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黄巾無双  作者: 味の素
反董卓連合の章
39/62

第二十七話 三言担い手

己の感情は己の感情である。己の思想も己の思想である。

天下に一人もそれを理解してくれる人がなくたって、己はそれに安んじなければならない。

それに安じて恬然としていなくてはならない。


~森鴎外~

どこかで、とんでもない命の危機にさらされ始めた気がします。何ででしょう?


思わず空を見れば青天の霹靂。

雲一つ無い空に、過去の人間達は何を思い描いたのだろう。風が心地よい。


……吹き抜ける風に鉄の臭いが含まれていなければ、なお良かっただろうに。


血の臭いと怒号が飛び交う。金属が無数に打ち鳴らされる。


そうです。

今、私は戦場のど真ん中です。ですが私の周りには変な空間が空いています。戦いながらもちらちらとこちらを見てくる兵がいるのですが……そんなよそ見してたら死ぬぞ?


まぁいっか。原因は分かってるんだよ。

やれやれと肩をすくませながら、問題の人物を睨み付ける。



「貴様……何者だ!!」


「何者だと思う?」


「っむ……知らん!」


「では知らない存在なんだ!つまりここにいる私は知らない存在であり、貴方とは顔を知っている間柄ではないのだ!貴方が知らないってということは、今の貴方にとって私は実はどうでもいい存在なんだ!さぁ、私は放って置いて早く貴方が求める人の所へ!」


「おお、かたじけな……って騙されるか!」



目の前には銀髪、露出が多い服装で槍斧を構えたこの女性がいます。


お前あれだろ。華雄だろ。知力2だろ?

何故だ?何故こんな事になったんだ?目立ちたくないのになんで敵将に絡まれているんだ?


確かあれは36万年、いや、一万四千年前だったか?






 ■ ■ ■ ■ ■






「前回のあらすじ、おーっほっほっほの作戦「ガンガンいこうぜ」」


「……なぁ桃香は大丈夫なのか?」


「たくましくなりましたね……白蓮」



そう私に聞くのはご存じミス普通こと白蓮です。

最近スルーすることを覚えられました。私涙目です。



「孫策と協力するだろうってお前の予想は当たったみたいだけど……二人合わせてもあの難攻不落絶対無敵七転八倒汜水関を攻めるにはまだ兵も足りないし苦戦するんじゃないか?」


「……なんですかその廚二病通り越して精神科と結婚式挙げてそうな呼び名は。むしろ過剰装飾すぎて落ちる前振りみたいになってませんか?」


「……っでどうなんだ?」



スルーですか。そうですか。



「あ~聞けば汜水関の将である二人のうちの華雄は蛮勇であり、自分の感情に流されやすい人物だと聞きます。確かにあそこは籠もっていればこの連合全体ともまともに戦えますが引きずり出せばそんなもの関係ないですからね」


「つまり、挑発して引きずり出すっていうことか?」


「正解です。まぁもう一人の将である張遼も、どちらかといえば気性が荒いですからね」



ほんとなんでこの二人に任せたんだ?

この戦いではむしろ冷静で落ち着きがある将が良いと思うのですが。これはどう考えても配置ミスですよ。


今私達は第一の関門である、汜水関に来ています。左右は絶壁に囲まれて一方方向からしか攻められないという難所です。私達は劉備達とは違い後ろの方です。

まぁ劉備は受け流して本陣を巻き込むでしょうしから、こっちに来ても避けようと思えば割と避けられることができるという良い位置です。


ようするに少し高みの見物レベル。


……普通に考えれば向こうさんが負ける意味が解りません。

いくらこちらが多かろうと一方方向では城攻めみたく包囲できないので攻める兵の数は限られます。さらに連合軍は寄せ集めで、遠くから遠征中。


長期戦が見込まれる戦いでは、兵達の望郷の念と疲れにより時間が経てば帰るしかありません。

連合軍なんていろいろな人間ないろいろな思惑で参加してるので結束なんてあってないようなものだし。

普通に戦えば普通に勝てます。

さらに別働隊で兵糧の寸断を行えばより効果的です。


……まぁ今回は内側の毒も既に及んでいるのでいざというときは最終手段としてその毒を利用すればいいのですが。


でもそれも必要ないだろうなぁ。いくら武勇に優れているからって、状況も判断出来ない将を採用するなんざ馬鹿げてます。今は洛陽に行ってもらっている明埜の事前の調査により、華雄は猪武者との情報は確定しました。


いや、最初は嘘だろうか、三日合わずば刮目すべし言いますからと明埜達に身辺捜査を頼みましたがマジでした。


華雄……史実ではお前むしろ上司に振り回されて死んじゃったかわいそうな武将でしょう?


そもそも汜水関で戦う以前にお前孫堅と戦って死んどるし。この世界は演技中心だからせめて冷静な将かと思いきや、どこからそんないらない性格引っ張って来たんですか。


多分挑発は成功するでしょうね……情報で見る限り張遼で抑えられるとは思えません。

将の暴走で終わるなんて馬鹿らしいにもほどがありますが、白眉の弟の登山家の事もありますし案外笑えませんよね。


善く兵を用いる者は、道を修めて法を保つ。故に能く勝敗の正を為す。


戦いの基本を知り、道理を弁えれば勝利は得やすく、負けても最悪の事態にはならない。

まったくこの世界のベストセラー孫子の兵法にも書いてあるじゃないですか。


……まぁ華雄は本よりも武ばっかり鍛えてそうな気がします。


しかも抑えられそうにないとかそれなんて爆弾?

同じ脳筋でも美須々の方が聞き分けが言い分マシです。

将なんですから自分の感情よりも軍、ひいては主君の事を優先しましょうよ。


さて、戦闘開始の号令がかかりました。早速前の方で動きがあったようです。風に乗って流れてくる声は関羽かな?


うわぁ……結構酷いこと言ってます。

ん?この光景どこかで見たことがある気がしますね。


……あれだ。

三国無双3での五丈原の戦いだ。

司馬懿に対して挑発するあれです。

懐かしいなぁ……私的にはあの頃の無双が一番輝いてた。



「……なに遠くを見てるんだ」


「いえ、ちょっとホームシックに」


「ホ、なんだそれ?」



だがしばらくしても動きが見られない。



「なぁ……本当に成功するのか?」



白蓮もじれてきてますね。


心配になったのか私に聞いてきたのだろう。

私達の兵は冷静にしつけてあるので動きませんが、ちらほらと我慢が出来なくなってきている方々も出始めてますね。


主に袁紹軍。

きちんと統制とりましょうよ……。



「ん~たぶん張遼ががんばってる感じですね」



結構頭にきていると思うのですが粘るなぁ。

ん?

この声は



「孫策も味方に入りましたね」


「え?解るのか?」


「いや、声に聞こえたので」


「……距離結構あるんだが」



ちょっとそんな化け物を見るような目で見ないでくださいよ。


気が使えれば身体能力がもろもろ上がるので意外といけるんですよ?

呉では黄蓋さんとか魏では楽進……さんはまだ早いかな?私だけではなく結構使える人はいますから。

って落ち込んでる場合じゃないですね。


風に流れるこの匂いは戦の香り。

肌がぴりぴりとなります。


そういえば、これから英雄同士の殺し合いなのか。初めて見ますね~わくわくしますね~。


一人笑う波才を不思議そうな目で見る白蓮。

だがそんな彼女を意に介さずに、子供のように目を輝かせながら波才は白蓮へと振り返る。



「来ます。号令を」


「……はぁ。お前の規格外は今に始まった事じゃないよな。全軍!!戦闘に備えろ!!」


「「「応!!」」」



どんな酷いこと言ったんでしょう。

向こうさんやるき満々ですよ?ん~貧乳とか言ったのかな?



「でもこっちに来るのか?」


「さっきご丁寧にも伝令が来ました。大物が来るのでしっかり対応してくれとのことです」



大物ですが小物ですよね。

……心のどこかでこんなのにかからないでほしいなぁと思っていたのは秘密です。

いや、かかってくれた方が楽なのでいいのですが……ねぇ?というより部下も止めましょうよ。



「まぁ、おそらく孫策と劉備で手柄は手に入れたいはず。もしこっちに向かって来としても、統率のきかないはぐれ一般の兵だけでしょうね」


「ああ、だから美須々と琉生を後方に置いたのか」



それ以前に英雄同士の戦いに無理して私達が参戦する必要は無い。

物語は見るものであって編集するものではないのだから。ここで戦う必要性も皆無ですし、まぁ気楽に行きましょうよ。



「目立つとキツイですからねぇ……ここぞと言うとき以外には目立たないことにしています」


「私的には華々しくやりたいんだけどなぁ……」


「華々しく散りたいのならご勝手にどうぞ」


「……お前まだ怒ってるのか?お前の私兵団の件」



少なくとも理由がしっかりしていれば怒らないよ。

なんですか目立ちたかったって。

死ねば良いんじゃないですか?


まぁここは孫策と劉備の両軍の力。

見させて頂きます。






 ■ ■ ■ ■ ■







そう思ってたことが私にもありました。


気が付けば目の前にいるのは敵軍の将。

噂のあの人が来ちゃいましたね~。あっはっは、夢なら覚めろこん畜生。



「お名前とご用件をどうぞ」


「我が名は華雄、用件は……って何を言わせるのだ!?」



なんで?


なんで目立ちたくもないのに空気読まないで私の前に来るんですか?

あれか、実はみんなグルで私をはめようと裏で打ち合わせしてるんじゃないんですか?演技中心なら貴方は関羽とでも戦っていてください。



「ハァ!!」



そんな事考えていると、華雄は槍斧を私に向かって薙ぎ払ってきた。


速い。


落ち着いて回避し後退する。見る限り、その力は波才が今まで見た中では最上級であった。

速さは趙雲や孫策には劣るが、一級の武将には変わりがない。ただの猪武者ではないのか、と波才は内心歯がみする。



「貴様……ただの兵というわけではないな」


「いえいえ、名もない雑兵ですよ?孫策さんはあちら、私はお帰り願いたいのが本心です」



そう言ってさりげなく波才は関羽がいるであろう方向へと指を差した。



「(いやですねぇなんで関羽とやらないでこっちくるんですか。え?私がやれって?嫌ですよ。だって怖いじゃないですか!!何が悲しくて英雄と正面向かって殺し合えと?)」



恐らく、武人が彼の本心を知ったら間違いなく軟弱もの呼ばわりするだろう。だが波才にとっては本当に死活問題なのだ。



「ふん、私の攻撃を見切ってかわせる雑兵がいるものか!!」



変なところでするどい!!

そのするどさをもうちょっと知性に割り振ればいいのに!!


ああ、美須々や琉生は……後方でしたね。

誰が……ああ、私でしたね。

これってもしかしなくても私がやる必要が……いや、まだだ。



「華雄さん、まず落ち着いて話を「聞く耳もたん!!」ですよね~」



無理だと解っていましたよこんちくしょー!!


……まぁいいでしょう、時間は稼げました。

こんだけ稼げれば十分ですよね。


気が変わったのを感じ取ったのか、華雄は静かに笑みを浮かべながら構えを取る。



「ほぉ……覚悟を決めたようだな」


「あんまりふざけてたら怒られそうなので。あ、貴方の軍やばいですよ~?」


「何!?」


「孫策軍と劉備軍に包囲されて大変大変なのですよ。早く行かないと危ないですね~」



指揮官がいない軍など有象無象の群れと同様。

たやすく崩れ去っていくでしょうね。


華雄の軍は今や統制を失い、囲い込まれていた。あと一刻も持つまい。待機していたはずの張遼すら、慌てた様子で飛び出してきたようだ。



「貴様ぁ……その為に私を」



いや、貴方が勝手に引っかかってただけじゃないですか。しかも自分が原因ですからね。

そんな目を向けられても困るんですが。



「まぁ私は戦うのが苦手なので見逃してあげても「せめてお前の首だけでももらう!!」あるぇ~?」



いやいや帰りましょうよ!!そこは帰りましょうよ!!ああもう、これだから戦闘狂は苦手なんですって!!



「な、何故です!?」


「お前のような怪しいやつの言うことを信じられるか!!どこに敵軍の覆面人間を信じるやつがいるのだ!!」



そう言って槍斧を構え突っ込んでくる。


ごもっともです!!

正しすぎて反論できない!!



……ああ、もうやるしかありませんね。






 ■ ■ ■ ■ ■




華雄は侮っていた。

目の前の男は先ほどからごちゃごちゃと言葉をこねくり回してばかり、武の一片すら感じる事が出来ない。


さらに自分が武器を持ち、飛び込んで行っているにも関わらず剣すら抜かない。さらには構えすら取らない。

明らかにこちらを愚弄するか、諦めているように思えた。


目の前の男は、彼女の戦友である仲間のような鮮烈な殺気が無いばかりか、戦を担う者の香りすら華雄には感じる事は出来なかった。


故に、華雄は波才を侮っていた。


確かに波才は凡将である。戦場を制す武も、軍略を扱うだけの知も彼は彼女達のように持ち合わせてはいなかった。


だが、彼は人が嫌がる事を見つけ出すことに関しては一流の才を持っていた。


本来ならばそれだけでは何の役にもたたない。そこを貫くだけの策と武を扱う力量が無いからだ。


しかし相手が油断しているのならば話は別だ。


相手が無防備にさらけ出した首を噛むことに、躊躇するような人間では決して無いのだから。


華雄が間合いに入った波才目掛け、手に力を入れて己の得物を振り上げた、その時。


波才の姿が消えた。



「(っな!?)」



とっさに腕を退こうとする華雄。

だが彼女の目に前に、突然波才は肉薄しながら再び現れたのだ。


武人としての本能で、華雄は全身に力を入れる。次の行動に備えると共に、一時的な離脱を彼女は無意識のうちに望んだのだ。


波才はそんな華雄に音もなく、ただ自然に接近すると。


重ね合わせるように彼女の体に触れた。


ぶつかったわけではない、突き飛ばしたわけではない。ただ優しく包むように華雄の正面に現れ、その脇を通り抜けるように。


慌て華雄は振り返ろうとする。しかし何故か華雄の体は、その意志に反して前へと突き進む。いや、崩れていった。


覆面の男とすれ違うように崩れていく我が身体。なんとかそれに抗うべくとっさに足を前に突きだし体勢を整えようとする。



「(……え?な、何故だ!?)」



その足は自分の意志とは無関係に宙に浮いていた。目の前に迫る大地。せめて、せめて受け身だけでもと望む。


しかし体には力が入らない。まるで大河に抗う一本の葉のように、華雄は何度も自らの体に檄を飛ばす。何度も、何度も。動け、動け、動けと。


だが、叶わなかった。


踏み込んだ勢いそのままに、広大なる中華の大地へと自身の力で叩きつけられる華雄。

激しい衝撃が彼女を襲う。波才が一級と評した彼女の力、それが彼女自身に牙を剥いたのだった。



「っかぁ!!」



肺の息が全て衝動的に吐き出される。全身に衝撃が伝わり骨が軋む。瞳孔が激しく動くが、このままでは危険と判断。

幸いにも正面からではなく側面から全身を殴打したために脳震盪は起こることなくすぐさま立ち上がった。


その有様は酷いものだ。もとより露出が多く、肌が大気に触れて動きやすい、風を感じるために戦闘で有利な服装であった。しかしその身軽さが災いした。


地面に直に肌を叩きつけてしまうことになり擦り傷、内出血が体の所々に出来てしまっていた。それでも戦意を失うことなく、華雄は武具を構える。

しかし襲い来る激痛に、顔を顰めずにはいられなかった。


華雄は目の前の覆面を睨み付けた。


追い打ちをかけることもなく、飄々と構えることもなく、ただ華雄を見ている。かぶり物をしているために、どんな表情を浮かべているのかすら解らない。


それがいっそうの焦りと恐怖を巻き起こす。

怒りもあった。だがそれ以上の得体の知れないものに、武人としての自分が落ち着けと囁くのだ。


波才が華雄にしたことはどうということはない。


ただ体にぶつかっただけだ。いや、ぶつかったのではなく触れたと言うべきか。


ただのそれだけ、それだけなのだ。


後は華雄が勝手に倒れて勝手にこの有様。


華雄は必死に理解しようと思い出す。


おかしい……それにしては不自然すぎた。華雄は自分の武に自信を持っている。転ぶ?幾多もの戦場を駆け抜けていたのにも関わらずそんなミスを?

勢いを、力任せにぶつかって来られて飛ばされたのならまだ理解できる。

だが波才がしたのはそんなものではない。


ただ、ぶつかっただけ。

そうぶつかっただけなのだ。


投げられたわけでもない、押されたわけでもない、たたきつけられたわけではない。


華雄の額に初めて汗が浮かび、流れた。

まるで目の前の人間が行ったものが理解できない。今度下手に考え無しで飛び込めば、自分は死ぬのではないのだろうか。



「退いてくれません?」


「!?」



何を言っている。

この私を見れば解るだろうが有利なのはあの覆面だ。

何故自らそのような事を言うのだ?



「何を考えている?」


「この場での決着を私は望みません。それに貴方に勝てる自信がそこまでないものでして」



そう言って肩をすくめる。退きたくないというのが本心だ。だが……勝てるのか?

葛藤で顔が歪む。そんな私の心情を読んだのか、覆面は大きくため息をついた。



「貴方には答えが一つしかありません。部下の悲鳴が聞こえませんか?」



その言葉に思わず耳を此方へと傾ける。いや、傾けなくとも解る時間をとられすぎた。このまま戦い続ければ私に付いて来てくれる部下が……だが。



「構いませんよ。どうぞ」



こいつは心でも読めるのか?

私の心の流れを理解しているように私に促す。


ッ!!



「次は……次は負けぬぞ!!今は退く、だがこれでは終わらせん。いや、終わらせはしない!!必ずやこの醜態の恥を注ごうぞ!!」



華雄が下がりながらも咆えた。

その言葉を受けても、微動だにしない謎の男に、彼女はまたも苛立ちを募らせたのだった。





 ■ ■ ■ ■ ■






華雄及び張遼は虎牢関へ後退。

おそらくそこでの戦いこそが私達の真の戦いでしょうね……。


波才は過ぎ去った戦場で黄昏れていた。

己の立ち会った猛将を思い浮かべ、同時に自らの左肩を見る。


波才の左肩は赤く腫れ上がっていた。


波才は顔を顰めた。

彼がしたことは『柔よく剛を制す』、合気を行ったのだ。

合気の神髄とは己の力を用いず、相手の力を利用する。相手が強ければ強いほど、自分の技は破壊力を増す。


波才の力では華雄を倒すことなど無理な話、だがその華雄自身の力というのなら話は別だ。


華雄は自分の誇る武を己自身に受けたのだ。おそらく誰が見てもぶつかって倒れたようにしか見えないだろう。

しかしそれは当人達でしか理解が及ばない、武の掛け合いの結果なのだ。


では勝てたのか、と問われれば分からないと波才は答えるだろう。


その証明が彼の左肩だった。

波才は確かに華雄の動きを捕らえたと感じた。しかしそれでもなお彼は華雄の速さとその重さを完璧に受け流すことは出来なかったのだ。


華雄は強い。


なにより恐ろしいのは速さに凄まじい力が加わること。

趙雲、孫策など一撃一撃に鋭さがあり、吹き飛ばすというよりは貫き通すような武と例えられる。だがそれとは正反対なのが華雄の武。一撃一撃の重さが尋常ではなく、相手の武ごと吹き飛ばす剛の技。


確かに人よりは力はあるが、岩をも破壊する一撃をいなせるかと言われれば否。


そしてここでわざわざ決着をつける必要など無い。

華雄にはここで退場してもらうよりは、生きて次の難関である虎牢関に向かわせるべきだ。厄介者を抱えてもらった方が、戦術面でも数倍。いや、数十倍有利にたてる


そして次に相まみえるのはあの呂布。あの油虫が演技補正お付けて参戦するのだ。



「(黄巾党三万を一人で壊滅させたんですって。はははワロス)」



それに一日に千里走るという赤馬赤兎馬もチートであった。

歴史書だと比喩表現だがこの世界だと現実になっていてもおかしくない。当時の漢の1里、この世界は不明だが、史実ではおよそ414.72メートル。

千里だから×1000、つまり。




「(え?1日に約414キロメートル走る?なにそのハイブリットカー。なめてんの?現代の車文明に喧嘩売ってんの?)」



波才はため息を押し込めることが出来なかった。



華雄でさえいっぱいいっぱいなのに誰が呂布と戦えるものか。おそらく剣で受け止めればそのまま押しつぶされ、受け流そうとすれば木の葉のように吹き飛ばされるだろう。

それに呂布を飼うなどという高望みは抱いていなかった。


同時に華雄も論外。


確かに武は凄まじい。しかし……いや、まだ降ろせる可能性がある分考慮しておくべきか。

彼女の主に対する忠誠は本物だ。董卓のことを視野に入れれば可能性は低くはないのだから。


……ほんとに忠誠があるんだったらもう少し主のために考えようよ、と思うがそこは気にしないでおく。


となると狙いは……。



「……明埜にも動いてもらいますかね」



下手に長引けばその分こちらもつらい。次の虎牢関も流れ作業の如く、他の人達に任せましょう。別に白蓮はどうだか知りませんが、武勇なんざ欲しくはありませんしね。


そう思い波才は自らの陣営へ向けて歩き出す。

惨めだ、惨めだ。そう心の中で自分ではない何かが呟いては消えて行く。

振り払うよう波才は首を振った。



「いてて……これ、ひびは入ってないかな。入ってないといいなぁ」



己の磨きあげた武は、彼女達へと届きはしない。

痛む肩を庇いつつ、彼は歩みを進める。一歩ずつ、一歩ずつ。



「……畜生が。だからあんなやつらと正面から戦いたくないんだよ、くそったれ」



寂しげに呟いた彼の言葉は、乾いた風と共に誰もいなくなった戦場へと消えて行った。


お芋が美味しい時期になってきました。そしてこたつから抜け出せない時期になりました。

ぶっちゃけモチベが上がっている今が書き時ですので、後書き武将紹介はまだちょっと先になりそうです。


そういえば味の素は、この前ぱるぱる妬ましいこと、東方で有名な橋姫さん所にお邪魔してきました。なんか無性に作者はパルパルしていたので行くしかないと思って。


行ってビックリ、縁切り神社だったんだ。切れる縁がないんですけど、切った分繋げてくれないかなぁと思いつつ手を合わせて帰って来ました。


で、帰る途中に旧友出会って麻雀大会……あれ?パルパルさんでれてくれたのか?

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