてますけどただの『かん』だ。

私は三倍早くてロリコンじゃないから。な?



「……(じと目)」


「え、あ、いえ。行きますよ」



心なしか琉生のまなざしがきつかった気がする。












「マジでいたよ……」



だんだん人間離れしてきた気がしてならない。本当にいるとは思いもしなかった。

一人は眼鏡をかけた少女、有名な大学の卒業式などでよく見るあの帽子を被っている。

身長は160?若干目がきつい、それに切羽詰まっているのか必死にもう一人の少女の手を引いて先導していた。


そのもう一人のはやたら豪華な着物を着込んでいる。

……普通のお金持ちの娘にしてはいささかおかしい。まず周りを董卓軍の兵士が囲んでいることからおかしい。いかにも逃げているといわんばかりだ。


何故逃げる必要がある?

原因としては連合がこの戦いに勝利したからだろう。

何故連合が勝利したから逃げる。


董卓の家臣?それにしては周りの兵の面持ちがおかしい、纏う空気が一般兵と違う。

董卓の家臣は明埜の報告で聞く限り全て戦場に出たはず。あの眼鏡の少女もその家臣なのだろう。

何故その家臣が一人の少女をかばう?見た限り武官でも文官でも無い。


耳を澄ませると、豪華な服を纏った少女がその場に息荒く蹲っていた。



「月!!早く逃げよう!!連合の奴らが押し寄せてくる!!」


「詠ちゃん……私はいいから先に」


「馬鹿な事言わないの!!絶対に二人で逃げ切るのよ!!」



おお、なんと涙ぐましい。


波才は笑みを深く顔に刻む。

明埜の報告により武将の情報はとうの昔に入手済み。その中には真名に関する事も記述されている。


つきと書いて『ゆえ』、董卓の真名だ。

それなら逃げていることにも合点が行った。ちなみにあの眼鏡の少女の真名は詠、おそらく賈駆だろう。



「……あはっ♪」



私は近くで控えていた明埜の配下の忍び達に目配せをする。

手信号により返されたそれの答えは「辺りに人はなし、好機」。

思わず笑いがこぼれそうになるのを、口を手で押さえつけることにより必死に耐える、耐える、耐える。


手で万が一の時に備え潜むよう指示をだすと同時に、包囲を完了。

琉生にも目線を向けると静かに頷いた。


つまりだ、これが本当に最後の私達の戦いとなる。


彼女達から十メートル離れた民家に波才自身も移動すると、音もなく飛び降りた。



「やぁ、本日は大変お日柄もよく晴天でありますね」


「「「「「!?」」」」」



突然現れた仮面の男に董卓、賈駆は顔を青くする。

賈駆は董卓の前に身を乗り出すと、私をきっと睨み付けた。よほど彼女のことが大事なのだろう。


 

「……あんた誰よ」


「私、連合の公孫賛が将の単経と申します。お若い女性二人にこの洛陽は今大変危のうございますよ?」



そう言って指を鳴らせば彼らの背後から現れる我が将、琉生。逃走経路はもはや完全にふさがれた。

警戒したように董卓軍が彼女へと武器を向ける。だがさらに明埜の忍びが屋根の上に姿を現したことにより、彼らは自分の立場がようやく理解出来たようだ。。

彼女達は今や囲まれ、その表情から動揺がいやというほど見て取れる。

賈駆が足を震わせながらも私に向かって咆えた。



「月は……月は絶対に渡さない!!」



おお、なんか主人公側の男優みたいだ。

勇ましく格好が良い、でもそれ解決になっていないよな。


決死の覚悟で兵達も一人の少女を中心に円陣を組む。なるほど彼らもまた主君の為に死を厭わぬ烈士達であったようだ。

もし彼らと正面からやり合えば、こちらも時間がかかりただでは済むまい。今も賈駆は必死にこの状況を打開すべく頭を回転させているように見える。


……まぁ、やり合えばの話だが。ようは話し合いだ。それこそがそもそもの目的でもあるのだから。


必要以上の警戒を煽ることがないよう、己の陣営の者達の武器を下げ、自身は一歩前へと踏み出す。

これで頭がよい賈駆は波才がこの場でのとりまとめ役だと理解した。波才へと警戒と疑念が入り交じった表情で睨みつける。



「その少女を守るおつもりですか」


「そうよ、あんた達なんかに絶対に負けるもんですか!」


「へぇ~そのためならば手段を選ばぬおつもりで?」


「あんたにわざわざそんな事を言うとでも思ったの?お笑いぐさねっ!」



気丈に振る舞ってはいるが、足が僅かに震えている。

波才は面白げに再度彼女の体をなめ回すように視姦した。



「ほうほう、そうだ。面白い話をお若い女性さん方に教えて差し上げましょう」


「……」



だから、そんなに睨まないでってば。



「実はね、董卓は死んだらしいですんよ~今ちょっとした噂になっていましてね。……知ってました?」


「「!?」」



二人の少女が大きく体を震わせた。

賈駆の方は私が何かを伝えたいことを理解したのか、私の言葉を一言一句逃さないように静かに聞く体勢になっている。

頭の良い子は嫌いではない、波才は仮面の下に満円の笑みを浮かべた。



「董卓は宮廷で殺されたそうです。それが酷い有様でしてね、顔が|ずたぼろに切り刻まれて《 ・・・・・・・・・・・》董卓だと最初は分からなかったようです。董卓だと解った理由が彼女が

生前身につけていた剣、そして服でしてね。何とも酷い有様だったそうです」


「なっ!?」



聞く限りの董卓と同じ身長・体型・髪の色の女をこの大陸から探し出した。

大変苦労したがある村の娘がこの条件に当てはまった。

おそらく明埜の部下でもなければ見つけられなかっただろう。

その後彼女を捕らえ、役人に金を握らせてこの洛陽に縛った状態で持ち込み、来るべきその日まで監禁した。


この時代にDNA鑑定は無い。よほどのことではない限りわかりはしないだろう。

後はご存じの通り……まぁていの良い身代わりだ。


あ、そういえばある村の美しい銀髪の娘がある朝消えてしまったらしい。母親と父親はたいそう嘆き悲しんだらしくてな、あまりにも哀れだと思った私は彼らに自分のお金を多く包んで送ったのですよ。彼らは優しいお方だと私に感謝して、さらにはその噂が流れて単経と公孫賛に対する民心が上がったそうな。



「おそらくは宦官がやったのでしょうねぇ。なんで顔をめちゃくちゃにしたんでしょうか?」


「……あんた、もしかして」


「しかもその宦官自体も押し入った狼藉者に皆殺しにされたらしくてですね、真相は闇の中なのですよ。ああもうなんと言うことでしょうね。誰もその真実は分かりません」


「……それで、何が言いたいの?」


「え、あ。これはほとんど独り言のような物です。あ、まだ独り言がありました。実は公孫賛様は出来れば董卓を救いたかったようなのですが……ああ、それは不可能になってしまいました。だって董卓は死んでしまったのですから、そうでしょう?」


「……そうね」


「そしてあなた方は何かからお逃げになっている様子、私は董卓の代わりにせめて貴方達を救いたいと思ったのですよ。私達の軍は今雄飛の時を迎えていましてね、新しく張遼も我が陣門に加わりました。さらに華雄も捕縛し、今配下になるよう説得しているのですが……なかなかうまく行かず。誰か説得する知と人徳をお持ちの方はどこかにいないものか。いたら好待遇で誰であろうと、それこそ生まれもここに来るまでの経歴が不自然になかろうと登用したいと考えているんです」



波才はわざとらしく一息つくと、清貧を尊ぶ神父の如く天を仰ぎ見て祈った。



「ああ、どこかにいないものか。ねぇ、お嬢さん方」



二人は顔を厳しくして私達を見定めようとしている。

……選択肢があるとおもっているのだろうか?

分かるだろうに。頭の良い方なら私の言う意味が。身代わりという策を起用する人間が、人の命を軽く見るような外道が、あなた方の命をどう見るかなど。



「……一つ聞かせて」


「ん?何ですか?」


「公孫賛軍は安全かしら?」


「……この世にそんな所ありませんよ。ですが我が主はそれを創ろうとしている。人々が笑い、利用される事なき太平の世をね。その為には私は何でもしますよ。もちろん、安全さえもね」



さて、話は終わりだ。

ここまでやって分からないようなら必要無い。時勢を読めぬ者など入れても害になるだけなのだから。



「……約束して、この子に、月に危害を加えず一切手を出さないと」


「そ、そんな詠ちゃん!?それだと詠ちゃんが!!」


「あ~感動的な所悪いですが、私は味方には寛容です。我らを害そうとする敵には容赦はしませんが、助けを求め、我が味方になろう者を害す趣味などありませんから」



私は仮面をに手を伸ばして、外した。

その行為に二人は戸惑ったようだが、私は彼女達へ向けて優しく微笑む。



「私は壊れていますが、公孫賛様は大変お優しいお方です。それ故に小細工や見えなど無しにお願いしたい。私にはあなた方の力が必要です。是非そのお力をお貸しいただきたい」



そう言って跪く。

驚いてくる様子が伝わってくるが、最後には結局誠意が必要だ。

無理矢理従えたところで反感を抱く、彼女達から私達へとお願いしたという形が必要なのだ。

だからこそ私は彼女達をたてる。


……とまぁご託を並べたが、結局の所彼女達は他に道はない。

入ってからうだうだ言われないように、ミランダ警告モドキをしているだけに過ぎないのだ


○貴方には、私の軍へ入る権利がある。

○貴方のこれ以降の発言は、貴方の生命を左右される恐れがある。

○貴方は、こちらの質問以外に手短に話し合いを求める権利がある。

○もし断れば、こちらは他の軍に遺体で引き渡す可能性がある。


という何とも乱世らしい警告なものだが。



「……詠ちゃん、どのみちもうこの人しか頼る人はいないよ。この人は私達を守ってくれたんだから」


「……はぁ、他に道はどうせ無いもんね。いいわ、手を貸して上げる。だけど!!月に手を出したら絶対に許さないからね!!分かった!?」



その言葉を聞くやいなや、波才は感嘆の声を漏らし二人へと走り寄った。

兵達は警戒をしたものの、自らの主君が進み出たことにより道を空ける。

彼女らに辿り着いた波才は、二人へ手を差しだした。それが友好的な意味だと分かると、始めに董卓がはにかみながらもその手を握り替えし、次ぎに賈駆がふんっと鼻を鳴らしながら嫌そうに手を握った。



「我が名は単経、これからよろしくお願いします」


「は、はい。よろしく願いします」


「……正直、あんたみたいなうさんくさい奴は嫌いだけど。月のためにも手伝って上げる。」


「おお、結構結構……」



まるで形が掴めないようなわざとらしい道化を波才は演じていたわけだが、内心ただ事ではなかった。

ここで拒絶された場合は、せっかくの美須々と琉生が掴み取った機会が失われてしまう恐れがあったからだ。ここまでの冒険をして、ここまで配下が盛り上げたものを自分が台無しにしてしまっては、流石に彼とはいえ罪悪感を抱かざるをえない。


波才がここにきて何度も浮かべた笑いは、いわば緊張の限界を超えてしまって起こるそれと変わりがなかったのだ。

現に握手をする手は未だに震えており、董卓達は驚きの目で彼を見ていた。最も彼らは障害か病気かと勘違いをしていたわけだが。



「あの、手が震えてますけど」


「……緊張してる、と言ったら笑いますかね?」


「っは、冗談ならもっと上手い事言いなさいよ」



董卓は何ともいえないのか乾いた笑いをこぼし、賈駆は何をいっているのだと鼻を鳴らした。



「あ~それではまずはその服は不味いと思うので、こちらで用意した服を着ていただければ。兵士さん方は鎧と武器を捨ててですね……」


「旦那、悪イガ急用ダ。俺ジャ判断がデキネェ」



締まりの無くなってしまった空気を何とか戻すべく、波才が時間が惜しいと打診していると、聞き慣れた声が彼の声を遮った。

振り返れば、包帯を巻いた明埜の姿が。何とも珍しいことに焦っているのであろう。息荒く走り寄ってくる。


またも現れた変人二号、普通とはとうてい思えないファッションセンスを見せる明埜に思わず董卓軍全員が固まった。



「……あんたもそこの単経の部下なの?」


「黙リナチンチクリン、オメェハオ呼ビジャネェヨ」


「なんですって!?」



何とか声をひねり出すも、そもそも人付き合いにステータスを一切割り振らない武将代表である明埜は、見事な罵倒で返した。

後者だけならば彼女もまだ余裕であっただろうが、前者が加わったことで無敵に見える。見事に釣られてしまった。


メンチを斬り合う二人に呆れつつ、この場は琉生に任せるべきかと波才は大きなため息をついた。



「明埜、止めなさい。……琉生、貴方は二人を連れて先に白蓮の下まで行ってください」



琉生は二人に歩み寄り、ひょいっと俵を担ぎ上げるように二人を肩に担ぎ上げた。兵達には鎧を脱ぎ捨てさせている。

賈駆は何やら騒ぎ立てて罵倒し、部下達はそれを見て戸惑うが琉生は関係無しに歩き出した。


背後から並んで歩く部下には、担がれた賈駆の下着が丸見えであったのだ。


それに賈駆は気が付きさらに騒ぎ立てるも、琉生は一向に気にせずに歩いて行く。

そんな彼らを、いやそんな賈駆の下着を遠くになって見えなくなるまでひとしきり眺めてから明埜に向き直る。



「一体どうしたんです?」


「……イヤ、董卓ヲ探シテイタラ見ツケチマッテナ。俺ガ判断スルニャァチト荷ガ重イ、旦那ニ任セタイ」


「あるもの……?何ですか?」



宝剣?それとも重要な書類?宝?

それにしては明埜の慌てようはおかしい気が……。






























「玉璽ダ」


「へ?」


「玉璽ヲ見ツケチマッタ、街ノ井戸デ。マダ手ヲダシチャイネェガ、オソラクマジモンノ玉璽ダ」



あけましておめでとうございます。


順調にいけば、今年中に黄巾無双は完結しそうです。……東京地震に巻き込まれたらあれですが。宮城で震災あって東京でも震災あったら流石に笑えないわぁ。


そういえば、作者はペンタブレット買いました。

これでいろいろ書きたい放題だなぁって思い、白蓮を書こうとして思いだした。


うち、人物画かけへん。


仕方ないので泣く泣く『まどかマギカ』の魔女版さやかちゃんを書いていた大晦日。うん、良い出来だったんだ。背景も影も色塗りもばっちしだったんだ。でも涙が止まらん。

あれだ、白蓮も魔女化してたら書けるんだよっ!(おい

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