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黄巾無双  作者: 味の素
反董卓連合の章
36/62

第二十五話 桃髪ってみんな個性すごくない?

人生とは、切符を買って軌道の上を走る車に乗る人には分からないものである。


~サモセット・モーム~

こんにちは。波才です。


目の前の女の子がどんなマイナー武将かと思ったら大物来ちゃいました。



「私は性は劉、名は備、字は玄徳!!よろしくね!!」



わぁい、なんていい笑顔なんでしょう。

私も笑いますが額に汗が浮かんでます。

理由?あの荒くれ者で勢いで役人殺すような劉備がどうしてこうなったのか、今の僕には理解出来ない。


もうこれあれでしょ。誰だか解りませんが私に対する盛大な嫌がらせでしょう。

サプライズとか言って私の胃を殺しに来てるに違いない。


あとね、彼女は解らないかも知れませんが隠れている明埜が殺気満開で見ています。いや、駄目ですからね?貴方が姿出したら声でばれますからね?

隠れている明埜と目が会う。



「(コロシタイ)」


「(いや、駄目ですって)」


「(頼ム、殺サセテクレ。先ッチョダケ、先ッチョダケダカラ)」


「(なんかいろいろその言葉の使い方おかしくないですか!?)」



どこでそんな言葉覚えてきたんですか。

やっぱあの私の作戦が邪魔されたときのことねに持っているようで。



「桃香様!!」



更に声が聞こえました。今度はいったい…。





OK落ち着け。

まずは整理です。

黒髪&サイドポニテだからと言ってここで素に戻ったら惨事なんて目じゃないことになる。

そうだ、たかが美しい黒髪の長髪に私の大好きなポニテが絶妙に組み合わさり、すばらしいハーモニーをかもし出してるだけじゃないか。


……だめです。押さえ切れていません。


この人なんでこんなに私の好きなものピンポイントで内蔵してるんですか!?

私は黒髪で長髪でポニテの人が大好きなんですよ!?これで和服とか着ていたら多分私は血を吐いて死んでいたでしょう。大和撫子は無敵です。




ッゾク



今なんかすごい殺気が近くと遙か彼方から感じました。なんか中に誰もいない感じって言うかなんて言うか、その、異常にどす黒い殺意っていうか。

明埜が喰い殺すような目でこの三人を見ている。

それはいい、いや良くないですがもう一つの殺気はどこから跳んできたんですか?

何でか解らないですけど私はとても……そうだ。


ナイスボートな気分になりました。


まぁそれはともかく二人の少女がやって来ました。

うち、ポニテの女の子は劉備に注意をしていますね。

もっともです。そもそも友とはいえ人の陣地に一人で来るなど無謀すぎるでしょう。脳天気ちゃんにもっと説教してあげてください。


武器は……黒髪のポニテの子が青龍刀、赤髪の子は巨大な蛇矛。

それで劉備とここまでの仲といえば。



「まぁまぁ…関羽殿。彼女も反省しているようですしここら辺にしてはいかがですか」



そう笑いかけると黒髪の少女、関羽であろう人物は驚いたような目で私を見る。

そりゃこんな麻袋被った人間に急に自分の名前を当てられれば驚くわ。


止める意味はありませんがここで止めれば劉備の私に対する好感度が上がりそうな気がします。

涙目ですからね、きっとちょっとした恩を感じるでしょう。仮にも劉備なのですから恩を売って損はありません。


それにここからの問答を繰り広げるにはちょうど良い緩衝材になるでしょう。



「仮にもここは公孫賛の陣地です。あなた方の陣地ではありません。そこでそのような見幕で貴方の主をしかっては良くない噂も立ちましょう。もちろん貴方のおっしゃることは正しいですが劉備殿も反省しているご様子、ここらでお止めにっては?」



見ず知らずの麻袋にそんなこといわれたのが不満なのか、関羽は顔を顰める。言われていることは最もだと理解出来る頭はあるのか、劉備さんへのおしかりは打ち止めのようです。

劉備さんにだけ解るよう目で合図すると目を輝かせて私を見てきます。


いや、なんだろう。

そこまで純粋な目で見られると困るのですが。



「貴方は誰です?何故私の名前を知っているのですか?」



疑いの目で訪ねてくる関羽さん。予感的中の模様、このまま明日の天気でも占いましょうか。

訝しげにというか、胡散臭げにと言うべきか、彼女が一番正しい反応です。

覆面男と談笑とか出来る劉備がどうかしてますって。


この人たらしめ。だ、騙されんぞ。



「私の名は単経、白蓮様の下で客将をしている者です。それと貴方の名前ですが、そのような美しい髪と容姿、その青竜刀。そして劉備殿と言えば武名名高い『美髪公』こと関羽殿以外いません。おそらくこの大陸の誰が見てもそう答えるでしょう」



お世辞も砂糖一杯にのせましょう、お堅いタイプの彼女にはこれが良いと見える。

誰だって褒められて嫌なわけがない。



「む、むぅ。だがその『美髪公』というのは初めて聞くな」


「おや?民達も私もあなた方の義勇兵達による武勇はよく聞きますよ。戦場で長き黒髪で青竜刀を持って戦うその美しい少女とその武勇。どれもよく聞こえています」


「な、う、うむ」



そう笑うと顔を赤くしてうろたえているご様子。うん、なんとかごまかせそうですね。

彼女たちなら白蓮の同盟相手に向いているでしょう。

もとより学友ですからね、それに劉備はあれですが……やはり関羽や張飛などといった将は馬鹿に出来ない力を持っているようです。


孫策を思い出すわ~あの人も英雄だけど、部下いなくちゃ絶対に成り立たないもの。

単独で国はれんの曹操ぐらいじゃない?例外でうちの普通ちゃん。


……というか明埜はこの二人から逃げ延びたのですか。

それだけで明埜は賞賛に値しますね、あんたすげぇよ。今度その逃げ足教えてよ、何でとは言わないけれど。



「貴方は張飛殿ですね」


「にゃ?鈴々の名前も知ってる!?」


「当たり前ですよ。その赤き髪と巨大な蛇矛。黄巾討伐で名高い劉備殿の猛将である張飛殿以外他なりません。一騎当千の力を持ち、戦場を駆け回る武勇は劉備殿や関羽殿と同様に聞き及んでいますよ」



そういうとこれまた「えへへ」と照れながら頬をかいています。なんだか可愛らしく思えてその頭を優しく撫でると、「ふにゃ~」とか言いながら気持ちよさそうに眼を細める。

まるで猫の相手をしているようだ、やべぇ癒されるわ。


……明埜?殺気を私の背中にまで浴びせるのは止めてくれませんか?

というかなんか殺気増してません?


身近な所から嫌な予感を感じたので撫でるのを中断し、私は懐から布袋を取り出した。


……心の中でのぶ○ボイスだったのは内なる秘密だな、うん。

そしてその中へと手を入れて三人にあるものを差しだす。



「ああそうだ、折角ですからどうぞこれを」


「うわ~かわいい……」


「これは……」


「兎なのだ!!」




飴です。


よく職人さんがやるような飴細工であり兎の形をしています。なかなか取れないはずの砂糖も普通にあるこの世界ならではのお菓子です。

それに兎というのは女性受けしやすいように配慮しています。


もちろん化学調味料なんて無い!!というかこの世界にも流石に化学調味料なんかあるわけ……無いって言えないのがなんか悔しい。



「これは私が作った飴です。よければめしあがってください」


「すごいこれ飴なんだ!!かわいい……なんだか食べるのがもったいないなぁ」


「いえいえ、兎さんもあなた方に召し上がってもらえるならば本望でしょう」



そう言って私は笑います。

まあ顔は見えないんですけど。



「そうかな?じゃぁ…いただきま~す♪」


「と、桃香様!不用意に食べてはなりません!!」


「美味しそうなのだ!!」


「こら鈴々!!」



……関羽殿は苦労人ですね。

劉備殿と張飛殿は言っては悪いですがのほほんオーラ全快、無防備すぎです。なんか涙が出てきそうでだ。


あ、やべ。天和様思い出す。

というかこの人天和様とキャラかぶってない?訴えれば勝てるか?



「大丈夫ですよ、これから共に戦う私からの贈り物です。それにこれは甘くて心の疲れも癒します。関羽殿にはちょうどいいお菓子です」



そういって「ほらっ」とばかりに一つ私の口に放り込みます。

うん、甘くて美味しいです。

やっぱり甘いものはいいですね。


そんな私の様子を見て大丈夫と判断したのか関羽殿もいぶかしげに劉備殿達と同様に手に取ると、三人は口に飴を含む。



「あ」


「おお……」


「美味しいのだ!!」



三人は三者三様の反応ですが幸せそうな顔をしている所を見ると気に入ってもらえたようですね。


さて、何気ない行動に見えますが他人の差し出した食べ物を口に入れるというのは並大抵のことではありません。なんせこの乱世は毒殺も珍しくはない、食べるということは下手すれば自分の命にも関わるのだ。

つまりこれは自分の命を差し出した、私はそれに答えたと言うこと。

この時点で本人は気が付かないでしょうが「私は彼女たちの信頼に応えた」という楔が無意識のうちに打ち込まれるのです。


この時代、命が軽い乱世ではそれがもっとも顕著に表れます。

これも立派な外交なのですよ。物事の始めは食事から始まる、口と行動を少し軽くするために。



「どうやら気に入ってもらえたようで嬉しいですね」



そう笑うと劉備さんが目を輝かせて私に尋ねます。

いや、笑っても顔は見えないですけど雰囲気ぐらいは伝わるでしょう。


ああ、でも美味しいって言ってもらえるのはいい。

日本にいたときも妹によくお菓子を作っていた……あ、目から汗が。妹もお返しによくクッキー作ってくれたよ。


何か気が付いたら食べた記憶無かったけど。思い出そうとすると手が震えるからいいや。



「これって単経さんが作ったの?」


「ええ、お菓子などを作るのが好きなんです」


「すごい!!私こんな美味しいお菓子初めて食べたよ」



劉備さんはもう大丈夫かな?

なんだかんだで彼女は芯が強そうですから、例え誰かが私は危ないと言ってもきっと「単経さんはいい人だよ!!」とか言って養護してくれるでしょう。

性善説をよろこんで信じそうな程のお人好しっぽい。


……なんだろう。

心が痛い。もの凄い痛い。お願いですからそんな目で、そんな目で見ないでください。



「もっと欲しいのだ!!」



目を輝かせてる張飛さんも大丈夫っぽいですね。

ここはもう一つ餌付けしておきましょう。


餌付けって……駄目だ、私いろいろと人として駄目だ。

取り合えず人として終わってます。妹よ、お兄ちゃんもう駄目です。お前に胸張って会えるような人間じゃなくなっちゃいました。

覆面の中できらりと光る……汗です。

これは目から流れる汗です。他に何だってんですか!?



「はいどうぞ」



飴が入った袋ごと渡します。

これにはみなさん驚かれたご様子。そりゃ砂糖は私が知っている時代よりは易いとは言え、高級品であることには違いはないのだから。

飴なので当然ながら多量の砂糖を使っています。

それにこの飴細工はかなりの精巧品、もはや嗜好品の域に一歩踏み入れているかな?

我ながら中々の出来です。


さすがにこれには関羽さんも予想外だったようで。



「よ、よろしいのですか?」


「構いませんよ、あなた方のような美しい女性に喜んで食べてもらえるなら本望です。それにこれから共に戦う仲間なのですからね」



そういうと慌てて赤くなる関羽さん。

なかなかうまくいってる。基本劉備軍は善人の集まりだわ。


ただでさえ怪しい格好してるんですから詮索はされたくはありません。

それに第一印象は悪くはないようですね。物事の全ては第一印象で決まりますから。関羽さんはまだ警戒していますが残りの張飛さんと劉備さんとは良い雰囲気です。

劉備自体はあれですが部下が魅力的ですからね。

味方になってくれたら嬉しいです。


そういえば私を見る気配がまだ感じていますね……。三人……うち一人はあったことがある気がします。

劉備関連で私があったことがある武将といえば……趙雲か。

それに残り二人には武人の切り裂くような気がない所を見ると軍師?

それもただ者ではないですね。これは例の軍師のお二方?鳳凰と青龍か?


私は思わず笑みをこぼす。すげぇ、やっぱすげぇよ劉備軍。最高に熱い軍だ。


やはりここで劉備を味方に付けておくのに超したことはない。

上さえ落とせば後は芋づる式に行きそうですからね、劉備軍は。


……だが、この劉備はどんな思想を持っている?見た感じただのお人好し、いや、確かに魅力はチートレベルだが……むぅ。



「そう言えば劉備殿?貴方はどのような思想をもっておられるのですか?」


「思想っていうと?」


「貴方はどう思い義勇軍を立ち上げたのですか?」



別に本心を語らずとも良し、だがその一片には触れさせていただきたい。



「苦しむ人を救いたい!!みんなが笑顔で過ごせるような世界にしたいの!!」












「へぇ」



その瞬間、一部の者達はこの場の空気が変わったことを敏感に感じ取る。

すぐさま各々の得物にとっさに手を伸ばしかけ、止めた。


一部の者達、それは白蓮、明埜と言った波才と深い関係を持つ者達であった。

劉備が声を発したその時、彼女達は言いようのない寒気を感じた。肌を無機質な百足が這いずるような、冷たい蛇の鱗が擦れるような生物的悪寒。人という自然界に生まれた一生物としての本能。


それは、あまりにも歪過ぎた。


では、何故それをこの場にいる劉備達や一般の兵士が感じることが出来なかったのか。


それは単に彼に触れたことが無かったからだろう。

そう、彼女達は『単経』を知っているだけであり、『波才』を知らないのだから。


劉備が語る物語、それは乱世においてどうしよう無く矛盾し、滑稽であり、道化の戯言であった。

だが、どうしようもない魅力が『確かに』そこにあるのだ。


人が無意識のうちに美しく、心惹かれるものに本能的に手を伸ばす。理性では抗えない、人間としての堪えきれない衝動。

それが彼女にはあった。


戦えば、人が死ぬ。平和のために、人は死ぬ。

誰もが笑うために、誰かが死ぬ。


その矛盾に彼女が気が付いているのか波才は知らない。

それ以前に彼女が矛盾という歪みに対して気が付こうが気が付くまいが、それは波才にとっては路傍の石を眺めることと何ら変わりのないことだ。


彼がただこの少女に見いだした一点、それは。



「素晴らしい……素晴らしいですよ劉備さん!!貴方は……ああ、もう素晴らしい!!なんで貴方のような人がいるんですか!?」


「へ?あ、その、ごめんなさい?」


「何を謝る必要があるのです!?貴方ほど素晴らしい人はいません!!むしろ私が貴方に詫びたいぐらいです!!」



仮面に輝く二つの光。ぎらぎらと輝きながらもどこか蛇のような冷たさを併せ持つ。

もはや波才はその感情を抑えることが出来なかった。

人目をはばからず彼は劉備を賞賛する。


彼女の人柄、行動、思念、信念、発言をまるで恋い焦がれた乙女に愛を語る男のように、ただ吐き続ける。


最初はあわあわと顔を赤くしていた劉備であったが、やはり自分の道を認め、賞賛されて悪い気持ちになる人間はいない。

彼女とて例外ではなく、その嬉しさを堪えきれずに顔に表れている。それは張飛も同様であり、照れくさそうに頬をかいた。



「ぜひ!!ぜひ!!ぜひ応援させてください!!貴方のその夢、希望はとても尊く素晴らしいものなのですから!!」



だが、そんな三姉妹のなかで唯一関羽だけはどこか波才の違和感を感じていた。

最初はからかいや、嘲りの言葉をうちに秘めているのかと考えた。だが、彼の今の姿は昔劉備と出会い新たな境地を見出した己の姿と同じだった。つまり彼は本当に劉備の言葉に胸打たれたいるのだ。


……ではこの違和感は?



「あ、す、すいません。ご迷惑をおかけしましたね。どうも興奮してしまうとこう、なんていうか、ははお見苦しい所をお見せしてすいません」


「……いえ、単経さんが認めてくれて正直私も嬉しかったから。その、おあいこってやつでどうですか?」


「おあいこ……ふふ、そうですね。なんだか劉備さんとは仲良くなれそうな気がします」


「あ、実は私もそう思ったんです」


「おやおや……では、劉備さん」



仮面の男は笑って己自身を指さした。



「私と友達になりませんか?」



その言葉を聞き、とっさに関羽は劉備の前に進み出て彼女をかばいたいという衝動に襲われた。

だが、理性によってそれは押しとどめられる。


別に、彼はおかしな所はないのだ。いや、おかしいのだがおかしくはない。

共感し合うからこそ共に手を取り合う。

そこに自分が入り込む隙はないのだから。


だが、この違和感はどう説明すればいいのだ?

この胸騒ぎはなんなん



「はい!!あ、私の真名は桃香です。これからよろしくお願いします」


「私は真名無いんですよね、だから親しみを込めて絶対神と呼んでください。神様でも可」


「分かりました絶対神さん!!」


「……すいません、単経と普通に呼んでください」



……気のせいだ。うん、多分気のせいだ。

妙な徒労感を感じて関羽はため息をついた。



「もう少しこうやって桃香さんとお話ししたいのですが……すいません、どうもこれから軍を統括しなければならないので」


「あ、そ、そう言えば急に訪ねて来てすいませんでした!!」


「いえいえ、ここで貴方に会えて友好を結べたと言うだけで私とっては僥倖です。それでは、張飛さん、関羽さんもお気を付けて」


「鈴々は鈴々と呼んでくれて良いのだ!!お兄ちゃん面白いから真名で呼んで良いよ!!」


「おや、これはこれは……まさか二人も今日一日で友達が出来るとは」



いつの間にやら、他の二人からも関羽へ向けて期待の目が向けられる。

実を言えば、関羽は己の真名を単経に進んで与えたいとは思えなかった。彼に対しての言いようのない違和感は結局の所ぬぐい切れてはいなかったのだ。


ジ~


だが、信頼する妹と尊敬する長女の視線に耐えかねたのか。彼女はそれを己の中に杞憂だと押さえつけることにした。



「私の真名は愛紗と申します。単経殿、どうぞよろしくお願いしたい」



「おお、改めまして単経と申します。よろしくお願いいたします愛紗さん」



単経から差しだされた手。

それはくすんだ白の手袋に覆われており、肌の色さえ分からない。


自らも手を差しだして握りあったその感触は、どこか人の温かさを感じると共に。









人形のような冷たさを思わせた。









□ □ □ □ □




波才は劉備が去った方角を眺めつつ、満足げに腕を組む。

今回の出会い、最後の英雄との出会いに波才は満足した。

これにて、曹操・孫策・劉備の三国時代の英雄が彼の目の前に全てさらけ出された事になる。


劉備との出会い、理想を夢見る彼女と現実主義のリアリストである波才は、一見水と油のように相容れない存在に見える。

だが、それは大きな間違いだ。


劉備と波才はよく似ている。似すぎていると言っても過言ではない程に。


それは



チョンチョン



深く思考する波才であったが、肩に何やら軽い違和感を覚えた。

誰かにどうやら恐る恐るといった手つきでつつかれているようだ。


振り返るとそこには……。



「なぁ…私忘れられてないか?」



涙目の白蓮がいた。



「ええと……その……」



忘れていました。アア、忘れていたとも!!


と、言えるほど波才は非道ではない。でも忘れていた。

ぶっちゃけ後半から空気というか、ほぼ最初から空気だったのだ。


つまりぶっちゃけいらないk(ry



「……白蓮さん、世の中には知らなくても良いことがあるのですよ?」



深刻そうな顔でとっさに声を出す波才。

あれ?これってもしかしなくても逆効果?と気が付いたが既に遅し。



「忘れてたんだろ!!どうせ私はあれだよ!!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」



涙の軌道を描きつつ走り去る白蓮。

なんだなんだと陣幕から兵が顔を覗かせる。だが白蓮は駆け抜けた。というか、走るしかなかった。


実を言えばこの時波才は「夕飯までには帰るんですよ~」と咽まで出かかっていた。

が、この後の事を考えると彼は顔が青くなった。


そうだ、顔合わせの軍議があるのだ。

思わず波才は第129回脳内会議を実行。


Q.白蓮がいない誰が出るの?

A.お前が出ろ。

Q.孫策とか曹操といるんですけど。

A.そんなことよりポケモンしようぜ!!

Q.お前伝説廚だろ?やりたくねぇ

A.うわ、お前みたいにベトベトンみたいな変なポケモン使う奴よりマシだし

Q.死ね

A.お前が死ね


何故か後半おかしくなったが、それぐらいやばいのだ。

いくら美しい女性達とは言え、中身はバリバリの三国武将。しかも片方には喧嘩を売りまくっており、下手すれば彼女のドリルで波才の肛門が開発されかねない。


ちなみに当然ながら曹操はそんな趣味はない。


もはや波才の頭はショート寸前だった。完璧に自業自得だったが。

命の危機に思わず衝動的に白蓮へと走り出そうとするが、足をとられてその場に崩れ落ちる。

だが、波才はそれでも遠ざかる白蓮に手を伸ばした。


ちなみに考え手欲しい。


涙を流して走り去る白蓮。

その背を儚げに手を伸ばして追い求める波才。



「白蓮!!私を……私を……」



思わず心が欲するままに波才は叫んだ。



「私を捨てないで!!」



















思いっきり顔からこける白蓮。

ズザザザザァ~って。それからピクリとも動きません。………大丈夫ですか?主に顔。



って。



あれ?周りの兵士のみなさんなんでそんな驚いた顔で私を見るんですか?

明埜?貴方そんな鳩が豆鉄砲喰らったような顔してどうしたので?美須々?貴方わざわざ走って戻って来てどうしたんですか?あの琉生ですら額に汗浮かんでます。


なんだこれ?



「あ、主?」


「どうしたんですか美須々?というかなんで皆さん固まってらっしゃるので?」


「い、いえ。何でもありません」



そう言って顔を赤くしてもじもじしています。


……なんだこれ?

私なにかしました?












~劉備軍 side~



「すごいいい人だったよ!!」


「たくさんお菓子もらったのだ!!」


「ふむ……」



顎に手をやり何やら考え事をしている趙雲に孔明が声をかける。



「星さんはどう思います?」


「まず隙がない……どうやら私達のことも気が付いていたようだ。それにどこかで会った気がする」


「面識があるのか?ならばあの男の正体も知っているのか?」



その言葉に関羽がいぶかしげな様子で訪ねる。

彼女自身、袋で顔を覆っている時点で余り単経のことを信用はしていない。

何かやましい事があるのか……はたまた顔に傷でもあるのか。



「いや、私の知り合いにあのような物を顔に被っていた者はいない」



そう言ってお手上げとばかりに手を組む。



「だが何も隠れてみていたのは我らだけでは無く向こうも同じようだな」


「「「え?」」」


「む?ずっと見られていたのに気が付かなかったのか?」


「え、え?誰か他にいたの?」


「まったく解らなかったのだ」


「わ、私としたことが」



関羽は思わず考える。

気が付けば彼の会話に引き込まれていた。あの場で主導権をいつもまにか握っていたのはあの男。始終あの単経という謎の男のペースで話が進んでいた。

それこそ他に目が行かないほどに。気が付けばあの単経の土俵に上がっていた。


思わず関羽は目を見開く。



「やれやれ、桃香様や鈴々ならともかくお主までもか」


「油断なりませんね……」



同時に孔明も彼らには驚いていた。

まずあの兵達だ。単経が行ったわずかな動作ですぐにその場を去ったあの動き。並の統率力と訓練ではあのようには行かない。

誰もがあの謎の男のことを考える。あれは何者だと。


……立った一人を除いてだが。



「でも仲間だから大丈夫だよ。なにより白蓮ちゃんのお友達だしね、きっと私達とも仲良くなれるよ♪」


「桃香様、そうは言っても」


「大丈夫!!ね?」



そう、劉備はまったくといっていいほど彼のことを疑っていなかった。

だが彼女ほど臣下達は人を信じられない。劉備がこのような優しき性格だからこそ彼女達が支える必要があるのだ。

その一人である関羽が彼女を諫めようとした、その時。



「忘れてたんだろ!!どうせ私はあれだよ!!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」


「「「………」」」



公孫賛の悲しいほど悲壮感が漂う叫びが聞こえた。

この場の誰もが気まずくなり、互いに目を合わせる。



「「「(忘れてた……)」」」



もともと挨拶をしに言った本人のことを誰もが忘れていた。

気まずい、もの凄い気まずい雰囲気が漂う。見れば涙を流しながら走る白蓮の姿がそこにあった。



「えと……ごめん、白蓮ちゃん」


「忘れてたのだ……」


「白蓮殿……」



走り去る白蓮の後ろ姿はなんとも同情を誘う。

だがそれだけでは終わらなかった。



「あ、単経のお兄ちゃんなのだ」



鈴々が指さす方を見るとそこには力なく座り込む、噂の単経の姿が。

単経はもはや遠くにある白蓮の背中に手を伸ばす。



「あやつ、何をやってるのだ?」



冷や汗をかきながら関羽はつぶやく。

先ほどまで考えていたような怪しく、不可解な男の姿はそこになく、まるでどこかの劇の一幕のようだ。

一体何を……そう思った矢先、聞こえたきた声は。



「私を捨てないで!!」


「「「………」」」



その言葉に遠くの公孫賛が転ぶのが見えた。見ていて気持ちが良いほどに。


なんだろう?この胸のもやもや感は。一同は先ほどまであれほど悩んでいたのが馬鹿みたいに感じた。

これも作戦なのか……?にしては心のそこからの叫びのようだったが…。

無言で仲間と目を合わせる劉備軍。言いようのない疲れが押し寄せて来る



「え、えと……悪い人じゃないよ!!」



困ったように笑う劉備の言葉に、さらに疲れが湧き出た彼女達は盛大なため息をついた。

結局の所、単経という人間について彼らは何も知ることは出来なかった。


得たものが有るとすれば。



「「「「………ハァ」」」」



徒労だったりする。





□ □ □ □ □





白蓮が元に戻るまで実に一刻もの時間がかかった。

顔が赤い白蓮が袋を被った波才を小一時間怒る姿は、妙に滑稽であったのは言うまでも無い。


お互い落ち着き、納得したところで波才はふと、白蓮に問いかけた。



「白蓮?念のために聞いておきますけど。貴方は桃香さんの事は恨んでいますか?」


「へ?何で私が桃香を恨まなくちゃいけないんだ?」


「自らの民を持ってかれたあげく魅力負け。ここまでされたら大抵の人間は恨みますよ?」


「じゃぁ私はその大抵の人間じゃないってことだ。もしや、そろそろ普通脱却の道が見えてきたのかも!?」


「はは、ぬかしおる」


「……地味に傷つくなぁ」



苦笑する白蓮を見て笑う単経。


単経はこの連合に来るまで内心穏やかではなかった。その理由がこの君主様である。

かつて劉備は公孫賛軍に所属していたが、離脱する際多くの民を兵として連れて行った。これは無理矢理ではなく、民が自ら進んで志願した結果である。


だが、それは公孫賛のメンツを潰す事となる。


かねてより公孫賛が呼びかけても応えなかった己の民を、劉備は横から奪い去っていった。その数も数百ならともかく数千という数の民をだ。


確かに公孫賛は劉備よりも劣る。だが、それにより幽州は優秀な兵と民を失ったのだ。恨まないはずがないと波才は確信していた。


だが、その答えはNO。



「そんなの今更な話しさ。事実、私は桃香に魅力で勝てるとは思っていない。それに徴兵を認めたのも私だ。あいつが出て行くように仕向けたのも私だ。全部自己責任、恨むなんて筋違いだろ」



波才の中で白蓮のランクが上がった。


頭で分かっていても、それを納得できる人間はなかなかいない。人にそれを押しつけ、自らの所業を顧みず他者の苦言をもらしては悔しがる愚か者が大半である。


人は自らの行動と結果、そして成果をよく見つめ直すことで成長する生き物。

愚か者はどんどん堕ちていき、昇るべきものはなお飛翔する。



「聞けば貴方の元を去った趙雲は劉備の元にいるとか」


「お前本当に意地が悪いよな……。別にあいつはあいつさ、私に合わないっていうならしょうがない、止めようもない。それとも何か、お前は私があいつの足に子供のようにしがみついて懇願する様でも見たいのか?」


「……そんなことないですよ?」


「何で語尾が半音上がってるんだよ!?……ああ、私はお前がたまに分からない。さっきの時だって一瞬ひやっと来たんだぞ?」


「あれですか、劉備についていくとでも思ったので?」


「もしそうだったらお前を殺して私も死ぬ」



笑い飛ばそうと波才はしたが、思いの他白蓮の目がマジだった。

一瞬静寂に満ちたがすぐに「冗談だ」と白蓮は笑った。


……依然目は変わらずにマジであったが。



「違くてさ、お前と桃香って似ているだろ?同族意識ってやつか?だからあんなにお前喜んだんだろう?」



その問いに一瞬波才の体が大きく揺れた。



「……まぁそうでしょうね。彼女も己が思った通りに偽らずに生きている。思うがままにね。多少ベクトルが、方向性が違うだけでしょう。彼女は全のためという欲望に、私は己のためという欲望に生きているだけですから。」


「例えるなら、『傷口を優しく慈しむように撫でるのが桃香。傷口を興味深げにつつくのが単経』って所かな」


「中々良い例え……貴方やっぱり少しは劉備のこと恨んでるでしょう」


「恨むっつうより嫉妬だな。持たざる者の特権だよ。それくらい許してくれよ?」



許すも何も無い、人間である以上、時代や年代、身分を問わず、誰もが少なからず持ち合わせている感情。それが嫉妬だ。


これは悪い感情ではないと波才は思っている。

有名な漫画家である手塚治虫は、嫉妬の鬼だったらしい。仮面ライダーで有名な石ノ森章太郎が彼に初めて自分の原稿を見せた際、手塚治虫はそれを破り捨てた。駄作だったのではない、あまりにもそれが素晴らしくて嫉妬に駆られて破ったのだ。

更に彼は妥協を許さない、ある赤の色が上手く出せないことに気が付いた彼は、少年の頃に血を用いて完成させた絵があるほどだ。


どこまでも深い向上心、探求心。それがあるからこそ己より上の存在を妬むのだ。むしろ向上心が無ければ妬む必要などないのだから。

むしろそれをバネにどこまでこの白蓮が成長するのか、そう思うと波才は期待を抱かずにはいられなかった。



「ふふふ、そうですね。持たざる者の特権ですものね」


「そうそう。……って、お前も嫉妬することあるのか?」


「そりゃありますよ。むしろ持たなすぎて嫉妬しまくりです。マジパルパルです」


「そっかぁ……私からすればお前は持っているように見えるんだけどな(ボソ」



始終和やかな雰囲気で二人は軍をまとめる。

だが、魔の手はすぐそこまで伸びている事を彼らは知らない。












ξξ*゜⊿゜)ξξ



ッゾクゥ!!


「ん?どうしたんだ単経?」


「い、いえ。なんだか事前に胃薬が必要な気がしまして」



前半ぐだらぐだら過ぎるけど、取り合えず投下。多分二話みたいに後で大幅改正すると思います。

武将紹介はモチベ上がらないのでお休み……。


最近本当にモチベが上がりません、あれか。この小説地味に三ヶ月書いてないからか?まったく書きだめが増えず、減る一方です。


なので投稿予定の別作品書いて、無理矢理モチベを上昇させる今日この頃。

作者は『書きだめ喪失=失踪』なので、のんびり書きだめ補充してます。


……取り合えず、今のごたごたが済めばいいなぁ。

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