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黄巾無双  作者: 味の素
反董卓連合の章
43/62

第三十一話 将星乱舞

君の書いた原稿は優れているし、独創的だ。だが、優れている部分は独創的でないし、独創的な部分は優れていない。


~サミュエル・ジョンソン~

「……あかんな」



目の前に広がる自軍の姿を見て張遼は無意識のうちに呟いた。


ここ連日、連合軍は以前とは全く異なる戦い方を行っていた。

始めはいつもよりもしつこいほどに攻めてくると疑念を持ったがその攻城が夜にまで及んだ時、ようやくその意図に気が付けた。


敵の軍の旗が入れ替わり交代し攻め立てている。


始めは劉備だった旗がいつの間にか曹操、公孫賛と入れ替わりに攻城を行ってくる。

敵の攻城はやむ気配が無い、一方此方軍は日夜戦い続け疲労が積み重なり徐々にだが押され始めていた。

この時やっとうちらは分かったんや。向こうは大軍であり連合という形態であり、複数の勢力で同時に攻めるよりもそれぞれ個々の軍で動いた方が効率がよい。

なおかつ誰かの軍が攻めているときは休むことが出来る。


つまり絶え間なく続くこの攻城はこの先も途絶えることはない。


それを理解したときのうちらの行動は早かった。

賈駆が即座に複数に軍を分割。此方も向こうと同じ体勢を整えた。

耐えきれば勝てる戦だった。連合という形態でも間諜によればうまく機能していない。いずれ仲間割れを起こし自分の家をほっとくわけにもいかずのこのこと帰って行くそう思っていた。


だが箱を開ければどうだ。


見回す兵は誰もが疲れきり、徐々に負傷者、死傷者が増え始めている。

徐々にとは言っているがいずれ限界が来れば爆発的に増えるのは目が見えていることだ。


董卓軍は連合と同じ戦術をとっても勝てはしない。

何故なら此方は本拠地であるからだ。連合とは違い本拠地での休息はそれほど意味をなさない。夜も洛陽の町中に響く敵軍の声で、兵はおろか民ですら休まることはない。


この民というのが問題だ。

既に城にはいくつもの不安の声が寄せられ、街の中で起こる不祥事も連日発生している。聞けば町中に黄巾の残党が潜んでいて弱り目とばかりに牙を剥き始めたらしい。

常時ならば直ぐにでも調査し鎮圧できるために問題ではない。

だが今は兵をあまり割けず、取り締まることさえ困難な有様だ。


このことが更なる不安を民に与えてしまっている。

さらに一度は宦官を大人しくさせたがこのままでは更に何かをやらかしかねない。

民の反乱に宦官の暗躍、どれも今のうちらでは止めようもない。



「……せめて、虎牢関であれば」



言っても変わらないとはいえ言わずにはいられなかった。

虎牢関であればこのような戦い方を連合にされても同じく休むことが出来る。さらには民の心配などどうにでもなった。離れていれば民への情報操作も容易い。だが本拠地での攻防では隠す事など出来るわけもない。


華雄が出陣したのは確かに予想外……いや、想定内だったが取り戻すことが出来る失態だった。

問題はその次ぎ、宦官達の暗躍……。


張遼は思わず手に持つ武具を握りしめる。


あれが予想外だった。賈駆がいるからと自分に言い聞かせていた所もあるかもしれない。

戻らなければ確実に月は死んでいた。この戦の最中よくあそこまで張り巡らしたものだ。いや、むしろこの戦だからこそか。


救えて後悔はしていない、だがこのままではいずれ負けて月の首がこの洛陽の広場に飾られるのは火を見るよりも明らかだ。


せめて、せめてそうなる前に一か八かで出るしかない。

おそらく賈駆も同じ事を考えて……。


いや、待て。

張遼はあの虎牢関で出会った女を思い出した。


「ふふ、その時を楽しみにしています。……早く、洛陽に向かっては?」


あの女は確実に何かを知っていた。それはもしかしてこのことではないだろうか?

決戦の地は洛陽。

そう言っていたあの女、構え、佇まい、華雄を追い詰めた武。まず普通では無い。

彼女は知っていた?この洛陽で宦官が暗殺行おうとすることを?董卓軍が洛陽まで退くことを?



「……面白いやないか。上等や、その口割らせたる」






~波才 side~



「白蓮が魔法少女になって戦う夢を見ました。なんか夢の中で『正義と愛の使者!!まじかる☆白馬!!』とか言っていました」


「いきなりお前は何を言い出す……なんだその期待するような目は」


「いつもは普通の女の子だけれどピンチに隠された力が解放され無双とか」


「お前は私を何だと思ってるんだよ……」


「……普通」


「悪かったな!!普通で!!」



軽く鼻で笑って天を見上げる。

うん、清々しいほど青い空だ。お日柄もよく、良い感じの天気。バケットにおにぎりを詰めてピクニックがとても似合う日だろう。

悲しむべきは血の雨がまもなく降ることによって、せっかくのおにぎりの味がしなくなることか。



「白蓮、戦なんか投げ捨てて遠足行きません?」


「……それは二人だけか?」


「ん?美須々や琉生に明埜を連れて行きますけれど」


「……まぁどっちにしろこの戦が終わってからだろ。いや待て、この連合期間内にたまっているだろう仕事が山ほどあるんじゃないか?」


「分かりました。白蓮はお留守番ですね」


「お前の私に対する忠誠心に疑念が沸いてきたよ……」


「今更ですか?」


「……もういい。なんか戦の前なのに疲れた」



盛大なため息をつく白蓮。なんだか最近自分をを含めてみんなため息ばかりをつくことに波才は気が付いた。

その事について彼女に上奏したところ、白蓮はいかにも「お前が言うな」と言わんばかりに波才を睨みつける。


いや、一応自分も被害者なのだが。



「所で、今日の軍議なんだが……やっぱりあれか?」


「でしょうねぇ。いつもよりも反撃が弱かった事と、炊煙がいつもより多いらしいのであれでしょうねぇ」



反撃が弱いということは何かするために力を蓄えていること。炊煙が多いということは何かのために軍を大きく動かすということだ。

どうやら向こうさんはこのままでは自利損だと出撃する一大決心を固めたらしい。

今回の軍議ではその確認、及び対処のための策などを話し合うのだろう。

一応偽りの可能性もあるが……いっちゃなんだがそん時は普通に攻めればいい。時間が経てば経つほど此方が有利になる。


それにしても決戦……。


やはり本拠地まで追い詰めたのが大きい。あのまま馬鹿正直に虎牢関などで戦ってはこうはいなかかっただろうに。


董卓軍全体を動かすとなると下手すれば同士討ちにも発展する夜はない。つまり昼間。早ければ今日で遅ければ明日か?


さて考えろ。


董卓軍はどう攻める?ここまでの劣勢から覆せる策などそうはない。外部勢力からの手助けは無いみたいですが……援軍の宛もないみたいですね。

ならばこの籠城はただ堪え忍ぶだけの末期の戦い。むしろここまで自軍を追い込んだ上で行える策など限られている。


その上策はなった、これ以上時間を取れば向こうは内側から瓦解する。それは連合側も同じだが先に訪れるのは向こうだ。

このまま攻め込んで来るのだろうか……来るしかないな。何か策があるなら私ならもっと早く手を打っている。早いうちにやらなければ兵が疲労するだけ、何も疲れきるこんな時まで待つ必要など全く無い。


結論、攻め込むのは確定。


……駄目だな。いまいち素材が足りない。此方の連合としての勝利はほぼ確定なのだが、公孫賛軍としての勝利はこのままでは掴めない。

仕方ない。軍議まで待とう。



「そういえば美須々、琉生。貴方達張遼と呂布を見たんですよね?」


「はい。両名なかなかの武人でした。特に呂布です」



う~んやっぱり天下無双か。



「琉生を一撃で吹き飛ばしました」


「……マジ?」


「いえすです」



私から教えた英語を胸を張り言ってやったぞ、と誇る美須々を私は無視して琉生に判断を仰ぐ。彼女は静かに頷き肯定の意を示した。



「あ、あの主?もしかし……」


「琉生、呂布の武。受けてみていかがでしたか?」


「……」



彼女は静かに首を振り、目を瞑った。


あ、マジでやばい。しゃれにならないくらいやばい。

琉生は首を振って否定をするが、目を瞑るということをよっぽでは無い限り表現しない。ただの首振りなら日本沈没レベルで済むが、そこに目を瞑るがプラスされると世界滅亡レベルになる。

……え?大げさすぎる?


だって呂布の武力、天下無双状態で武力28の速度上昇ですよ?この世界では落雷とか赤壁で燃やせばOKとか出来ないんですよ?



「主?その、お気に障り……」


「具体的にはどれぐらいです?美須々何人分ですか?」


「……」



手を振って否定する。美須々で比べるとかそう言う問題じゃないぐらいですか……ちょっと待て。美須々は夏侯惇を止めれはず。聞いた分には十分魏の猛将と互角レベルだ。

……ちょっと待て。それってこの連合止られる人間がいるのか?

そいえば劉備は妹二人と趙雲でも相手にならなかったとか言っていた気が……。



「これは呂布は無視しかないな……って美須々?貴方なんで涙目なんですか?」



何故か美須々が目頭に涙をため始めている。



「あ、あの主。私のいえすはどこか間違ってましたか?」


「取り合えず鼻かみなさい。間違っていないのですけど日本人な私は普通にやってくれるとありがたいです」


「……ぐす、えっぐ。分かりました」



うん、絶対意味分かっていないだろうけれど、これ以上追求したら本気でへこみそうなので止めよう。














■ ■ ■ ■ ■











「そんな不名誉な事、妾はイヤなのじゃ!」


「そうですわ!今日からしばらく、貴方達だけで城攻めをしなさい!これは連合総大将からの命令ですわよ!」



うわ~なんてお空が綺麗なんでしょうね。ほんとこんな日はピクニックにちょうど良い。サンドイッチをバスケットに入れて草原のど真ん中で



「単経、帰ってこい」


「……ちょっとぐらい夢見させてもらってもいいじゃないですか」


「夢はな……覚めるものなんだよ」


「誰が上手いこと言えと」



起きても辛いならずっと寝ていられればいいのに。この世は無常だ。


事の始めは曹操の軍師の猫耳(何故か私を方を睨む、なんかしたっけ)がそろそろ敵が決戦を仕掛けてくるだろうとこの場で発言したことから始まる。

本日攻城を行ったのは公孫賛軍と曹操軍、彼女達も攻城の際に異常に気が付いたのだ。何人かが私達公孫賛軍陣営に確認の視線を向けてきたので白蓮は静かに首肯する。猫耳の見立ても自分と同じように今日明日中。


さて、ここで問題が起きた。


なんせ此方は攻め続けなければ意味がない。

向こうが攻めてくるだと?よし!軍を退いて迎え撃つ体勢を整えるんだ!とか言っていたら休む時間を与えてしまうからだ。

つまり、誰かが攻めているときに鉢合わせになる。これはある意味で決定事項だ。当然その攻めている軍は大きな被害は確実。



「絶対!イヤですわ!そうだ、劉備さんが私の代わりに出撃なさい!」


「え、ええ!?私達!?」


「むぅ~イヤじゃイヤじゃ!妾は出撃しとうない!」


「……はぁ。仕方がないわね、私が出るわ袁術ちゃん」


「はいはーい、孫策さんに任せちゃいましょうね♪」



すげぇ。曹操さんの顔が般若だ。あ、芸人の方じゃないですからね。


もの凄い不愉快だと言わんばかりの顔。そりゃそうだ、ここが勝負所なのに降りちゃったんですから。

かくいう波才も何故か変な笑いが止まらなかった。


というか少なくとも袁術はそんなこと言ったら駄目だろ!?全然忠誠心が無くて独立する気満々の人間にこんな機会与えたら調子に乗るし武勇伝に泊が付くかも知れないし、その泊に俺が釣られたクマー状態になるし。


あ~こりゃ孫策独立の日も近い。

見立てだと孫策独立はもうちょっと遅かったんだが早めておこう。なんか袁術は蜂蜜あれば生きていけそうな気がする。



「あのぉ……私の軍は兵が少ないのでまた貸していただけたら」


「だ・め・で・す・わ!!たまにはご自分のお力でどうにかなされたらどうです!!」


「……私の兵を貸して上げるわ」



すげぇ、たった一回兵を貸しただけであの尊大な態度とれるとか……いや、たった一回でも貸しただけで凄いことなんだが、あのおーほっほっほオーラが全てを台無しにしていることは言うまでも無い。


一方、曹操は本当に苦し紛れの軍貸しを劉備に行った。もし最初の功労者でこの連合に好印象を残した彼女が、いきなり散っちゃったら連合の兵の士気が落ちることは間違いないからだ。


少なくとも敵を勢いづけ、こちらの兵が弱気になることは確実。

それを考慮したのだろう。


ちなみに私達にそんな余裕無い。あったら兵を分けて裏から攻める手をとっている。うちは兵の面でも人材不足。将は英雄に、兵になると袁紹にさえ持って行かれるしまつだ。


もう笑えよ、幽州の人気の無さに笑えよ。


人はゲームみたいに急に増えたりなんかしない。一応将来の幽州のために育児政策を行ってはいるが、成果が出るのは何年後からになることか。



「それでは、これで軍議を終了とする」








■ ■ ■ ■ ■









「というわけで軍を三部隊に分割します。美須々と私、白蓮、琉生の三部隊。白蓮が本隊一万、琉生が三千、残党である同胞達二千の私達の部隊とします」


「二千?私が連れてきた鎧連隊五百は使わないのか?」


「あれは琉生の部隊に組み込みですね。白蓮が本隊で攻め立てている最中に敵が打って出たら、鎧連隊を中心に退く体勢。敵は恐らく騎馬を中心に追撃を仕掛けて来るでしょうから彼らのハルバートで槍衾を作ると共に、盾により騎馬を牽制。敵の機動力をそげ落とします。琉生は場合によっては正面の将を上手い具合に引きつけ、いなしてくれれば結構。馬鹿正直に一騎打ちなんてしないように」


「……」


「念のために言っておきますけど、華雄にならないでくださいね」


「……(心外だと言わんばかりの目)」



まさか白蓮がネタで連れてきた鎧連隊が役にたつとは……一発ネタじゃなかのか。



「主、私達はどうするのですか?」


「遊撃隊ですね。現段階ではいまいち分からない所が多い。状況に任せて好きなように動ける隊が欲しい」



とはいったものも、自分たちの攻城の時に敵が出てこないのが一番良いことに間違いない。

先ほど述べた戦術で退いている間に早く味方が来ないと、私達は確実に負ける。


……へ?なんでって?


いや……呂布がね。チートなの。

この世界の住人、割と普通に鉄とかぶっ壊すからさ。うちの鎧連隊の鎧は現代配合でいろいろ混ぜて作っているからお金がかかる分普通と比べてすんごい堅い。

堅いんだけど……あいつらにとって木綿豆腐か堅豆腐かぐらいしか違いないんだ。うん。


だってあいつらぶっ飛ばすんだもん。


美須々と琉生に実験頼んだときの事思い出すわぁ。



   △



「これは……堅いですね」


「でしょう!新配合で堅さを既存の鎧の1.6倍、衝撃を緩和させるようにしましたから。この世界の鉱石は非常に素晴らしい、このまま行けば堅さ2倍も夢じゃありません!」



いやぁ何回切っても名がある武器は刃毀れ所か切れ味も落ちないから、鉱石もすんごいのかなぁって思ったら予想以上でしたよ。


ふふふ……お金はかかりますがそれ以上の成果が見込め



ドガーン!!



そうどかーんと成果が……ドカーン?

振り向くとそこには。



「……」



吹き飛ばされた鎧。若干いらついた目をした琉生の姿が。

そして彼女は吹き飛ばした鎧に勢いよく走り込み、落下して来たところを更に吹き飛ばす。


え、ちょっと琉生さん?なんでそんなに執拗に鎧をぶっ飛ばすんですか?なんでそんな怖い目してるんですか?なんか頭に怒りの四つ角浮かんでんですけど。



「おお!なるほど!たたっ切れないならぶっ飛ばせばいいんですね!はぁぁぁぁぁ!」



え、何その発想。怖い。

同じく頭に怒りの四つ角を出現させていた美須々が、琉生と同じようにお手玉を……。


どっかんどっかんぶっ飛ばされる鎧。多分生きていたら殺してくれと叫んでいるはずです。


……あれ、何だろう。目から涙が。あれ私の苦労の結晶なんですけど。

あんな簡単に……あんな簡単に。



「はーはっはっは!たかが堅いだけでは……って。申し訳ありません!私如きががつい調子に……主?心なしか主の目がどこか遠くにある気が」


「……(妙にすっきりした目)」



あ、あははは。夢じゃ、これは悪い夢なのじゃ。



「主?主ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」


「……(お腹が空いたような目)」



   △





「お~い単経。目が遠くを見ているぞ~」


「あ、主?何故かもの凄い罪悪感が押し寄せてきたのですが……」


「……」



っは!?



「あ~大丈夫で~す。諭吉さん三人分ぐらい大丈夫です」


「「「……」」」



え?なんでそんな哀れむ目で見てくるの?



「そ、それで?もし私達以外の時に出撃したらどうする?」


「白蓮は無難に戦うよう心がけてください、お願いします。欲張るとか、何かするとかしなくていいんで」


「……なんかその口ぶりだと、あんま期待されていない感が否めないんだが」


「……呂布とか、華雄とか、張遼とか。止めます?」


「済まん、私が悪かった。普通にやらせてもらう」



わりかしマジで言ったのが分かったのか、青い顔をして目を逸らされた。

おい、決闘しろよ。



「琉生、貴方の場合も同じです。私達がやりたいこと、分かりますよね?」


「……」


「頼みましたよ」


「主、私達遊撃隊はどうすればいいのです?」


「まぁ遊撃と言ってもやることは同じですよ。美須々、貴方」



私は嫌らしい笑みを浮かべながら彼女に問いかける。我ながら意地悪が過ぎると思うのだが、まぁこれは持って生まれた性分だ。私の部下になったのが運の尽きかね。



「張遼に勝てます?」



その問いに彼女は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔になり、次ぎに頬を膨らませて顔を赤くする。



「何をおっしゃるのですか主。私は主のなすべき事をなすために全てを犠牲にするのです。そんな曖昧な表現ではなくいつも通り、ただ命令を下せばよろしいのですよ」


「美須々、張遼の捕縛を命じます」



そう私が言うと彼女はその場に跪いた。



「この命に代えましても、その命を果たして見せます」



すんごい嬉しそうな顔で笑う美須々に、内心私は薄ら寒さを感じる。

自分の命以上に守ろうとする物を見つけた人間って、正直怖い。自分の命を守りながら何かをなすのは難しく、自分の命を失うこと前提に行動すれば大抵のことはなせるもの。ああ、怖い。


って他人事のように言ってますが私もその一人なんですけどね。あはは、笑えやしねぇ。



「それでは最後に、無理して洛陽一番乗りはしないように。もしするなら「○○一番乗り!」って己の得物ぶん回しながら叫ぶこと。美須々と琉生は用件が済み次第、洛陽に明埜の手引きで忍び込みます」


「二番目の意味が最も意味が分からないが……三番目の件はどうしてお前らだけなんだ?」


「白蓮には目を引きつけていてもらいたいんですよ。私達は宮殿に侵入して重要な書類やこの漢の大陸の詳しい資料などを強奪しますから」


「せめてもうちょっとマシな言い方してくれよ」



白蓮は若干苦笑気味だったが、真剣な顔に変わる。



「全てはお前達にかかっている。頼むぞ」













■ ■ ■ ■ ■









「う~ん、曹操の時に出陣してきましたか……やばいなぁ」


「主!用意は出来ました!」


「直ぐに出撃の指令を白蓮に飛ばしてください、先ほどの内容を忘れないようにともお伝えくださいね」


「っは!」


「琉生、貴方の予定を変更します。華雄を見つけ次第引きつけて、そのまま形だけは曹操軍を補助する形に持ち込んでください。華雄は恐らく貴方を見れば来るはず、もし気配が無ければ挑発してでも誘導しなさい」


「……」



美須々と同じく身を翻して自分の隊に駆けていく彼女を見つつ私は考える。


敵はよりによって曹操の時に出陣。この状況はきわめて不味い。まだ劉備や孫策ならばいいものの、曹操か。呂布は恐らく彼女達に任せることが出来る。実際に劉備軍は割と呂布に好戦的な構えを見せているからだ。


問題は曹操の悪癖だ。


聞く限り、正面から曹操軍とぶつかっているのは私達の目当ての張遼と賈駆。連合が参加することで撃退確率90%越えなのは間違いない。熱い確率だな、パチンコだったら腰が浮くぐらいだ。

問題はその後。曹操は撃退した後ほぼ100%で張遼を追うだろう。既に史実とも演技とも違う結果になっている今、史実と演技での最終結果である『張遼が魏国入り』のイベントがここで発生する可能性は大いにある。

まずは敵の撃退が最優先だが……。



「主、我ら精兵二千の出撃準備完了!白蓮さんの部隊は琉生と共に出撃、目録ではまもなく戦闘に入ります!」


「劉備、孫策は?」


「既に戦闘に入った模様!劉備は呂布と陳宮隊、孫策は華雄隊と抗戦中!」


「……美須々は五百を率いて我が隊から分離なさるよう。私は琉生と共に華雄隊と当たります。この意味、分かりますね?」


「……っは!!我が武は主の導きのままに」



さぁ、始めますか!


私は目を薄暗く輝かせた兵達の前に立つ。

ここにいる誰もが命を散らせる覚悟があると知っている。ここにいる誰もが私が死ねと言ったら死ぬことを知っている。


だから、命じてやるのだ。

死ねと。



「お前達!何の因果か私はまたここで軍を率いている!本当に世界は気まぐれで残酷で面白い!」



その言葉に彼らは一切の言葉を漏らすことなく私を見つめる。

目に確かな『熱』が籠もっている。



「全力だ!全てを出し切り相手に思い知らせろ!私達を嘗めている奴らに、その生意気な顔に刃を突きつけてやれ!!」



敵などいない。だが壊れている私達にそんな区別は付かないんです。



「私達は死に場所を探していた!なんともいい場所じゃないか!だが、今ここで我らの命を奴らに奪われるなどありえない。何故なら我らはやつらに飲み込まれるには、あまりにも生きてここにいるからだ!」



死にたくないだけ。私は死にたくはないのだ。あの孫策みたいに死を静かに受け入れることは出来ない。最後の最後まで、私は足掻く。失笑されようとも、馬鹿にされようとも、私は最後の最後まで足掻こう。

今一度言う、私達は今、ここで、生きている。



「そんなお前らに教えてやる、『エンジョイ&エキサイティング』!!魔法の言葉だ!!全部楽しめばいい、窮地を楽しめ、敗北を楽しめ、死を楽しめ、殺す事を楽しめ。この世の全ての生の縮図が今この戦場にあるぞ!!さぁ叫べ!!」



そして私は拳を振りかぶり声高らかに叫ぶ。



「『エンジョイ&エキサイティング』!!」


「「「「『エンジョイ&エキサイティング』!!」」」


その言葉に兵達は雄叫びを上げる。なんで戻って来たんですか。なんでここまで言われてなおその目に戦気を宿すのですか。ああ理解が出来ない。自分もその一人なれど理解が出来ない。

平穏を捨てて自ら死地に飛び込む自分を、彼らを。私は生涯理解することはないんだと思う。


……そういえば、これの元ネタのあいつら一人残らず全滅してたよな?

あ~まぁ大丈夫だと信じたい。



「全軍!蹂躙せよ!」



その一言に皆歓喜し、口から飛ばす唾を気にせずに叫んだ。

本当に、なんでみんなそんな笑顔なんだっての。


呆れながらも私はこの時気が付かなかった。私自身が一番歪な笑みを浮かべていることに。


私を先頭に千五百の獣達は董卓軍に牙を剥いた。

向かってくる兵、この兵は家族がいるのだろうか?もしかしたら年老いた母がいるかもしれない。帰りを待つ妻と子供がいるかも知れない。


私は彼の首を馬上からはね飛ばした。


剣を振り上げたのは初老の兵だった。この人はいったいどれほどの人間と繋がりがあるのだろう?あの黄巾の時代を生き抜いたこの男は、もしかしたら多くの人に慕われていたかも知れない。


私は走りざまに彼の胴体を一刀のもとに深手を負わせ、転倒させる。顔を前へ戻すと、

後ろからカエルがつぶれるような音が聞こえた。


槍を突き出してきたのは、まだ十五ほどのあどけなさを残す少年だった。日本だったら高校受験だろうか?友達と馬鹿な話をして、一緒にテレビゲームをして。私は彼ぐらいの時はそんな平和な日常を生きていた。


私はその槍を切り飛ばし、その少年の腕を切り落とした。


人が、人が簡単に死んでいく。

これが戦場なのだ。多くの英雄が名を馳せる戦場。その背景には彼らのような多くの犠牲がある。

物語を作る、そのためにはあまりにも多くの人が死ぬ。


家族がいた、恋人がいた、好きな人がいた、妻がいた、子供がいた、親友がいた。

幸せであり、不幸であり、情欲があり、彼らは確かに生きていた。


彼らは散っていく。この戦場という狂った机の上で死んでいく。その彼らの血で英雄の物語は描かれる。


こんな世界だ。万を超える屍の上に一人の英雄がおり、その英雄のみが後世に語られる。

曹操、劉備、孫策。この三人のが後世に語られるまでに何十万人が死んだ?おい、死した者達よ。

お前達は何も語られてはいないぞ?お前達は何も残していないぞ?


お前達は何を思い死んだのだ?

なぁ、数多の歴史の犠牲者達よ。我が同胞のように笑って死んでいけたか?


どうしても、私は自分の姿と彼らの姿を重ねざるを得ない。一度死んだ身として、歴史の影に消えて行った凡才として。

彼らはあまりにも自分の『友』でありすぎたのだ。


一人の兵を切り捨てる。


いつの間にか琉生の姿を私は見つけた。

同時に軍氣を感じ取る。曹操の軍氣が増した。

私は彼女へ駆け寄る。



「琉生、曹操は終わりを迎えようとしています。終わらせてはなりません、分かりますね?」


「……」



琉生は馬の手綱を力強く握りしめ、その眠たげな目をかっと開く。

私は辺りを見回す……見つけた。


駆ける、私は駆ける。

多くの血が、腕が、叫びが。凡夫達の声が戦場にこだまする。



「っちぃ!ん?貴様は!!」


「……お久しぶりですね」



華雄、お前には見えますか。華雄、貴方には分かるか。

戦いという狂気に目を濁した者に、この地獄が分かるのか。同じ知性を得た者達が、まるで獣のように歯を突き立て合うこの地獄を。

ああ、私には無理だ。耐えられない。英雄よ、お前達はこの声を背を得るのか?この声を背負った上で『英雄』になるのか。だとしたら私はとうてい英雄にはなり得ないのだろう。



「のこのこと現れおって!はぁぁぁぁぁぁ!!」



俯く私に華雄は容赦なく血で彩る得物で斬りかかるが琉生がそれを受け止める。

この世界では当たり前なのだ。そして私はこれを望んでいたのだ。

何という矛盾、私は命を重んじつつ軽んじている。何という矛盾、戦いを否定し、肯定する。


ああ、なんと私は狂っているのだ。



「なっ!?貴様はあの時の!!」


「琉生」


「……」



私達は反転する。『曹』の旗へと。



「おのれ!逃げるのか!」



華雄は顔を赤くし、私達へと馬を走らせる。兵達もその華雄に続き、さらに孫策軍も彼らへと殺到する。孫策軍には既に埋伏の兵を仕込ませている。手はずはとうの昔から完了済みだ。

道中も多くの兵を切り捨てた。血にまみれた剣を捨てて、敵兵から槍を奪い取り突き進む。

目の前に張遼の旗を追いやった曹操軍の姿を確認、見回すと曹操と夏侯惇の旗が見えた。妹の方は確か呂布へと向かっていたはず。


間に合ったか。


そのまま曹操軍を私の軍は突っ切る。逆に琉生は軍を反転、曹操軍を巻き込む形に持ち込む。

琉生が静かに手を上げると、兵達は素早く陣形を構築にかかる。僅か数秒で完成されたのは『方円の陣』。更に正面からぶつかる位置の鎧連は大地に盾を突き立て、槍衾を形成する。

瞬く間に華雄と曹操、孫策軍と琉生が入り乱れる混戦へと発生。


途中、私は曹操を見つけた。

苦渋の表情で彼女は私を睨み付ける。



「(よくもやってくれたわね)」



そんな声が聞こえた気がした。


私はそんな彼女に三日月のような、幼い子供のように無邪気な笑みを飛ばすと一気に駆け抜けた。

生きてるのだ。地べたに這いつくばって、汚物を啜ってでも、自分は今ここで生きている。

生きているからこそ、やつらに一杯食わせることが出来た。



「生きる事は……難しいものだな」



皮肉にも、多くの命が散っていくこの場で自分は改めてその事に気が付かせられたのだった。
















~美須々 side~




「どこへ行くのですか?張遼」


「っち。なんやなんや、曹操まいたと思うたら次はあんたらかいな」



見つけた。ついに見つけた。



「……主が貴方の武をご所望です。下りなさい」


「えらい直球やないか。曹操の軍を無理矢理に華雄と戦わせて、何のつもりかと思うとったらそういうことかいな」


「ええ、私達には貴方が必要です。貴方の力が必要なのです。だから曹操に渡すわけにはいきませんでした」


「……ほんまに直球やな。でもな」


「分かっています。私は貴方を一騎打ちで倒した。それなら理由になりませんか?」



私は張遼の言葉を遮るように私は声を発する。主は本当に私達の部類の人間を理解している。

彼女は仕える者が居る。我らは無理矢理奪い取るのだ。



「もし、私が負けるたのなら去ってもらって構わない、そして追わない、そう主は仰いました。我らもそれに従います」


「……一つええか?」


「何でしょう?」


「お前はどこまでこの戦の真相をしっとるん?」


「……全ては主が白蓮さんの願いを叶えるために」


「公孫賛の願い?」


「白蓮さんは言いました」



この場には私達の他に誰もいない。

ならば真実を言うだけのこと。



「『董卓を救え』。全てを知った上での白蓮さんはそう望まれました。そして主と我らはその願いのために動いている。これで、答えになりませんか?」



その答えに面を喰らった表情になる張遼。だが次第に頬を膨らませ、ついには。



「……ぷ、ぷははははははははは!!」



なんで笑われるんですか。

最終的に腹を抱えて笑われました。え?なんですかこれ。私なんかおかしいこと言いました?



「あんた、まっすぐやな、どこまでもまっすぐや、ええよ信じたる」


「……なんかいろいろ言いたいことはありますが、それでは早く始めましょう。本音を言うと貴方と戦いたくてうずうずしていたところです」



そう言って静かに構える。



「……は、はははははははははははははは!!」



だ・か・ら、なんで笑われるんですか!?



「あんた本当におもろいなぁ。名はなんて言うんや?」



彼女も青竜刀を構える。ここからは武の領域。互いの武で殺し合い、敵を殺す。

……今回は殺してはいけないんですが。


でも、そんなことは関係ないぐらい楽しみです。あの、あの張遼と戦える。なんと甘美な時なのでしょう。ああ、頬が上気していくのを感じる。心臓の鼓動が早くなる。



「我が名は名乗れずとも心は主の下に!我は公孫賛軍の将にて単経の配下なり!」


「よっしゃ!董卓軍、張遼!そんなら無理矢理にでも名乗らせたるわ!」



さぁ、全てに終止符を。

めだかボックスのアニメ公式がついにオープン……見た感じは良さそうだが、地雷になるかどうか。


というか球磨川くんが『』つけてればぶっちゃけどうでもいい(おい


最初恋姫でいくかめだかでいくかで味の素は恋姫取りました。たぶんめだかだったら、今頃漢女の方は球磨川くんが主役はっていたでしょう。

おかげさまでお気に入りが2500超えました。やっと中堅はれるようになったのだろうか?これからも精進していきたいと思います。

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