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黄巾無双  作者: 味の素
反董卓連合の章
41/62

第二十九話 虎はいずこへと

天がわしをもう5年だけ生かしておいてくれたなら、わしは真の画家になれたろうに


~葛飾北斎~

董卓軍が守護する虎牢関。


紫の髪を靡かせる女性は笑う。



「おー。来た来た」



この関を張遼守る張遼は迫る連合軍を眺め不敵な笑みと共に声を漏らす。

彼女は紫の髪を棘がついた髪留めで一つに束ね、青の陣羽織のような物を体に纏っている。だが一番彼女の特徴的な部分としては間違いなく、そのたわわな胸を覆う白いサラシだろう。

下半身には下着の代わりにふんどし、それを剣道の前半分だけを取り出したような服で隠している。



「来た来た……」



次々と現れる連合軍。

張遼の額に冷や汗が流れる。見れば不適に笑う笑みが引きつり、頬がぴくぴくと変なリズムをきざんでいる。



「来た………っつーか、どんだけ来るねん!!来すぎやろ!」



張遼はまるで現代で言う関西弁で怒鳴る。どうやら彼女は報告からもっと少数の軍勢を予期していたらしいが、その予想以上に現れる連合軍。先の余裕はどこぞへと消え去ったらしい。

慌てて振り返り報告した華雄へと彼女は振り向く。



「華雄……言うてた数と全然違うや……ってどないしたんや華雄」



だが彼女は華雄を見て驚く。

腕を組んで佇み、張遼と同じように連合軍を見る華雄だがその表情は険しい。



「華雄!!」



反応のない華雄に張遼は声を強くする。

するとここで気が付いたのか、体が小さく振動した華雄は張遼の方をゆっくりと振り向いた。



「ああ、すまない」



その反応に張遼は首を傾げる。

いつもの華雄だったなら「そんなはずは無いんだが……」などと言い訳の一つも言うだろうに。だが華雄は謝罪するとすぐに首を動かし連合軍を睨み付ける。

異様な気配を感じ取った張遼は華雄に再度声をかようとする、だが。



「これでは作戦も立て直しなのです!まったく、軍師のねねの事も少しは考えて欲しいのですっ!」



陳宮が苦々しくつんけんどんに両手を頬に当ててあっちょんぶりけのあれをしながら言った声に阻まれる。


彼女、陳宮はこの董卓軍の軍師である。青緑の髪を二つに束ねたツインテールの彼女はどこか昔の学生チックな服装をしている。黒を基準とした彼女の服はたけが長く、身長が張遼の胸の位置ほどしか無く小柄な陳宮は服に着せられている感が否めない。


この発言に張遼は「あちゃー」と小さく呟いて不味いなとばかりに頭に手をやって目をつぶる。

華雄は短気であるがために、思うがままに発言する陳宮とはよく喧嘩をしていた。とは言っても陳宮が華雄にどつかれて呂布に泣きつくという非常にかわいらしいものだが。


これはまたかと目をゆっくり開けると……。



「え?」



驚いて目を見開く。

陳宮の声が聞こえないはずはなく、うなり声を上げながら陳宮へ向けて手を振り上げているであろう華雄が未だ連合軍を睨み付けていたからだ。

これには陳宮も驚いたのか「あれ?」と不思議そうに眺めている。


しばしそのまま睨み付けていた華雄だがその視線が一つを定めて止まる。



「すまない私の間違いだ」


「へ?え?」


「……兵の確認をしてくる」


「(あの華雄が自分の非を認めて謝った!?)」



陳宮は謝罪に驚かされたのかあわあわと慌てている。

静かにその場を去る華雄を張遼は複雑な目で見送る。



「なぁ華雄になんかあったんか?おかしいで」


「ねねは知らないのです。あの猪が何も言わずに大人しくしているなんて本当におかしいのですぅ」


「じゃぁ恋、なんか知っとるか?」


「……(ふるふる)」



張遼の問いに深紅の髪を横に振る女性は呂布。

かの天下無双と名高く波才が最も危惧する人間である。体に入れ墨を彫っている彼女は張遼ほどではない(あれは素っ裸に等しい)が黒と白の中華の装飾が施された服は中々に露出が高い。


どうでもいいが腰と腕にベルトを使っているので波才が見たら突っ込むこと間違いないだろう(性的な意味ではない)。

彼女は寡黙で言葉少なく普段は大人しいが戦の時はまるで豹変したように荒々しく「天下無双」の四文字に恥じない、まさに呂布の名に相応しい戦いを行う。


しばらくうんうん唸っていた張遼だったが「まぁええか、華雄やし」と普段の華雄が聞いたら間違いなく一悶着起こること間違いないセリフを言って大きく息を吐く。


連合軍を改めて見た彼女は信頼する戦友の名を呼ぶ。



「恋。何とかなりそうか?」


「…………なんとかする」


「せやねぇ……。何とかせんと、月も賈駆っちも守れんか……。それに、あんたの王国もな」


「…………(コクッ)」



意味部下に頷く呂布を微笑ましく笑みを浮かべてみていた張遼だが真剣な顔つきになり、連合軍を注意深く眺める。



「んー。陣形の展開もなかなかやな。この手の定石は籠城やし、向こうもそのつもりやろうけど……あんまり、時間を掛けるワケにもいかんしなぁ」



考え込む張遼、それに負けじと陳宮も頭を捻らせよい考えはないかと考える。

それ故にこの張遼達の空間は張り詰められ、より一層風に冷たさを感させた。


これに一石投じる非常事態が起こるとは張遼も陳宮も呂布でさえも、誰も考えもしなかった。




「申し上げます!」



突然向けられた声に顔を上げてみればそこには董卓軍の兵士の姿が。何やら慌ただしく、何か問題が起こった事は明確だった。



「何や?敵の状態ならちゃーんと見えとるで!」



いささか余裕を見せながら張遼は兵士に接する。上の者たる自分が彼らに慌てたり怯えたりする姿を見せてはそれが兵士達に広がり実際の戦いで十分実力を発揮できない事を知っているからだ。



「はっ。あの……華雄殿が出撃されるようです」



だがそれを忘れてしまうほど彼女は驚き目を見開く。

それは陳宮とて例外ではない。

その小さな顔を一杯に使って描かれる表情は何が起こったのか分からないと言わんばかりだ。

唯一呂布はいつもとかわらずその表情を動かすことは無かったが。



「……………………はぁっ!?なんやそれ!」


「そ、そんなの聞いて無いのですっ!」


「前言撤回や!あンの猪……!(結局は華雄は華雄かいな。だがこれはあかんで!!)」



驚きもつかの間。


呂布から放たれる戦気により二人は目が冷める。

どこまでも深く、その威圧感に一般の兵は思わず汗を流した。

当の呂布自身は顔を伏せているために表情は読めないが……怒りに身を震わせていることを彼女達は感じ取る。



「……出る」


「呂布どっ!」


「……しゃあないやろ!せめて華雄を引きずり戻さんと、月に会わせる顔が無いわ!陳宮は関の防備、しっかり頼むで!」


「分かったのですっ!」










 ■ ■ ■ ■ ■











虎牢関。

演技では「人中の呂布、馬中の赤兎」と評された無敵の武人呂布により連合軍は苦境に立たされる。、呂布一人に圧倒され、劉備・関羽・張飛の三人で追い払うも結局は董卓が虎牢関を捨てる事で通過することになる。


要するに突破無理。


史実では孫堅のパパ無双で突破されているが彼(彼女?)は既に亡くなっている。これにより自然と演技よりに流れるのではないだろうか?

少なくとも呂布のチートは既に黄巾時代に証明されている今、演技の出来事が実際に起こってもおかしくはない。

つまり前線に参加している我々は死亡フラグのど真ん中という特別席に座りつつ濁酒をやけ酒している状況である。

ようするにだ。



「帰りたい」


「おい、いきなり何をぶっちゃけてんだよ」



呆れるように私を見てくる白蓮ですけど……よく考えてみてくださいよ。三国無双で言うと最近の柔らか呂布じゃなくて無双3の頃のような暴れん坊呂布相手するんですよ?

しかもノーコンティニュー一回縛りで初見プレイ。

それ言ったら人生全部初見プレイですけどその中でも群を抜いてますね。


前線に曹操と袁紹が出るから良いものを。



「ぶっちゃけたくもなりますよ。おそらく敵が選択するのは十中八九籠城戦でしょう?」


「……だよなぁ。流石に二度も出撃なんて馬鹿はやらないだろう?」


「そうで……」



頷こうとしていた波才だったが唐突にその動きが止まる。



「ん?どうしたんだ?」


「気のせいですかね?なんか軍氣っぽいのが董卓軍から昇ってるんですけど」


「そんな馬鹿な……」



そう笑い飛ばそうとした白蓮だが波才と同じく動きが止まる。

その視線の先には徐々に開かれていく虎牢関の門の姿が。



「あ~と。そうだ、波才。今晩のおかずはなにかな?」


「白蓮、目を背けたくなる光景なのは分かりますが現実を見てください」



正直私だって信じたくはないが董卓軍は相当馬鹿のようだ。どれぐらい馬鹿なのかというと……もうおーほっほっほと同じで良くない?ってぐらいだ。



「出てきた旗は華雄ですねぇ。先日の失態を取り戻そうと思って華雄が独走したんちゃいますか」


「後続の部隊も来たみたいだなぁ。旗は……『呂』と『張』らしい」



あ~『華雄をほっといて馬鹿やらせようぜ大作戦』は気持ちが良いぐらいに成功したようです。

呂布にお目当ての武将まで連れちゃいました。

でもなんていうか……ねぇ?


この胸のもやもや感分かるでしょうか。明埜に頼むまでも無かったですかね。


う~んまさかここまで猪だとは考えてなかったので捕獲作戦なんざ考えてません。とりあえずトラップツールと錬金術の書①が用意できてないです。

曹操とかもここで捕獲なんざ考えてないでしょうから普通に勝つことを目標にしますかね。



「どうするんだ?相手は一級の武将だぞ?美須々と琉生を当てるのか?」


「曹操が前方で引き受けるので大丈夫でしょう。流石にここで退いては彼女の立場は無くなりますからね。先の立場とはちがいますから」



二度も逃げたらもう連合から白い目で見られ、良くない噂も流れます。それ以前に曹操という人間はここで退くことを認めないんじゃないかな?


……仮に退いたら私が馬鹿だっただけですね。

この局面を読めないのでは英雄としても興味がないしこの先おーほっほっほ辺りとやって負けるでしょう。その時は私も一口かませてもらおうかなぁって。























思ったけど杞憂みたいですね。



「聞け!!曹の旗に集いし勇者達よ!」



ああ、いいですねぇ。



「この一戦こそ、今まで築いた我らの全ての風評が真実であることを証明する戦い!」



英雄が生み出す戦の産声は。



「黄巾を討ったその実力が本物であることを、天下に知らしめてやりなさい!」



その瞬間隣で控えていた美須々から激しい怒気が溢れるが、私はそれを手で制した。

まだ戦う時ではないですよ。美須々。


それよりも今は楽しみなさいな、この物語の一幕を。



「総員突撃!敵軍を全て飲み干してしまえ!」



ああ良い声です。覇気が籠もりこの大陸中を蹂躙するかのような重き声。

きっと他の二人もこの声を聞こえずともその力に改めて彼女が自分たちの敵であると自覚したでしょう。英雄は英雄同士引かれ合うものです。スタンド使いみたいにね。


それにしても……。


思わずうっとりする。


私は決して彼女の信望者では無い。むしろ嫌い、大嫌いです。

そもそも私は同性愛なんて非生産的なことは認めません。でも曹操以外の同性愛者は区別も差別もしません。

むしろ祝ってあげるくらいです。だって人にはそれぞれ生き方があるしそもそも同性愛は自然界ではおかしいことではないのですから。

でも曹操の場合は認めない。






……すいません、単純に曹操が嫌いなだけみたいです。


でもこれは違うんですよ。

そんな嫌いとか苦手とかそんなものでくくれるほどこれはつまらないものではないのですよ。


見ているだけで何だか胸が熱くなってくる。何かが込み上げてくる。彼女から目が逸らせなくなる。

ようするに惹かれてしまうんですよ。人として彼女に。


どんなに嫌いだろうがどんなに殺意があろうが、彼女のカリスマにはそんな些細なものどうにでもなるのですよ。


だからこそ。



「ふふふ……」



私は不敵に笑う。



美須々と白蓮が怪訝な顔で私を見る。

だがそんなことどうでもいい……。きっと、いやそうに違いないのだろう。


私は曹操が羨ましいのだ。


彼女は私がどれだけ望んでも得られないものを与えられた。孫策も、劉備だってそうだ。

彼女達は英雄、私は凡人。

この差はもはや高すぎてその頂が永久に見えることはない。

絶望的なぐらい高すぎてもはや笑えてしまうぐらいだ。



……何故、なぜわたしはここまで小さな存在なのでしょうね。

彼女を見ていると如何に自分が小さな存在なのかがよく分かる。


自分の笑みが無意識につり上がるのを感じた。


この笑みは寂しさやわびしさ、苦悩や妬みなんて実にどうでも良い物ではない。

これはいずれか来るべき時への……。



いけませんね。自分という器を見誤っている。

悪い癖です……。









「単経ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」



ふと私の耳に雑多な声が侵入し犯してくるのを感じ取る。


この声は……うっとうしい、実に鬱陶しい。

思わず舌打ちを飛ばし、声の主へと視線を飛ばす。猪が驀進してこちらへと向かって来ている。

別に貴方が何をしようが構わない罪も無い民を虐殺しようが味方を敗北に導いて死なそうが、それこそ貴方が勝っても負けても構わない。


だが今はいけない。


この神話の絵画で目を輝かせてみとれてひたっている私の邪魔をすることはどうもいただけない。



「なっどうする!?華雄が突破してここまで」



ええ、解っています。実にゆゆしき事態です。

私の気分が害されました。


白蓮の声を右手を挙げて遮り、制す。

そして静かに目を瞑る。



「美須々」



我が右腕の名を呼ぶ


美須々は仮面の下から覗かせる口をまるで三日月のように歪める。

八重歯が覗き、目を爛々と輝かせる様はまるで血に飢えた吸血鬼のよう。

事実、彼女はもう血が吸いたくてたまらないらしい。

彼女自身気が付いていないようだが無意識に手に持つ棍を握りしめている。



「琉生」



我が左手の名を呼ぶ。


彼女はこの戦場をまるでつまらない盤上の将棋を見るかのように眺めている。美須々と反対にこの戦場に対して一切の興味がないといわんばかりに。

だが私が呼ぶことでその目を引き絞られた弓のように鋭さを見せ、冷たい雪風が吹き荒れている。



この空間で波才達以外の全員が寒気を感じた。

目の前で戦っている英雄達とは違う何か、それをこの三人は持っている。


何より仮面でなく彼らの名を呼んだのだ。

その事に白蓮は焦りを見せ、波才を咎めようとしたがその顔を見て凍り付く。












~白蓮 side~




あまりにも感情がない。笑ってはいるのだがその笑いこそがあまりにも「笑い」という壁を通り超し、さび付かせている。

何もない笑いなのだ。人としてこんな笑いをうかべることが出来るのかと白蓮はゾッとする。


だが、止めなくてはいけない。



「単経、ここで華雄を殺して良いのか?」



その言葉に三人は白蓮へと振り向く。



「ここで華雄を殺して、私に利益があるのか?」



波才は頭が良い、本当に頭が良くて、魅力があって自分なんて本当は霞む存在だ。

他の三人だって本来ならば自分の側にいるような人間ではない。それは白蓮自身よく理解している。自分がどれほどの力を持つ人間なのかなんて桃花と出会ってから痛いほど理解した。


私には特技もない、魅力もない。全てが普通で一般的で、誰も私を振り向きなどしない。


だが何故かこの波才は自分を立ててくれた。

本来ならそれまでのように影に隠れてしまう私を表にたたせる。だから私は彼が来てからは桃花や曹操のように表舞台に立ったかのように思わされた。いや、実際に立っているんだと思う。


この男は人の上に間違いなく立てる。私以上にその素質が在り、桃花や曹操と同じぐらいの魅力があるように私は感じる。

なのにこの男は自分を立たせる。何もかもが普通でつまらない私を立たせてくれる。本来なら立て無いはずの舞台の上に。



だからこそ私は波才の主として見極めねばならない。


私は彼に立てられた。本来なら彼が立つはずの道の上に立たされて生きている。

誰もが馬鹿にする、お前では無理だと。お前では出来ないと。


だが波才だけは馬鹿にしない。むしろ自分をなげうって私の側にいる。





今、私は怒っている。

ああ、どうしようもないぐらい怒っている。




その目に私を見ていないことなどとうの昔に知った。

波才はいつも私を見ているが見ていない。私を透してその先を見ている。

今まで私と接してきた人間も私の先を見ていた。星がその一人だ。彼女は私を認めてはいるが共に歩く主としては見てはいなかった。私に仕えているという過程で桃花に出会い、その魅力に気づいて去っていった。


だがこの男は私を見ている。見てはいるのだが、私自身を見てはいない。

親しく接してくれる。幽州を考えて、私を考えてくれる。だが、見てはいないのだ。


波才は私を何かの結論に行き着くまでの過程としか見てはいない。

今の私を見ていない。



この男が私を見ずにその先を見ていることを知った。

それを知ったとき私は泣きたくなった。自分を見てはいない、自分を立てて支えてくれるけれど私を見てはないのだ。


だから。



「なぁ、単経。どうなんだ?」



私を見させる。


私は解らない、ここで華雄を殺して利益になるのかどうなのか。

だが目の前の波才は確実に何かに魅入っている。自分を立てて支えてくれる、少しでも私をとうして何かを見ていた目が今や全く別のものを見ている。

私は今の彼にとってどうでもいい存在なのだ。



そうどうでもいい存在らしい。


思わず頬がつり上がる。波才が人でない笑いをうかべるのなら私もそれをうかべている。今ならその理由が解る、どうしようもないぐらいに気に入らないのだ。どうしようもないくらいに気に入らないからこそ笑う。獰猛な笑みを、肉食獣の如き血に飢えた笑みを。


許さない。それを許さない。


私は今波才を見ている。波才も私を見ている。


お前は望んだ。私の配下であることを。私の命令に、私の思いにお前は答えるといった。ならば今お前は私に答えられるのか?

私を見ずに他の何かに囚われているお前に私を見られるのか?


私を見ろ。波才……。

私は波才を見た。仮面の下に隠された彼の目を見た。








~波才 side~



私は今驚いている。


この目の前で私を睨み付けている主に曹操と孫策と劉備の面影を見た。



今や彼女に先ほどまでの優しさも焦りもない。直ぐ側に華雄軍が迫ってきているのにただ私を見ている。

その目に命の輝きが宿っていることに私は驚きを隠せない。


彼女の体から今溢れているもの、普通ではあり得ないもの。絶対に私が手には入ることが無いもの。



英雄が放つ気にそれはよく似ていた。



曹操が私と出会って発した。

孫策が私へ向けて放った。

劉備が私に握らせた。



特別で在る者が出せるもの。特別で英雄のみが出せるもの。それが今この白蓮から発せられている。







普通なのに。


彼女自身は変わっていない。あくまで普通、どこまでも普通。


歓喜に体が震えるのを感じた。

ああ、見誤った。見誤りましたよこんちくしょう。私はどうも馬鹿だったようです。

彼女は普通だ、『普通』であり英雄なのだ。


私は知っていたはずだ。彼女が自分とは違い特別で在ると。だが心のどこかで普通であると侮っていた。彼女の本質を見てなどいなかった。

ははは、自分は英雄などに仕えているのではなく公孫賛に仕えていると思っていたのに、その実は英雄に仕えているなどなんてお笑いぐさなのだ。



「美須々、琉生」



私は彼女達に命じる。



「適当にいなしてください。決着は洛陽で」


「……御意」


「……」



二人は静かに頷きかけていく。


私は白蓮へと向き直る。

その目はどこまでもまっすぐで、愚直に前を向いていて。でも、心配で不安で。本当に人間らしい人ですよ貴方は。

だからこそ貴方と共にあれることに悔いはない。



「貴方は、本当に私の主なんですね白蓮『様』」


「いつも通り呼べばいいさ『単経』」



互いに笑い会う。

それは心からの笑い。



「お前が私を見るだけでいいんだよ。お前の今の主は少なくとも私なんだから」


「なんとも情けないお言葉で。まぁその通りですけど」


「酷いなぁ……って流石にのんびりもしてられないな」



今は曹操がまだ抑えているがあの様子ではそろそろ綻びが出来る。むしろ張遼と呂布をよくあそこでせき止めているものだ。

華雄の一匹程度は逃してもしょうがない。


……いや、むしろあれは私達を巻き込もうとしているな。穴を作ることで一気に此方へと董卓軍が流れ込むようにやっている。

つまり手始めに華雄が来て上手い具合にそのえさに食いついた私達へ向けて大きな穴を作ることで二人の董卓軍の虎が食らい付かんと迫ってくる。


なんて嫌なやつだ。


これをやっているのは相当人間としてひん曲がっている奴に違いない。



「ええ、全軍包み込むように一番隊、二番隊は華雄方面で引きつけ、三、四は左から。五、六は右から行きます。途中助けに他の将が来ますがあえてぬけさせますよう。敵も痛手を受けているようなのでここで無理に決めようとは思わないでしょうから」


「……本隊は?」


「威圧だけして頂ければ結構です。むしろ下手にやると敵が本気でかかってきますよ?窮鼠猫を噛むってやつです。ここは曹操に大部分の衝突は任せて補助に回りましょう」


「わかった」



指示を兵に出す白蓮を見て私は決意する。

いいですよ。白蓮。

私は貴方を見ます。貴方の物語ではなく貴方を見ることを誓います。



だから、




「ん?どうかしたのか?」


「いえ、貴方らしく生きて欲しいなと」


「……熱でもあるのか?それとも悪い物でも食べたのか?何か悩みがあるのか?」


「「……」」



おおきくふりかぶってスライダーの如き拳をたたき込み白蓮を落馬させた。


ちょっと優しさを向けてたらこれだ。

私は目を回す白蓮を睨み付ける。何ともまぬけな顔。さっきの姿が嘘のように思えてしまう。

……でも、この顔に私は見惚れたんですね。

そう思って仮面の下で私は密かに笑った。




ちなみに白蓮は泡を吹いていた。











 ■ ■ ■ ■ ■










「そこをどけぇぇぇぇぇぇぇ!!」


「どけをいわれてどく馬鹿がどこにいます?」


「……」



華雄を波才の腕が蹂躙する。


華雄とて董卓軍の将、決して弱くはなくその腕前は大陸に名を馳せる力がある。

だがいかんせん、相手が悪かった。


美須々と琉生。


この二人は多くの英雄達と殺し合ってきた人間だ。黄巾党という敗北者の集まりを磨き上げ、曹操に認められるほどの将の才と実力を兼ね備えている。

決して華雄は彼らに劣っているわけでは無い。だが彼女達は二人、華雄は一人。

いかなる武人でも同等の実力を持つ物二人と戦うなど苦戦は必須。


さらに彼女達は即席のチームワークではない。何度も黄巾時代に互いを錬磨しその型や武や癖などは互いに把握している。

だからこそ彼女達はまるで一人の武人のように華雄へと連携して攻撃をたたき込む。


この時になって華雄はようやく頭が冷え始めていた。


どう考えても勝てる要素がない。

今の自分では勝てるどころか逃げ出すことも出来ず、ここままでは確実に負ける。


負けるということは死ぬということだ。


そうなれば……あの男に、単経に我が一撃をたたき込むことも叶わぬではないか!!

思わず歯が砕けんばかりに噛み締める。



「はぁぁぁ!!」



華雄は敵の将の片割れに隙が出来たのを見てそこへ己が得物をたたき込む、だが。



「かかりましたね」


「……」



それは作られた隙であった。

その片割れの将、琉生はもう一つの剣をすばやく鞘からからぬき放つと華雄の武器『金剛爆斧』を大きく逸らさせて大地へとぶつける。これに華雄はその体を流されることになる。



「しまっ!?」


「殺しはしません、殺さないだけですが」



驚きの声を上がる華雄に美須々の棍、『森羅』が襲いかかる。

それは吸い込まれるように華雄の首へと吸い込まれる、かに思えた。


美須々はとっさにその場を飛び退った。

間髪を入れずに美須々がいた位置へと偃月刀が突き刺さる。

少しでも反応が遅ければその身を貫かれて間違いなく死んでいた。


さらにそれに目を奪われた琉生の下へと刃が迫る。

とっさに琉生はそれを両手の剣で受けることによって吹き飛ばされたが、もしこれを一つの剣だけで受け止めようなどと考えていたのなら受け止めきれずに無様に大地を転がっていただろう。



「あーっ!やっとおった!この、どあほう!とっとと帰るで!」


「……」



新たに現れた二人の猛将に美須々と琉生は静かに間合いを計る。

だが紫の髪を持つ女性、張遼はそんな二人を警戒しつつ華雄を羽交い締めにする。

一見無防備のように思わせるこの行為。


美須々と琉生は彼女達へ手を出せない。


もう一人の将、呂布が牽制するかのように味方の前に進み出て二人を睨み付けているからだ。

その実力を先ほどの一撃と動きで理解しているので二人はうかつに動けない、動くことを許されない。



「張遼!離せ、私はまだ戦える……っ!」


「どんだけアホ晒しゃあ気ぃすむねん!せめてそういう事は、虎牢関の上からにしとき!」


「はーなーせー!」


「撤退や!撤退!虎牢関に戻れば、まだ十分戦えるわ!皆もはよ戻り!」


「だがあいつらがまだ……!」



そう言って美須々や琉生に向けて指を差す華雄だが。



「あ~行って構いません。貴方達三人を相手にするのは骨が折れるでしょうから(それにもともとそのつもりでしたからね)」


「……」(ッス)



二人は張遼と華雄の漫才により毒気を完全に抜かれていた。美須々はやけに疲れた顔をしているし、琉生もその目を見れば解るが相当今の二人の漫才で気が抜けたようだ。


これが張遼の作戦ならまだ格好がつくのだが……本当にやっているのだから気が抜けるというものだ。

もとより追い払う程度で構わないと言われていたのだからここで退いてもらえるのは嬉しい限り。


それに。


二人の視線は呂布へと向けられる。

もし華雄では無く呂布ならば二人で相手をしても勝てたどうか解らない。少なくともあのように琉生が油断していたとは言え吹き飛ばされる鋭い一撃、その動作。どれをとっても華雄とは比較にもならない。


張遼もやはり実力者であることに違いはない。先ほどの漫才の最中でさえ私達の動きを観察し、いつでも迎え撃つことを想定していた。その一見隙だらけに思わせる隙の無さは中々の物。


この二人は相当骨が折れるだろうと美須々と琉生は判断した。



「ま、このまま行けばどうせ洛陽でも出会うのでしょう?ねぇ……そこの貴方」



そう言って美須々は扇情的で攻撃的な視線を張遼へと向ける。



「ん?うちかいな」


「ええ……先ほど私に向かって槍を投げた貴方です。名を聞かせてもらっても?」


「張遼や。そういうあんたはどうなんや?」


「まぁ、神速の。私は……名乗れないんですがね。仮面の名前で翁とでもお呼びください。にしても張遼とはそれはそれは」



そう言って美須々は口を歪ませた。

その姿を見て張遼も同じく顔を好戦的に歪ませる。



「さぞや楽しい殺し合いが出来るのでしょうね。いいですか張遼、私以外のつまらない雑魚共にその首を奪われないことを願っておりますからね」


「弱い奴ほど良く咆えるっていうやないか。翁のことちゃうか?」


「くすくす……洛陽で楽しみにしておりますよ。琉生、行きますよ。主がまっているでしょうから」



そう言って美須々は琉生を促して背を向ける。



「あ~張遼」



だが途中で立ち止まると馬に乗り込む董卓軍の将達に向けて声を発する。



「なんや?まだ咆えたりないんか?」


「ふふ、その時を楽しみにしています。……早く、洛陽に向かっては?」


「そう言えばさっきから洛陽洛陽……まだ虎牢関は落ちてはいな」


「……霞」



嘲りの笑みを浮かべて美須々を一笑に切り捨てようとした張遼であったが呂布に遮られる。邪魔されたという不満の表情を隠す事無く彼女は呂布へ向けて声を荒げた。



「いま取り込み中や!」


「……ねねから連絡」


「何や。手短にな」



連絡役の兵士が前へ進み出ると額に汗を浮かべて報告を開始する。

始めはいらつきを隠せない張遼だったのだがその報告に驚愕させられる。



「報告です!さきほど賈駆さまより連絡があり、非常事態あり。虎牢関を放棄し、至急戻られたしとのこと!」


「なんやて……!?誤報とちゃうんやろな」


「印は董卓さまのものだったそうです。陳宮様さまは既に撤収の準備を始めておいでです!」


「十常侍のヒヒジジイどもめ……。都に誰も残しとらんかったのは失敗やったか。詠のアホ、ぜんぜん大丈夫やないや……え?」



ここで思わず彼女は目を見開く。

先ほどであった仮面の女……翁と名乗ったか?


『ふふ、その時を楽しみにしています。……早く、洛陽に向かっては?』


自信に満ちた何かを知っているような口ぶり、洛陽に向かう?それはまるでこの事態を。

その違和感に気が付いた彼女は美須々へと視線を移そうとするが、既にその場には誰もいなかった。



「……霞」


「っちぃ、今は後や!それより恋どないしたんや!?」


「……関に人」



え?と思い虎牢関を振り向けばそこには。



「人って……ちょっ!やばいっ!あの軍、劉備のとこか!奴らに突入されたら、ウチら帰るところがなくなるで!」



そう、劉備にが虎牢関に攻め込んでいる。それも既に虎牢関に味方の兵がいないために押され始めている。もしここで落とされては逃げ道はなくなり、洛陽へ向かうことも出来なくなってしまう。

そうなってしまっては洛陽の月の身が!?



「……先に行く」



流石の呂布にも焦りが見える。とはいっても親しい身である仲間でしか見えないような些細な違いなのだが、あの呂布が慌てているのだ。

彼女とて都の家族が心配でたまらないのだろう。



「任せた!ほら、華雄もさっさと戻る!」


「う、うぅ……」



華雄を引きずりつつ彼女は考える。


あいつらは何者だ?少なくとも何かある事は間違いない。

駄目だ、考えれば考えるほど頭がごちゃごちゃにかき回される。



「ええいもう!いったい何が起きているんや!」









 ■ ■ ■ ■ ■












「おおう、どうやら虎牢関は無人なのですか?」


「っは……」


「何かの罠か?」



その翌日、忍びからの報告により虎牢関が無人であることを知らされた。

まぁ何も知らないのは白蓮がそういうのは仕方がない。



「……なぁ。単経、お前何か知ってるのか?」



うんうん、知りたいのですか、ならば教えてやっても……。



「……やっぱりいい」



そう言って白蓮は立ち上がると陣幕の外へと向かっていく。

え?あの、その?



「聞かなくていいので?今の貴方なら教えて上げますよ?」


「昔の私は駄目だったのかよ……」



そう言ってため息をつく。

だが彼女は一転してにこっと笑って私を見てきた。





























「お前は私のために動いてくれているんだろ?私はお前を信じているからな」







正直いいます。

私はこの時の彼女はあまりにも魅力的で。

うかつにも彼女に……白蓮に



みとれてしまった。









~天和 side~




「!?」


「ん?どうしたの天和姉さん」


「……地和ちゃん、人和ちゃん」


「「?」」


「私、幽州に行く」



その言葉に地和と人和は驚き姉を止めに入ろうとする。

だが彼女のその表情に固まり動けなくなる。



「波才さんに悪い虫がついたかもしれない」



この時の天和は不気味なほど良い笑みを浮かべていたと後に妹二人は語った。



そう言えば最近、ニコニコの方でモチベアップのために無料のweb恋姫始めました。

四サーバの呉にて活動しているんですが……あれだ。


呉はすんごいゆっくりしていってね!、状態です。


のんびりやってます。なんか蜀に飲み込まれそうだけれど気にしない。金髪ドリル(頭が良い方)が領土掘りに来ているけど気にしない。

興味があり、ものすごい劣勢な状況が好きなマゾのお方は、ぜひ呉へとお越しください。作者はややMだと信じたい。

→http://app.nicovideo.jp/app/ap51


SSの方はのんびりと書いております。最近は余裕が出来て嬉しい。調子が良いので漢女の聖杯戦争も更新しておきます。

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